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赤い影

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ちょっと書き溜めがあまり順調でなく(;^_^A 1話のみ投稿致しますm(__)m

「ダ、ダゲトサマ……ニ、ゲテ……」徐々に膨らんで、現在2mくらいの大きさになっている()()が、鋭く尖った牙を覗かせた口でそう話す。健人を気遣うように必死の形相で、赤く光る目からは涙をこぼしながら訴える。


「ま、真白? 真白なのか?」信じられないという表情の健人。あの愛くるしい、可愛らしい、ひまわりのような天真爛漫なあの真白とは到底似ても似つかない()()が、自分に逃げてと訴えかけている。


 ……いや、あれは真白だ。間違いない。見た目はどうであれ、真白だ。俺が真白を見間違うはずがない。


「真白! 大丈夫か!」どうすればいいのか分からないが、ただただ心配な健人が真白を気遣うよう声を掛ける。


「イ、イイガ、ラ……モウ、私、じゃ、なく、ナ、る、カら。たけド、様、襲って、しマウガラ。ニゲ、テ」


 もう喋るのさえ苦しそうな真白。ぜぇぜぇ言いながらたどたどしく言葉を発する。そうしている間に徐々に体が大きく膨らんでいく。紫色の瘴気がどんどん体から溢れてきている。だが、マシロの懇願をよそに健人はキッと目を見張って叫ぶ。


「真白を放っていけるわけないだろ! お前は俺の彼女だ! 俺の大事な女なんだから!」健人が必死に大きくなるそれを見上げながら自分の気持ちを精一杯伝える。


 口が裂け上向きに見える牙を覗かせ、大きさが3m近くになった()()()の目から涙がとめどなく溢れる。


「うれ、し、い。けど。どう、しようも、ない、の」滝のように涙が溢れつつも、紫色の瘴気と巨大化は抑えられない。


 きっと何か方法があるはずだ。確か魔族は魔薬って言った。じゃあ、それを何とかすればいいんじゃないか? でもそれってどんな物なのか、どうして真白がこうなったのか、さっぱり分からない。このままじゃ、前の中年男性のように、紫の塊になってしまうかもしれない。焦る健人。


 と、その時、赤い影? が健人の前をヒュンと通った。


「小僧! どけ!」そう叫ぶ赤い影。いきなりの事に驚いて尻もちをつく。それと同時にその赤影が、高さ3mほどの紫の化け物になった真白の首筋に、大剣を斬りつけた。


「ギュアアアアアアア!」苦痛を感じたのか、大絶叫を響かせる真白。


「あああ! 真白ーーーー!」叫ぶ健人。突然誰かが現れ、真白を斬ったのだ。


「ま、真白に何やってんだ!」怒る健人。その赤い影に斬りつける。が、赤い影は、そのオリハルコンの大剣の攻撃を、ガシっと()()で受け止めた。


「え?」怒り狂っていた健人だが、余りの非現実に唖然とする。


「落ち着け」赤い影、もとい、赤い髪の大男は、手を離して一言健人にそう伝えた。そして、真白を覆っていた紫の瘴気が、まるで空気が抜けるようにフシューと音を立てて霧散していくのを見つめている。


「間に合ってればいいがな」と、厳しい顔つきで呟く赤い髪の大男。徐々に真白の体が、元の大きさに縮んでくる。大きく膨らんだのに不思議と装備は剥がれていない。頑丈だからだろうか? 服は破けてしまっているが。


「あ、ああ、真白! 真白! 大丈夫か!」声をかけながら真白に近づこうとする健人。だが、その赤い髪の大男がそれを制する。


「待て。まだ()()が抜けきってねえ。まだ近寄るな」そう言いながら、健人の腕を掴む。魔素? 一体何だ? 


