・・・・・・ん?
第三章開始です。
この更新は短いです。ごめんなさいm(_ _)m
この家に引っ越して、既に八ヶ月は経とうとしていた。そしてこの世界に来てあと二ヶ月ほどで一年になる。要するに、健人が前の世界で死んでから、一年になろうとしている事になる。
「そうか。もうすぐ一年になるんだなあ」しみじみと振り返る健人。
前の世界では一周忌法要の事を話し合ったりして、当日親戚同士集まったりするのだろうか? 自分にはもう分からないが。しかし、自分の死んだ後の事を考えてるって、変な感じだ。
「弟は元気にラーメン屋やってんのかな? 両親は元気かなあ? 」ずっと忘れていた、前の世界の家族。もう二度と会えないだろうが、もうすぐ一年という区切りに気づき、懐かしく思う健人。だが、不思議と、悲しいとか寂しいという気持ちは余りなかった。
「懐かしいと言えば……」、そう思ってふと、ポケットに大事そうに閉まっていたスマホを取り出し、電源を久々に入れる。充電表示は64%。そこには、この世界に来てから撮った、数十枚の大切な思い出が保存されている。
それをフリックしながら何枚も眺め、当時を振り返り、思い出しつつ、フフっと微笑む健人。
今の季節はそろそろ冬に差し掛かろうとしているところか。最近街中を吹く風がまるで木枯らしのように冷たい。潮の香りを運んでくるその風は、多少の心地よさをはらみながらも、これから来る寒い季節を予感させた。日本のように四季があるかどうかは分からないが、それでもある程度の季節の移り変わりはあるようだ。
ここアクーは水の都市。海に近い事もあって、これからの季節は海からの潮風の影響で相当寒くなる、そうギルドのファルから聞いている。今住んでいる家にはまだ防寒設備はつけていない。だが、稼ぎ頭である健人には、その程度の金は全く問題なかった。
「火のクリスタルはまだ余ってたかな」独り言を言いながら、暖房器具を買いに行かなければ、と考える健人。
そして健人は今日もまた、魔物討伐のため出かける準備をしている。そうやって既に何度もギルドを訪れ、既に高ランクの魔物まで倒せるようになっている。ギルドでは既に有名人。若くて短期間でここまで強くなった冒険者は、約五年前の健人と同じく、黒髪の黒い瞳の女性くらいだ。
冒険者の中には、健人はもしかしたら勇者の再来か? と噂する者もいる。勿論健人自身は否定している。そもそも神に会っていないのだから。
最も、健人は自分が勇者であるとかそんな事より、やるべき事がある。
現在、ここアクーの周りには、五年前、魔王が人族を襲ってきた当時のように、魔物が増えていた。その原因は未だ分かっていない。そしてその現象は、ここアクーだけに留まらない。他の三都市も、そして王都メディーまでもが、その周辺の魔物の対応に追われていた。
「ヴァロック師匠に剣技を教えてもらって良かった。じゃないと、ここまでやれなかっただろうな」ヴァロックとの稽古を思い出しフッと笑う健人。約半年前、ゲイルの紹介で大剣の使い方を指導してくれる事になった元勇者メンバーの剣鬼ヴァロック。彼には相当しごかれたのだ。それから健人はヴァロックを師匠と呼んでいた。
「さて、そろそろ行くかな」準備が整ったところで出かけようとする健人。すると、何かが健人の足元にそっと近づいてくる。
「ああ、お前は今日も留守番だよ。帰りに好物の魚買ってきてやるから」
足元に近づいてきたのは白い猫。健人に優しく話しかけられ、「ニャーン」と一言、寂しそうに答える。
そして健人の足を名残惜しそうに頬ずりする。それを見て健人も優しく白い猫を抱き上げ、まるで愛している人を想うように抱きしめる。
「じゃあ、真白。いい子にお留守番してるんだぞ」そして真白と呼んだ白い猫を床に置き、ドアを閉めた。
それから健人は一人、ギルドに向かった。