魔薬
1万PV突破(*^_^*)
いつもお読み頂き有難う御座いますm(_ _)m
「あれが真白が以前言ってた魔族か」
洞窟の入り口を出たところの、上の木の枝辺りに身を潜めていたらしい二人の魔族。健人がその魔族達を改めて見てみる。自分達人族とさほど変わらない見た目。違いは黒い10cmくらいの角と背中に申し訳程度についてる黒い翼くらいか。しかも挨拶した魔族は、スポーツ刈りみたいな頭と、童顔な事もあって、余り悪いやつには見えない気もする。勿論警戒は怠らないが。もう一人の小太りな魔族は、くたびれた中年サラリーマンみたいな、平面顔の余り特徴のない顔立ち。メガネでもしていたら、課長です、と名刺を出されても信じてしまいそうだ。
とりあえずリリアムを守るよう、彼女を自分の後ろに下げる。真白も健人の横に並んでファイティングポーズをとる。リリアムも以前の化け物の事があったので警戒しつつ魔族達を見つめている。
「何の用にゃ?」警戒しながら真白が魔族に声をかける。
「うーん。それ、正直に言わないとダメかなー?」おちゃらけたように返事する童顔の魔族。もう一人の小太りの魔族は黙ってじっと三人を見ている。なんか上司みたいです。
「今度はポカすんなよ」童顔の魔族が小さく呟くと、小太りの魔族が頷く。そして何の前触れもなく、いきなり童顔の魔族が攻撃を仕掛けてきた。
「シャドウピック」と呟くと、健人の後ろのリリアムに向かって黒い沢山の針が飛んでいった。急いで大剣でそれらを弾く健人。さっきの大亀の時に能力は開放済なので対応できた。健人が魔族の攻撃を防ぐのを見て、今度は真白が動く。童顔の魔族の元に飛んで近づき、ナックルを顔面狙って放つが、童顔の魔族が「シャドウスモッグ」と唱えると、放たれた真白のナックルが黒い霧に包まれた。何か布団のような、柔らかいものを殴った感触が真白の拳に残る。どうやら防御系の闇魔法のようだ。
次に小太り魔族が健人に攻撃を仕掛ける。手に持つのは黒い剣。それを振り上げながら健人に近づき斬りかかる。それをガシーンと大剣で受け止める。しかし、受け止たと同時に、「シャドウフォーク」と小太り魔族が呟くと、その背中から、細くて長い黒い銛のようなものが、クネクネとまるで蛇のような動きをしつつ現れ、剣を抑えている健人の頭をヒュッと襲う。しかし気づいた健人が一旦バックステップで競り合っていた剣を離し、横にステップする。シャドウフォークは健人に躱され、壁に突き刺さる。
魔物とは違う、フェイントを絡めた独特な攻撃。健人は少し戸惑ったのもあったのか、一瞬隙が出来てしまった。小太り魔族の攻撃を躱した事でリリアムと少し離れてしまった。
「しまった!」そう思った時にはもう遅い。小太り魔族がその隙をついてリリアムに近づく。健人がいなくなり、小太り魔族が近づいてきてハッとするリリアムだったが、戦闘経験の疎いリリアムには対応出来ない。
「あぅ!」リリアムの鳩尾に、小太り魔族がすかさず拳を入れる。そしてリリアムは小太り魔族に寄り掛かるように倒れ込み気を失う。そしてそのまま小太り魔族はリリアムを担いだ。まずい。
「ちくしょう! 待て!」急いで小太り魔族を追いかける健人。が、体型に割に逃げ足が速い。
「真白! リリアム王女が攫われた!」追いかけつつ健人が真白に声を掛ける。
「まずいにゃ!」上の木の枝辺りで、童顔の魔族に相対していた真白は、急いでその場を離れ小太り魔族の方に駆けだそうとするが、そうはさせない童顔の魔族。
「行かせないよー」童顔の魔族はニタァと嗤って、懐から紫の玉を取り出し、そしてそれを小太り魔族を追いかける健人に投げつけた。相対していた真白ではなく、健人を狙ったのだ。
「!」真白の危機察知がまずいとアラートを鳴らす。健人は小太り魔族を追いかけるのに必死で紫の玉に気づいていない。でもあれは、絶対触れちゃダメなものだ。危機察知がそう感じている。そして真白は咄嗟の判断で健人の背後に入り、その紫の玉に蹴り返そうと脚を振り上げる。オリハルコンのレッグガードがついてるので、自分の素肌には触れない、そう判断したのだ。
だが、その真白の様子を見ていた童顔の魔族は「シャドウハンド」と呟く。触手のような黒い手が、童顔の魔族のそばの下の地面からいくつも飛び出す。そして、童顔の魔族が健人に投げつけた紫の玉に複数伸びていき、それをキャッチした。真白は一瞬呆気にとられる。紫の玉を投げた本人が、再度それを黒い触手で掴んだのだ。蹴ろうとしていた紫の玉を掴まれて、放った蹴りが空を切る。その勢いを止められず半回転する真白。
「背中が見えたねー」してやったりという風に、ニヤァと嗤う童顔の魔族。
そして黒い触手は、今度は背中の素肌が見えている真白の首筋に、紫の玉をぶつけた。
「うにゃあーー!」叫ぶ真白。急いで手で掴んで取ろうとするが、まるでアメーバのように首筋に張り付いて取れない。危機察知のアラートがガンガン鳴っている。壁に首筋をぶつけてみるが外れない。
徐々に紫の何かが真白の中に入っていくのが分かる。まずいまずいまずいまずい。
「よし! うまくいった!」童顔の魔族はその様子を見てガッツポーズをする。
「教えてやるよー! それは前に中年デブにぶつけたのと同じ魔薬さー! 抗えば死ぬし、受け入れれば魔物化するんだ! 猫獣人、それで終わりだ!」と、叫び、そしてやってやったとばかりに、嬉しそうにイヒヒヒと口角を吊り上げ、赤く目が光り、醜悪な顔で嗤う童顔の魔族。
「よし作戦成功! 逃げるぞ!」そしてリリアムを担いでいる小太り魔族に声をかけ、急いでここから逃げようとする。
「行かせるか!」そこで健人がアクセルとブーストの能力そのままに、一気に加速して魔族達に追いつこうとする。が、
「おいおい、いいのかいー? 君の大事な猫獣人さん、魔薬に侵されてるよー?」健人の声が聞こえたので、一旦逃げるのをやめて立ち止まって振り返り、楽しそうに嗤いつつ、真白を指さす童顔の魔族。
真白がこの童顔の魔族とやり合っていたのは知っているが、魔薬? に侵されている?
でも、物凄く嫌な予感がする。真白は今自分の背後でどうなっているか見ていない。気になるが、今真白に振り返ったら、その瞬間この魔族達は逃げていってしまうだろう。そうなると取り逃がしてしまう。リリアムが連れ去られてしまう。
健人がその童顔の魔族の言動に一瞬躊躇して立ち止まった隙に、魔族達がさっさと踵を返して健人から遠ざかっていく。
「しまった!」追いかけないとリリアムが連れ去られてしまう。だが、真白が気になる。どうしようか健人が迷っていると、
「グ、グニュロオオオオオ!」聞いた事あるような、ないような、大きな咆哮が、後ろから、真白がいたはずのところから聞こえてきた。
「チィ!」新たな魔物か? 魔族達を追いかけられない後ろめたさを振り払いながら後ろを振り返ると、そこには、紫色の煙? 瘴気? のようなものが体から立ち昇り、徐々に巨大化しながら、目が真っ赤に光り、口から鋭い牙が見える、元真白の姿があった。





