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認めたくないものだな。オッサンの、過ちというものを

いつも読んで頂き有難う御座いますm(__)m

 カインツは兵士の報告を聞いて、すぐさま村が見える辺りまで馬で向かった。


 確かに襲われた様子はなさそうだ。村が襲われているなら、家々が破壊され、田畑は荒らされ、村の外にまでも人の屍が散見されていてもおかしくはない。が、カインツが見たそれは、時折鶏の鳴き声が聞こえる、のどかな、のんびりとした村の佇まいだった。


 そしてカインツは、報告があったもう一つの溝も見てみる。さっきとは形が違い、空から見てアーチ状に作られていた。その溝も、先程の長い溝と同じく、中から余り気分がいいとは言えない、何とも言えない臭いを発して、煙が燻っている。死体でも焼いたか? その後ろには穴? が点在している。戦場でよく見る塹壕に見えなくもない。


 これは何かの作戦を実行したのか? 戦の経験が多少あるカインツには、何となくそう思った。が、確信は持てない。本来戦の経験のない村民達が作戦を立てる事など出来るわけがない。冒険者? いやそれにしてもゴブリンの集団を倒せるほどの冒険者が、こんな辺境の村にいるか? それとも何処からか兵の援軍でもあったのか? 


「これはどういう事だ?」神官のグレゴーも驚いていた。「村人は全滅していたと思ったのだが、もしかして緊急の依頼自体眉唾ものか?」


「いや、さすがにそれはないでしょう。緊急に使う風の魔法は、伯爵様のご厚意で各村に置いてあるもの。こういった辺境の村が本当に必要な、まさに緊急の時にだけ、一回だけ使える魔法ですよ。これが嘘だったりしたら、この村の人達全て処刑されますよ」


 ベルアートの言う通りである。なので今回はそれだけ大変な事態が、間違いなく本当に起こったという事だ。


「なら、この状況は一体なんなのだ?」グレゴーが質問するが、ベルアートも、そしてカインツ含め兵の皆も当然分からない。


「とりあえず確認しましょうか。入っても問題ないみたいですし」ベルアートに促され、兵士二十人と三人は村に入った。


 ※※※


「で、奥の方の村長宅に来てみたのですが、グレゴー神官はあの通りですし、諌めるにはカインツ隊長しか無理ですしね。それで私が僭越ながら先にご挨拶に伺ったのです」ベルアートは、村長宅の応接室で、村に入ってきた経緯を話した。


 村長宅の応接室は、この村では一番設備が整っていて、十人くらい入っても問題ないほどの広さだ。真ん中に大きなテーブルが一つ、それを囲むように、木製の椅子が10脚置いてある。一応、偉い人が来ても困らないよう、質素ではあるがそれなりに立派な設備である。そこにベルアート、カインツ、グレゴー、そして健人とダンビルが座っていた。


「全く、何だこの汚い部屋は。もっとキチンと装飾のしてある立派な応接室はないのか」とまたもぶつくさ文句言っている白いオッサン(服と帽子で健人が命名した)は放っておくベルアートさん。もうあの人の暴言には慣れたんだろうな。達観したというか。呆れた顔でグレゴーを見ている健人。


「とにかく、何があったか説明してもらいたいのだが」カインツもグレゴーの小言を無視して、ダンビルに、事の顛末を話すようお願いした。


「そうですね。了解しました。タケト、マシロを呼んできてくれ」真白は食事の後、外着に着替えに部屋に戻っていたので、応接室に来るよう呼びに行った。そして呼ばれて、健人より先に応接室に入っていく真白。


「失礼しますにゃー」真白がやってきたと同時に、「おお」という声を上げて、真白をジロジロ見る白いオッサン。どうした、オッサン? 


「ほほぉ、こんな辺鄙な片田舎に、お前のような美しい獣人がいるとは。よし決めた。お前儂の愛人になれ。今日からかわいがってやる」とニヤニヤしながら、真白の尻をペロンとしようとした。が、相手が悪かった。


 ペロンとしようとしたその手をひらりと躱して、三角巾で固定していない左手で、白いオッサンのその手を掴み、ぐるんとオッサンを一回転させて、床にビターンと倒した。


「何なのにゃ? このエロジジイ」ものっそい冷酷な目でグレゴーを見下ろす真白。真白の視線だけで涼しくなりそうなほど冷たい視線だ。


「あー、真白。それ一応お客さん」健人が呆れ顔で説明する。


「お客さんにゃ? お客さんというのは、いきなり他人のお尻を触ろうとするのかにゃ?」うん。あなたの言う通りですね。


「うん。しない。しないけど、その人はそういう人みたい」うん。俺の説明も多分間違ってない。その人あんまり知らないけど。


「こ、この女! せっかく儂が囲ってやろうというのに、何たる態度だ!」いやオッサン、なんで怒ってるの?


