500円玉ブレイブストーリー
また夕方頃また投稿しますm(__)m
「これは本物なのか?」 「まさか、こんなところにあるものじゃないだろ 」
ダンビルさんとカインツさんも、共に五百円玉を見て驚いている。なんのこっちゃ?
「この不思議な文字が書かれた硬貨は、勇者をモチーフにした物語に出てくるんだ」と、ダンビルが健人に耳元で小声で教えた。この世界の人間じゃない事を考慮して、カインツ達に聞かれないよう、気を使って耳打ちしたようだ。て事は、この世界ではそれくらい有名な物語なのか。でもちょっと待った。
それって、勇者とやらが、この五百円玉を持ってたって事? じゃあ、俺みたいにこの世界に転移してきたって事? て事は日本人? 健人が色々な事に疑問を感じ、ブツブツと一人で呟く。
「間違いありません。これは私が昔、伯爵様に見せて頂いた物と全く同じです。硬さ、薄さ、縦型の丸の文字、周囲のギザギザ。これほど精巧な偽物は絶対に作れませんから、間違いなく本物です。そして伯爵様ご夫妻は勇者様の元パーティメンバーなのは有名な話ですので」そんな健人に気づく様子もなく、未だ興奮気味のベルアートが詳細を説明してくれた。
……アクーの伯爵夫妻が勇者のメンバーだった? そしてそれも有名な話なのかよ。そもそも勇者ってなんだ? 勇ましい者? それって単なる荒くれ者なんじゃないの?(注:健人は勇者を知りません)
相も変わらず健人が腕を組み難しい顔で唸っているところで、ダンビルが「とりあえず一旦お開きにして、昼飯にしましょう。良ければ兵の皆さんもご一緒にうちでどうですか?」とカインツに話した。
「おお、それは有難い。ではお言葉に甘えよう」ようやく飯にありつける。そう思ったカインツが、表情をほころばせ感謝の意を伝えた。
「あ、あの、タケトさん。その硬貨なんですが」一方ベルアートがちょっともじもじしながら、五百円玉をどうするのか聞いてくる。余程気になる様子。そしておじさんのもじもじちょっと気持ち悪いです。
「そうですね。とりあえず後でもう一度お話聞いていいですか? それからどうするか考えたいです」と、健人は、一旦売る事を保留する旨を伝えた。
「……そうですか。まあ、仰る通りですね。分かりました。後でお話しましょう。是非前向きにご検討頂ければ」と、健人の言葉に唸りながらも、恭しく頭を下げた。余程手に入れたいらしい。
そんなベルアートの様子を見ながら、またも考え込む健人。うーん。一杯気になる事が出てきた。まずは五百円玉の件。この世界の荒くれ者(注:勇者の事を勘違いしています)が主人公の物語がある事。そして伯爵夫妻がその荒くれ者メンバー(注:勇者達の事です)という事。更に理由は分からないが、ベルアートさんがこの五百円玉を、相当な価値があるからだろうか、めっちゃ欲しがってる事。等々。
とりあえず、皆は一旦保冷庫から出て、カインツはダンビルの家の庭に向かい、待機している兵達に状況を話す事にした。その間に、健人と真白が、前の世界から来ている事を知っているダンビルは、急いで二人を、今健人が使っている部屋に連れて行った。ベルアートには一旦、昼食の準備があるから、と言い訳をして応接室に戻って貰っている。そういえば白いオッサン、応接室でダウンしたまんまでしたね。
そしてダンビルは二人を連れ健人の部屋に入る。それからその部屋の本棚を開け、何やらゴソゴソ探し出した。「お、これだ」と、ある一冊の絵本を二人に見せた。健人が使っている部屋は、元はアベルという名の、ダンビルの息子の部屋だ。そこにこの絵本を保管していたようだ。因みに健人は真面目なので、部屋をあれこれ捜索するといった事はやってない。そのためこの本棚の存在自体知らなかった。
「これがさっき言ってた物語だ」絵本をペラペラ捲りながらダンビルが説明する。言語理解の飴のおかげか字は読めた。ふと表紙を見てみると(魔王を倒した英雄達)ってタイトル。そこには、確かに五百円玉の絵が表紙に描いてあった。
