嫉妬
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ただ、第三章ちょっと詰まってます(;'∀')
「え? 私どうしてこんな事を?」リリアム自身、自分のした事に驚いていた。明らかに狼狽えている。今は健人の胸に腕を添えて固まっている。どうやら初めて感じる音楽の高揚感に酔ったのが原因みたいだが、リリアムにとって初めての経験なので、それが理由だと分かるはずもなかった。
一方健人も、まさかキスされるとは思っていなかった。ハグはまだわかるが。なので拒否する間もなく受け入れてしまった。びっくりして固まっている。そうやって健人がリリアムとお互い体をくっつけながらフリーズしていると、観客席の前の方から、とてつもない殺気を感じた。
「どさくさに紛れて何してるにゃー!」真白だ。間違いなく殺気の正体は真白だと思ったけど、やっぱり真白だった。
観客席の最前列にいた真白が突如その場所から消える。そして次に現れたのは舞台の上。真白がまだ健人に抱きついているリリアムを剥がそうと、腕を掴もうとするが、「アクセル」を唱えた健人が、その真白の腕を遮る。
「! た、健人様、どうしてにゃ?」健人に遮られ物凄くびっくりする真白。健人様は嫌じゃないの? とでも言わんばかりに驚いた顔をしている。
「今何しようとした? 攻撃しようとしたんじゃないか? 一般人に攻撃しちゃダメだろ」一般人に手を出そうとした事に怒っている健人。
「こ、攻撃じゃないにゃ。でも、でも、だ、だって、だってにゃ」リリアムを剥がそうとしただけなのだ。健人を見つめる目が徐々にうるうるしてする真白。今にも泣き出しそうだ。
「あら、彼女がいたのね。私ったら勝手な事して。ごめんなさい」そこでようやくリリアムが自ら健人からスッと離れ、二人に謝る。ただ、リリアム自身も自分の起こした行動がよく分かっておらず、若干挙動不審だ。
「いや、彼女じゃないです」健人がそこで彼女という事を否定する。
「そうなの? かなりお怒りのようだけど」健人の言葉を聞いて、何故かホッとしたリリアム。どうして私ホッとしたのかしら?
リリアムに対して真白の突然の攻撃があったので、ようやく落ち着きを取り戻した健人。この人なんで舞台の上で、観客が大勢いる前で、そんな大それた事したんだ? ようやくそこまで考える事が出来た。一方真白は、健人に止められた事がかなり堪えたようで、舞台上で両手をついて四つん這いで項垂れている。もしかして泣いてる?
舞台の上のそんなごたごたに、観客席がざわざわし始める。「リリィ様抱きついてたよな?」「いや、それよりも口づけしたんじゃない?」色んな声が観客席から聞こえてくる。
異様な雰囲気の観客達の中から、突如一人、「こらあああ! 俺のリリィたんに何してんだああ」と叫びながら、色白の太った中年男性が、舞台上に上がって健人に突っ込んできた。剣を持っている。そして勢いそのまま、健人に剣を振りかざした。
「ブースト」それを見た健人が焦る事なく咄嗟に呟き、その振り下ろされた剣を躱し、その剣を横っ面から殴って叩き折った。ただの中年男性にやられるほど弱くはない健人。一方まさか自分の武器が折られるとは思わず、びっくりする中年男性。
「お、お前、何勝手にリリィたんにくっついたんだ! リリィたんは俺のだぞー!」そう叫ぶと同時に、今度は懐に忍ばせていたナイフを取り出し、健人に襲いかかる。多分リリィたんはあんたのものじゃないと思いますがね? そう心の中でツッコみつつ、ブースト状態の健人は簡単にそれの刃先を指で挟んで止めた。またも驚く中年男性。両手なのに、指だけで挟んでいる健人から、中々ナイフを引き剥がせない。
そんな攻防が舞台上で繰り広げられる中、今度は突如舞台裏からワラワラと兵士が舞台上に三~四人上がってきた。そして整列してリリアムに一礼する。
「連れて参ります」「ええ、お願いしますね」と何事もなかったかのように言葉を交わす兵士とリリアム。そして健人に「我々はアクーの兵です。この者を連行しますので、引き渡しお願いします」と説明する。
