表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/241

モヤモヤ

いつもお読み頂き有難う御座いますm(_ _)m


「はあ……」今日何度目か分からないため息をつくリリアム。今は一人部屋の中だ。


 あの二人は当然のごとく、一緒の部屋にいる。そりゃカップルなんだから当たり前なんだが。


 ベッドにダイブして枕に顔をボフンと埋める。「うーん、うーん」枕に顔を埋め唸っている。なんだか浮かないリリアム。


 羨ましいのか、鬱陶しいのか、面倒くさいのか。なんだかどれも当てはまらない。しっくりこない。


 中年デブの化け物退治の時、二人が戦う姿を見て、今回の洞窟の件の同行の際の適任者が現れたと、喜んだリリアム。元々は適任者がいないので、領地の警護が薄れるのを承知でゲイルにお願いし、カインツ隊長とその兵士達と洞窟に行こうと思っていたのだが、なんだかしっくりこなかった。姉のアイラは気心知れた勇者のメンバーと共に行ったのに、自分はアクーの兵士達? 


 そして当然、ゲイルやアイラは伯爵という立場上一緒に来て貰うのは不可能。そもそも今はゲイルがまだ王都に行ったままだからアクーにはいない。留守を預かるアイラは動けないし。しかしその点健人と真白は冒険者。ただ、聞けばまだ新米だというので、経験を積んで貰ってから依頼しようとなったので、あの化け物退治から二ヶ月程経った今、指名依頼したのだ。聞けばたった二か月で相当実績を積んだと聞いていたし。正に適任で、自分も勇者メンバーのように、仲間と共に初めて冒険者のような事が出来る、そう思って嬉しかった。


 だけどいつの間にかあの二人は恋人同士になっていた。道中ずっと二人の世界。ハブられている感じがしてならない。自分が最初思い描いていた、冒険者の仲間という雰囲気とは全然違っていて残念だった。


 また、リリアムは自他ともに認める超のつく美女。ずっと周りからチヤホヤされて生きてきた。だから、こんなにも自分の存在を無視され、放置された事自体初めてである。正直戸惑っている。勿論、リリアム自身、自分の外見を自慢したりする事は一切しないのだが。


 また、リリアムは、再度健人に会える事も嬉しかった。一体自分は何が嬉しかったのか? また演奏の事を語り合えるから? あの舞台上での高揚感は、未だに覚えている。あんなに心震えた事は今まで無かった。あのキスは、その高揚感を彼に伝えたい、そう思ったから。


「……本当にそうなの?」ふと自問自答する。


 そして仲睦まじいあの二人の様子を見ていて、イライラして仕方がない。人目憚らず、しかも王女という立場の自分を差し置いて、そんな事をする不届き者。二人の世界を作り出し、王女をハブるその態度。そんな二人に腹を立てている。


「……本当にそうなの?」再度同じ言葉を呟く。


 でももし、()()()()()としても、あの二人はとても仲が良く、そしてとても幸せそうだ。誰が見ても相思相愛の二人。なら、そんな二人の仲をどうこう考えるのは無駄でしか無い。自分にはどうしようも出来ない。明日の洞窟探索を終えれば、もう二度と会う事はなさそうだし。


「でも、タケトさんともう一回、一緒に演奏したかったですわ」それは今の複雑な感情とは関係のない、素直な本音であった。


 ※※※


「よし。では行きますか」健人がそう言って、他の二人も同意し、洞窟の方に向かう。洞窟は昨日遊んでいた砂浜の入り江の、最端の辺りにある。


 以前勇者メンバーも、アイラのためにここに来た事はある。なのでアイラはある程度洞窟の事を知っていたので、リリアムに簡単に書いた地図を渡していた。武器も防具も完璧。頼りになる冒険者が二人。更に地図まで持っている。洞窟探索に行くには正に完璧な状況。リリアムの言う通り、今行かずしていつ行くのか。それほど準備万端である。


 この洞窟自体はさほど深くない。地図によると地下3階層までしかない。余程トラブルがない限り、半日もかからず戻って来れるだろう。因みに洞窟探索は、健人も真白も初めてだ。リリアムに至っては、冒険自体初めてだ。


