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能力の秘密

いつもお読み頂き有難う御座いますm(_ _)m

「ハハハ、そんな馬鹿な」若干呆れたように笑う健人。勇者カオルと同じ能力? 自分が? そんな事あり得ない。


 そもそも能力も何もない、実際属性持ちでもない俺が、何かしら能力があるなんておかしい。鑑定っていうスキルも無かったし。


「いや、間違いない。君はカオルと同じ能力を、無意識に使ってるよ」真面目な顔で、確信を持った目でゲイルは伝える。


「教えてあげるから、落ち着いたら、もう一度闘技場に来てくれるかな? あ、一時間後だったっけ?」ゲイルが部屋から出ようとしつつ、ムフフと笑いながら余計な事を言う。


「いえ、今すぐ速攻で行きます」ゲイルの余計な心遣いを拒否し、すぐに部屋から出ようとする健人。着の身着のままで寝ていたようなので、着替える必要はない。


「別に気にしなくていいんだよ?」と、いいよ? 待つよ? やる事やっチャイナ? みたいな言い方をするゲイル。そんなちょっと面白がっている様子のゲイルを無視して、早々にドアから出ようとする健人。


「あ、待ってにゃ~」真白が後から残念そうについてくる。真白の作戦は失敗に終わったようだ。最も、先に寝ていた健人に、何もしていないかどうかは、本人にしか分からないが。


 とにかく、三人は闘技場に向かった。


 闘技場に着くと、今度は別々に待機していたベルアートと、アイラがいた。


「もう大丈夫ですか?タケトさん。騙してごめんなさい」アイラが健人に謝る。


「いえ、事情は分かりましたので大丈夫です」謝罪を受け入れる健人。


「さて、タケトさんの真の実力が見れるわけですね」ちょっとワクワクしているベルアート。完全に観戦気分だ。


「よし、じゃあさっきの剣を手に取って」ゲイルに促され、闘技場の入り口に立てかけてあったオリハルコンの大剣を持つ。


「僕は別にカオルから何か聞いたわけではないんだけど、一緒に魔物と戦っている時、カオルが能力を使う時言葉を呟くんだ。それを言えばきっと君も同じ力を、自分の思い通りに出せると思う。それを教える」


 ゲイルが知っていたのは、勇者メンバーとして共に行動していた時の、カオルの特殊な能力の発動方法。それを健人に教えようというのだ。


 そしてゲイルがそう説明した後、カオルが使っていたその言葉を伝える。


「自分が速く動きたい時や、剣速を上げたい時は加速(アクセル)、剣の圧力を上げたい時は圧力(プレッシャー)、身体的に能力を底上げしたい時は高揚(ブースト)。この言葉を呟いてみて。感覚としては魔法を使うようにね」


 ゲイルは以前カオルが使っていた言葉と、その意味を説明し、健人を闘技場の真ん中に誘う。そして構えた。


「じゃあ、やってみようか。まずは普通に攻撃してみて、それからさっきの三つの言葉をそれぞれ使ってみよう」


 本当に出来るのだろうか? 自信はないが、ここまでお膳立てしてくれているのだし、もし使えなくてもやらなければ。もう後には引けない。


「では行きます」そう言ってオリハルコンの大剣をゲイルの頭の上から振り上げた。それを至極簡単に細剣の片手で止めるゲイル。しかしいくらレベル差があるとは言え、木の枝のように細い剣で、幅20cmはあろうかという大剣を、片手一本で軽々と止めるその力は一体何処から出てきているのだろうか? しかも健人は両手だ。


 やはりこの人は元勇者と一緒に戦っただけあって相当強いんだと、攻撃しながらも、今更ながら改めて思っていた。


「アクセル」そして早速、教えて貰った言葉の一つを呟いてみる。再度同じように上から大剣を振り降ろす。するとグンと大剣が加速する。さっきより明らかに速くなっていた。それでも簡単に受けるゲイルだが。


