伯爵夫妻のノリツッコミ
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邸宅内を五分程執事に続いて一緒に歩く。ほんと広くて呆れる。そして全てが豪華絢爛。どれだけお金かけてんだろう?
「ああ、そうそう。先程説明の途中でしたが、伯爵様は民の事を第一に考えておられる立派なお方です。ここの装飾品や立派な絵画などは、全てアクーの民が造った物で、どこかの一流の職人が造ったわけじゃないのです」
ベルアートは健人の疑問に気づいたのか、この邸宅が出来た経緯について、歩きながら説明する。
「王からの命令で、王の娘が住むに値する立派な邸宅を造るよう言われた伯爵様は、それならどこからか一流の職人を呼んで、高いお金を使って邸宅を造るんじゃなくて、アクーの民皆で造って貰おう、仕事を与えよう、という事にしたのです。ここの広大な庭とこの大きな屋敷、そして中の装飾品等々は、全てアクーの一般の民が造ったものです」
なるほど、せっかく造るなら、自分の領民に潤って貰おうと言うわけか。賢いな。
「そんな心意気を領民はとても嬉しく思いました。アクーの民達も、一流の職人に負けないものをと、そして伯爵様のためにと、必死になって、一生懸命、建設に携わりました。結果、このような立派な邸宅を完成させたのです。メディーの王も、この邸宅をご覧になった際、余りの出来栄えに相当驚いたようです。まあ、一番驚いたのは伯爵様ご自身でしたけどね」
当時を思い出すかのようにフフ、と微笑みながら説明するベルアート。
「ベルアートさんもこの邸宅の建設に携わったんですか?」ベルアートの邂逅する様子に質問する健人。
「ええ。当時は一大イベントでしたからね。商人である私も右往左往しながら忙しく動き回ったものです。ですが、この邸宅建設があったおかげで、私も含め、かなりのアクーの民は金銭的に余裕が出来ました。当時は魔王との戦いが終わった後だった事もあって、おかげで皆生活が苦しかった。ですから、当時の伯爵様のご厚意は、このアクーの民みんな感謝しています。因みに、この邸宅建設に必要なお金は、全てメディーの王都からの出費です。そりゃ命令したのが王でしたから、当然ですけどね」
伯爵様って凄い人だった。思った以上にデキる人だ。さすが勇者メンバーの一員て事か。そんな立派な人だったなんて。そうしてベルアートと話ししているうち、とある部屋の前に着いた。
「伯爵様、奥様。お客様をお連れ致しました」ドアをノックして、執事が中に話しかける。
「どうぞー」と、返事があって執事がドアをキイと開ける。なんか軽い返答だがそれでも伯爵夫妻だ。二人は失礼のないよう、緊張しながら中に入った。
応接室と執事に説明されたその部屋は、とても広く、真ん中に会議室にあるような大きなテーブルが一つ置いてある。それを囲むように椅子が10脚ほど置いてある。その奥に、その大きなテーブルは別の、事務机に似た机の椅子に、細身の茶髪でちょび髭をつけた、なんか軽そうな感じのイケメンと、その側に白のフレアスカートのドレスを着た、青い髪で琥珀色の瞳の美しい女性が、二人ともこちらを見て笑顔で出迎えた。
「YO! エブリバディ! 元気か~い?」茶髪のちょび髭イケメンさんが、急に立ち上がって思いっきり両手を広げてウェルカム! て感じの外国人の挨拶みたいなゼスチャーでなんか言った。
「ゲイル。それ間違ってるんじゃない? YO! じゃなくてYEAH! だった気がするわ」青い髪の美人さんが、おしとやかに、静かに訂正する。いやツッコむとこそこじゃないと思うんですが。
「おお? そうなのか? 君? どっちなの?」健人にどうなの? どうなの? って感じで聞くちょび髭茶髪イケメンさん。
いや知らんがな。 って心の中でツッコんだ。なんか思ってたのと違う。健人は思考が追い付かないのでフリーズしている。真白も何が起こったのは分からない様子でポカーンと口を開けて固まっている。呆気にとられるとは正にこの事だ。
「お二人とも、タケトさんとマシロさんがお困りですよ」しょうがないですねえ、と、慣れている感じで伯爵夫妻を諭す。
「おおう! すまない。困っちゃった?」ね? ね? みたいに聞かないで下さい。本当に困ります。
「確か緊張を解くにはこういう言い方が良いって、カオルに聞いたんだよねー」緊張してるので気を使ってくれたのか。それは有り難いが、やり方が斜め上過ぎます。そしてここで勇者の名前が出た。てか、勇者さん、この人達に何教えてんの?