 因みにリリアムのような属性持ちは、基本王都にある魔法学校で魔法を勉強するか、または冒険者となって、魔法屋という魔本専門の店に行って自ら学習し、実戦で使いながら覚えるか、基本的にこの二つのパターンで覚えていく。リリアムは王女なので、勿論王都の魔法学校で学習して覚えている。


「なんかわくわくするにゃー」昨日遊んだ砂浜を通り過ぎ、入り口に近づいてきて、初めての体験に楽しそうに口走る真白。


「そうだな。でも慎重に行こうな」そんな真白に笑顔で答えつつも、初めての経験なのだから、緊張感は崩さない健人。


 その様子に少し安心したリリアム。「お二人とも、冒険者としてかなり頑張っておられるようですから、頼りにしています」と会話に入る。


 そして洞窟に辿り着いた。その穴は直径3m程。周りには木々が生い茂っていて、まるでその洞窟を守っているかのようだ。洞窟の入り口は岩で出来ており、下に向かって段々と階段のように降りていく構造になっている。海のそばという事もあって、岩は磯のようにぬめっており、洞窟内からは湿気を含んだ空気が流れてくるのを感じる。


 健人が火のクリスタルを取り出し、ランプに灯りをつけ、洞窟の入り口を照らして確認する。中は真っ暗だ。ランプの灯りだけでは、下の方は全く見えない。それを確認してから、まず健人を先頭に、リリアム、そして殿に真白と、二人がリリアムを前後に挟む形で慎重に下に降りていく。


「魔物いるらしいですから。お二人お気をつけて」リリアムが注意する。


「確かにいるにゃ」既に耳のいい真白は気づいているようだ。「空飛ぶ魔物っぽいにゃ」


 真白がそう言ってからすぐに、ギャーギャーという鳴き声が、暗闇の奥から聞こえる。その声の様子で結構な数がいるのが分かる。


「真白。何匹くらいいるか分かるか」健人が真白に確認する。


「五十匹くらいにゃ。どうやら下の洞窟の天井に張り付いているっぽいにゃ」真白が大体の数を予想し伝える。


「コウモリの魔物かな? とりあえず気を付けて行こう」そして段々になっている岩を降りて洞窟の中に入っていく。


「ん?」真白がふと、洞窟の入り口に目をやる。


「どうした真白?」健人が気になって聞いてみる。


「……気のせいかにゃ?」何か物音? 話し声? が聞こえた気がしたが、水の音と魔物の鳴き声が混ざっただけかもしれない。危機察知は何も反応していないので、とりあえず先に進むよう、健人に伝える真白。


 洞窟の中を進むと、高さ10m、広さは縦横3~40mはありそうな、大きなホール? のような部屋に降り立った。


 するといきなり上空からギャア、ギャアと叫びながら、黒い影が三人めがけて襲ってきた。咄嗟に健人はブーストを使い、上から落ちるように向かってくるそれらを切り払う。健人に斬られ地面でバタバタしているそれは、大きさ1m以上はありそうなコウモリの魔物だった。一匹を皮切りにどんどん飛来してくる。リリアムを背に、健人と真白は上からミサイルのように飛んでくる魔物達を、どんどん一発で屠っていく。そして15分ほど経過すると、そこで魔物達の攻撃は止まった。全滅したか、または攻撃をやめたのだろう。三人の周りには、魔物達の死骸が積もっていた。


「ふう。よし、落ち着いたな。一応素材確認するか?」健人が真白に聞く。


「要らなんじゃないかにゃ? 強く無い魔物だったにゃ」真白が答える。


「そうだな。洞窟の中だし、死骸は端っこに寄せとこうか」と言って、ブンとバッティングのように大剣を横に振り、死骸を一斉に端に寄せた。真白もアッパーカットで一気に寄せる。二人とも横着ですね。


「お二人、ほんとお強いですね」二人の戦いの様子を見ていたリリアムは、余裕の二人に感心していた。


「いや、こいつらが弱いだけですよ」「その通りにゃ」何の事はない、と言った表情で答える二人。


 この世界に来た当初、ゴブリンを見て腰を抜かしていたのに、動物を殺す事さえ臆病になっていたのに、今はその陰がすっかり消えてしまっているように、既に一人前の冒険者となっている健人だった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