方針が決まった
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おかしい。白いオッサンの様子がおかしい。健人はグレゴーの様子を見てうーん、と訝しがる。
皆食卓に着いて昼食を取っていたが、健人の隣には真白がいつものように座っている。それはいつも通りなのだが、その逆側には白いオッサンが当たり前のように座っている。そして真白をチラチラ見ながら、時折真白と目が合いそうになるとフッと視線を避ける。その繰り返し。
何より一番おかしいのが、悪態が一切なくなった事だ。今日の昼食も急ごしらえだから大したものは出す事が出来なかったのだが、勿論カインツとベルアートは文句一つ言わないが、白いオッサンは絶対何か文句を言うだろうと、健人達はある程度構えていたのに、真白をチラチラ見ながら、何も言わず黙々と食べている。
「なあ、真白。グレゴーさんに何した?」なので当然気になった健人。真白が何か恐喝とか脅迫とかしたのか? と疑いながら聞いてみる。
「あ、腕を治してもらったにゃ」そうして右腕を出してグーパーしてみせる。そう言えば三角巾が取れてるからそうかなーとは思っていた健人。しかしよくこの白いオッサン、素直に応じたな。しかし本当に治せるんだな。光魔法か。機会があったら見てみたいが。と、真白が嬉しそうに手を動かしているのを見ながら考えている。
ふーん、と何気ない返事をしといた健人。そして同じくして、カインツとベルアート、そしてダンビルも昼食を食べながら、皆一様に奇妙なものを見る目で白いオッサンを見ています。
「あ、そうだにゃ。食べ終わったら他の怪我人治しに行くにゃ。わかったかにゃ?」真白が白いオッサンの顔を覗き込んでそう話すと、「お、おう」と顔を赤らめてフイと真白と反対側に顔向けて了承した。素直に受け入れたぞおい! と、健人を含め皆びっくりしてる。
……オッサン真白に惚れたな? つーか、一体何があったんだマジで? 呆れるように白いオッサンと真白を見る健人。
因みに真白とグレゴーとの一件は、カインツは外で兵士と外にいて、ダンビルは昼食の準備、健人とベルアートは応接室にいたので誰も知らなかったりする。
まあ、ジルムとバッツ親子の治療はこのオッサンしか出来ないし、よく分からんけど真白に任せるか。何かされるって事はないだろうし。そして白いオッサン抜きで、他の二人には話したい事があるしね。昼食の残りのパンをゴクンと飲み込みながら、一人そう考えていた健人。
そして昼食が終わり後片付けをした後、真白にグレゴーを任せ、健人とカインツ、ダンビルの三人で応接室に向かった。
「さあ、行くにゃ!」と真白がオッサンの腕引っ張って連れて行った。そんな強引な事されているのに、白いオッサンは何だか嬉しそうです。そんな様子を見た健人はうわあ、気持ち悪い。まるで初恋したての男の子みたいな反応するオッサン気持ち悪い。とか声に出さず心の中で思っていたりする。顔には出ていたようだが。
「さっきベルアートさんにも話した事を、カインツさんとダンビルさんにも共有したくて、集まってもらいました」
皆が応接室の椅子に腰掛けてから、健人が話し出した。健人はダンビルとカインツにも五百円玉を見られていたので、情報共有が必要だと思い、集まって貰っていた。特にカインツにはその出処を説明する必要があると思ったのだ。そして、まず自分は、勇者カオルと同郷である事を話する健人。そして、自分が違う世界から来た事は、勇者の事もあるので、出来れば黙っていて欲しい事も伝えた。
「なるほどな。だからその硬貨を持っていたのか」そしてカインツは納得したように呟いた。因みにカインツは、王都で五百円玉が無くなった事は知らない。
「私はタケトから既に聞いておりましたので。ただ、今回のゴブリン討伐の作戦や、タケトの戦いぶりは、正に勇者のような感じでした」当時の事を思い出しながら、健人を称えるダンビル。
「ほう。じゃあタケト。君は勇者なのか?」おもむろに健人に聞くカインツ。
「んなアホな! あ、失礼。全く違います。絶対違います」健人は焦って、ついツッコミ入れてしまうも訂正する。
「俺はなんでこの世界に来たのかよく分かっていません」と、前の世界で事故で死んだので、こちらに来たという事を説明した。そして、なんで死んでこちらの世界に来たのかは、健人自身も良く分かっていない事も話した。
ふむ、と、ベルアートがそれを聞いて、何かを思い出したように話し出す。
「伯爵様より、過去に勇者カオル様について聞いた事があります。カオル様は、前の世界からこちらに来られる際、神様と出会い、この世界に起こる邪悪を倒すよう、命じれたそうです。そしてそのために、能力を授けられたそうです」
カオルって人は、この世界に来る理由があったって事か。じゃあ俺にも理由があるのか? でもその神様ってのには会ってない。能力なんて当然貰ってないし。あ! もう一人いたんだった。ベルアートの言葉に、ふと思い出した健人。
