新たなスタート
今日から二人の物語に戻ります。
重要な新キャラも沢山出てくる予定です。
楽しんで読んで頂ければ幸いですm(__)m
「グス、ヒック」すすり泣く声。
「真白、大丈夫か?」同じように目に涙を溜めている健人が、真白を気遣う。
「大丈夫にゃ。でも、やっぱりお別れは悲しいにゃ」寂しげにニコっと笑いながら、健人に振り返る猫耳美少女。
「そうだな。俺も正直寂しい。でもまたきっと、戻ってくるから」真白の笑顔を見ながら、同じく笑顔で返す健人だった。
そうだにゃ、と健人に微笑む真白。そして涙を拭った。
いま二人はベルアートとグレゴーとともにアクーに向かう道中だ。健人が操る馬に、真白が一緒に乗っている。真白が健人の前に跨っている。そして健人は、ゴブリンチャンピオンが持っていた大剣を、背中に刺していた。
「フフ、まるでカップルですね」ベルアートはそんな二人の様子を微笑ましく見ていた。
ベルアートはグレゴーの乗る馬車の御者をしている。馬車はニ連結になっていて、もう一つ後ろは素材や荷物が積んである。二つとも幌がついている。荷物が多いので馬車はニ頭立てだ。
「うぐう~、おのれ~」グレゴーが健人と真白の様子を見てグギギとしている。
「はあ。確かあの方が一番年上のハズなんですが。一番年下のような反応ですね」と、その様子に気づいたベルアートがため息混じりに呟いた。
アクーへは、この舗装された道をずっと進んでいけばいずれたどり着く。但し距離はあるので、このペースなら、早くて8日程かかるとの事だ。途中野営しながら進んでいく。
今日は快晴だ。わたあめのような白い雲が時々空を流れていく。舗装された道路の両脇は林で、奥に行けば行くほど森になって暗くなっていくようだ。その森林の香りを、乾いた心地良い風を感じながら、馬を操る健人と、その風を気持ちよさそうに受け止めている真白。
その日は魔物が出る事もなく、雨にも合わず、旅は順調に進んでいた。
夜、健人が村から持ってきた鹿の肉と野菜で煮込んだ鍋を作った。食料は十日分持ってきているが、足らなくなれば、近くの森に入って狩りをする予定だ。野菜は結構持ってきてあった。
「ふーむ。タケトさんほんと料理上手ですね。私はこういう仕事していますから、野営でよく食事を取るのですが、同じ鍋料理でも全然違いますよ」ベルアートは健人を褒める。
そんな違うかなー? 調味料は塩と胡椒、そして野菜スープを時間かけて煮込んだスープだけなんだが。正直個人的には物足りない。やっぱりあの村だけじゃなくて、この世界自体、余り食文化が発展していないのかもな。
そういうのも旅しながら探すのも楽しみだ。健人はこれからの出来事に、思いを馳せていた。
「そういや、タケトさんには色々この世界の事をお伝えしないといけないのですが、違う世界からお二人が来た事を知らないグレゴーさんに聞かれると、少々面倒だと思うので、食事中にお教えしようかと思うのですが」
確かにあの白いオッサンには余計な事は知られたくないな。白いオッサンは、外で夕食を取るのが嫌で、一人馬車の中で食べている。
「それでお願いします」健人は頭を下げた。
ベルアートから聞いた話は、この世界は、人族が一番人口が多く、ついで獣人、そしてエルフとドワーフ、最後に魔族との事だ。エルフはクリスタルを作る職人、ドワーフは武器や防具、その他金物を作る職人、だそうで、この種族には、その道では敵わないそうだ。だから武器見た時ドワーフの業物、とか言ってたんだな。
魔族は数こそ少ないが、その一人あたりの戦闘力はとてつもなく高く、おいそれと多種族は手を出さないらしい。
あと、真白が言っていた混合種は、エルフと人族との関係が一番多いらしい。何故かと言うと、エルフと人族は、外見上そんなに変わらないからだそうで。一応魔族も殆ど一緒だそうだが、人族と魔族が結婚するなんてあり得ないそうだ。
ほうほう、と言いながら聞いていた。なるほどー、じゃあこの世界回ると、色んな種族に会えそうだな。それは楽しみだ。
話を聞いていると、白いオッサンが来たので一旦話は終わった。
「今日はここで野営するのか?」グレゴーが唐突に聞いてきた。
