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片桐綾花※能力と災厄

いつもお読み頂き有難う御座いますm(_ _)m

「よし、ではお前に今から能力を授ける」


 老人はそう言いながら、虚空を眺め何かを探し出した。まるでiPadを操作するように、何もない空中に向かって、指先を動かしている。綾花にはただの空間にしか見えないが、その視線の先には、老人だけに見える何かがあるようだ。


「ん? あれ? どこだ?」老人が呟く。探し物が見つからない様子だ。 


「おかしい。カオルと同じ、あの世界では誰も持っていない能力を授けようと思ったが、見当たらない。そんな馬鹿な」


 そう言って老人は、首を捻って理由を考える。猫にあげたか? いや、あの猫には能力増強と危機察知しか渡していない。魔法は一切渡していない。カオルがまだ使えるからか? いや、それも問題ないはずだ。


「えーと、大丈夫ですか?」綾花がその様子を見て若干怪訝な顔をして声をかける。


「お前に渡そうとした能力が見当たらないのだ。こんな事、私が担当してから初めてだ」


 老人も訝し気だ。前の担当に聞いてみるか。もう一万年前から会っていないはずだが、コンタクトがとれるかどうか。


「仕方ない。では、代わりにお前には違う能力を渡そう。あの世界では、魔法が数種類あってな。それを属性というんだが、普通は一人一つしか持てないのだ。それを四つ持てるようにしてやろう。クアッド(四つの属性持ち)という能力だ。それと、カオルも持っていた()()もやろう」


 いまいちよく分からないが、何となく凄く特別な能力だというらしいというのは分かった。


 そう言った後、老人の手から、赤青黄緑の光が現れ、それが綾花の胸の辺りに入っていった。そのすぐその後に、今度はオレンジ色の光も老人の手から放たれ、同じく綾花の胸に入っていった。


「最後に、これは(言語理解)の飴だ。これを食しておけば、あちらの世界の言語が理解できる」


 といって、以前猫にも渡した赤い飴を差し出した。綾花はそれを黙って受け取る。


「では参るぞ」そう言って手を振り上げた老人。


 しかし急いで待ったをかける綾花。


「ちょっと待ってください!」


 綾花の突然の制止で、振り上げ手を一旦降ろす老人。


「どうした? ほかに何かあるのか?」まさかカオルの時のように無茶な報酬をお願いされるんじゃないか? 老人は少しドキドキしながら綾花に制止した理由を聞く。


「災厄って何ですか? あと、服装このまま?」


 まだ聞きたい事があったので急いで質問する綾花。そして今の綾花は、白いシーツのようなものにくるまれているだけだ。異世界の服装は知らないが、流石にこのカッコは嫌だった。そこはさすが乙女というか。


 老人はホッとした。でも出来るだけその様子を見せずに、努めて冷静に、綾花の問いに答える。


「災厄が何かは、私にも分からないのだ。だが、今回の災厄は、新たな世界にとって、相当の脅威だという事だけは分かっている」


「分からない災厄に立ち向かえって言うんですか? 分からないのに災厄が来る事が分かるって、矛盾してません?」


 綾花は老人の言葉を聞いて呆れた。復活させて貰えるのは有り難いが、さすがに無責任だと思ったのだ。


「災厄が来るのが分かるのは、私には()()を見る力があるためだ。だが、その結果が、何によるものかは、はっきりしないのだ。そしてその結果がどんなものか、教える事も出来ない。そういうルールなのだ。その結果の原因は、運命によって結構変わってしまうのでな。因みに、今お前に能力を与えた瞬間、その結果が起こる時期が、一年後から二~三年後に延長された」老人は申し訳ないという風に釈明する。


 私に能力を与えたら、災厄のせいで起こる結果とやらの時期が変わったんだ。神様でも運命は変えられないって事か。


「まさしくその通りだ」またも綾花の考えを読む老人。「私には運命を操る事は出来ない」


 そしてそのまま話を続ける。


「ただ、起こりうる結果を抑えるための努力は、こうやって事前に出来るのだ。私としても出来るだけ災厄は避けたい。あの世界を守りたい。私自身で出来るのは、お前のように能力を与え、その世界で抗ってもらう事くらいなのだ」


「仕方ないか。あっちの世界で災厄の事をあれこれ探すしかないんですね」


 そんな事私に出来るの? 自分に問いかけるも、もうやるしかなさそうなので、行ってから考える事にする。


「服装だが、あちらの冒険者がよく着ている服に変えてやろう」


 老人がそう言うと、綾花の身体が光り輝き、白いシャツに麻で出来たようなトップス、というか防御用の胸当て? みたいな上半身に、腕には肘当て、下は同じく麻で出来たようなショートパンツにブーツ、太ももは露になっているが、膝あてがついている。


