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目論み

いつもお読み頂き有難う御座いますm(_ _)m


「よし、じゃあマシロさんからでいいかな? アイラ、相手してあげて」ゲイルが対戦相手を指名する。


「あら。私はいいけど?」どうして私なの? とでも言いたげにアイラが聞く。


「マシロさんは攻撃魔法の使い手と戦った事ないよね? なら、試してみてほしいと思ったのと、アイラは遠距離魔法の使い手だから、超近接攻撃の拳闘士であるマシロさんが、どういう戦いをするか見てみたいんだよ」と、理由を説明する。


真白は以前ゴブリンメイジと戦った事があるので、攻撃魔法は経験済みだが、属性持ちと戦うのは今回が初めてだ。


「私近接職相手するの苦手なのに」ちょっとだけぷーっと膨れるアイラ。美人さんなだけに可愛く見える。


「それも理由の一つだよ。レベルが違うんだからちょうどいい」フフンと気にも止めない様子軽く笑うゲイル。


「私としては願ったり叶ったりにゃ。お強いようにゃので、思いっきり遠慮なくいくにゃ」ピカピカミスリルナックルが気に入ったので、既に装備してガシガシ拳同士を叩いて臨戦態勢だ。


「そうね。じゃあ、よろしくね」その真白の様子を見て、微笑みながらドレスの両裾を持って挨拶するアイラ。戦うのにこの人ドレスです。しかも高そうなのに。


「舐められてるにゃー」その様子にちょっとカチンときた真白。


 そして互いに闘技場の真ん中に、距離を置いて相対する。真白はグッと右こぶしを前に出してファイティングポーズ、一方アイラは両手を下ろして佇んでいるだけだ。だがその両腕には白いダガーが握られている。


 そして少しの沈黙の後、「じゃあ、始め!」と、ゲイルの掛け声が響き渡る。それとほぼ同時に真白がフッと消える。そして現れたのはアイラの右横。直ぐにナックルで右こめかみを狙う。が、「リフレクション」とアイラが一言小さく呟くと、透明な薄い、20cm四方の厚さ1mm程度の四角いガラスのような膜が、真白の狙った右こめかみ辺りに現れ、真白のナックルをバシーンと弾いた。


「うにゃ?」弾かれ驚く真白。だが何が起こったか瞬時に把握し、臆する事なく、すぐさま弾かれた反動を利用し、そのまま半回転して、次にアイラの腹部に蹴りを入れるも、またも同じ膜に弾かれる。


 それから何度も真白が怒涛の如く、竜巻のように、半回転または一回転しながら、膜に弾かれつつ、蹴りや拳で攻撃するも、全てその膜が邪魔をする。中々活路を見いだせない真白が、一旦攻撃をとめ後ろに飛んで下がり、距離を取る。既に真白は汗びっしょり。一方のアイラは汗一つかかず、何もなかったかのように涼しい顔をして、一歩も動かず佇んでいる。


「じゃあ、次は私の番ね」真白の攻撃がまるでなかったかのように呟くアイラ。そして「ライトニングジャベリン×20」。そう呟くと、長さ1mほどの光で出来た槍のようなものが、アイラの周りを囲むように二十本、真白の方に槍先を向けて浮いていた。


 このライトニングジャベリン、光の槍は、本来風属性の上位魔法の雷の魔法に近い攻撃魔法である。雷魔法の中に、ライトニングという魔法があり、それを槍化したものが、通例のライトニングジャベリンである。一方、本来光魔法では、雷系の攻撃魔法は出来ないはずなのだが、レベル9()0()のアイラには、それを模した攻撃魔法をオリジナルで作る事が出来るのだ。しかも通常1つの槍を生み出すだけでも、相当の魔力が必要なのだが、アイラは今、いとも簡単に、二十本の光の槍を生み出している。


 真白が危機察知でやばいと感じた瞬間、スッと音もなくその二十本の光の槍が、次々と真白に向かって飛んでいく。そのスピードは音速を超えているのだが、音が一切聞こえない。無音で音速の槍だ。


 音が聞こえないと、獣人の能力である、よく聞こえる耳が使えないので、本来躱すのは至難の業の筈だが、真白は槍の特性、真っ直ぐにしか飛ばない事をすぐさま理解して、先に軌道を読んで躱している。危機察知もうまく利用しているようだ。


「ほお」その様子を見ていたゲイルが感心する。「戦闘センス凄いね、彼女」


 健人も傍で見ているが、槍が速すぎて見えない。真白が縦横無尽にピョンピョン飛んでいるのは分かるのだが。しかも真白は、次々狙いを定めて飛んでくる、無音で音速の槍を紙一重で躱しながらも、アイラに徐々に近づいていく。


「あら。近づけるの?」ちょっと驚いた様子で呟くアイラ。「じゃあこれはどう? ライトニングボム」


 アイラが無表情に放つ次の魔法は、今度は直径10cm程度のハリセンボンのようなトゲトゲのボールの形をした光の玉。それがアイラ自身の周りにポンポンと、まるで小さな花火が出てきたかのようにいくつか空中に現れる。そしてそれが真白に次々と飛んでいく。