「「おお 」」見ているベルアートと真白が驚いていた。傍から見ても、明らかにスピードが上がっていたのが分かる。だが、一番びっくりしていたのは健人だった。


「プレッシャー」続いて次の言葉を試してみる。アクセルの能力はそのままなので、スピードは上がったままだが、今度はゲイルの剣に当たる音が明らかに違った。ドーンと闘技場内に重く響く剣戟。ゲイルの周りに、健人の大剣の風圧で砂埃が舞い上がる。それなのに健人自身は一切重さを感じていない。


「マジか……」攻撃してみた健人自身も、心底驚いていた。


「ブースト」そのまま3つ目の言葉を試してみる健人。今度は健人自身の身体能力が上がる。それは手や足の動きだけでなく、動体視力や聴力まで上がっているようだ。そしてアクセルとプレッシャーの能力そのまま、動きが格段に速く重くなっていた。上からの攻撃だけでなく、横からも下からも全て、速く重くなっている。ゲイルも片手ではさすがに捌ききれなくなって、今は両手で健人の剣戟を捌いていた。既に剣戟は竜巻のように激しくなっている。


「よし、もういいかな」ガシーンと健人の大剣を双剣で受け止め、ゲイルは健人を制止した。健人の嵐のような攻撃を受けて続けていても、汗一つかいていないのはさすがといったところか。


「はぁ、はぁ」一方汗だくで肩で息をする健人。大剣を杖代わりにして立っている。


「やっぱり間違いないね。前はマシロさんのピンチが引き金になっていたみたいだけど、その時その珍しい能力を無意識に使っていたようだね」


「その、ようですね」ようやく息が落ち着いてきた健人。


 ようやく、自分が何故オーガロードを倒せたか、これで判明したようだ。アクセル・プレッシャー・ブースト。全く知らなかったが、こんな能力を持っていたのか。


「ただ、当然だけど、まだ引き出し方が不慣れだね。今はその言葉を使えば100%能力が出てしまうみたいだ。けど、うまくコントロールすれば、もっと楽に使えるようになるよ」ブンっと双剣のほこりを払い、鞘に納め、ニコっと笑うゲイル。


 しかし、ゲイルはこれでまた別の不安が頭をよぎった。神託を受けていないが、タケトには勇者が持っていた能力がある。それは結局、災厄が訪れるという事ではないのかと。近々王に報告する必要があるか?


「……私のピンチが引き金にゃ? 」そして一方、ゲイルが何気なく話した一言を、やたら気にしている者が一人、この中にいたのだった。


 ※※※


 帰宅の時間になったので、今は広大な邸宅の玄関前にいる。メイドと執事も十人ほど、帰宅する3人を見送るため集まっていた。既に玄関前には、ベルアートが用意していた馬車が、使用人と共に待機している。


「じゃあ、今日は来てくれて有難う。失礼な事して済まなかったね」ゲイルが軽く頭を下げ、それから手を出して握手を求める。


「いえいえ。俺の能力の確認のためにやって貰った事なんで、寧ろ有難かったです。こちらこそ、お招き頂き有難う御座いました」と、深々と頭を下げ、そして握手に応じる。


「マシロさんも怪我させてしまって済まなかった」今度は真白に向き合い、同じく丁寧に頭を下げるゲイル。


「大丈夫にゃ。治ったら関係ないにゃ」笑顔で頭を下げる真白。寧ろ真白は健人とベッドで一緒に寝れたので、それが嬉しくて仕方がなかった。なので怪我の事はどうでも良かった。


「二人とも、また機会があればいらしてね」元王女らしく高貴な美しい微笑みを携え、ドレスの端を摘んで頭を下げるアイラ。それに二人は笑顔で答え、そして再度頭を下げた。


「では失礼します」そう言って三人馬車に乗り、ベルアートの御者が馬に鞭を入れ、邸宅の入り口に向かっていった。


「さて、アイル。ヴァロックに連絡取らないとね。確かまだいたよね?」三人が乗る馬車が遠ざかっていくのを見ながら、ゲイルが話しかける。


「ええ。まだ()()()には行ってないはず。私も、タケトさんとマシロさんの存在は、今後注意しておくべきだと思うわ。そうだ。ヴァロックにはタケトさんを鍛えてもらうのもいいかもね」アイラはふといいアイデアが浮かんだのを、そのままゲイルに話した。


