片桐綾花※次の運命
「……」綾花はふと目を覚ました。
ムクっと上半身だけ起き上がる。辺りをキョロキョロ見回す。何もない。建物も草木も何もない。広大に自分中心に、ずっと永遠に続いてるかのような地平線が見えるだけだ。そして白い。辺りはただ真っ白だ。ふと上を見てみる。真っ白で何も見えない。雲も太陽も、星も月も見えない。
「ああ、そっか。私死んだんだ」ボソッと呟く綾花。それが理解できると、ポロポロと涙が零れてきた。
「私の人生って、何だったの?」自問自答する。約三年ぶりに声を発する事が出来た。そう言えばさっきはキョロキョロする事が出来た。上半身だけ起こす事だって。思いついて立ってみた。久しぶりに立つ事が出来た。忘れそうになっていた足の裏の感触。
「だから何なんだろうね」頬を伝う涙をぬぐう事さえせず、自嘲気味にフッと笑う。
今の自分は、入院していた時のような、骨が浮き出た、痩せ細った状態ではなく、中学三年生の頃の、健康で見た目麗しい当時の容姿のようだ。
そうやって自分の身体をあちこち確認したりしていると、徐々に目の前が明るくなってきた。その源はどんどん眩く光り、目が開けられないくらい眩しい光を発する。暫くしてようやく光が収まり、光の元を見る事が出来た。そこには、仙人のような長い髭を蓄えた、白い衣服に包まれた老人が一人、立っていた。
「神様、ですか?」綾花が質問する。ここはきっと死後の世界。意識があるのが不思議だが、そこにそれらしい人物が現れたら、神様としか思えない。
「そうだな。お前達人間は私の事をそう呼ぶ」同意? のようなそうでないような、曖昧な返事をする老人。
「見た目お爺さんで、白い服を着ているから、そうとしか思えませんが?」綾花がその老人の容姿から、神様だと察したと説明する。
「ふむ。お前にはそう見えるのか」面白いな、と、少し微笑んだように見える老人。
(猫には光の塊に見えたらしいがな)、と数か月前の出来事を思い出す。
「さて、分かっているとは思うが、お前は前の世界で死んでしまった。本来なら、私が直接お前達のような人間に、直接会う事はない。だが、今回、お前は特別に、とある世界に行って貰いたいのだ」
老人は説明を続ける。
「そこにはとある災厄が迫っている。その災厄から、その世界を守って欲しいのだ。そのために特殊な能力を授ける」
綾花は説明を聞いていたが、何が何やら意味が分からなかった。
「すみません。仰っている意味が分からないんですが。私はこれから天国か地獄か、そういったところに行くんですか?」
そもそも天国や地獄がある事さえ知らないが、老人の話はさっぱり分からないので、自分のこれからについて、自分の考えを言ってみる。
「分かりにくいか。こう言えば分かるか?お前はこれから、再度生き返るという事だ」
端的に、一番の核心を話す老人。
「え? 生き返れるんですか?」その言葉はさすがに理解出来、驚く綾花。
「その通りだ。ただ、元の世界で生き返るのは不可能なのだ。生き返れるが、別の世界に行って貰う事になる。そしてその代償として、その世界で、今後起こりうる災厄を、解決してほしいのだ」
ようやく話が飲み込めた綾花。これってもしかして、ラノベとかでよくある転生または転移ってやつじゃない?
「そうだ。所謂転移だ。そしてお前の想像通り、その世界では魔法が使え、魔物がいる」
頭の中を読まれてちょっと恥ずかしがる綾花。え? これほんとなの? 魔法が使える世界に行けるの?
