初めて能力を使ってみる。そして初ドワーフ
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馬車で宿に戻る際中、途中ギルドに寄って、白金貨を預けたい旨をベルアートに伝え、立寄って貰った。西部劇のような中が見える扉をカランカランと音を鳴らして入っていくと、正にバーテンダーといういでたちのファルがカウンターでグラスを磨いていた。
……ギルドってバーなの? ファルが自分の磨いたグラスを縦、横、後ろから眺め、そして満足そうにグラスを一つ一つ片づけているその様を見て、ギルドとバーの違いがよく分からなくなってしまう健人。
「こんにちわ。今日はどのようなご用件で」グラスを磨いていた手を止め、ファルが健人と真白に気づいて声をかける。ギルド内のテーブルには前と同じように数人ほど、酒を飲んだり食事をしたりして談笑している人達がいる。
「お金を預けたいのですが」ギルドに来た理由を話す。
「ああ、なるほど。了解です。金額に関わらず、一ヶ月1銀貨の利用料が必要ですが宜しいですか?」
わかりました、と健人が答え、銀貨1枚と、とりあえず50白金貨だけ手元に残して、残りの150白金貨を、袋をきっちり縛って、中身が見えないようにしてファルに預けた。ファルはそれを大事そうに奥の部屋に持っていく。少しして戻ってきたファルの手には、、銀製の札を持っていた。
「こちらが預けた証明となりますので、無くさないように所持しておいて下さい。また、武器や防具、その他様々な品々もお預け可能です。必要の際にはお声かけ下さい」と、ファルは頭を下げた。
健人と真白も同様に頭を下げ、そしてカランカランとドアの音をさせながら、ギルドから出た。用事はそれだけなのですぐさほど時間はかからなかった。
しかしギルドから出た瞬間、ビュンと何かが健人の顔に向かって飛んできた。真白が咄嗟に健人の前に手を出し、それをガシっと片手で受け止める。飛んできたのは斧だ。
「おう。こないだはよくも俺をバカにしてくれたなあ」急な事に驚いて、声のする正面を見ると、髭面で体格のいい、怒り肩の四十歳くらいのオッサンが話しかけてきた。それとその両側に二人、明らかに手下ですよって輩がいる。
「誰にゃ?」「どちら様?」真白も健人も分からない。真白は飛んできた斧をペイっとそのオッサンに投げ返す。
「お、お前ら! 昨日ギルドで俺を馬鹿にしたの覚えてねぇのか!」真白が投げた斧をキャッチしつつ、二人が全く覚えてないのに腹を立てたオッサンが怒鳴る。
「ああ~ あの酔っぱらい?」そういやなんか思い出した。真白に余計な事しようとしたオッサンだ。ギルド長に諌めたんだっけ? 何で忘れてたんだろう? 多分どうでも良かったんだろうな。
「誰が酔っぱらいだ! 今日はお詫びにその獣人の女に来てもらうぞ!」勝手な要求を喚きつつ怒りまくるオッサン。
お詫び? なんか詫びるような事したっけ? 何にせよこいつらめんどくさい。あ、そうだ。
「真白。こいつらの相手、俺にやらせてくれないか? 能力を試してみたい」真白に耳打ちする。
「分かったにゃ。健人様ならこいつら程度大丈夫にゃ」そう返事して真白がベルアートの乗っている、ギルドの左横に止めていた馬車のそばに移動して事の成り行きを見守る。因みに馬車はそれでも勿論、万が一の時のために、真白は鉄製ナックルを握っているが。
因みにゲイルから貰った大剣は、馬車の中に置いてある。なので今の健人は素手だ。ベルアートはその様子を馬車の中から覗いているが、またも観戦モードでワクワクしている。この人戦闘見るの好きっぽい。
「このガキ。武器も持たずに俺とやろうってのか?」こいつバカか? みたいな様子で呆れるオッサン。
「んな事よりオッサン酒くせーんだよ。そんななりで女が寄ってくるわけねーだろ」そんなオッサンの様子を意にも介さず健人が挑発する。
「んだとこのガキ! 後悔すんなよ!」両手で斧を振り上げながら健人に駆け寄り、上から叩きつけるオッサン。しかし、「ブースト」と健人が呟き、その斧を右手だけ差し出して、柄の上辺りを掴んでガシィと片手で止めた。
「な、なんだと?」両手のオッサンに対し片手の健人。しかもびくともしない。
「アクセル」続いて呟く。斧を持ったままオッサンの後ろ側に急スピードで回り込む。オッサンは、その速さに後ろに振り回され、ズデーンと尻餅をつく。
