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私は猫だった。名前はまだない

 ※※※


「あれ? 猫ちゃん? さっきまでいた白い猫いなくなった。抱っこしてたはず? なのに」猫を抱っこして、車道から逃がそうとした女子高生がキョロキョロする。さっき、確かに捕まえていたはずなのに?


「逃げたんじゃない? でもキレイな猫だったねー。野良なのかな? あんな汚れてない白い毛珍しいよね」友達だろう、もう一人の女子高生が事も無げにそう話す。


「それならいいんだけど。まあとにかく、道路から離れたんなら良かった。これからも元気に暮らしてくれたらいいね。せっかく助かった命なんだし」自分の手元にもいないし、轢かれた様子も見当たらない。多分知らないうちにどこかに逃げたのだろう。そう思った彼女は、安心して友達と共にその場を離れていった。


 ※※※


 ……暫くすると、どこかに着地した感覚になり、足を降ろしてみたら立てた猫。そしてようやく眩しい光から開放され、視力が戻ってきたので前を見ていると、何か光の塊? のようなものが見えた。


「お前が感じている(それ)は、感謝という気持ちと、申し訳ないという謝罪の気持ちだよ」


 その光の塊から、声が聞こえた。


「お前を守った人間は、既に事切れてしまった。しかし、運がいいのか悪いのか、ここ地球とは全く違う世界に、そのまま転移されてしまった」光の塊が言葉を続ける。


 転移……猫が普段使う筈のない言葉なのに、どういう訳か意味が理解出来る。そして理解出来る事を、何故か不思議には思わず、次の言葉を待った。


「お前を守った人間に会いたいか?」猫に確認する光の塊。


 猫は頷く。


「なら、ちょうどいい。やつは地球とは全く違う文明の世界に、訳も分からず飛んでいってしまった。お前にはやつの手助けをしてもらいたい」


 光の塊のその願いに再びうなずいた猫。その光の塊が言った、「感謝」と「謝罪」が理解できたから。なら、その思いを伝え、そしてその人間に恩を返したい、そう思った。


「そろそろ気づいているとは思うが、(猫)のときと違い、私の話している言葉の意味がわかるだろう?」


 猫の時と違う? そう言われて自分を見てみた。なんと人間のメスの姿になっていた。


 前足が人間の手になった。後ろ足はそのまま人間の足に。でもひげがない! それはショックだったが、もう一つの自慢の耳は頭の上にあった。ただ猫の時と同じくらいの大きさなので、ちょこんと頭に乗っている感じだ。尻尾は丸く小さく、腰の辺りについている。


 瞳は猫の時と同じく茶色。そして髪と尻尾は猫の時のように白い。毛の色は自分の自慢の一つだったので、その名残が残っていて良かった。体の毛がなくなったのがどうにもこそばゆいというか、変な感じだったが。猫の名残は一割未満といったところか。背は150cmくらいと小柄だ。耳や尻尾を隠せば、ほぼ人間だと言っても過言ではない姿になっていた。


「やつがいる世界には、お前のような(獣人)と呼ばれる、獣と人が融合した人種がいる。お前が猫であった時の身体能力はそのままに、人の姿にしてやった。その力はきっと次の世界で役に立つだろう。また、人化した際、(理性)と(知性)も与えた。だから私の言葉が理解出来るし、人のように意思の疎通が出来るようになっている。何か喋ってみろ。すると、私が言っている意味がわかる」色々説明する光の塊。


「分かりました。あ! 言葉? が出てきた」驚いた猫。これが言葉を話すという事か。


「そういう事だ。お前はこれから、やつがいる世界に行く事になるが、勿論別に無理強いはしない。また、これはとても重要な事だが、あちらの世界に行くと、お前は再度猫として、こちらの世界には戻ってこれないが、それは良いか?」