「おおー、なんか斬新でおしゃれだ」とある有名RPGの女性キャラが着ていたような服装。日本ではこんな格好出来なかった。少しテンションが上がる綾花。


「では言語理解の飴を口に含むのを忘れずにな。参るぞ」


 そう言われて慌てて貰った赤い飴を口にポイっと入れた。ちょっと甘い。そしてすぐに綾花の頭上から光が降り注ぎ、徐々に体全体がその光に包まれていった。光が消えると綾花も既にそこにはいなかった。


「行ったか」老人は独り言を吐く。


「さて、カオルよ。偶然だか運命だか分からないが、とりあえず約束は果たしたぞ。でも後一つ残っていたな。まあそれはさほど難しくはないからいいのだが。しかし全く。カオルにはしてやられた」頭をポリポリ掻きながら独り言を続ける老人。


「しかし、あの()()()()()()とも、こんなところで縁があったとはな……もしかしたらあいつが? 」


 老人は誰もいない空間で、ボソっと一言呟いた。


 ※※※


「う~ん?」


 木漏れ日が丁度目の辺りに差し込んできて、小さな眩しさを感じて目を開ける。


「ここ、どこだろ?」


 今の自分はどうやら寝転がっているようだ。ムクっと上半身だけ起き上がる。すぐに草木の香りが鼻をくすぐり、サアっと爽やかな風が頬を撫でる。


「森の中?」


 そう。ここは森の中。だがジャングルのように木々は鬱蒼と茂っているというほどではなく、どちらかというと開けた森の中だ。チチチ、グァグァと言った何かの鳥や動物の声が聞こえる。


 まだぼーっとしていた綾花だが、突然、はっと気づいて立ち上がる。


「……」手をグーパーしたり、もも上げのように足を左右順番に上げ下げしたり、ピョンピョンとジャンプしてみたりする。


「ああ、私、本当に動けてる。本当に、本当に、生き返ったんだああああーーーー!!!!」


 大声で絶叫する。バサバサ、ガサガサ、とその絶叫に驚いた小動物達が慌ててどこかに逃げ出す。


「ああ、私、声が出るよお、自分で呼吸が出来るよお、こうやって、自分で涙がふけるよお」


 今度は感極まってシクシク泣き始める綾花。嬉しい。生きている事が嬉しい。病気の時は何度か死のうと思ったのに。それからぺたんと地面にお尻をつけて座り込み、そのまま両手で顔を覆って、暫く泣き続けた。


「グス。そろそろ行動しないと」


 暫くしてから鼻をすすり、そう独り言を自分に言い聞かせ、目に溜まった涙を拭い、スックと立ち上がる。


「さて、どうしたもんかな」辺りは森だ。とりあえず人がいるところに行こうと考える。そうしていく当てもなく歩き始めた。


 しかし少し行くと、すぐに舗装された、土で出来た道が出てきた。


「おお、道じゃん! て事は、これ進めば人がいるって事でしょ?」自ら確認する綾花。


 そしてふと、何か場違いな、とある小さなものが、自分の足元にあるのを発見する。


「ん?」近寄ってそのプラスチッキーな紐みたいな物を凝視して確認してみる。「これって……、イヤホン?」


 道の端の方に落ちてたそれは、白いイヤホンらしきものだ。拾ってあれこれ見回す。間違いない。イヤホンだ。どうやらブルートゥース対応っぽい。


「もしかして、私の前の世界の持ち物の一部も、こっちに飛んできたのかな?」


 こんなイヤホン、私持ってたっけ? でももう三年くらい寝たきりだったから覚えていないのかも? それに、この世界に異世界人は自分だけのはず。多分自分の持ち物だろうと思い込み、前の世界の名残だと思って大事にとっておこうと、ショートパンツのポケットにイヤホンをしまい込む。


「どうせならスマホもこっちに飛んで来たら良かったのになあ。音楽聴けただろうに」


 そう言いながら、ようやく道を進んでいく綾花。ルンルン気分で、前の世界でアイドルになるため何度も練習した、ダンスステップを軽やかに踏みながら、一人舗装された道を歩いていく。


  「あ、私もカオルちゃんみたいに、神様に報酬要求すれば良かったんじゃない? ……まあいいか。こうやって生き返る事が出来ただけでも充分」


  ふと、今更気づいた失態。失敗したな、と思いつつも、今の新たな幸運に納得する綾花。


 新たな人生を新たな世界で歩む事になった綾花。歩いていくその方向は、以前一人の青年と、一匹の猫が向かった方向とは反対方向だったが、彼女は今後、沢山の試練に立ち向かう事となる。が、それはまたのお話。







次回から健人と真白の話に戻りますm(_ _)m


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