「ええ、そのつもりですよ。この辺りはまだ魔物が少ないでしょうし。どうかしましたか?」ベルアートが不思議そうに答える。
「い、いや。なんでもない」グレゴーは気まずそうに答えた。
「因みに真白は、俺と交代で野営の警備しますよ」どうせ真白の事だろうと思って言ってみた。
「そ、そうなのか。でもマシロは女なのに警備なんかさせていいのか?」ビンゴでした。やっぱり真白が気になってたんだな。
「真白は強いですよ。だから気になさらず、ゆっくり休んで下さい」めんどくさいと思いつつも、一応丁寧に答える健人。
「ベルアートさんも、俺達に気を使わず、休んで下さいね」ベルアートには笑顔で話す。
「ありがとうございます。遠慮なくそうさせて貰います」同じく笑顔で返すベルアート。
とりあえずテントを準備し、交代で湯浴みをする。使用する湯は勿論クリスタルで作る。
料理の際も利用したが、これは相当便利だなあと思った。確かにこの世界の文明は遅れているかも知れないが、魔法という、前の世界の科学にも変わり得る存在があるのは、凄い事だと思う。
グレゴーが真白の湯浴みの番で、中をとても気にしていたのは放っておいて(但し覗きには注意したが)、健人も最後に湯浴みし、野営の警備のため、薪に火を着けた。警備の間、退屈でしょうとベルアート健人に本を貸してくれていた。
それはこの世界の地理みたいな本だった。種族や現在の各都市の事、王都の事、色んな知識が入っていて、読んでいて飽きなかった。それと同時に、こんな不思議な世界なのかと、再度感心して、是非色々周りたいと思った。
例えば種族。竜人族というのがいるらしい。読んで字のごとく竜だそうで、ただ何処にいるのかは現在不明だそうだ。
魔族は、現在人族と和平合意していて、人族が暮らす都市にもちらほらいる。但し過去魔王との戦いがあったので、お互い余りいい印象はないらしい。
等々。興味深い話ばかりだった。……この本あればベルアートさんから何か聞く必要はないような気もする。真白と警備交代したら貸してあげよう。
そうして外で本を読んでいると、真白が様子を見にテントの中から出てきた。テントはグレゴー、ベルアートが各一人ずつ使っていて、健人と真白が同じテントだ。
健人と真白が同じテントだというのが気に入らないグレゴーが、ギャーギャー喚いた。
「どうしてタケトとかいうやつと、マシロが一緒のテントなのだ」嫉妬心丸出しでカッコ悪いオッサンだなあもう。俺と真白は交代で警備するから、テントで寝る時は入れ替わるので一緒に寝ないんだけど。
「どうしてお前にそんな事言われる筋合いがあるのにゃ?」イラッとして真白がグレゴーに突っかかる。
はあ、とため息をついて、更に真白が呆れたように続ける。
「お前がいくら私に近寄ろうとしてもにゃ、私は全く興味ないのにゃ。お前には私を引きつける魅力があるのかにゃ? どうして私が、魅力ない男に興味持つのにゃ?」はっきりと辛辣にグレゴーを突き放す真白。
「わ、儂だって、どうすればいいのか分からないのだ! こんな気持ちになったのは初めてだし、今までは何から何まで用意されていたのが当たり前の生活だったのだ。見下す事が当たり前だったのだ。自分には権力しか魅力がないのも分かっておる。そして自分自身に魅力がない事など分かっておるわ!」
ちょっと泣きそうになりながら開き直る白いオッサン。カッコ悪いが、えらく素直になった。そこは認めよう。カッコ悪いけど。
「じゃあ、魅力的な男になればいいにゃ」真白が諭す。
「魅力的とは、どうすればいいのだ?」分からないグレゴーが素直に聞く。
「謙遜し、相手を称え、赦し、慈しむ」ベルアートがこのやり取りを聞いていて口を挟んだ。
「それは……」グレゴーが気づく。「神殿で習う、神官への教示か」
「そうですね。神官が実践すべき教え、ですね。これが出来る人が、魅力的な人なんじゃないですか?」
ベルアートも同じく諭すようにグレゴーに話した。
それを聞いたグレゴーは急に黙りこんで、自分のテントに戻った。何か気づいたのかも知れない。ていうか、気づいて欲しい。もうめんどくさいから。
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