「なんでお前が怒ってるのにゃ? 怒るのは私にゃ」真白さんお前って言ったね。きっと君より年上だよ。そして真白さんの言う通りです。


「あー、あのな」カインツが一連のやり取りを見て頭を掻きながら、「その方はそんなだが一応神官なのだ。グレゴー神官については、後で説明するから、一旦そのナックルをしまってくれないか?」と、とりあえずの説明をする。


 そう。真白さんは既にナックルを力強く握って床にはいつくばってる白いオッサンをまだ睨んでいた。それで何をするつもりだったんでしょうかね? そして俺はいつの間にか、真白さんってさん付けで呼んでますね。だって怖いんだもん。


「すみません。麗しい獣人のお嬢さん。この方のした事については、私が代わりに謝ります。一旦得物を直して頂けないでしょうか?」ベルアートさんが頭を下げる。さすが商売人。鉾の納め方を知っている。


「……我慢するにゃ」真白はようやく落ち着いたようだ。


「こ、この女! 儂のような高貴な者に対してあるまじき行為! ゆ、許さん! 許さ……」と言いかけたところで、真白が首にチョップ。白いオッサンは「グフゥ!」声を出して、泡を吹いて静かになった。


「これポイしてきていいかにゃ?」まるでロボットのような無機質な無表情で、まるでゴミでも捨てに行くように、首根っこを掴んで外に運ぼうとする。


「いやいや置いていけって!」健人が諌めた。


 え~ 、と物凄く嫌そうな顔をする真白を何とか説得して、気を失っているグレゴーをそのままバーンと床に落とした真白。一応ゴミじゃなくて人間なんだから、もっと丁重に扱った方がいいと思うんです。


「でも神官って偉い人じゃないのかにゃ?」真白は心底不思議そうに聞く。俺もそう思う。


「この方は素行が問題になってな。神官を停職になっていたのだ。こうやってここに来たのは、復帰するための更生の一環なのだが……」申し訳なさそうにカインツが話すが、その続きは言えない様子。だが、ダンビルが気づいた。


「要するに、こんな辺鄙な村の緊急要請に応えるには、グレゴー神官が丁度良かったわけですな」


「まあ、はっきり言ってしまえばそういう事になる。ただ、神官を選ぶのはあくまで神殿の役割なので、伯爵様のご意向ではない事だけは分かっておいて欲しい。また、グレゴー神官は、素行に問題はあるものの、これでも光属性持ちだ。怪我人はキチンと治療させるから、そこは安心してくれ」


 すまない、と頭を下げるカインツ隊長。ダンビルは頭を上げて下さい、と慌てて言う。


「まあ、残念な事に、神官の中には、特殊な光属性持ちという事を傘に来て、偉ぶっている人がいるのも事実なんです」ベルアートが神官の実情について話す。「勿論真面目に、民のために心血を注いで治療に勤しんでいる神官もいますけどね」一応のフォローはする。神と名のつく仕事してんのに、さすがは人間というか何というか。まあ、前の世界でも坊主や神主の中には、高級車乗り回してたりしてたのがいたもんな。何処の世界も似たようなもんかもね。


「さて、グレゴー神官の事はさておき、そろそろ詳しく聞かせてもらおう」カインツがダンビルに話するよう促す。


 一悶着あったが、ようやく落ち着いたので、ダンビルが話し始めた。


 ※※※


 話を聞き終わった後、カインツとベルアートは、信じられないという表情をしていた。ダンビルの家の保冷庫にあったそれは、間違いなくオーガロードの死体だ。首と胴体が離れているが間違いない。


 しかも目の前の華奢な黒髪の青年が倒したというのだ。


「き、君が本当に一人で倒したのか? 」カインツが再度確認するように聞く。


「ええ。自分でも信じられませんが、事実です」苦笑しながら頭をポリポリ掻いて健人は答える。


 落とし穴を作って、ゴブリン達がわざと一斉に村に来るようけしかけ、一網打尽にしたという作戦、ゴブリンチャンピオンという強敵を、なんとこの背の小さい、可愛らしい猫獣人が一人で三匹相手にして倒したという話、そしてオーガロードという、とんでもない怪物を、この細身の青年一人で倒したという事、どれも何処かの英雄譚のような、そんな非現実的な内容で、カインツとベルアートは中々受け入れられなかった。しかし、今目の前に、確かに首と胴体の離れたオーガロードの死体がある。そして先程、ゴブリンチャンピオンと沢山のゴブリンの耳を確認している。


 落とし穴、というか、この村に来る時に見つけた溝からの異様な臭いは、ゴブリン達を葬った後、一斉に焼いたという事を聞いて納得した。


 そしてダンビルは今回の討伐の証拠として、村民達に、ゴブリンの耳を全て削いで持って帰るよう伝えていたのが、ここで役に立った。ゴブリン達を倒した証明のためだったんだと、ここで初めて分かった。


「タケトとか、言ったな。ちょっと私と模擬試合やってもらっても良いか?」カインツはとにかくこの非現実を現実にしたい、オーガロードを倒したこの細身の青年の実力を知れば、それも叶うだろう。そんな思いで提案した。真白は骨折しているので見学だ。本人はやりたそうだが、勿論ダメだ。ぷー、と可愛く膨れてもダメだ。