「この野郎!」オッサンが斧を持ったまま立ち上がろうとする。健人は次に、「プレッシャー」と呟き、まだ離していない、右手に持っていた斧に対して、地面に向かって徐々に圧力を加える。
どんどん重くなる斧。尻餅をついて斧の下敷きになるオッサン。「お、おおお」押しつぶされそうになるので、立膝ついて体全体で抗うも堪えきれない。そのまま徐々に地面に沈んでいくオッサン。地面がひび割れてきている。
「待、待て! 俺の負け、負けだ!」オッサンが負けを認めても、まだプレッシャーをやめない健人。
「ごめんなさい、もうしません、だよな?」健人が上から見下ろしながらプレッシャーを続ける。斧が折れそうにギシギシ軋んでいる。
「は、はい。もうしません、ごめんなさいいいい」と情けない声を出すオッサン。
そこでプレッシャーを解除する健人。「ぷはあ!」とようやく解放されホッとするオッサン。それを遠巻きに、恐ろしそうに見ている手下二人。健人はオッサンを見下ろすように黙って見ていたが、「ヒ、ヒイイ、化け物ー!」と、急に情けない声を出して慌てて逃げ出すオッサンと取り巻き二人だった。
「誰が化け物やねん」心外な言葉を投げかけられ、余りいい気がしない健人。まあでもこれで、あのオッサン達は、真白には二度と絡まないだろう。
健人はこのオッサン達で、自分の能力の調整を試してみたのだ。ゲイルに言われた、100%ではなく、力を必要な分だけ出す方法。それを試してみたかった。オッサンが弱すぎて、余り能力を出せなかったのが寧ろ良かった。蛇口を絞るようなイメージで、小出しにしてみたら上手くいったのだ。
「ほう。タケトさん、今日初めて認識した能力を上手く使いこなせたようですね」感心しながら観戦モードで感想を言うベルアート。
「健人様が強くなるのは嬉しいにゃ。でも、私必要なくなるのかにゃー」複雑な表情の真白。
「いや、それはないのでは? さっきの初撃だって、マシロさんが斧を受けていなかったら、タケトさんが怪我していたと思いますよ」
真白のネガティブな発言をフォローするベルアート。
「そうかにゃー」ベルアートのフォローでも余り自信が持てない真白。
一方軽く汗をかいてうまく能力を使えた健人は、満足げに二人の待つ馬車に向かう。
「でも、俺は最初の斧の攻撃は防げなかった。元々の身体能力が高い真白には、やっぱり敵わないや」
真白をきちんと評価している健人。 実際真白は、健人がゴブリンに初めて襲われた時、オーガロードにやられそうになった時、そして今回のように、何度も健人を救っているのだ。
真白と自分を比べて、自分の能力は、急な対応は出来ない事にも気づけたのは収穫だったと思った健人だった。
※※※
「着きました。ここです」ベルアートが二人を馬車から降りるよう促す。そこは大通りとは打って変わって、裏路地を奥の方まで進んだ、住宅街の近くの路地だった。
ブランブランと木の板で出来ているぶら下がり看板が、風に煽られて揺れている。盾と剣の絵が書いてある。武器屋と防具屋両方を表しているのだろう。他の家々とは違い、大きなレンガの煙突が、屋根よりかなり上に突き出ている。煙突からは黒い煙がもうもうと立ち昇っていた。そのせいか、レンガ造りのその家は、少し煤けて汚れているように見えた。
木で出来たドアをベルアートがノックするも、返事がない。「ま、いつもの事です」と気にもとめない様子で無遠慮に中に入る。健人と真白もベルアートに続く。中は思ったより小奇麗に、武器や防具が整理整頓されて陳列されていた。
「こぉら! 誰だ! 勝手に店に入ってきたやつは!」大声が奥から聞こえる。
「ドルバーさん。ベルアートです」ベルアートが大声で返事をする。
「なんだ? 商人が何しに来た?」ベルアートだと気づくと訝しげにこちらを見ながら出てきた。ドルバーと言われた人物は、たっぷり顎にヒゲを蓄え、顔が大きく、鼻と耳がでかい。しかし背は低く真白くらいの150cm程度だろうか、髪の毛はボサボサで、やや色黒だった。明らかに人族とは様相が違う。
これがドワーフなのか。鍛冶職人の。健人は明らかに人とは違う見た目に感心していた。獣人はイメージ出来ても、ドワーフというのは全く想像つかなかった。スナ〇キンが太って髭がついた感じ?
