予想外
いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m
中々筆が進まない>< 今日も1話のみ投稿しますm(__)m
童顔の魔族に首に刺さった毒矢のような物を摘んで取り出すヴァロック。先端がキラリと光り輝いている。
「こいつぁ、光属性じゃねえか」ヴァロックが怪訝な顔をして呟く。さっきの気配は間違いなく魔族だ。なんでこんな物持ってんだ?
「あ、あのヴァロックさん。真白が心配なので、俺戻っていいでしょうか?」真白の事が気が気でない健人。元勇者のメンバー、超有名人の剣鬼ヴァロックに自分の都合をお願いする事自体、畏れ多い事のばず。きっととんでもない事なのだろうだが、健人は早く真白の元に行きたくて仕方がなかった。
「ああ、そうだな。急ごうか」その矢が気になったが、とりあえず複雑な表情で、健人の無礼かも知れないお願いを聞き入れるヴァロック。
「よし。じゃあ俺の背中に乗れ。馬より速い」そしておもむろに健人に背中を向け、しゃがむヴァロック。大剣は手に持っている。
「え?」さすがにおぶされと言われ、驚く健人。しかも有名人剣鬼ヴァロックの背中って。そして連れて行ってくれるらしい。
「いいから気にせず早くしろ!」急かすヴァロック。おずおずと申し訳なさそうに、ヴァロックの首に掴まる健人。そういや大人になって人の背中におぶさるって結構恥ずかしい。しかも男同士だし。勿論そんな事言ってる場合じゃないんだが。
「よし行くぞ」そう言ってヒュンと風のように、正に空を飛ぶかのように駆けていくヴァロック。そして余りのスピードに振り落とされないよう、必死の形相でしっかと捕まる健人。
「……無理かもしれねえな。せめて生きてる間に会わせてやらねえと」厳しい顔つきで健人に聞こえないよう、小さく呟くヴァロック。ヴァロックはこの青年と猫獣人の事を、アクーに向かっている最中にゲイルから聞いていた。まるで自分とカオルのようだと思ったのだ。そんな惹かれ合う二人の力になってやりたい、そう思って全力で走る、見た目は怖いが優しいお兄さんのヴァロックだった。
一方健人は、いきなり起こった様々な出来事を、超スピードで駆けていくヴァロックの背中の上で、ようやく振り返る事が出来た。とりあえずリリアム王女はゲイルが助け出し無事のようだ。そしてアイラに気になると言われ、ゲイルと共にやってきたもう一人の勇者メンバー、剣鬼ヴァロック。何故この人が今ここにいるのかは未だに分からない。が、それは後回しだ。
それより真白。化け物に変貌しようとしていたが、とりあえず姿形は元に戻ったようだ。なら、魔族の闇属性に対してアイラの光属性なら、きっと何とかなる。治るはずだ。早く真白に会いたい。早く抱きしめたい。あの太陽のような笑顔を早く見たい。健人は勇者のメンバーのアイラなら、きっと真白を治せると信じていた。
ヴァロックはまるで猿のように、森の中を駆けていく。木から木へと飛び移り、着地しては風のように早く駆ける。考えたらこの人、馬より速いって言ってたけど、本当に馬より速いし、なんでこんなアクロバティックに木々を移動出来るんだ? 自分を背負って。
……この人も化け物だ。
そしてヴァロックは、馬で駆けると半日はかかる距離を、四時間程度で駆け抜け、伯爵邸に到着したのだった。
そして着いた途端、門番を無視し、高い鉄の門をヒョイと上から飛び越えた。「おい! 早く来い!」門の向こう側から手でコイコイしている。なんであんなに急いで来いというのだろう? そしてヴァロックの行動を呆気にとられて見ていた二人の門番に頭を下げ、健人も同じくヒョイと鉄の門を飛び越え、ヴァロックの元に走っていった。
※※※
バーン と大きな音を立て、ドアが開く。びっくりした様子のメイドや執事が一斉にドアの方を見る。ただ、ベッドの傍らにいるアイラだけは、ヴァロックが突然入ってきた事を気にも止めず、厳しい顔つきでベットで寝ている人物のそばの椅子に腰掛けている。
「どうだ? アイラ?」さすがに全速力で駆けてきたのもあって、息が切れるヴァロック。アイラはヴァロックを悲壮な顔でひと目見て、首を横に振る。「チィ! クソ!」ヴァロックが舌打ちをする。
「アイラさん。真白の容態はどうですか?」その後で息を切らせ入ってきた健人が、アイラに頭を下げつつ問いかける。
「タケトさん。も、当然来るわよね」驚いたというよりも、今は会いたくなかったというような、辛そうな顔で健人を見つめるアイラ。
「え?」治ると信じている健人は、やや楽観した様子だからか、アイラの言葉の意味が分からない。
「……ごめんなさい」何も弁解せず一言謝罪するアイラ。
