バレちゃった。そしてオッサンがおかしい
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既に第2章書き溜め中です。このままお読み頂けたら幸いですm(_ _)m
「しかし、やっぱりタケトは、勇者の国からやってきたんだな」
忙しなく昼食の準備をしながら、ダンビルは一人呟く。初めてタケトを見た時、黒い髪の色と瞳の色を見て、もしかして、とは思っていたが、先程の硬貨の件で、それが確信に変わった。
「だからゴブリン討伐の際、ああいう作戦を思いついたり、オーガロードを一人で倒したり出来たのか」
ダンビルはある意味納得した。合点がいったという感じだった。
「じゃあ、タケトは勇者の再来か? いやさすがにそれはないか。タケトは鈍くさいところがあるからな」フフ、と笑いながら、大人数の昼食の準備を急いでいた。
健人は健人で、昔この世界に日本人がいた事、そしてその日本人が魔王を倒してこの世界を救った勇者だった事が衝撃的だった。その勇者になった日本人女性も、健人のように死んでしまってこっちに来たのだろうか? それを知る術は、きっと伯爵夫妻にあるだろう。が、自分はそれを知ってどうするのだろう? どうしたいのだろうか? 健人はあれこれ考えながら、昼食の準備の手伝いをしていた。
そしてあれこれ考えていると、もうじっとしていられなくなった。
健人がそう思いを巡らしながら、昼食の準備をしたり、他の用事をしていたのと同じくらいのタイミングで、既に起きていたグレゴーが、大声でなにか叫んでいた。
「おい! あのメス猫女どこいった! この儂を攻撃し気絶させるとはなんという無礼者だ!」白いオッサンことグレゴーは、大層お怒りの様子で、応接室を出たところの玄関前の広間で、真白の事を探していた。
「私はここにゃ」食卓で昼の準備を手伝っていた真白は、呼ばれたので広間に行って、グレゴーの目の前に立った。ものっすごい冷酷な、まるでアサシンのような冷たい視線で、グレゴーを見つめていた。
その視線を見て後ずさりするグレゴー。「き、貴様……」と、何か言いかけるも、さすがに本能が察したのか、これ以上余計な事を言うと、自分の身が危険と判断出来たようだ。「な、何もないわい! 鬱陶しいからあっちへ行け!」と、出来うる限りの悪態をつく。どこ行った、と探しといてあっちに行けとは、理不尽なのか意味不明なのか、そしてどうしたいのか。
「だ・れ・が、鬱陶しいにゃ?」アサシンアイで冷ややかな笑顔をグレゴーに向けながら、無機質に話す真白。
「い、いや、その」もう悪態もつけないほどビビっているグレゴー。あ、膝がガクガクしてますね。
「ごめんなさいだにゃ。 こういう時は」アサシンアイのままブリザードスマイルで、グレゴーに謝罪を要求する真白。
「わ、儂にあやま……ごめんなさい」あ、謝った。言ってる途中で真白の左手に握られたナックルが、ゴリゴリ言ったのが聞こえたからか、ついに恐怖に負けたっぽい。
「うん、分かればいいのにゃ」今度は普通のにっこり、素敵なスマイルの真白。「んじゃ、私の腕治せにゃ」そして命令した。グレゴーオッサンだからきっと年上なのに命令した。
「う、うぐぅ」あ、これがぐうの音も出ないってやつだ。命令された事が気に入らないが、逆らえば何されるか分からない。顔をしかめ不機嫌そうに、真白に近づき、怪我の箇所に手をかざすグレゴー。するとグレゴーの手から白い眩しい光が発生し、その光が真白の腕に注がれる。
「おおー、すごいにゃ」真白がそれを見て素直に驚く。「フフン、そうだ儂は凄いのだ」と、自慢気なグレゴー。数分ほどそうしていると、「お、動いたのにゃ! 痛くないのにゃー! 」と右腕を支えていた三角巾を取り、手をグーパーした後、今度は車輪の如くグルングルン腕を回す。完治したようだ。ポケットからナックルを取り出し、右手にも装着すると、両手で拳を作ってガチーン! と音を鳴らしてみている。よほど嬉しいらしい。
そしてグレゴーの白い帽子をポンポンと手で軽く叩き、「ありがとにゃん」と猫耳美少女スマイルでグレゴーにお礼を言った。
グレゴーはその真白の笑顔を見て、「お、おう」と顔を下に向けて一言だけ返す。ん? なんか様子が変わった?
