私は猫をやめた。でも無駄に微妙な名残があってなんかやだ
一日1回は投稿頑張りますm(__)m
眩い光が徐々に小さくなっていき、そして猫も周りが見えてきた。
「……ここどこだにゃ?」
なんか「にゃ」とか語尾についていた。
「!」猫は驚いた。
「にゃってなんだにゃ! 光の塊さんと話してた時はそんなのでなかったのににゃー!」
なんでだか分からないが「にゃ」が取れない。「なんなのにゃー!」猫要素こんなとこに要らないのに。頑張って「にゃ」を言わないようにあれこれ試してみても無理だった。この猫要素残す必要あったのかにゃ! 光の塊を少し恨む猫。
「……もう! どうしようもない事考えててもしょうがないにゃ。とりあえずは、っと」辺りを見回す猫。どうやら森の中のようだ。私を助けてくれた人間がいる世界にうまく来れたのか? とりあえず探さないと。自分を助けてくれた人間については、光の塊さんが特徴を教えてくれた。男で白いTシャツを着ていて青いGパンを穿いているとの事。この世界では珍しい恰好なのだそうで、見間違う事はないそうだ。
しかし森の中なのか。「森」というものは何かは分かる猫。光の塊さんに理性と知性を貰ったおかげだろう。
猫が貰ったこの「理性」と「知性」は、人間が持つ一般常識と、ある程度知っていて当たり前と思える知識等である。例えば人として普通に生きていれば、森が何なのかくらいは、「普通」知っているものだ。その「普通力」を補うのである。なので、例えば森の草木の種類が何か判別するような、そういった専門知識はない。
猫が前にいた世界では、都会に住んでいたので当然周りは建物ばかりだった。なので森自体見るのも感じるのも初めてである。でも、何故かどことなく懐かしい感じもする。野生の頃の本能がそう思わせるのだろうか?
とりあえず猫でない体で何がどこまで出来るか試したい。まず森の中を二本足えで走ってみた。
「うん。悪くないにゃ。視線も問題ないみたいだにゃ」一応猫時代を踏襲すべく、四つん這いになって走ってみたが、逆に動きづらかった。
というか、足が速くてびっくりする猫。時速にして40kmは出ているんじゃないだろうか。森の中なので障害物が多いにも拘わらず。
「これきっと人が走るスピードじゃないにゃあ……」どういう事だろうか? しかも余り疲れない。余り息切れしない。スピードが落ちないまま2kmの距離は走ったがまだまだ平気だ。
木に飛び移ってみる。折れる心配のない程度の枝が不思議と感覚で分かる。それに飛び乗ったり、掴まって鉄棒のようにぐるぐる大車輪をやってみる。木から木へひょいひょい忍者のように飛び移ってみる。
「……いやまあ元猫にゃので感覚はわかるけどにゃ。多分これ普通の人間の動きじゃないにゃ。力はどうかにゃ?」
そう呟きながら、今度は直径1m程の木に対し、「うにゃあ!」と思い切り回し蹴りをやってみる。蹴りが当たってズドーンと大きい音がして、そこから木がバキバキっと折れて倒れた。
「……」自分がやったくせに呆気に取られる猫。どうやら力も強かった。
「いやいやいや。おかしいにゃ! なんにゃのこれ!」そして自分の驚異的な力に驚いている。
要するに、光の塊が言っていた、(身体能力はそのまま)というのは、猫の大きさの時の能力を、人間サイズになった時、そのサイズに比例して能力をアップさせた、という事なのである(テ〇フォーマーズ的なあれですね)。
でもこの方が、猫にとってはやりやすかった。猫の感覚のまま動けるのはありがたい。もし猫の当時のままの身体能力だとしたら、そもそも動く事自体無理だったかもしれない。そして自分が弱すぎたら、今から恩返ししようとしている人間の手助けができないだろう。
「て事は、耳も目も……かにゃ? 」意識を集中してみる。猫なので夜目は効くはず。森の奥の暗いところを凝視してみる。ふむ、やはり猫の時と同じく、いや多分それ以上に暗視は出来る。やっぱり夜目も使えたのを確認出来た猫。
じゃあ耳も、と集中してみる。すると、あちらから何か聞いた事のない、「グギャア」とかいう声? のようなものが聞こえた。それと当時に人の声も聞こえた。どうもピンチのようだ。目的の人間かどうかはわからないが、とりあえず行ってみようと思った猫。
そして声の聞こえた方に走って向かう。森の中を進むと森が開け、舗装された土の道に出た。どうやらこの道の向こう側から聞こえてきたようだ。両側は木々に挟まれていて、その奥は森になっている。とりあえず走って声が聞こえた方に向かう。今度は障害物の多い森の中と違い平たんな道。人間の走り方は初めてだが、さっき試したのもあってか、難なく走る事が出来ている。猫の時よりなんだか気持ちいい。