 これもアイラだからこそ出来る光魔法。土の爆発魔法をイメージして、オリジナルでアイラが作り出したものだ。玉の中は小さな光の針が無数に入っている。しかも触れた途端爆発し、中に入っている無数の光の針が、対象者に大ダメージを与える結構えげつない魔法だった。


 真白が自分に真っすぐ飛んできたボムを避ける。光の槍よりは遅いので、軽々と避ける。が、避けられたボムは、真白の後方で旋回し、またも真白に向かって飛んでいく。避けては来る、を繰り返す。ホーミング(追跡)機能がついていたのだ。しかも一つだけではなく、それが二つ、三つ、四つ、五つとアイラから真白に飛んでいく。


 真白の危機察知が、ボムに触れてはならないと警鐘を鳴らしているので、真白はずっと躱すばかり。数が増えて来て躱すのが辛くなってきた。既に汗びっしょりだ。でもそこは真白、ふとある事を思いつく。ニヤっとしてから突如フッと消える。ボムも消えた真白を追いかける。


 消えた先はアイラの正面だった。目の前に突如現れる真白。攻撃されると思い咄嗟に正面にリフレクションを使うアイラ。そして続けて、今度はアイラの背後に消える真白。そうすると、真白を追跡してきたボムが、一斉にアイラの正面のリフレクションシールドに激突。ドドーン! と闘技場を揺るがすほどの大爆発が起こり、アイラの正面辺りから砂埃が立ち込めた。


 そしてすぐに、アイラが背後に攻撃の気配を感じる。すぐさま背後にシールドを展開すると、「狙い通りにゃ」と真白が呟く。その言葉を聞いて「え?」と後ろを振り向き真白に向かい合うアイラ。


 そして真白が、目の前にあるシールドの()()を狙いすましてナックルを放つ。内側に放たれたナックルの力は、アイラの腹部めがけて飛んでいく。


 しかし、ガシーン、という金属がぶつかる音がした。アイラがでシールドの内側で弾かれた、真白のナックルをダガーで防いでいたのだ。ゴブリンチャンピオンを屠った真白のパワーのある拳を、ドレスを着た見た目麗しい細身の女性が、ダガー片手で受け止めたのだ。真白はまさか自分の一撃を、こんな体の細い女性に止められるとは思っておらず、驚いていた。


「なんてパワーだにゃ。そして届かなかったにゃー」残念そうに言葉をこぼす。さすがに真白にとっては激しい攻防だった事もあり、肩で息をしている真白。


「まさかここまでやるとは思わなかったわ。私がダガーで防御するなんて」一方、額から汗をにじませ、驚くアイラ。


 その様子を、ゲイルと健人が離れた場所から見ていた。健人はその攻防の余りの速さに目が追い付かない。そしてアイラが放つ光魔法攻撃の凄まじさに舌を巻いていた。健人が魔法の攻撃を見るのはこれが初めてだ。一方ゲイルは、真白の思った以上の戦闘のセンスに、心底感心していた。


「思った以上だ。驚いた。まさかアイラがダガーを使うなんて。魔族の幹部以来じゃないか?」


 ゲイルはお世辞でも何でもなく、素直に称賛した。


 しかし、ゲイルがそう呟くと同時くらいに、真白のミスリルナックルが、アイラのダガーに負けて、パキンと真ん中から割れてしまった。


「よし、二人ともそこまで」真白のナックルが壊れたため、試合続行不可能と判断したゲイルが、試合を止めた。その言葉を聞いて、真白はふー、と大きく息を吐いて腕を下ろし、アイラはシールドを消した。


「はあ、暫く戦いをしていないからか、私の動きが鈍ってるのかしら。懐に入られるなんて」やや落ち込み気味のアイラ。


「いや、アイラ。単にマシロさんが凄いだけだよ。多分僕でもいい勝負したと思うよ」アイラを労うゲイル。


「はあ、はあ、いや~、それほどでもあるかにゃ~」疲れているのに褒められてちょっと調子に乗る真白。


「マシロさん、本当に凄い戦闘センスだわ。遠距離魔法の攻撃を、うまく躱し、時には利用し、更に防御をも攻撃に転嫁するなんて。しかもそれをあの攻防の間に判断して実行するなんて、中々出来ないと思うわよ」


 アイラは真白を素直に称賛する。


「そ、そんなに褒められても、お髭が痒いだけにゃ~」余程嬉しいのか、体をクネクネさせて照れる真白。というか、お髭もうないですよね?


 そんなクネクネしている真白を見て、改めて真白の凄さを傍で見る事が出来た健人。やっぱり真白は凄かったのか、と心から感心した。


 その間二人に気づかれないように、ゲイルがアイラに目配せする。アイラもそれを見て小さく頷く。


 そして突然、「シャイン」とアイラが呟く。太陽のように眩しい光を発する、対象者のみ目くらましをする光魔法だ。油断していた真白と健人は、何事かとその眩しさに耐え切れず目を瞑る。そして徐々に光が収まり縮んでいき、ようやく見えるようになってきて、健人が何が起こったのか確認しようとキョロキョロする。


 そして人影を発見すると、そこには、


「ゴフッ」口から血を吐き、腹部から血が滲んでいる、ゲイルの剣に貫かれた真白がいた。



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