「実は、真白も元々俺のいた世界にいたんですけど、俺と同じようにこの世界に来たんです。そしてこの世界に来る際、真白は神様みたいな(光の塊)という人? に、俺を助けるよう言われたらしいです。だからか、真白自身は能力が高いみたいなんです」
と、健人は真白についても説明した。ただ、元猫という事は一応伏せておいた。真白はどうやら特殊な獣人みたいだからだ。
「なので、どうやら俺には何の能力もないみたいです。一応魔力はありましたが、属性もありませんし。だから俺は勇者ではないはずです」
そもそも勇者というスーパーヒーローみたいな存在だって言われる事自体おこがましいと思っている健人。間違いなく自分はそんな大それた人間じゃない、と思っているらしい。
「それは、色々と興味深い話ですね」そう言って、ベルアートがとある提案を健人に持ち掛けた。
「タケトさん。一緒にアクーに来てくれませんか? 伯爵様とお会い頂きたいのです」
「ベルアートさん、大丈夫なのか? その、一介の村人を伯爵様にお目通りするなんて」言いにくそうにしつつも、正直にカインツが質問する。そりゃとても偉い人だから、村人Aみたいな俺みたいな人間が、伯爵という位を授かった人に、本来はおいそれと会える立場ではないだろうし、カインツさんの反応は当たり前だ。二人のやり取りを聞きながらそう思う健人。
でも、健人の返事は既に決まっていた。
「ええ。是非行きたいです。お願いします」と、健人は頭を下げた。
「俺もこの世界に来た理由が分かるなら知りたいですし、元々、この村を近々出ようとも思っていたんです。だから丁度良かったと思っています」
それと、と健人は言葉を続ける。「五百円玉はお売りします。俺がこの世界で持っていても何の価値もないでしょうし」
健人はこれからこの村を出るのには、ある程度お金が必要だと思っていた。なので、大金が入ってくるなら有り難い、そう結論付けていたのである。
「おお! それは有り難い!」ベルアートはひと目も憚らず椅子から飛び上がり、そして健人の両手を握って上下にブンブン振って喜びを表した。そんな大喜びのベルアートにちょっと引き気味の健人。そんな嬉しいんすね、と呆れながらも。
「そういえば私達は元々、この先にあるケーツ村にも行く予定だったのだ。そこでベルアートさんが商品の売買をする予定で、護衛でな」二人の会話を聞いていたカインツが、次の予定を説明した。
「ああ、ケーツ村は多分もうゴブリン達に襲われて、壊滅してしまっているかと」ダンビルがそう話し、そして理由を続ける。
「私達が倒したゴブリンの集団は、多分そのケーツ村を襲った後に、この村を襲撃する予定だったかと。ケーツ村の食料が無くなったので、こちらに狙いをつけたと思われますので」
「なんだと?」カインツが椅子から驚いて立ち上がる。
「ケーツ村から商品売買の依頼が来たのが、半年以上前だったんですよね。恥ずかしながら、都市から離れている村には、商人は中々行きたがらないですし、ケーツ村からも、急がなくていいと言われていたので」ベルアートが申し訳なさそうに、難しい顔をしながら説明する。もっと早く行っていれば助かった命だったかも知れない、そう考えているようである。
「うーむ。それなら私達兵隊は、その確認のために、兵士を連れて、ケーツ村に向かう必要があるな。まあ、本来はヌビル村の確認のため来たのだったのだが、ここは無事だったわけだからな」カインツが予定の変更を検討する。
少し沈黙があって、おもむろにベルアートが話し出す。
「残念ながら、ケーツ村に村民がもういないのなら、私はここでアクーに戻ろうと思います。カインツさん。帰りの護衛は、タケトさんにお願いしようかと」
「ふむ。なるほど。タケトなら大丈夫だろう」カインツさんが即答する。え? 護衛? 俺が? 何が大丈夫なん? と突然の護衛の話に驚く健人。
「いや無理じゃないでしょうか? 護衛なんてした事ないですし」健人が慌てて否定する。
「大丈夫だろう。さっきタケトと試合した私が保証するよ」カインツがハハハと笑いながら、笑顔で健人に答える。
「マシロっていう獣人も一緒なんだろ? オーガロードを倒したタケトと、ゴブリンチャンピオン三匹倒したマシロ。この手のレベルの冒険者を雇おうと思ったら、普通なら相当な金額が必要だろうしな。それくらいのレベルだと胸張っていいと思うぞ」カカカと笑って健人の肩に手を置いたカインツ。まあ、ゴブリン程度なら? 大丈夫だろうけど。とニコヤカに笑うカインツに、やや不安気な表情を見せる健人。
「買いかぶりすぎですよ」そして鼻の頭を掻きながら申し訳なさそうに返す。相変わらず自信がない。……でも、そうか。真白がいるなら大丈夫かな? とも思ったりしているのだが。
「じゃあそれで決まりだな。グレゴー神官とマシロが帰ってきたら、準備するとしようか」そしてカインツが話を纏めた。
そして皆が応接室を出ようとした時、ダンビルは「そうか。もう行くんだな」と、小さく寂しそうに呟いた。