 猫として生きていくのも悪くない。というか、そもそもそれしか選択肢がなかった。だが、今の状況はかなり特殊で、ラッキーなんじゃないかと思った猫。縄張りを他の猫に取られる悔しさはあったが、これから人間として生きていく事が出来るなら、それはきっと些細な事になるだろう。


「はい。構いません。私はあの人間が生きていく手助けを、恩を返したいです」少し悩んだが決意出来た猫。


「覚悟は出来たようだな。因みに私は人間の世界で言う(神)と呼ばれるものらしい。らしいというのは、私自身もよく分からないからなのだが。私は人の生死や、やつに起こったような転移等に、特殊な場合を除いて手出しできない存在だ。だから、あの人間には、私からは何もしてやれない。しかし、お前は動物で、強い意志を感じた。だから、今回このような事が出来た。まあ、今回もかなり特別なのだが。そして、やつのように、死んで転移するというのは、運命や縁がない限り、本来は不可能なのだが……。やつが転移した理由が、私にもよく分かっていない」


 猫は光の塊の独り言のような話を、首を傾げながら聞いていた。


「とにかく、今回動物であるお前には、私は手助けできる。お前には、この飴玉を(二つ)やろう。これは次の世界で必ず役に立つ(言語理解)を得る事が出来る。あちらの世界で他の人間達と意思疎通出来ないのは、相当苦労するだろうからな。この飴を舐めれば、あちらの人間の言語を話し、聞き、読み、書く事が出来る。ああ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「じゃあなんで二つも……あ! そういう事か」


「理解したか。元猫なのに聡い。だからメス猫なのに縄張りを持てたのかもな」フフっと笑ったように見えた光の塊。


「そして先程も述べたように、お前には人間として生きていく為の理性と知性を与えた。人間と動物との根本的な、大きな違いはこの理性と知性があるかないか、といっても過言ではない。例えば排泄。人間は排泄すための場所を作り、囲い、人には見られないようにして排泄する。それは排泄行為自体を見られる事は、(恥ずかしい)とされるためだ。猫だったお前にはなかった感覚だが、理性と知性をあたえたので、そこは既に理解しているはずだ」そして試しに想像してみろ、と話す光の塊。


「はい。毛繕いするのに、腋なめたり、股間なめたり、……って、キャー無理! そんな事出来ないし想像しちゃったあああ! 猫の時は平気だったのに! いやー! 」と、一人悶え叫ぶ猫。


「ま、まあその感覚が、人間として(普通)というものだ」そんな猫の、突然の人間らしい振る舞いに、少したじろぐような感じが見受けられる光の塊。


「猫の時には当たり前だと思っていた行動と、人間としての行動や考え方の差異を、私が与えた理性と知性が補ってくれるだろう。因みにお前の人間としての現在の年齢は十八。性別は勿論女。ああ、服もとりあえず用意してやる。その世界の一般的な服装を参考にしただけだから、強度等は期待しないように」


 ついさっきまで猫だったので、当然今は真っ裸である。猫はそれを聞いて安心した。さすがに裸のままその世界には行けないと思っていたから。そして猫の周りが光って消えたら、いつの間にか服を着ていた。上半身にはへそ出しの白Tシャツと、胸を守るように麻の素材のような生地の、これまたへそ出しのタンクトップ。下半身はこれも麻の素材のような生地の、膝より少し上くらいのミニ・スカートと、中には膝までの黒のスパッツになっていて、下着は隠れている。動き回るのに気を使わなくていい。足には膝くらいまでの、これも麻の素材のようなブーツ。そして腰のベルト部分に、小さなポケットがついていた。


「そのポケットの中に、先程話した飴が入っているはずだ」光の塊に言われて猫が確認すると、確かに赤い飴が二つ、ポケットに入っていた。


「よし。では、そろそろ行こうか。先にその飴を舐めておくといい」猫はそう言われて、飴を一つ口にした。ちょっと甘い。


「では、いざ新たな世界へ」そして光の塊がそう言葉を発すると、猫は体全体を白い光に包まれていった。


一旦これで止めます。続きは次回に。


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