「そしてお前には、その災厄に立ち向かうための能力を授ける」
「チートスキルが貰えるのかな?」つい声に出る綾花。
「ああ、そういう理解でいいはずだ。その世界には、これから授ける魔法を使えるものがいないはずだからな」
老人は一応チートという意味を知っていた。さすが神様と言ったところか。
「でも、どうして神様自身で、その災厄とやらを解決しないんですか?」
前から疑問に思っていた。ラノベ設定でよくある、死んで生まれ変わってチートスキルを貰い、そして魔王と戦う、というのはよくあるパターンだ。じゃあ授ける神様自身が、最初から魔王倒せばいいのに、っていつも思っていた。
「それは本来、私のような立場のものが、人の世界に干渉してはならない事になっているからだ。それでもし、その災厄のせいで、その世界が混乱に陥ったり、最悪滅んでしまえばそれも運命、と本来は受け入れなければならない。ただ、各星の、私のような存在に与えられている、特別な力として、異世界の人間に能力を与える事だけは、許されているのだ。今回の措置については、お前達の言い方に変えてみれば、私達に与えられたボーナス、または特典、といったところか。但し、能力を与えられるのは、お前のいた世界で死んだ者のみ、そして素質がある者のみ、と決まっているのだがな」
許されている、という事は、許す人がいる、要する神様より上に人がいるって事なのか。
「そうだ。我々より上の立場のお方がいる」やっぱりか。
なるほど~。綾花は納得した。本当は私達の生き方や起こる事象に干渉すべきではないけど、特定の条件に合った人間に、解決を促し、能力を与える権限だけはあるって事ね。
「理解が早いな」老人はフフっと笑う。「カオルもお前と同じくらい理解が早くて助かった」
そういやあの猫も、人間ではなかったのに聡いと思ったのだな。
「カオル?」突然出てきたその名前に疑問を抱く。
「ああ、以前にお前のように能力を与え、その世界を災厄から守った日本人、三枝薫の事だ。お前の血縁のな」
え? 私の血縁で三枝薫って、 カオルちゃん? 私のいとこの?
三枝薫こと、綾花のいとこのカオルは、綾花より六つ年上で、綾花がまだ小学生の頃、事故で亡くなったのだ。そして、綾花自身も何度か三枝家に遊びに行って、一緒に遊んだ思い出もあったので、その事故はよく覚えている。
「まさか、カオルちゃんがその世界で勇者やってたなんて……」とんでもない、とても信じ難い事実にただただ驚く綾花。
「そして、お前は寝たきりだったからきっと知らないだろうが、今三枝薫は既に日本に戻っている。それがあいつが求めた報酬だったからな」
ええ! 事故で死んだのに戻れたの? お葬式までやったのに。そして私が寝たきりの間に、既に日本にいたなんて。
「まあ、あいつの場合はちょっと特殊なのだ」
イレギュラーのあいつは、私に会えなかったから、能力の話も報酬の事も無理だったのだがな。
「そしてもう一つ、他にもあいつが求めた報酬があってな、それがお前の復活だ」
……え? カオルちゃんが? 私の復活を?
意味が分からない。
「お前の事を不憫に思って、もし可能なら、助けてやって欲しい、本人が了承するなら、自分のように異世界に行ってでも、復活させてあげて欲しい、そう頼まれたのだ。ただ、お前の件については、資質があるかどうか、災厄が来るかどうか、それがないと無理だ、とは話したのだがな」
そのまま老人は話を続ける。
「幸運なのか、それとも運命なのか、お前には資質があり、そしてあの世界には何年後か先、災厄が訪れる事が分かったのだ。ならばカオルが望まずとも、お前を復活させる事が結果的には必要だった、それだけだがな」
「そう、ですか」老人の説明にどう反応すればいいか分からず、ただ頷くしかない綾花。
「では、能力を授け新たな世界へ誘うが、覚悟はいいか?」
老人は綾花に聞いた。
「勿論。たった十八年で死ぬなんて嫌だったし、病気の間は辛くて苦しかった。世界が違っても生き返ってやり直せるなら、是非お願いします」
と、綾花は老人に頭を下げた。
夕方頃また投稿しますm(__)m
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