「でもヴァロックだときっと、そんなノリだとフザケンナって怒ってたわよね」フフっと美人の女性が微笑みながら、ここでもう一人の勇者メンバー、剣鬼ヴァロックの名前が出る。
「ヴァロックは融通利かないからしゃーない。まあカオルの言う事は聞くんだけどねー」ケラケラ笑いながら思い出すゲイル。
「だってヴァロック、カオルにゾッコンでしたもの」オホホと、こちらも高貴な笑顔で手の甲を頬に当て、高らかに笑うアイラ。
俺の緊張感返せって言いたい。なんだこの二人? 軽すぎる。アイラって人は言葉使いは丁寧だけど、ゲイルって人と話してるレベル変わらんし。
「剣鬼ヴァロックをこうやって笑いながらからかう事が出来るのは、このお二人だけでしょうね」若干呆れながらそう話すベルアート。どういう意味だろう?
「さて、改めて挨拶だ。始めまして異世界人。私がここアクーの領主ゲイルだ」今度はさっきまでのノリと違い、爽やかな笑顔で握手を求めてきた。異世界人と先に言われたのは初めてだなあ。
「始めまして、健人です。こちらは真白です」と、握手で返した。
「私は真白ですにゃ。宜しくですにゃ」真白もゲイルに握手する。
「始めまして、猫獣人のマシロさん」再度爽やかな笑顔で握手した。
「そして、私がこの人の奥さんやってるアイラです」そう言ってアイラはドレスの端を摘んで、頭を下げる。奥さんやってるんだ。その言い方はいいのか?
健人は心の中でツッコミながらも、その挨拶に対して健人と真白も頭を下げた。
「じゃあ、かけてくれ。ああ、ベルアート君。君は一旦外して貰っていいかな?」ゲイルはベルアートにそう告げる。
かしこまりました、と頭を下げ、部屋を出ていくベルアート。ベルアートさんには聞かれたくない話をするって事か。
そしてドアが閉まるのを確認すると、ゲイルは二人を大きなテーブルに添えてある椅子に座るよう勧め、それを見てアイラも同じく椅子に腰掛ける。
「まずは、ヌビル村でのゴブリン討伐、本当に有難う。君が先導して作戦を立てたと、ベルアート君から聞いたよ。そしてマシロさん。君も危ない任務をこなしてくれたそうだね」ゲイルはそう話すと、二人に頭を下げた。
ゲイルがお礼を言った事に、健人と真白が慌てる。
「頭を上げて下さい。作戦がうまくいったのは村の皆のおかげです」
「私はゴブリンチャンピオン倒しただけにゃ。オーガロードは健人様が倒したのにゃ。だから大した事はしてないにゃ」
「ほう。やっぱり君達がゴブリンチャンピオンとオーガロードを倒したのか」ゲイルは言質を取ったかのようにニヤっとする。
「いやいや、たまたま、ほんとマグレ、奇跡なんです」健人は再度慌てて、自分の評価が勘違いされそうなのを訂正する。
「オーガロードはレベル50の魔物でね。高ランク冒険者じゃないと普通は倒せないんだよ? マグレや奇跡で倒せるかねえ? 因みに、ゴブリン一匹は強くてもレベル2くらいだけどね」ゲイルは具体的に魔物のレベル数を話し、じっと健人を見つめる。
ゲイルのそんな様子より、健人は魔物のレベルを初めて数値で知って驚いていた。オーガロードはレベル50、対して、この世界に初めて来た時、恐ろしいと思い、腰が抜けたゴブリンはレベル2。そしてそんな自分は、オーガロードを倒したのか。我ながら信じられないといった気持ちになった。
「因みにゴブリンチャンピオンは大体30~35くらいだねえ。それを三匹相手にして倒したマシロさんも強いね」今度は健人から視線を外して、真白を褒めるゲイル。
「有難う御座いますにゃ」照れながら、お礼を言う真白。
「ああ、それに、真白とはパーティ契約していたので、レベルが上がったのもあると思います」と、何故か挙動不審な態度で説明を付け加える健人。そういやあれからずっと真白とはパーティ契約したまんまだ。
「ふ~ん」ゲイルはそんな健人の慌てた様子を、含みのある笑顔で見ていた。
「ま、いいか。それはそれとして」、ふとゲイルが真面目な雰囲気に変わる。
「さて、タケト君だったね。君がこの世界に来たという事は、またも何かの災厄が来るんじゃないかと思っているんだが、何か知っているかい? 君は神託は受けたのかい?」