「あ! あれかにゃ?」暫く走ると、道の真中でぜぇぜぇ言って座り込んでいる人間が見えた。と、すぐさま自分がいる反対側から、あの変な声の主らしいものが見えてきた。
そして人間が立ち上がった。どうやら走り出そうとしているらしい。あ、足がもつれてこけた。
とりあえず猫は急いで、その目の前まで走っていった。
「ようやく見つけたにゃ」
どうやら目的の人間らしい。それを確認できた猫は、笑顔でそう言った。
※※※
「……にゃ?」
この人語尾に「にゃ」って言った。
いきなり目の前に現れた、この訳のわからない世界で初めて見た人影。健人が安堵するのも束の間、「とりあえず、あいつら何とかしなきゃにゃ」と言って、その人影は健人を追いかけてきた化け物達に向かって走っていった。「にゃ」と言う、猫みたいな変な語尾が気になったが、自分は四つん這いに倒れていて顔を見る事が出来ていない。が、その声からして女性だというのは分かったのだが。そして女性なのに、その声の主は化け物達に走って向かっていくではないか。
「おい! あいつら沢山いるんだぞ!」と、焦って声をかける。だが自分にはどうする事も出来ない。やばい、加勢しなきゃ。そう思っても色々一杯一杯で動けない健人。しかし単に女性の足が速いのか、それとも健人が疲れているからそう感じるのか、400mくらいの距離はあるはずなのに、既にその女性は化け物達の元に着いているようだった。
「あんな化け物達を相手に、女性一人で立ち向かうなんて」疲労困憊の中呟く健人。勇気を振り絞り気合いを入れて何とか立ち上がる。そして近くに落ちていた腕くらいの太さの枝を拾って握りしめた。まだよろよろとしか歩けないが、この枝を杖代わりに、化け物達のところに向かった女性に加勢すべく歩を進める。
そうすると徐々に、今度は恐怖がもたげてくる健人。見た事もない化け物達相手に、枝一本で何とかなるのか?下手をすりゃ殺される。いや、俺死んでたんじゃなかったっけ? それはともかく、化け物達の中に女性を一人になんか出来ない。
そう自分を奮い立たせ、勇気を出して歩いていく健人。怖い。でも放っとけない。徐々に近づいていく。枝一本でも何とかしないと。最悪あの飛び込んでいった女性だけでも助けないと。そう考えて向かっていく。少し身体が回復したところで、ようやく遅いながらも駆け出す。そしてようやく追いついた。
で、追いついてみたら、化け物がノビていた。
「グギャグギャ煩いし気持ち悪いにゃー。私をエロい目で見てたし」どうやらこの女性が全部倒したようだった。
ポカーンとした。ああ、これが呆気にとられたってやつだ、と変に冷静になった健人。
健人が襲われ、猫が倒したのはゴブリンという魔物である。一匹だけの力は大した事はないが、集団で襲ってくる上、小狡い程度の知恵があり、人間の女を攫って繁殖に利用する魔物である。棍棒や弓、槍といった武器を用い、集団で人間や動物を襲うのである。今回健人が襲われたのは、たまたま一人でいた事、見た目が珍しい(TシャツにGパン)事で、何か武器になるものを持ち合わせているんじゃないか、とゴブリンが考えたからだと思われる。
「あの、大丈夫、ですか?」息を切らしながら女性に声をかけてみる健人。
「この通り全然大丈夫にゃん!」サムズアップしつつ振り返り、満面の笑みで答える猫。
それを見て健人は沈黙した。何処のどなたか存じ上げないが、とにかくめちゃくちゃ可愛い。切れ長で大きい目に、真っ白な髪。プロポーションも抜群だ。特に腰回りは引き締まっていて、より一層スタイルの良さを引き立たせている。そして見事な双丘。こんなレベルの女の子、俺の周りには勿論いなかったし、芸能人でもこのレベルはいないんじゃないか? そう思って見惚れてしまう健人。
健人もそれなりに恋愛経験はあるし、それなりに女性慣れはしている。しかしこれだけのハイレベルな女の子は初めて見たのである。
そして申し訳程度に頭にちょこんとついてる猫耳も可愛らしいと思った健人。……ん? 猫耳?
「……あのー、見つめすぎにゃ。なんかついてるかにゃ?」
「あ! ああ、ごめんなさい。つい……」
「つい?」
「あ、いや別に何でもない、です。えーと、あなたは?」
ひげでも残ってたのかな? 口周りをすりすり触ってみる猫。やっぱり綺麗さっぱりおひげはない。まあいいかと思いつつ、健人の問いに答える。
「私は猫にゃん!」
「は?」