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決意したがすぐ無かった事になってしまう

いつもお読み頂き有難う御座いますm(_ _)m

感想、レビュー、評価など頂けたら嬉しいですm(_ _)m

「こちらが、お客様の部屋で御座います」


 使用人さんに連れられて、2階にある宿泊用の部屋に案内してもらった。使用人さんはいわゆるメイドみたいな服を着ている。黒い服に黒いスカート、白い頭飾りに白エプロンといったいで立ちだ。若い女性であるが、所作は訓練されているようで、物凄くきっちりしている。


 しかし、部屋が豪華過ぎて困った。広さは20畳くらいあるだろうか? 部屋に入ると6人掛けのテーブルが目に入る。俺一人なのになんでこんなに大きなテーブルがあるんだろうか。それから奥にはベッド。それに天蓋がついてます。俺は王様じゃないんですが。そして風呂とトイレ付というね。ずっと湯あみだったから有り難いが。豪華すぎて落ち着いて寝られるかどうか不安だ。


「こちらにも風呂は御座いますが、もし御所望で御座いましたら、1階に大浴場が御座います。お食事で御座いますが、下の食堂でお召し上がり頂きます。朝昼晩全て、こちらで準備致しますので、お食事を召し上がりたいと仰って頂きましたら、準備致しますので、ひと声おかけ下さい」


 と、使用人さんは一通り説明して、頭を下げて出て行こうとするが、ちょっと待った。


「えーと? 俺の部屋はここでいいんですよね?」


「? 左様で御座います」不思議そうな顔をする使用人さん。


「……真白の部屋はどこですか?」嫌な予感をしながら聞く。


「? ご一緒に、と旦那様より承っておりますが」何を仰りたいのです? と不思議そうな顔で返事する使用人さん。


「……やられた」、と言っていいんだろうか? 一方真白は使用人さんの言葉を聞いて、顔真っ赤にしてもじもじしつつも、ニヤニヤしている。一緒の部屋でいいわけないだろ!


 旅の道中でもそうだったが、ただでさえ、最近どんどん真白の遠慮がなくなってきて困ってるのに。そりゃ俺も真白みたいな可愛い子と、いい仲になれれば嬉しいけど、それは単に真白の外見だけ気に入っている事になってしまって、そういう関係になったら、前の世界の付き合いと変わらない。それじゃダメなんだ。だから今はダメなんだってのに。


 ここでベッド一つしかない部屋に寝泊まりする事になったら、もう俺も抑えが利かない。抑える自信がない。


「すみません。この子とは一緒の部屋は無理なんです。他に部屋は空いてませんか?」使用人さんに聞いてみる。


 健人のはっきりと言い切ったその言葉を聞いて、やっぱりというか、真白は凄く残念そうな顔をしている。さっきまでピンと立っていた猫耳が、今はぺたんとうなだれている。しょぼーん、という音が真白の頭の辺りに見えそうなほど落ち込んでいる。でもそれを一々気にしてられない。


「そうだったのですか。かしこまりました。部屋はまだ空きが御座います。では今から準備致しますので、暫くお時間を頂戴致したく存じます」そう言って使用人さんはさっと踵を返し、足早に戻っていった。


「私は一緒が良かったにゃ」不貞腐れる真白。口をとんがらせて膨れるその顔も可愛くて腹が立つ。


「もう最近は全く隠そうとしないな」呆れながら真白に本音を話す健人。


「隠すのは私らしくないからなのにゃ。というか、これでもかなーり抑えているのにゃ」膨れつつこれまた本音を返す真白。


 それで抑えているんですか。じゃあ完全に開放されたらどうなるんですかね? ちょっと怖い。


「あのな、真白。前にも話したと思うけど、まだ俺が納得してない。中途半端に、欲望そのままに、流されるように、そういう関係になるのは簡単だ。でも、それは前の軽い俺になってしまうんだ。それじゃダメなんだよ。だから待ってくれ。俺も前向きに考えてるから」