 それより、


「あ、あの、あなたは?」大体察しはついていたが質問する。以前ヌビル村でダンビルに見せてもらった絵本の表紙にいた一人。


「ああ、俺はヴァロックってんだ」宜しくな、と続ける剣鬼ヴァロック。やっぱりそうだった。勇者メンバーの一人。


「ど、どうしてここに?」当然の疑問だ。


「うーんと。まあ、まずは()()()()魔族達に色々聞いてからにしようか」と話すヴァロック。え? 捕まえた? そう疑問に思うのも束の間、今度は久々に会う人物が、気を失ったリリアムをお姫様抱っこし、童顔の魔族を水の魔法で拘束した状態? 水の縄のようなもので両手両足を縛られ、動けなくなって、そして更に水たまりのようなものの上に乗ってで連れてきた。


「やあ、タケト君。久しぶりだね」それはゲイルだった。


「な、なんでゲイルさんがここに?」それも当然の疑問だ。


「家に帰ったら、君達の洞窟探索について、アイラがやたら嫌な予感がするって言うからね。リリアムの様子を見に来きたんだよ。どうやらアイラの予感は的中していたみたいだね。」


 そしてようやく元の姿に戻った真白を一瞥すると、危機感をはらんだ真剣な顔になる。


「ヴァロック。あの獣人の女の子が危険だ。僕は急いで彼女をアイラの元に連れて行くから、ここを任せていいかい?」真剣な顔でヴァロックに話すゲイル。


「ああ。光属性最高レベルのアイラに任せたら、何とかなるかもな。ここは任せろ。早く行ってやれ」ヴァロックが答える。


 宜しく、と一言告げ、そしてようやく紫色の煙のようなものが体から出てこなくなった真白をゲイルが背負う。前にはリリアム後ろには真白と、細身のちょび髭イケメンが抱えるにはきつそうに見えるが、そこは水魔法の使い手、「ウォーターバインド」と呟き、真白を水で出来た手のようなもので支えた。そして駆け足で走り去った。


 一方その間逃げようとジタバタしている童顔の魔族だが、未だゲイルの水魔法で拘束され動けない。


 ※※※


「あんたらがいるなんて卑怯だ卑怯だー!」ぷんすか怒っている童顔の魔族。因みに小太り魔族はゲイルが倒したらしい。


「待ち伏せして、あんな妙な物を使うのは卑怯じゃないのか?」ヴァロックが自らの大剣を、肩でトントンしながら聞いている。今童顔の魔族はゲイルの水魔法に拘束された状態で正座させられている。ヴァロックと健人は二人並んで、その前に立っている。


「とにかく、あの魔薬とやらの解除方法を教えろ」ヴァロックではなく健人が、高圧的に童顔の魔族に聞く。早く真白を助けたい。


「教えるも何も、無理だからねー。さっきも言ったけど、あれを丸々ぶつけられると、魔物になるか、死ぬかどっちかしかないんだよー」やれやれといった表情で、若干バカにしたような素振りで話す童顔の魔族。


「この!」健人がその様子に腹を立て、大剣を魔族の上に振りかざす。が、まあ待て、と、ヴァロックが手で健人を遮って制する。


「ま、聞きたい事はそれだけじゃねえ。そして、お前が正直に話すとも思えねえし」そう言っておもむろに、ヴァロックはポケットをガサゴソと何かを探しだし、そして指輪を取りだした。


「俺みたいに世界中を旅してるとよ、色んな変わったアイテムを獲得出来たりするんだわ。で、これは(真実の指輪)と言ってな。エルフに貰った。つけられた奴は嘘が言えなくなる」と、魔族の手をグッと掴んで指輪をはめようとする。


「な? やめろー! そんな脅迫まがいの事するなんてそれでも元勇者のメンバーかー!」本気で焦る魔族。よほど言いたくない事があるらしい。抗おうと手をグーにしているが、ヴァロックのパワーには敵わない。強制的に指輪をはめられてしまう魔族。すると指輪がピカーと輝いた。


「ぐ、くそ」悔しそうな顔をする魔族。


「さて、まずあの魔薬とやらの解除方法を教えろ」ヴァロックが質問を始める。


「だからあれは解除方法なんてないよー。俺達だって知りたいくらいだー」どうやら本当に無理のようだ。


「さっきあんたが猫獣人に斬りかかって、魔物化を抑えたのだってびっくりしたくらいだよー。さすがの機転、さすがヴァロック様様と思ったくらいだよー」と、本当に感心している様子の魔族。


「……じゃあ、後はアイラに賭けるしかねえな」険しい顔をするヴァロック。


 一方健人は、真実の指輪をつけられた魔族から解除方法がない事を聞き、段々顔が青くなる。真白はどうなるんだ? まさか死ぬ?なんで真白が死ななきゃならないんだ? なんでだよ?