表紙には、ポニーテールのように後ろ髪をくくった黒髪の女性、健人が使っているような大剣を構えた、赤い髪の筋骨隆々の男性、双剣を腰につけた細身の茶色の髪の青年と、そのメンバーには似つかわしくない、白いドレスの青い髪の美しい女性が描かれていた。メンバー達を拒否するかの如く、大きな山のように見える黒い大きな魔物? 黄色い目が描かれているそれに立ち向かう四人、みたいな構図だ。そして黒髪の女性が、手に五百円玉を持って、天に掲げていた。
因みに、その双剣の青年と白いドレスを着た女性が、今のアクーの伯爵夫妻との事だ。
「これが勇者とやらのメンバーですか」荒くれ者だから義賊って事なのかな? と初めて見るこの世界の絵本に感心を寄せながら見ている健人。※ひつこいですが健人は勇者を未だ荒くれ者と勘違いしています。だって知らないんだから仕方ないですよね。
とりあえず読んでみる事にした健人。魔王という圧倒的に強い邪悪な敵を倒すのに、皆が心を一つにして立ち向かったんだぞーっていう、ヒーロー物語的な内容だ。そしてその魔王を倒した後、メンバーの一人一人に、この黒髪の女性が、この世界を離れる前に、五百円玉を、絆の証としてほかのメンバーに渡したと、いう話だった。
何故五百円玉だったのか? そこに書いてある理由は、この五百円玉と同じものは。この世界では絶対に作る事が出来ない、それくらい精巧なものだから、とこの絵本では説明していた。この世界にはこの四枚しかない、この五百円玉を皆で持ち、共に魔王を討伐したメンバーとして、共に仲間を想い合えるように、と、そう書いてある。
更にダンビルの話によると、魔王討伐の後、この五百円玉を似せたものが、子ども達の間で流行ったそうだ。それだけ勇者達の影響が、この世界にはあるらしい。
「どうした? 難しい顔をして」物語を読んだ健人が、首を捻って考え込んでいるので、ダンビルが質問する。
「あのー、勇者ってなんですか?」
健人は疑問に思ったので素直に聞く。なんか荒くれ者とは違うようだ。正義の味方っぽい?
「はあ?」びっくりして変な大声を出すダンビル。「お前……。いや、そうか、お前の世界には勇者っていないんだな」勇者を知らないなんて思ってもいなかったダンビルが、一応の納得はするものの、明らかに呆れた顔をしている。
「はい、いないです」確かにいない。が、健人は知らなすぎなのだ。だってゲームしないしラノベ見ないし。
はあ~、と呆れるように物凄く大きなため息をついて、ダンビルは説明する。「勇者ってのは、この絵本の物語のように、強大な魔王という存在に唯一抗える、とても偉大な英雄の事だ」と。あれ? どうやら荒くれ者じゃないっぽい。良い人だった。あれだ、ヒーローみたいなもんだな。と、そこでようやくようやく合点がいったって顔になる健人。そしてカインツやベルアートの話し方さえにも今更ながら納得した様子。
だが、そんな感心した様子の健人を、真白がジト目で見ています。
「……私でも勇者って何かさすがに分かってたにゃ。理性と知性がある私が分かるって事は、健人様がおかしいにゃ」マジですか。呆気に取られる健人。勇者ってのはそういう凄いヒーローってのが常識なの? て顔してます。
「……まあいい。とにかく、お前が持っていたその硬貨は、そういういわくつきのものだ。この物語に書いてある通り、普通は複製できないし、似たようなのがあったとしても、せいぜい子どものおもちゃだ。それが本物だとベルアートさんが言うなら、それはとても価値のあるものに間違いない」
だからベルアートさんは白金貨二百枚=二千万万円という、破格の提示をしたのか。ベルアートの破格の値付けにも納得言った健人。そして、健人は一つだけ確信した。
この物語に出てくる勇者、黒髪の女性カオルは、間違いなく俺と同じ転移者だ。そして間違いなく、俺と同じ日本人だ、という事を。
そして、この勇者カオルについては、伯爵夫妻に聞けば何か分かるかも知れない。この人はもうこの世界にはいないみたいだが、もしかしたら別の、俺みたいな転移者が、今もこの世界の何処かで暮らしているかも知れない。その可能性が出てきた。
色々考えたい事はあるが、そろそろ下に降りて昼飯の準備をしないと。健人はそう思いながらも、ダンビルと真白と共に食堂に向かった。