「ドルバーさん。この獣人の方の武器を作って欲しいのです」と、真白を紹介する。
「始めましてにゃ。真白にゃ」頭を下げ挨拶をする真白。
ドルバー「ああ、俺はドワーフのドルバーだ。んで、作って欲しい武器ってのは何だ?」
「ナックルにゃ」と自分が持っている鉄製のナックルと、オリハルコンのインゴットを見せる。
「おいおいオリハルコンでナックル造るってか! 贅沢だな」ガハハと豪快に笑う。悪い人ではなさそうだ。
「始めまして。健人といいます」真白と同じようにドルバーに挨拶する健人。
「おお、お前も武器がいるのか?」ドルバーが無遠慮に聞く。
「いや、防具がほしいと思って」丁度ここには防具も売っている。自分と真白の防具を見るいい機会だと思ったのだ。
「おお、おお。見ていけ。気に入ったのがあったら言ってくれ。寸法合わせてやる」無愛想だが思いやりのある言い方だ。
有難う御座います、と健人は返事して、部屋の中を見渡す。色んな防具がある。武器も沢山あって興味が惹かれる。
「ああ、獣人の娘。そのオリハルコン預かるぞ。あと手を貸せ。大きさを計るから。そっちに持ってる鉄のナックルは要らん」
そう言われて真白が鉄製のナックルをしまい、そして次に採寸のため、両手をドルバーに差し出す。そう言えば真白の鉄製ナックルは、ずっとエリーヌさんに貰ったものを使っていたんだったな。本当は自分の武器なら自分のサイズに合ったものがいいはずだもんな。特にナックルみたいに、握って使う武器なら尚更。
健人はドルバーと真白の様子を伺いつつ、店内の商品を見て回る。槍、斧、槌、弓、剣。武器といっても色んな種類、色んな鉱物で出来ている。防具は、肘当て膝当て、更に鎖帷子のようなもの、鎧や盾まである。様々な種類や鉱物で出来ているのが興味深い。健人は、防具は軽装がいいと思っているので、まず鎖帷子はぜひ欲しいとさっそく購入を決めた。
「よし、明日には出来上がるぞ。ついでに二つのナックルに、それぞれエンチャントもやっといてやる。オリハルコンなら付与可能だからな」採寸を終えたドルバーが仕上がり日を伝える。
おお、明日には出来上がるのか。早いな。しかもエンチャント付きって事は、真白も攻撃で魔法が使えるんじゃないか?
「なあ、獣人の娘。お前拳闘士だよな? せっかくオリハルコンがこんだけあるんだ。ナックルだけじゃどうせ余るし、靴にオリハルコンの踵を仕込んだやつと、レッグガード、ガントレットもオリハルコンで作ってやろうか?」ドルバーからの有難い提案だ。
「おお! いいんですにゃ?」 真白はピョンと飛び上がって喜ぶ。猫なのにウサギみたいな飛び上がり方だ。防御力が弱点の真白に、強力な防具を付ける事が出来たら、正に鬼に金棒。弱点を克服できるのが余程嬉しいのだろう。
「それだけ装備揃ってたら、戦いが一層楽になるにゃ! 是非お願いしたいにゃ」真白は願ってもないという感じでお願いする。
「良かったな。真白」真白の喜ぶ様子に、笑顔で話す健人。「あと、ついで鎖帷子もほしいのですが」と、ドルバーに話しする。
「構わんが。金は大丈夫か? 今言っただけで10白金貨は要るぞ?」必要金額を話すドルバー。
10白金貨なら全然大丈夫だ。今手持ちで68白金貨はある。
「ええ。持ち合わせはありますので」
「ふーむ。まあ、ベルアートの紹介なら金持っててもおかしくないか」若いのにそんな大金? と一瞬思ったドルバーだったが。
「じゃあついでに若造。お前のレッグガードとガントレットも作ってやろう。それでオリハルコンは使い切ってしまうが、いいよな?」
俺のも? おお、マジか。それは嬉しい。寧ろ余ったらどうしたらいいか分からなかったし、是非お願いしたい。
「有難いです。是非お願いします。あ、そうだ。剣の鞘って作れますか?」ふと自分の武器を思い出す。あれ目立つから隠すために鞘があればいいと思っていたんだった。
「そりゃ俺は武器屋だ。作れるに決まってる」何当たり前の事聞いてんだ? みたいな返事をするドルバー。
それを聞いた健人は、急いで馬車に戻って、中に置いてあったオリハルコンの大剣を取って戻ってきた。
「これの鞘なんですが」ドルバーに見せる。それを見たドルバーはびっくりする。
「お、お前! これ、オリハルコンの大剣じゃないか! こんな大量のオリハルコン何処にあったんだ?」
「ああ、伯爵様からの頂き物なんですよ」傍でやり取りを見ていたベルアートが、羨ましそうにそれを見て説明する。
「ああ、伯爵様のか。なら、あり得そうだな」ガハハと笑うドルバー。でも伯爵様から貰ったって? おいそれとそんな高価なもん貰えるもんか? こいつら伯爵様の何なんだ? ふと気になったドルバーだが、元々他人事には興味ないのでそれ以上は考えなかった。
「よし、じゃあ採寸するから獣人の娘と若造、こっちに来い」この人ほんと口悪いなーと苦笑しながら、健人と真白は二人、指定された部屋に行って、採寸して貰った。
他にも、胸当てと腰だけの防具を、真白共々揃える事になった。オリハルコンは引き延ばすと相当伸びるそうで、今言った全てを作るには、真白の持ってきたインゴットだけで十分作れるそうだ。
しかしさすが鍛冶職人。色んな加工が出来るんだなあ。……ん? もしかしてあれもいけるのでは?
「ドルバーさん、ちょっと相談があるんですが」
「なんだ? どうした?」そう言って、健人はおもむろに、紙と鉛筆を借りて、絵を図面を書いた。
「これ、作れます? 」健人がそれをドルバーに見せて聞いてみる。
「構造は簡単だし、直ぐ作れると思うぞ。つーか、なんだこれ?」ドルバーが訝し気に聞く。
「俺が大事にしていたものですよ」作れると聞いて、テンションMAXで笑顔で答える健人だった。
夕方頃また投稿しますm(__)m