初めてボス退治。でも大した事なくて肩透かし
いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m
評価も有難いですm(__)m
ブックマークしてお待ち頂いている皆様感謝ですm(__)m
稚拙な文章で恐縮ですが、これからも読んで頂ければ幸いです。
※※※
「バカ! あれだけあの猫獣人には気をつけろって言ったのにー! 感づかれただろー!」影がひそひそ声で怒りを露にする。
「すまねぇ。つい躓いちまった」もう一つの影が申し訳なさそうに謝罪する。
「全く。中に進めなくなったじゃないかー。幸いな事にまだバレてないみたいだけどー。仕方ない。とりあえずここで待機する」予定の変更を余儀なくされ、機嫌が悪い影。
「わ、わかった。次は気をつける」頭をポリポリ掻く。
小声でヒソヒソ話し合う二つの影。感づかれたはしたが、何とか真白には見つからなかったようなので、健人達には近づかず、入り口で待機していた。
※※※
リリアムの心配は全く杞憂だった。この二人は洞窟に入ってから、イチャイチャするどころか、二人それぞれ役割分担をして、ずっと集中を切らさず、洞窟の奥に進んでいく。さすが先鋭の冒険者といったところか。オンとオフをきちんとわけているようだ。
「お二人神経が研ぎ澄まされていますわね。私も安心して目的地まで行けそうですわ。やっぱりお二人に依頼して良かった」評価を改め微笑みながら二人に感心するリリアム。
「それは目的を達成したら、もう一回言ってもらいます」リリアムにチラっと目配せして、そしてすぐ前に集中する健人。
「健人様に同意にゃ。まだ終わってないにゃ」同じく集中してリリアムの後ろを進む真白。
そんな二人の真剣な様子に、一人油断したようで恥ずかしくなるリリアム。
「そ、そうですわね。とりあえず安心したって伝えたかったの」ちょっと顔が赤い。健人と真白はもう何度も魔物討伐をやってきているが、リリアムは初めての探索なので油断も仕方ないのだ。
そして二人は、今回は単なる魔物討伐じゃなく、リリアムの警護と、リリアムの目的を達成するサポートという、普段とは違う依頼内容に、普段より緊張していた。いつものように魔物を倒せばいいだけではない。結構ハードな内容だと、二人は理解していたのだ。そんな二人の緊張感を全く知らないリリアムだったが、二人はそれでいいと思っている。守られる対象は、守って貰う対象に気を使う必要はないのだ。
健人と真白が約二ヶ月だけで、沢山の実績を詰めたのは、健人のこの責任感と真面目さも理由の一つだ。前の世界でフリーターながら正社員くらいきっちり仕事していた健人だからこそ、プロフェッショナルでなければならない、そう思っていたのだ。その意識が、魔物討伐にも活かされ、ギルドや依頼した人達から信頼を得ていた。
真白も健人のそんなやり方に、尊敬の念を持っている。だから健人の計画ややり方には、たまに自分の意見を伝えはしても、基本健人のやり方に従っている。
そして二階層に降り、モグラや蛇の魔物を退治しながら順調に進み、程無くして最下層に辿り着いた。最下層は、最初のコウモリが沢山いた部屋のように、またも大きなドーム状の部屋になっていた。ただ、最初の部屋に比べ更に広い。縦横高さ50mはありそうだ。
「ここには魔物はいないみたいにゃ」真白が耳をピクピクさせながら気配を探してみる。
「地図によると、この先に目的の魔法陣があるみたいです」リリアムがこのドームの最奥辺りを指差す。
「なるほど。じゃあ、これからですね」緊張した面持ちで語る健人。
リリアムが黙って頷き、真白も緊張した様子で辺りを見回す。地形を確認しているようだ。
「よし、進むぞ」健人が二人に指示を出す。黙って頷く二人。三人とも横に並んで緊張した様子でゆっくり最奥目指して歩く。
すると、ゴゴゴと大きな音を立てて、地面が盛り上がってくる。
「来たぞ! 離れろ!」急いで三人は下がる。段々地面が膨らんできて、そこから「グオオオオオオオ」と大きな声が聞こえる。出てきたのは緑色の大きな亀。だが頭が赤く甲羅にはトゲトゲがついている。全長10mはある大きな亀の魔物だった。
リリアムからは事前に、アイラから最下層を守るボスがいる事は聞いていた。ただ、出てくる魔物は何か分からないらしい。アイラの時は大蛇だったそうだ。