「分かってるにゃ。……え? 今前向きって言ったにゃ? 言ったにゃ?」その言葉だけ取り上げて満面の笑みで健人にグイグイ近寄る真白。


「ま、まあ、とりあえず。頼むからもうちょっと自重してくれ」またも超絶猫耳美少女スマイルが言ったにゃ? 言ったにゃ? とグイグイ顔を近づけて来るのに圧倒されそうになるのを、何とか諫める健人。まあ、彼自身なんで前向きって言葉が出てきたか分かっておらず、自分の言葉ながらちょっと驚いていた。


「前向き~、前向き~、ふーふふんのふ~ん」今度は変なイントネーションで歌? を口ずさむ真白。


 今日アクーに着いてから、道中ずっと、街中の男どもが真白をチラチラ見てた。チラ見されるだけ真白が魅力的って事だ。そりゃ相当可愛いからな。そんな可愛い子に言い寄られて何グズグズやってんだって思う自分もいるけど、前の世界のような、軽い感じの付き合いは、真白に対しては嫌なんだ。いくら融通が利かない、真面目かって言われても、これは譲れない。


 一応ご機嫌になった真白。一方うんうん頷きながら、健人が何かを自らに言い聞かせている。そうしているうちに使用人がやってきた。


「お待たせ致しました。もう一部屋準備出来ましたので、案内致します。こちらの部屋と造りは変わりませんので、どちらの方が来て頂いても問題御座いません」頭を下げながら、使用人が説明する。


「じゃあ、俺がそちらの部屋に行きます」と言いつつお礼を言い、、「じゃあ真白、片づけたら出かける準備な」と真白に言伝して、健人は新たに用意して貰った部屋に向かった。


「健人様も私に気持ちが向いてきてるにゃん。もう少しにゃん。にゅふふ」どっかの悪代官みたいな表情で、一人ニヤニヤ笑う真白であった。健人の気苦労も知らずに。


 それから二人とも部屋に荷物を置いて、下の玄関フロアで待ち合わせをし、これからアクーの街中に繰り出すのだ。


 外に出ると、既にベルアートとグレゴーの乗っていた馬車はない。それぞれ自分の家に戻ったようだ。ベルアートには明日にも会う予定なので、とりあえず、まずはギルドに行ってみる。場所は事前に使用人に聞いていた。


「しかし、前の世界とは違って、ビルとかの高い建物がないからか、余計に広く感じるな」ベルアートの宿はやや高台にあるので、下の方に広がる街並みを一望出来る。まるで人体に広がる血管のように、大小多くの道が城壁の方まで広がっていて、よく見ると、様々なデザインの家々が、その道を挟んで、軒を連ねている。ずっと延々に続いているような錯覚に陥るほど、広大だ。


 ふと風が二人の間を流れる。汐の香りだ。お、向こうの方に海が見える。船の姿も遠目に見える。そうだ、ここアクーは確か水の都市。魚も結構あるって聞いている。海の方にも行ってみたい。


「しかもこれよりも、王都メディーは大きんだよなあ」この世界の人も相当多いんだろうなあ、健人はそう思った。ここが東京ならメディーはニューヨークかな? 前の世界の都市に当てはめるとそんな感じか? 


 とりあえずギルドに向かうため二人は歩き出した。馬は使わず歩きで向かう。宿に来る途中に見えた屋台が気になったので、買い食いしたいし、ウインドーショッピングもしたいのだ。初めての沢山の店や人々。街並みをみながらゆっくり歩きたかった。


「はい。腕を組むのは禁止」ビクっとなる猫耳美少女。真白がこそっと腕を絡めようとしていたのだ。なんでバレた? という顔で真白が下を向いてオドオドしている。健人もさすがに気づいてた。


「当たり前のように腕を組まない。真白、さっきも言ったけどもっと自重しろ」今度は窘めるように少しきつめに話す。


「じゃ、じゃあ、手を繋ぐにゃ」負けるもんかと必死な表情で、上目使いで訴えるように言い返す真白。何の勝負なんでしょうかね?