「え? 何が、ごめんなさい、なんですか?」言っている意味が分からない健人。いや、分かりたくないと言った感じだろうか。
「マシロさんは、もう……」健人に伝える勇気がない、そんな調子で小さく呟くアイラ。
「もう? なんですか?」その続きを聞きたくないくせに、気になって仕方がない気持ちに負けて聞いてしまう健人。
「もう、既に亡くなって……」そうアイラが目に涙を溜めて静かに言いかけた時、「嘘だあああああああああ!!!!」と大声で叫び、急いでベッドに駆け寄る。そこには、上半身裸で、うつ伏せに寝かせられている、そして背中全体に紫の血管のようなものが浮き出ている、健人の愛しい人の姿があった。
※※※
……ん?」なにか見覚えのある空間。
「まさか二度も会うとは」若干驚いたような、また、呆れたような口調で、光の塊は、話しかけた。
「え? 私どうしてここへ?」久々に会う光の塊。それよりも、ここにいる理由が分からない。
「本来、死なねば私に会う事はないんだがな。まあ、お前の場合、初めてここに来た時もイレギュラーだったんだが」光の塊が話しかける。
「じゃあ、私死んだんですか?」驚いたような、でも何処か仕方がないという気持ちも混ざった感情で、光の塊に質問する。
「どうだろうな」曖昧な返事をする光の塊。
「へ? 分からないんですか?」呆気にとられる真白。
「ここはどうやら、お前の夢の中のようなのだ。だから死後ここに来た、というのとはちょっと違うのだ」はっきり回答できない理由を説明する光の塊。
「じゃあ、私、生き返れるんですか?」生き返る、という表現が正しいかどうか分からないが、とりあえず愛しの人の元に戻りたい真白。
「戻りたいのか?」確認するように聞く光の塊。
「ええ。だって私、健人様を守るためにあの世界に行ったんですから」最初猫の時に会った時とは違い、流暢に話す真白。理性と知性がかなり馴染んできているのが分かる。
「うーむ。しかし、どうやらあの世界の今のお前は、理性と知性を封じ込められているようなのだ。何が要因なのかは分からんが」
「それって……」嫌な予感がする真白。
※※※
「真白! 真白! お願いだから起きてくれ! 頼むから起きてくれ!」人目を憚らず号泣しながらうつ伏せで動かない真白に、何度も大声で叫ぶ健人。アイラもヴァロックも、それをただ制止する事もなく、辛そうな表情で見つめている。周りにいるメイドの中には、すすり泣きをしている者もいるようだ。
健人が真白の傍らで号泣していたその時、ビクン! と、突然真白の体がうつ伏せのまま跳ね上がるように動いた。部屋にいた全員が「え?」と、何が起こったか分からないという感じで皆固まるが、それを見たアイラが急いでベッドに駆け寄る。
「まだ可能性があるかも知れません! 再度回復魔法をやってみます」動いたなら生きているかも、そう言いながら、「アルティメットヒール」と唱える。これは人体の一部が欠けていたとしても、再び元に戻す事が出来るほどの、強力な治癒魔法。この世界ではアイラにしか使う事が出来ない。ただ、術者自身大きな負担を強いる魔法でもある。
苦しそうにひたいに汗をにじませながら、アルティメットヒールを真白にかけ続けるアイラ。その間も小刻みにビクっと動く真白。しかし10分程魔法をかけ続けていたアイラが、突如フッとベッドにうつ伏せに倒れ込んでしまった。
「奥様!」メイドや執事が慌ててアイラの元に駆け寄る。傍で見ていた健人もアイラに駆け寄る。「すみません。私も限界の、ようです」と、何とかフラフラ立ち上がる。そしてベッドのそばの椅子に腰掛けた。そもそも健人達が来る前までからもずっと治癒魔法をかけ続けていたのだ。そこで更に高レベル治癒魔法を使えば、限界が来てもおかしくなかった。
「ごめんなさい、力不足でした」額に汗を滲ませながら、健人に謝罪するアイラ。
だが、健人はアイラの言葉を全く聞いていない。アイラが不思議に思って健人視線の先を見てみると、ベッドにうつ伏せで横たわった真白の体が光りだしている。
「一体何だこれは?」ずっと離れて様子を見ていたヴァロックが声を上げる。この世界中を旅してきたヴァロックでさえ、見た事のない光景だ。
そして徐々にその光が強くなり、目が開けられないくらい眩く光り輝いた。この部屋にいた者全てが、その眩しさで目を覆い隠す。それから徐々に光が小さくなり、ようやく視力が回復してきたので、光り始めた真白のいたベッドを確認してみると、そこはもぬけの殻だった。
「え?」またも皆で呆気にとられる。一体どういう事だ?
「ニャーン」そして健人の膝の上で、人懐っこそうな白い猫が、健人にすりすりしていた。