「こ、この野郎! どうして真白にそんな事したああああ!」またも健人が怒り狂い、魔族に大剣を振り上げる。が、今度はヴァロックが健人の頬をパシーンと張った。それを食らってフラフラと尻もちをつく健人。


「落ち着け! 気持ちはわかるがこいつを殺すのは今じゃねぇ! 必要な情報得られなくなるだろうが!」険しい顔をしながら健人に怒鳴るァロック。引っ叩かれて呆然としながらヴァロックを見上げる健人。そして項垂れる。ヴァロックの言う通りだ。真白の事が気が気でない健人は、我を忘れてしまう。だが、とりあえず落ち着きを取り戻したようだ。


「な、なんで猫獣人に魔薬を使ったって? そりゃ、脅威だったからだよー。すぐに敏感に気づくしー。リリアム王女を攫うのに一番邪魔だったからだよー」健人に殺されそうになりちょっと焦りつつも、真実の指輪のせいか、律儀に答える魔族。


「そうそう。なんでリリアム攫おうとしたんだ?」ヴァロックが思い出したように質問する。


「光属性持ちで攻撃魔法が使えるからだよー。魔族は光属性使えないからねー。光属性持ちで、大して強くないリリアム王女なら、簡単に捕まえられると思ったんだよー。アイラ王女は流石に強すぎて無理だしー。それなら神官でも良かったのかも知れないけどねー。でも魔力の量が違うからねー。洗脳してこっちの味方につけて、実験とかしたかったんだよー」


 洗脳? 洗脳できるのか?


「あー。そういやお前ら使役出来るんだったな。その上位の隷属とか使う気だったのか?」


 使役? 隷属? 奴隷って事?


「違うよー。さっきの魔薬を少しずつ体に入れるんだよー。飲み物や食べ物に混ぜてねー。こちらの魔力を込めながら、少しずつ。そうすると、洗脳が出来るんだよー。隷属の場合は自分の意思が残っちゃうからねー。リリアム王女の場合は洗脳のほうが都合良かったんだけどねー。失敗したけどねー」


「……」ヴァロックは魔族の説明を聞いて、難しい顔をして黙った。洗脳? 俺達が魔王と戦った時は聞いた事ねえぞ? そもそも魔薬とやらも知らねぇ。


「その魔薬とやらは、どうやって作ったんだ?」ヴァロックが核心の部分を質問する。


「それはねー、……グハァ!……ゴブゥ!」突如魔族が絶叫して白目を剥いた。すかさずサッと上を見るヴァロック。


「ッチ! 口封じか」悔しそうな顔で舌打ちをするヴァロック。童顔の魔族に目を戻すと、既に事切れていた。首筋には矢が刺さっている。


「俺が気づけないとはな。やり手か」悔しそうに呟くヴァロック。そして対象の人間が死んだからか、真実の指輪が音も立てずサラサラと砂のようになって崩れていった。


 ※※※


 さすがにヴァロックと戦って勝ち目があるとは思えない影。童顔の魔族の口封じをして、早々に逃げ去る。


「まさかヴァロックとゲイルが出てくるとは。しかし彼らが動くとなると、警戒しないといけないなあ。リリアム王女捕獲は保留にしたほうがいいか?」一人呟く影。


「とりあえず、核心の部分を語る前に奴を始末出来たのはよかった。魔薬の作成はほぼ完璧だが、後はどうやって量産するか……」


 ※※※





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