「いや、何が(じゃあ)なんだ? じゃあもくそもない。そもそも恋人じゃないだろ」ピシャリと言う健人。


「あう」声にならない声を出して、明らかに落ち込む真白。猫耳がぺたんと閉じてしまった。余り聞かない健人の厳しい言葉に、ちょっと泣きそうになっているみたいだ。


 ほんとは今までも、これくらい強く言わないといけなかったんだ。真白を調子付かせてしまったのは俺の甘さのせいだ。真白には可哀相だけど、決意したから。


 涙目でうなだれて落ち込んで、それでも健人の後ろをとぼとぼついていく真白。さすがにきつかったか? と、ちょっと真白が気になる健人。 ん? 肉の焼ける旨そうな匂い。屋台がある。健人は黙ったままその屋台に行き、肉串を四本買って、「ほら、真白。腹減っただろ」と分け与えた。


「……ありがとにゃん」まだ落ち込んでる真白だったが、腹は減っていたので肉をぱくつく。「これおいしいにゃん」ぱあっと明るく声を上げた。よし、ちょっとだけいつもの真白に戻ったな。その真白の様子にホッとした笑顔になる健人。そして健人の笑顔にこれまた猫耳美少女スマイルが復活する真白。


 結局真白に甘い健人だった。真白に強く接するという決意は数分で覆がえりましたとさ。


「確かにうまいな」同じく健人も食べてみた。味付けがどうも醤油っぽい? それとこれ何の肉だろう? 機会があれば今度屋台の人に聞いてみよう。


 少し機嫌の直った真白は、落ち着いたのか、あちこち見まわし始めた。服に興味あるみたいで、可愛い服がウインドーから見えているのをふむふむと見ている。人間があれこれ着飾るのは知っていたので、興味あるみたいだ。そうだ、真白女の子なんだからもっと着飾ればいいんだよな。そしたらもっと可愛くなるだろう。ほしい服があれば買ってあげよう。結局真白に甘々な健人でした。


「あ、健人様あれ」ふと真白が何かを指さした。指さした事を悟られないよう、気を使いながら。


 その方向を見てみると、明らかに犬? がいた。向こうから歩いてくる。顔がそのまま犬だった。ドーベルマンの顔だ。腕と足は人間のようだが。尻尾は長い。ああ、あれが真白以外の、この世界の獣人か。多分性別は男性だろう。


 更に辺りを見回してみると、他にも虎の獣人、猿の獣人、熊の獣人が各々会話しながら歩いていたり、買い物していたりしていた。皆、見てすぐ獣人だとわかるくらい、獣感が半端なかった。皆顔がそのまま動物の顔なのだ。でも手足は人間。なるほど、真白は相当珍しいのはよく分かった。真白の顔はただの美少女だもんんな。獣要素は耳と尻尾と「にゃ」くらいだし。


 ただ、個人差があるみたいで、さっきの犬獣人は、目、鼻、口、耳全て犬そのものだったが、その後で見た虎獣人は、耳が真白みたいに頭の上に出ていて、顔の輪郭は人間、目も人間、だが顔の作りが虎で、鼻と口が虎だった。


「私と全然違うにゃあ」真白が興味津々で見ている。確かに真白ほど人間に近い獣人が見当たらない。もしかしたらもっとどこかにしれないが。もっと人の多い王都とか。または混血が真白みたいに人間に近いかもしれない。獣人と人族の混血は珍しいらしいけど。


 そんな獣人達は、真白を違う意味でじろじろ見ていた。男達が見惚れていたのとは違い、物珍しいと言った感じだ。そんな町の様子を観察しながら歩いているうち、ギルドにたどり着いた。





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