「よし。これで私への失礼な態度はチャラにしてあげるにゃん」と、猫耳美少女はまたも素敵なスマイルでグレゴーに話す。「お、おう」と言葉少なに、今度は顔を赤面させてまたもうつむいて気弱に答えるグレゴー。ん? どうした? グレゴーがなんだかおかしい。
そんなやり取りがあったりしているうちに、昼食の用意ができた。健人は庭で兵士達に今回の経緯を説明しているカインツを呼びに行った。食堂は兵士達全員が入れるほど広くないので、主要メンバーのみ食堂で、兵士達は外で食べてもらう事にした。
そして応接室で素材の金額を計算したり、確認をしているベルアートを呼びに行ったところで「タケトさん。ちょっとお話ししたいのですが」と、止められた。
「タケトさん。あなたこの世界の人間ではないですね?」
「……」即答できず黙る健人。やっぱりバレたか。
ベルアートは行商人だ。仕事柄物の価値は分かるだろうし、出処も大体把握してるだろう。小銭入れや五百円玉を見たら、この世界の物じゃないのはすぐ気づくはずだ。しかも元勇者メンバーの伯爵夫妻と面識もあるというし。健人がこの世界の人間じゃないと気づくのは仕方ない、と、腹をくくっていた。
さっき咄嗟に嘘をついて五百円玉を拾ったって話したが、その時は気付かなかったとしても、もう既に嘘だと分かっているだろう。この五百円玉は、この世界ではそんな簡単に手に入るものじゃないという事は、さっき読んだ物語と、ダンビルから聞いた世間の五百円玉に対する反応で分かっていたし。
返答しない健人の答えを待たず、ベルアートは話を続ける。素材の金額の計算をしていたので、ベルアートは応接室の椅子に腰掛けている。健人も話が長くなりそうなので、黙って椅子に腰を掛けた。
「タケトさんが持っていた硬貨ですが、約五年前に活躍した勇者メンバーが持っていた、とても貴重な、本来この世に四枚しかないものなのです。どこかで拾ったなんて事は絶対にあり得ない物です。そして私は、過去に伯爵様ご夫妻より、その硬貨が、勇者カオルが異世界より持ち込んだものだという事を伺っています」
……伯爵夫妻はそこまで知っているのか。
「その異世界では、この硬貨は大して珍しくないらしいですね。沢山流通していると。異世界の文明は、この世界と比べ相当進んでいるらしい」
健人が口を挟む間もなく、ベルアートが続ける。
「そして今からお話しする内容は、内密でお願いしたいのですが」応接室には健人とベルアート二人しかいないが、それでもベルアートは健人に顔を近づけ、声を潜め続ける。
「現在硬貨は、王都メディーに大切に保管されております。メディーの王が、勇者メンバーに懇願して、王都にて保管させてほしいと仰られたからです。魔王討伐の証として、その後訪れた今の平和の象徴として、王都に置いておきたいという、王の意向です。勇者メンバー四人はこの王の申し出を了承しました。そして現在、硬貨はとても大事に、重要な品として、王都の保管庫に厳重に保管されています」
ベルアートの話は続く。
「既にこの世界にはいない勇者カオルが残していった唯一の品、魔王討伐の際の勇者メンバーの結束の証、そして平和の象徴として、由緒ある物としてそれはとてもとても厳重に保管されていたはずなのですが、実は最近、一つだけ無くなってしまったのです」
王都って確か、この世界の人族の中心都市で、一番デカいところだったはずだ。そこの警備は多分想像できない程厳重だろう。なのに無くなったって? それって相当大変な事なんじゃないか?
「当然ながら王都では大変な騒ぎとなりました。しかしこの件が世間に知れたとなると、王都の厳重な警備を突破され盗まれたと噂になってしまいますし、そうでなくても、王の信頼を失墜させる事になります。ですので、この話は世間一般には知られていません。勿論、秘密裏に精巧な複製を作るよう、王は命じましたが、いくら一流の職人が頑張っても、うまくいきません」
日本では簡単に大量生産してるのになあ。この世界は魔法が中心とはいえ、科学技術自体殆どないに等しいのかもしれない。
「そして私は、有難い事に、アクーの伯爵様ご夫妻と懇意にさせて頂いています。それもあって、王都のその騒動を伯爵様から伺っていたのです」
ベルアートさんはたまたま知っていたというわけか。
「ですから、タケトさんが持っているその硬貨を、タケトさんから購入し、メディーの王に献上したいのです」
ベルアートさんのメリットは?
「私はそれを交渉の材料として、今一番欲しいもの、王都の一等地で商店を開く権利を得たいのです」
なるほど。ようやく合点がいった。
ベルアートは冷静を装いつつも、実は相当必死だった。頭の片隅に置いていた、王都で紛失してしまったという特別な硬貨の話が、まさかこんな展開になるとは思ってもいなかった。まさかこんな辺境の村で見つかるなんて想像も出来ないのは当然だ。この件を知っていたどの商人も、絶対他に存在しない物だと分かっているので、探す事さえしなかった。しかしそれが、今目の前の青年の手の中にある。これは千載一遇のチャンスだ。今は伯爵領の都市アクーを拠点に商売をしているが、アクーも他の都市と比べれば大きい方とはいえ、さすがに王都メディーの規模とは違いすぎるのだ。
この硬貨を使って王に恩を売る事が出来れば、念願の王都一等地の権利を得る事は可能だろう。王都一等地での商売は、商人なら誰しも夢見るものだ。本来あの一等地に店を構えるには、権力者または王の血縁者のコネクションが必要なのだが、ベルアートにはそれはなかったので、本来なら不可能な事だ。しかし、それを叶えるための材料が、目の前にある。白金貨二百枚は相当な出費だが、一等地へ店舗を持てるなら安いものだ。
ただ、目の前の青年は、人が良さそうな感じがするも、クリスタルの交渉の時のように、抜け目がない。こういう相手には正直に話す方が得策だ。更にベルアートの思った通り、この青年は異世界人だ。そこをうまく利用するのもいいだろう。
人の良さそうなベルアートだが、その実計算高いのである。
「ベルアートさんには隠し立てしても無駄でしょうから、正直にお話しします。仰る通り、俺はこことは違う世界から飛ばされてきたんです」健人は観念したように、正直に話した。
「やっぱりそうでしたか。先程の不思議な小物入れもそうですが、何よりその黒髪と黒い瞳。まさに勇者カオルのようですしね」
そこはちょっと訂正させてもらおう。
「いや、この髪の色と目の色は偶然の一致です。一応俺がいた前の世界には、色んな髪の色、瞳の色の人が沢山いますよ」苦笑しながら説明する。日本人、というかアジア人の特徴なだけだ。
「ほほう、それもまた興味深い話ですね。もっと沢山お話を伺いたいですが、とりあえずお昼ご飯の呼び出しで来て頂いてますから、続きは後にしましょう」
そうですね、と言いながら、二人で食堂に向かった。