「グムオオオオオ」再度咆哮を放つ大亀。最下層のドームを揺らすような大きな音のせいで、壁が振動しているようだ。
そして大亀が三人を見つける。緑色の気味の悪い細長い、両生類独特の瞳で睨む。そしてゆっくりと大きな口が開く。
「逃げるにゃ!」危機察知で危険と感じた真白が叫ぶ。咄嗟に真白がリリアムを掴み右へ、健人は反対側の左へ逃げる。
その後すぐに赤い炎が、三人のもといた場所をゴオオオという爆音と共に焼き尽くす。大亀の口から放たれたのだ。炎が収縮した跡には、ブスブスと地面が焦げているのが見て取れた。
「あ、ありがとう」真白に助けてもらい、ちょっと照れながらお礼を言うリリアム。
「感謝の言葉は終わってからにゃ」諭すように大亀の次の動きを警戒する真白。そこで二人と反対側に炎を避けていた健人が動いた。
「ブースト・アクセル・プレッシャー」いつも使っているこの能力を呟く。大亀の甲羅を上から思い切りオリハルコンの大剣で斬りつける。ガシーンと大きな音がする。少し亀裂が入る甲羅。そして大亀が少し傾く。「グロオオオ」細身の健人から繰り出されたそのパワーに驚いた様子の大亀。そしてまだ甲羅に刺さっている健人に顔を向け、口を開いた。またもあの炎だ。
炎が吐かれた瞬間、健人がフッと消える。再び現れたのは真白とリリアムのいる場所。高速で移動したのだ。
「やっぱ硬いな。70%は出したのにな」ちょっと汗をかきながら話す健人。
「次は私が行くにゃ」そう言ってリリアムを健人に預け、真白が大亀の正面に立つ。そしてガシーンとナックルを拳を作って叩く。正面に現れた猫獣人を一睨みし、またも口を開ける大亀。大きな音がして炎が吐かれ、またも地面が黒く焦げる。勿論その場に真白はいない。
「うにゃー!」上空から亀の甲羅にナックルが落ちてくる。ゴパーン! と大きな音がして、甲羅にひびが入った。
「グ、グロオオオオオ」苦しそうな大亀。
「思ったより弱いな。よし、そろそろ準備しましょう」健人がリリアムに伝える。緊張した面持ちで黙って頷くリリアム。
実はここのボスは、本来魔法陣が必要な者が、一人で倒さないと、魔法陣が現れない事になっている。だが、勇者ことカオルが「これって、私達が体力削って、トドメだけアイラが刺したらいけるんじゃない?」と言って、やってみたら出来ちゃったのだった。要するボスの体力を限界まで他のメンバーで間引いて、トドメだけ必要な者が攻撃するという、かなりズルな事が出来る事が分かってしまった。今回もその作戦だ。
「真白! もうちょっとやれるか?」大声で真白に確認する。
「全然余裕だにゃ! 私一人で倒しそうだにゃ!」大亀ののんびりした動きでは、真白の素早い動きは全く捕らえられない。しかも真白はパワーもある。その上武器はオリハルコンナックル。この程度の硬さだと余裕で甲羅を壊される。鈍重な上硬いはずの防御が効かない。大亀にとって真白は、最悪の相性だった。
そして大亀の体力を削るのは、健人でもやろうと思えば出来たのだが、リリアムを守るには、健人の大剣が丁度よかった。万が一の事を考え、リリアムを守るのは健人に任せ、真白は大亀の体力を削ぐ事にしたのだった。特に二人は事前に打ち合わせしたわけではないが、ずっと二人で魔物討伐しているからか、阿吽の呼吸で何も言わなくともお互いが理解し、それぞれ役割分担出来ていた。
真白は左に右に飛び回り、大亀の口から出る炎を躱しながら、足や背中の甲羅にどんどんナックルを入れていく。その度ヒビ割れてくる甲羅や四肢。どうやら痛みもあるようで、真白がヒビを入れるたび、大亀が苦しそうにブンブン首を動かしている。しかも真白に炎は全く当たらない。明らかにイライラしている様子の大亀。
真白がリリアムの方をチラッと見る。どうやら魔法を打つ準備ができたようだ。そして真白は大亀の正面に、わざと分かるようにスタッと降り立つ。
チャンスだと思った大亀は、真正面にいる真白目掛けて炎を吐く。が、いたはずの真白は既にいない。そして「グプオァ!」奇妙な声を上げる亀。炎を吐いた瞬間、真白が大亀の首の真下に回り込み、死なない程度に手加減してアッパーを顎に入れていたのだ。口の中からゴフッゴフっと溢れる、大亀自身の炎。