ゲイルは先程の軽いノリとは打って変わって、顔つきが変わり真剣な眼差しで健人に質問した。同じくアイラもスッと真面目な表情に変わる。
神託、か。前にベルアートさんから聞いた、神から災厄を告げられる事と、能力が貰える事の話なんだろう。
「いえ、その辺り説明します」と、自分がこの世界に来た経緯と、同じく真白についても話をした。ついで、自分はギルドの水晶でも確認したが、何の属性もない(魔力がある事は伝えたが)事、そして今回は、真白が元猫だった事も正直に話をした。元猫だった事はダンビルにも話していない。この世界に来て初めて真白の正体を人に話した。
「ふーむ……」聞き終えたゲイルは考え込む。「アイラ、君はどう思う?」
「どうやら、タケトさんがこの世界に来たのは、神託があったからではないみたいですわね。でもそんな事、今まで無かったはずなのに。カオルも神託を受け、能力を授かり、私達と共に魔王と戦ったんだし」
「そうだよなあ。百年ほど前に来た異世界人も、確か神託を受け、能力を授かり、この世界に来たと記録が残っているんだよねえ。タケト君は全く何も、誰からも聞いてないんだよね?」再び確認するようにゲイルが聞く。
「ええ、誓って言えます。事故で死んだと思ったらこの世界にいた、ほんとにそれだけです」
「じゃあ、災厄は大丈夫なのかな?」「どうでしょうね」ゲイルとアイラが難しい顔で考え込む。
「マシロさん。君も神託は受けてないんだよね?」今度は真白に質問するゲイル。
「受けてないにゃ。私は健人様を、能力がないから、この世界で生きていく手助けをするように言われただけにゃ。でも、その時の光の塊さんは、やりたいか? 助けたいか? と私に聞いたにゃ。だから、その時は行かないという選択肢も出来たって事にゃ。要するに、来なければいけない、という事では無かったって事ですにゃ。そして私も神託というのは聞いてないにゃ。災厄が来るとも聞いてないにゃ」
その話は健人も初めて聞いた。真白に、俺のここでの人生を手伝ってやれと、光の塊は言ったけど、そうすると決めたのは、真白の意志なんだな。じゃあ、俺と真白は別に一蓮托生というわけでもないのか。
「そうか……」そう一言呟くと、ゲイルはまたも深く考え込む。
「ねえゲイル。どうやらこの二人は、いつもの転移じゃなさそうよ。初めてのパターンかも知れないわ」
アイラは健人と真白の話を聞いて、そう結論づけた。まだ確信が持てないと言った表情だが。
「確かカオルの能力が刀使いで居合いが出来る、だったよね?」ゲイルがアイラに確認する。
刀、居合いか。そうか。元勇者カオルは、日本人独特の刀を使った抜刀術を使って戦っていたのか。勿論俺は扱えないし、前の世界で触った事さえない。
「そうね。そしてカオルが持っていた黒い刀も、特別だったと思う。あ、そうそう、カオルには鑑定スキルがあったじゃない」アイラがある事を思い出す。
「そうだった。タケト君。君鑑定は出来る?」ゲイルは聞くが、健人は即答で出来ない事を伝える。
「鑑定スキルもない、か。うーん。考えすぎかなあ」「そうなのかしらねえ」ゲイルとアイラは二人揃って頭を捻った。
ゲイルとアイラは、ベルアートからこの二人の事を聞いた時、戦慄した。今までの歴史を顧みるに、転移者が来ていると言う事は、災厄が訪れるという事になるからだ。ただ、ベルアートから聞いた話だと、このタケトという青年は、死んで飛ばされただけで、神に会っていないらしいし、能力を持っていないと聞いていた。だから、二人とも直接会って色々確認したかったのだ。歴史を遡ってもそんな事は今まで一度もなかったはずだから。
しかし今、この青年と猫の獣人から直接話を聞いていると、どうやらこの二人がこの世界に来た事と、災厄とは無関係のようにしか思えない。しかし、今後何があるか分からない。安心せずに注意しておく必要はある、ゲイルはそう思った。
そして、タケトという青年は、能力がないと言いつつも、オーガロードを倒し、この真白という猫の獣人は、ゴブリンチャンピオン三匹を倒したとも、ベルアートから聞いている。なら、この二人の戦闘能力について確認したい。
「よし、じゃあ君たち、ちょっと僕達と試合しようか」