 ※※※


 帰る際、健人はオリハルコンの大剣を貰った。どうせ使う者がいないし、今回のお詫びだと言ってくれたのだ。今の鉄の大剣でも十分だと思ったのだが、このオリハルコンの大剣にはクリスタルが入れられる穴が二つ空いている。武器に魔法を付与出来るのだ。武器にクリスタルを取り付け、魔法武器にする事を、魔法付与(エンチャント)という。属性を持たない健人が、今後強敵に相対する時、きっと役に立つだろう、慣れておいたほうがいいと、ゲイルはそう言ってプレゼントしてくれたのだ。健人は申し訳ない気持ちもあったが、伯爵という立場の人からの贈り物を断るもの失礼かと思い、有り難く受け取った。


 一方真白は、オリハルコンのインゴット(延べ棒みたいな金属の塊ですね)をゲイルから貰っていた。真白もやはり鉄製のナックルでは心許ない。ミスリルナックルは壊れてしまったので、代わりに、という事でくれたものだ。それをベルアートの知人の、鍛冶職人であるドワーフに、ナックルに加工してもらう予定である。


「因みにそのインゴット一つで1000白金貨です」


 帰りの馬車の中、ベルアートが物凄く真剣な目で金額を言う。500円玉より高いんですね。日本円で1億円てとこか。うん。とてつもなく貴重な物ですね。


「いいですか? その鉱物はおいそれと市場に出回らない、とてもとてもとーっても貴重な物なんです。さっきマシロさんがやってたみたいに、上にポイしたり指先でクルクルしていいものじゃないんです! おもちゃじゃないんです!」


 珍しくベルアートが怒っていた。そう、真白はそのピカピカキレイなオリハルコンのインゴットを貰ってキャッキャいいながら遊んでいたのだ。


「ベルアートさんが怒ってるにゃ。怖いにゃー」猫耳がペタンと前に倒れてふるふる震えている。普段優しい人が怒ると怖いんですよ。だからその頭に乗せてるインゴットを早く下ろそうか。


「伯爵様ご夫妻のご厚意ですから、私もドワーフを紹介しますが、本当は、私が欲しかった」そんなふざけた真白の様子を見つつ、オロロと涙するベルアートさん。ああ、それが本音ですね。


「しかもタケトさんの貰ったオリハルコンの大剣。それインゴット4つは使っているはずなんです。しかもエンチャント仕様。それだけでも5000白金貨の価値があるんですよ。盗まれないように細心の注意をしてくださいね」


 かなり真剣な目でオリハルコンの大剣について説明するベルアート。そりゃこんだけデカいオリハルコンの大剣なら、高いだろう。日本円換算で5億円ですね。


「……どうしよう。返したくなってきた」それを聞いた健人はオリハルコンの大剣を見てブルッた。でももうどうしようもないので、道中持ち歩く時は、とりあえず布で巻いて隠そうと思っていた。鞘も貰えば良かったが、この大剣だけでも申し訳ないのに、これ以上催促する勇気はない。つい遠慮してしまう日本人マインドな健人だった。


 しかし、俺には能力がない、って真白から聞いてたのに、結局持っていた。一体何なのか。不思議で仕方ない。光の塊という存在は、神様みたいなものだって、真白が言っていた。その神様が言う事が間違っていたって事か? とにかく、自分にはアクセル、プレッシャー、ブーストという、この世界にはない珍しい能力が使える事が分かった。それが分かっただけでも、伯爵夫妻のところに行ったのは相当大きな収穫だ。


 勇者が持っていたこの能力を、もっと使えるようになれば、冒険者としてやっていく事はきっと可能だろう。鍛錬して、使いこなせるようにしたい。


 もっとも、この三つの力は、健人の()()()()()()()()()のだが。 


 一人、馬車の外を流れる町並みを眺めながら、そう決意する健人だった。








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