「今にゃ!」そう言って離れる真白。それを聞いて、いつの間にか大亀の正面に移動していたリリアムが、「ライトニングボール」と呟く。これが光属性の攻撃魔法で、以前アイラが作ったライトニングジャベリンの劣化版。アイラのように鋭利な得物にするのは、相当な鍛錬が必要だが、このライトニングボールは、光の玉をイメージするだけなので、比較的簡単に作り出せる。光属性攻撃魔法の基本の魔法だ。
それを五つほど自らの周りに浮遊させるリリアム。そしてアッパーを食らい、自分の炎で口を焼いて悶絶している大亀の口の中目掛けて、その光の玉を次々と打ち込む。「グオオオオオオオ」大きな悲鳴のような声をあげ、ズドーンと首が地面に落ちる。そこで大亀は事切れたようだった。
「あっけないな」ボスなのでもっと強いかと思っていたのに、弱くて拍子抜けの健人。
「これ、私達必要だったのかにゃ?」真白もつまんなそうにしている。
「必要でしたよ。お二人がお強いから簡単に終わったのかと」少し肩で息をするリリアム。
「ま、とりあえず目的のものゲットしましょうか」健人がリリアムに、奥に行くよう伝える。
「ふう、そうですわね。早く終わらせましょう」落ち着いたリリアムと、健人と真白の三人は、大亀を横目に奥に歩いた。一応健人と真白は周りを警戒しつつ、リリアムの左右についている。そうだ、あの大亀なら何かしら素材が取れるだろう。めぼしいものがあれば持って帰ろう。健人はそう考えていた。
「……」真白が黙って後ろを見つめている。
「ん? どうした真白?」健人がその様子を不思議に思って聞いてみる。
「うーん、何かいる気がするにゃ」真白が健人に伝える。でも、魔物の残りかも? それなら、危機察知が何も反応しないのが不思議だが。
「真白の勘が外れた事ないからな。俺も警戒するよ。リリアム王女。早く例の物取りに行きましょう」健人がリリアムを急かす。
「そうね。急ぎましょう」そして警戒しながら、三人は駆け足で最奥まで向かった。そこには祠のようなものがあり、中には円形の文字と記号のようなもの、要するに魔法陣が書かれてあった。
「よし。では使います。アナザーヒール」リリアムがその魔法陣を凝視し、頭にイメージする。すると健人と真白の体が白く光った。
「成功です。これで終了しました」ふう、と一息つくリリアム。
アナザーヒールとは、自分が認めた者、またはパーティ契約をしている者全員が、回復魔法を使えるようになる光魔法だ。なので現在、健人と真白も回復系の光魔法が使えるようになっている。これはクリスタル依存しない特殊な魔法だ。
何故王族の光属性持ち全ての者が、このアナザーヒールを取得するためわざわざこの洞窟に来るのか。それは万が一の事態に備えるためである。例えば約五年前の魔族との戦いのように、大規模な戦争になった場合、アナザーヒールがあれば、術者の魔力やレベルにもよるが、回復魔法を使える人間を、一時的に多数作り出す事が出来る。戦場ではとても優位になれるのだ。戦場において、治療・治癒が使えるのは、相当なアドバンテージである。そのため、王族の光属性持ちは、皆ここに入り、アナザーヒールを取得する事が、王族としての責務だと捉えているほどである。
「あ、これ、スマホで撮影すれば、今後わざわざここに来なくていいんじゃないのかな?」健人がふと思いついた。そしておもむろにパシャっと撮ってみたら普通に保存できてしまった。暗いのできちんとフラッシュにする事を忘れずに。
「今何をなさったの? そう言えば昨日も、その不思議な機械? を、マシロさんに向けておられてましたわね?」リリアムが不思議そうに健人に質問する。リリアムは健人が異世界の人間である事を知らない。なので当然スマホも知らない。
「いやあ、アハハ。まあ、戻ってから」ゴニョゴニョ誤魔化した。説明すると面倒になると思ったのだ。
「まあとにかく、洞窟から出ましょう」誤魔化しながらそう言って、外にでるよう促す。首を捻りながら、とりあえず用事は済んだので、言われた通り来た道を戻るリリアム。そして真白が今度は先頭に立ち、健人が後ろについた。
そして洞窟の入り口から出たその時、真白がフッと気配に気づいて上を向いた。「またお前かにゃ」睨みながら話しかける。ようやく気配の正体が分かった。
「やあやあ皆さん。お会いするのは二回目ですねー。あ、そうか。猫獣人さんだけ俺の事知ってるんでしたねー」
洞窟の出口の木の上に、中年デブが化物になった時にいた童顔の魔族と、もう一人、ちょっと腹の出ている小太りの魔族がそこにいた。
夕方頃また投稿します。