 健人は了承し、カインツ達を引き連れて、ダンビルの家の庭に出た。そして健人は、庭の壁に立てかけてあった大剣を手に取る。


「それが元々ゴブリンチャンピオンが持っていた大剣か」


「ええ、他にも、大槌と大斧もありますよ」素材回収の際持ってきてあるので、後で見せるつもりだ。


 カインツにちょっと見せてほしいと言われ手渡す。しげしげとその切っ先や刃渡り、柄の部分を見る。


「なんでこんな業物が魔物の手にあったんだ?」またもや疑問がわくカインツ。この大剣は鉄製。確かこの大剣を使って、ゴブリンチャンピオンも、そこの青年も戦ったと聞いたはずなのに、刃こぼれ一つしていない。血はふき取られてはいるが、素人だからか、刃を研いだ様子も見られない。なのに切れ味は良さそうだ。間違いない。これはドワーフが作ったものだ。


 とにかくその件は後回しにして、今は目の前の黒髪の青年だ。


「模擬試合とは言え、手加減無用。これでも伯爵様より隊長を任ぜられているので、腕にはそれなりに自信があるからな」


「了解しました。でも期待外れになるかもしれないですよ」苦笑しながら大剣を構える。


 それを見てカインツも構える。二人して右斜め下に切っ先を向けて、足を開いて構えている。うーむ、構えを見るに余り熟練されてない? そう考えつつも、とりあえず戦ってみたほうが早い。


「では行くぞ」そう声をかけてカインツが仕掛ける。それを何とか大剣の腹で防ぐも、カインツのスピードは速い。何とかいなしたり、大剣の腹で防ぐもどんどん追い込まれていく。


「基本は出来ている。が、てんで素人ではないか」期待外れに若干呆れるカインツ。


「今度は君から攻めてきてもらえるかね?」大して疲れた様子もなく、健人に指示するカインツ。


 ようやく終わった、と一旦大剣を地面に突きさし、膝に手を置いて息を切らす健人が了承する。


「じゃあリズム行きます」


 りずむ? 聞き慣れない言葉を発し、向かっていく健人。トントン、ツ、ツ、と呟きながら、振りかぶって上からカインツに大振りに振り下ろす。当然カインツは事も無げに避ける。が、すぐさま今度はしたから斜め上に健人が切り上げる。そして続けざまに斜め上から、と続く。止まらないリズミカルな攻撃。


「ほう」今度は感心する。「面白い間合いだな」


 しかもスピードが衰えない。なるほど、防御はまるでなってないが、攻撃は中々やるじゃないか。


「よし、もういいだろう」カインツがそこで終了の合図を出す。


「なるほど。魔物相手なら、あれだけ攻撃出来れば、幸運も味方にすれば、一撃くらいは入れられただろうな。魔物は我々人族と違い、訓練をしない。攻撃も防御も本能で対応するから、大雑把で隙が出来やすいからな」


 既に息絶え絶えの健人が「だから、奇跡なんですよ」と、疲れ切った笑顔で返す。


 なるほど。今回村の襲撃に備えて、村民達は例の溝の作戦で罠に嵌め、残りを元冒険者2人と、一応戦いの素質のある者で、余りを直接倒し、ボスはそこにいるマシロという猫の獣人が倒す計画だったと。そのためにこの青年には、攻撃の素質はあったので、守りは基礎だけ覚えたのか。


 だが、イレギュラーが、ゴブリンチャンピオン三匹とオーガロードだったわけだが、猫の獣人とそこの青年が、パーティ契約をしていたおかげで、ゴブリンチャンピオン三匹を猫の獣人が倒した時点で、相当な経験値を得、レベルがあがったので、幸運にもオーガロードを倒せたというわけだな。


 ダンビルに一度聞いた話だったが、健人の実力も分かり、ようやく冷静になれたカインツは、今回の一連の出来事を頭の中でまとめていた。


 一方、健人とカインツとの試合を、傍から見ていたベルアートは、行商人なので、冒険者に警護を依頼をして、頻繁に共に各地を転々とする。そのため、大抵の冒険者の実力は、大体何となく分かる。ベルアートは健人の剣捌きに驚いていた。こんな辺鄙な村にここまで大剣を使いこなせる人間がいるとは。


「お手合わせ有難う御座います」ようやく息が落ち着いた健人は、カインツにお礼を言う。


「でも真白のほうがもっと強いですよ」


「そうだろうな」即答するカインツ。「元々獣人は、我々人族と比べ、身体の素質が段違いに高い。だが、マシロのように、それだけ見た目が人族に近い獣人は珍しいけどな」と、獣人について説明する。


 真白は人族に近い方なんだ。他の獣人見てないから分からないなあ。見てみたいなあ。


「私の方が強いにゃ! と、言いたいけど、どうかにゃ~」ちょっと自信がない真白。


「元々の素質が違うから真白のほうが強いって」笑いながら真白に言う。「そうじゃないと、俺守ってもらえないじゃないか」

「そ、そうにゃ! 健人様はもう弱くていいにゃ! 私の存在意義がなくなってしまうにゃ」それに気づいてしまった真白が頭を抱える。


 弱いままってのは、男として嫌だ、そう心の中で呟く健人。だからこれからも強くなるよう頑張るつもりですよ、真白。




 

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