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白猫の真白

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

暫く1話のみ投稿致しますm(__)m

「えーっと?」


 皆フリーズしている。元勇者のメンバー、剣鬼のヴァロックまでぽかーんと間抜けな顔をしている。部屋にいた全員が、狐につままれたように呆然としている。


 真白が消えたと思ったら、白い猫が現れましたとさ。うん。さっぱり意味が分からない。


 猫は相変わらず健人にすりすりしている。よほど健人が好きなようだ。


「……真白? なのか?」自信がないがそれしか考えられないので、聞いてみる? 呼びかけてみる? どっちの表現が正しいのかよく分からないが、とりあえず名前を呼んでみる。


「なーご」と鳴く白い猫。返事? をしたのだろうか? 一声鳴く白い猫。


「確か、マシロさんって猫の獣人でしたわね? それがこうなったって事なのかしら?」信じられないという感じで、それでも努めて冷静に現状を分析してみるアイラ。


「獣人の国には行った事あるが、動物に戻るってのは聞いた事ねえぞ」ヴァロックも不思議そうにしている。


 そこで、リリアムの容態を見ていたゲイルがやってきた。アイラは真白につきっきりだったため、リリアムにはゲイルがついていたのだ。ただ、リリアムは気絶させられていただけなので、さほど問題はなかったようだが。


「マシロさんの具合はどうだい?」入るなり真剣な顔で皆に聞くゲイル。先程まで真白が危険な状況だったから当然だ。


「えーと、これ?」健人が白い猫を両手で抱っこしてゲイルに差し出す。そこで一声「なーご」と鳴く猫。


「……ふざけていい時と悪い時くらいわからないのかい?」こめかみにビシッと青筋が走る。ゲイルのマジ怒りだ。初めてみた。眉毛がピクピクしている。


「い、いや、ほんとにこれが真白っぽいんですよ」ゲイルのマジ怒りを見て慌てて嘘を言っていない事を伝える。


「ゲイル。あの、私も初めての経験でよく分からないんだけど、タケトさんの言う通りなの」アイラがため息混じりに付け加える。


「ああ。嘘は言ってない。俺もよく分かっていないんだが」ヴァロックも重ねて話す。そして周りにいたメイドや執事達も、皆うんうんと頷いている。


「……本当なのかい?」さすがにメイドや執事が嘘を言うとは思えない。そこでようやく信じられないといった表情になるゲイル。


 ※※※


「これが、マシロさん?」今日二回目のびっくりする人を見る健人。今は白猫と一緒にリリアムの寝室に来ている。大丈夫だと聞いていたが、容態が気になったのだ。リリアムは自分のベッドの上で、上半身だけ体を起こして座っている。


「そうみたいです」そう答えるしか出来ない健人。今は健人の肩の上に器用に乗って纏わりついている白い猫。


「信じられない。と言っても、どうも本当なのよね……」思考が追いついていない、そんな様子だ。


 眩い光が消えた後、改めてベッドを見てみたら、真白の装備が全てベッドの上に、人型のまま残っていた。要する装備はそのままで、中身だけ何処かに行ったような感じだったのだ。そして現れた白い猫。真白は前の世界で白い猫だと言っていた。そしてあの場所には猫などいなかった。だからどう考えても、この猫が、真白だという結論に達してしまう。それは理屈では分かるが、自分の彼女が猫になりました、と言われてはいそーですか、と受け入れられるほど、冷静な人など存在しない。


「でも、とりあえず生きてて良かったですね」ニコっと優しい笑顔を健人に向けるリリアム。


 そう。そうだ。そうだった。ともあれ真白はこうやって生きているんだ。非常識な事態ですっかり頭の中ゴチャゴチャになっていたが、真白は死ななかったのだ。リリアムにそう言われ、その事実が理解出来ると、健人の目から涙が溢れてきた。


「ああ。そうだ。真白。生きててくれたんだ」そう言いながら、白い猫を泣きながらグリグリ顔を押し付けた。それを嫌がる事なく、「にゃーん」と寧ろ嬉しそうに鳴く真白。リリアムがちょっと羨ましそうに見ている。そしてリリアムがふと気づく。


「で、どうやって人間に戻るのかしら?」


 ※※※


「とにかく、今回の件、俺がきちんと護衛出来ず、すみませんでした」若干目を腫らした健人がリリアムに頭を下げる。


「いや、あれは仕方がない。魔族が出てきて、しかも魔薬という、僕も聞いた事のない薬を使ったんだ。僕やヴァロックでも対処できたかどうか微妙だよ」ゲイルが横からフォローする。


「ゲイルお義兄様の言う通り。タケトさん。お気になさらず」優しく微笑むリリアム。二人の気遣いに感謝し、再度頭を下げる健人。


 今いるのは、初めて伯爵邸に来た時の応接室だ。リリアムとアイラ、そしてヴァロックとゲイル、健人が、椅子に腰掛け話をしている。白猫は健人の膝の上でゴロゴロ喉を鳴らしている。


「しかし、魔族が作った魔薬か。また人族と対抗しようと思ってんのか?」首を捻るヴァロック。


「どうかしら。魔王は私達と戦う意志はないって、はっきり言ってたわよね。王ともきちんと和平の取り交わしをしたはずだし」アイラがヴァロックの仮定を否定する。


「気になるから調べたいんだがなあ。俺はもうすぐいなくなるし、お前ら二人はここの領主だからおいそれと動けねぇしな」ヴァロックがうーんと唸る。いなくなる? どういう事なんだろう?