誰か観客が通報したのか? と、健人はその兵士達を見て思った。アクーの兵士は警察や自警団みたいなものだというのは知っていたからだ。そして言われた通り、中年男性を兵士に引き渡した。兵士達は健人に一礼すると、健人のそばで項垂れている中年男性を、後ろから複数の兵で掴み、縄で縛って引っ張っていった。
しかし、いきなり色んな事が一気に起こってややパニック状態の健人。リリアムにキスをされ、そしてそのリリアムを真白が襲い、次に中年男性が自分を襲い、そして兵が現れて中年男性を連れて行く。簡単にまとめてみると、襲って襲われていたのか、と分かったが、結構なハプニングが続いたのも分かった。
「とりあえず騒ぎが大きくなると私も困るの。一旦舞台から出ましょう」リリアムも落ち着いたようで、健人にそう耳打ちし、舞台裏に行くよう促す。というか、もう十分大騒ぎだと思うのだが。とりあえず健人はリリアムの提案に同意する。
「ほら真白。行くぞ」項垂れている真白に声をかける。ハッとして健人を見上げた真白が「は、はいにゃ」と慌てて起き上がり、ドラムを片づける健人を手伝う。急いで舞台裏に二人でそれを運んで、置いてあった台車に載せた。観客席は未だざわざわしているようだが、とりあえず騒動のあった舞台から逃げる事は出来た。
舞台から降りたので、健人はようやく、ふぅ、と一息ついた。この小劇場の舞台裏は、舞台に出るための準備をするため、ちょっとした高台になっている。その舞台裏の前には、広さ30m四方くらいのちょっとした公園のような広場になっていた。
健人は舞台裏の上から、ドラムを乗せた台車を引いて、一旦その広場に降りた。台車の後ろ側でしょぼんとした様子の真白がついてきている。ふと広場を見てみると、一般の馬車とは違う、とても豪華な馬車が止まっていた。先日ベルアートに乗せてもらった、伯爵夫妻の家に向かった時に乗せてもらった馬車と同じレベルだろうか。そしてその馬車の周りには兵士が数名警護している。
兵士に警護されている豪華な馬車? またもよく分からない状況が目の前にある。一方真白は馬車にも周りにも目もくれず、沈黙して下を向いたままだ。
健人はどうしたもんかと考えていたら、馬車の奥から、見覚えのある人物が出てきた。会うのは久々だ。状況が全く飲み込めないものの、その人を見つけると、健人は自然に笑顔になった。
「よう。ヌビル村以来だな。元気だったか」先に笑顔で健人に声をかけるカインツ。
「カインツさん。久しぶりですね。もうこちらに戻ってきてたんですね」健人も笑顔のまま答える。
カインツは健人達がいたヌビル村に行った後、ケーツ村に状況確認のため向かっていた。やはりダンビルの言う通り、ケーツ村はゴブリン達の略奪と殺戮に見舞われていたようで、悲惨な状況だった。丁重に死者を埋葬し、状況調べをし、そしてアクーに戻ってきたのは今日の午前中だった。
「マシロも元気だったか?」カインツは真白にも声をかけるが、「は、はいにゃ。あ、お久しぶりにゃ」と、下を向いていた事もあり、声をかけられて、ようやくカインツに気づいたようだ。
そんな真白の様子を、ため息交じりに見るカインツ。舞台上での騒動は知っていたので、どうして真白が元気がないのか、大体予想できる。そもそも、兵士達に舞台上に行って、中年男性を拘束するよう、指示したのはカインツだ。
「今日戻ってきたところだったんだが、さっそく任務についていたらこの騒ぎだ。まさかタケトがこの騒ぎの中心だったとは思わなかったぞ」苦笑するカインツ。
「いや俺じゃないですよ」そこはしっかり訂正させてもらう健人。「リリアムって女性が原因ですよ」
リリアムについて不躾な健人の言い方に驚くカインツ。でも事実だから仕方ない、と健人は本気で思っている。
「……ああ、そうか、タケトはこの世界の人間じゃなかったな。知らなくて当然か」
カインツは健人が違う世界からやってきた事を知っている。なので健人の無知を受け入れる事が出来た。が、その表情はやれやれといった感じで呆れてはいるが。
「タケト。あのお方はリリアム王女だ。アイラ奥様の妹君。メディーの王の娘だ。今は馬車の中で待機されておられる。歌を歌うのがお好きで、こうやってお忍びで素性を明かさず歌っておられたのだ」王女の部分を強調して説明するカインツ。
「へ?」衝撃の事実に目が点になる健人だった。