「ヴァロックって、まだ数ヶ月くらいはいるって言ってたよね? 来る前に言ってた事、頼んでもいいよね?」ゲイルがヴァロックに確認するように聞く。


「弟子の話だよな? そもそもそのためにここアクーに来たんだし構わねえよ。お前らは知ってると思うが、俺は本来弟子は取らないんだが、俺はそのうちいなくなるから、誰かが俺の剣技を知っていてもいいと思ったんだしな」ゲイルの確認に答えるヴァロック。


「それに、今回の件を考えても、この小僧に託す方がいいかとも思ってるしな」


「良かったわねえ。弟子を取らないヴァロックが引き受けてくれるんですって」喜ぶアイラ。何の話だろう?


「よし、じゃあタケトだっけ? 今日からお前は俺の弟子だ」宜しくな、とニカっと笑う剣鬼。


「え? 弟子って俺がですか?」びっくりする健人。そう。元々ヴァロックがここアクーにやってきたのは、健人に剣技を教えるためだったのだ。しかしアイラから、リリアムの洞窟探索について嫌な予感がすると聞いたので、ゲイルと二人で洞窟に向かったのだった。


「まさかリリアムがヴァロックの弟子になると思ったのかい?」そんなバカなって感じで、アッハッハと笑うゲイル。いやびっくりのポイントそこじゃないんですが。


「ヴァロックは大剣使い。そしてタケトさんも同じでしょ? じゃあヴァロックに扱い方を教えてもらえばいいんじゃないかって思ったの」アイラが説明する。そういう事か。てか、俺の同意は、あ、はい、ないんですね。まあいいですけどね。


「で、リリアム。あなたも私が鍛えてあげる。今回の件で、あなたが狙われる可能性がある事が分かったから」と、真剣な眼差しでリリアムを見つめるアイラ。


「有り難い申し出だわお姉様」リリアムも受けて立つ、という雰囲気で視線を返す。何故かバチバチっと火花が飛ぶような視線の交わし合いする美女と美女。張り合うとこじゃないと思うんですが。


「でね、タケトさんにお願いがあるの。ヴァロックとの修行が終わったら、リリアムを冒険者として仲間にしてあげてほしいの」アイラが健人にとんでもない提案をした。


「いや、それはさすがに責任が重すぎます」王女であるリリアムの護衛をしながら、魔物討伐など出来る自信がない。今までは真白と健人、二人だけでずっとやってきた。


 ……そうだ。真白は今猫なんだ。この世界に来てからずっと一緒が当たり前だったのに。当然ながら一緒に戦う事は出来ない。命が助かった事は嬉しい。だが、意思疎通が出来ない。前は恋人、今はペットみたいなもの。じゃあ、真白はいないのと同じようなものじゃないか。そう気づくと、徐々に寂しくなる健人。


「勘違いしてない? 冒険者として、よ? 護衛じゃないの。この子も戦えるようにしておくから」アイラが話しかけ、真白の事を考えていた健人がハッとする。


「あ、ああ、なるほど。でもそれって俺じゃなくて、例えばカインツ隊長とか、兵士の人達の方がいいんじゃないですか?」


「あら。タケトさんは私が嫌って仰っしゃりたいの?」憮然とした顔で健人に詰め寄るリリアム。


「それに、私他の冒険者の方のお知り合いはいませんし、兵士の方々は、タケトさん以上に私に気を使うでしょうから、タケトさんが適任なんです」だから決定事項です、と言い切った。


「兵士達やカインツ隊長は、ここの領地を警護する任務があるからね。冒険者として最近活躍していて、しかもリリアムと顔見知りのタケト君が適任なんだよねえ」更にゲイルが兵士達がリリアムと共に行動出来ない理由を説明する。


 ……弟子の件とリリアム王女と共に冒険者をやる事が、俺の意思完全無視で決まってしまった。


「よし、そうと決まったら、タケトさん。私を王女と呼ばないで下さいね。敬語も禁止」分かった? と首を傾げて可愛くお願いするリリアム。


「いや、リリアム王女。それはさすがに」否定しようとする健人。


「リリアムと呼び捨てで」グッと健人に詰め寄るリリアム。顔が近い。そしてこの人無駄に美女だ。


「いや、だから」離れようとする健人。


「リリアム」また近寄るリリアム。


「……リリアム」負けました。


「じゃあ、宜しくお願いしますね」ようやく呼び捨てにしてもらい、嬉しそうにニッコリ超絶美女スマイルで握手を求めるリリアム。「……はい」一方一切自分の意志がないまま、色んな事が決まってしまい、どうも納得がいかない健人が、一応握手する。

 

 そんな様子を全く興味ない様子で、くわぁ~と欠伸しながら見ている真白猫。


「あら、あの子ったら。でも、タケトさんは茨の道ですよ」リリアムの気持ちに気づいたアイラが、ぼそっと呟いた。





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