なんか色々来た
もいっちょ投稿します。
夕方頃また投稿しますm(__)m
今日の仕事が終わってから、晩御飯も健人が作った。せっかくヤギのミルクがあるので、チーズはないがクリームシチューを作ってみる。人参や玉ねぎ、この世界にもジャガイモと言った野菜もあって、どうせならイノシシの肉を使って作ってみた。
イノシシの肉の臭み抜きは既にダンビルがやってくれているので、柔らかくコトコト煮込む。味付けに塩コショウしかないのが心もとないが、何とか野菜の旨みを出して誤魔化す。片栗粉がないからとろみはつけれないので、ジャガイモを多めに煮込んでドロっとさせて誤魔化した。
「シチューに浸すか、パンと一緒に食べてください」やや水っぽいクリームシチューの食べ方を、ダンビルにレクチャーする。
「おお! これは初めての味だ。美味い美味い」大層気に入ってくれたようだが、健人は元の世界のクリームシチューを知ってるので、物足りなかった様子。この世界? この村? には、食を楽しむという習慣がないようだ。
そして完食して満足げにワインを飲んでるダンビルに、真白の怪我が治ったら、アクーに行ってみたいと健人は話した。
「そうか……」そう言って暫く黙るダンビル。「まあ、いつかその時は来ると思っていた。分かった。行く時は教えてくれ」そう、笑顔で健人に返したが、ダンビルはどこか寂し気だった。
「ダンビルさんさえ良ければ、またここに戻ってきたいです」と、ダンビルの気持ちを慮った健人が話す。
「ああ、この世界でのお前達の田舎だと思ってくれていい」ダンビルは寂し気な目をしながら、それでも笑顔で、健人の頭をくしゃくしゃ撫でて、そう返した。
本当にダンビルさんにはお世話になった。そして俺も、そしてきっと真白も、ここを離れる際寂しく思うだろう。期間は短いが、ここで過ごした時間は凄く濃い毎日で、正に怒涛のように時間が過ぎた。でも、落ち着いたらやりたい事が見えてしまった。
だから、旅に出たとしても、いつか必ずここに、ダンビルさんの元に戻ってきたい。この世界の俺の原点でもあるんだから。戻ってこようと思う。きっと真白も同じように思っているだろう。一人そんな事を考えながら、これからの旅に思いを馳せる健人だった。
次の日の早朝、いつものように起きて、今日も健人が朝御飯を作り(今日は卵焼きと鹿肉を薄く塩コショウで焼いたもの)、今日もダンビルがウマウマと食べていると、突然ドアをノックする音が聞こえた。
こんな朝早く誰だ? 健人が疑問に思いながら、まだ朝食を食べているダンビルの代わりに出た。
「朝早くに失礼。ここが村長宅で間違いないですか?」茶色のズボンに白いシャツと言ったいで立ちで、背は170cmくらいか?健人のように細身で青い髪に青い瞳の中年男性が、訪ねてきた。
「そうですが、失礼ですがどちら様でしょう?」村民か? にしては身なりが綺麗な気がする。洗練されているというか。
「ああ、失礼。私はアクーからやってきたベルアートという行商人です」と、ベルアートと名乗った男性は、頭を下げた。
行商人、ですか。と健人が言ったその後に、朝食を食べ終えたであろう、ダンビルがドアの入り口までやってきた。
「ほう、都市からやってきた行商人ですか。私が村長のダンビルです」健人との会話が聞こえていたダンビルが、笑顔で自己紹介をして手を出す。
「初めまして。私は行商人のベルアートと申します」と、ダンベルの手を取って挨拶しながらにこやかに握手した。
そのやり取りの後ろ、ドアの入り口から少し離れたところで、大人二人が大声で言い合うのが聞こえてきた。
「ええい! 鬱陶しい! 全く、なんで儂みたいな高貴な人間が、こんな辺鄙な村にこなきゃならないんだ! 」
「だから何度も説明したでしょう? あなたの所業のせいですよ。ちゃんと神官としての仕事さえこなしていれば良かったんです」
と、ベルアートの後ろでギャーギャー朝っぱらから騒ぐ二人がいた。今神官、って言ったような?
「あー、もうまたやってる」ベルアートは呆れ顔でこちらに謝罪する「すみませんねえ。どうもあの神官様が色々問題でして」
様付けしたのに今はっきりと問題だって言ったベルアート。
するとこっちに気づいたその神官様が、ずかずかとやってきた。白いローブのような服装で全身を包まれていて、杖? を持っている。白い、コック帽を低くしたような帽子を頭にかぶっている。ちょっと頬がこけて痩せてて、あ、ゴブリンっぽい鷲鼻だ。
「おい! そんな下賤の行商人より、儂に先に挨拶するのが筋だろうが! 全く、だから田舎者は礼節を弁えないから嫌なのだ」
と、こっちに文句言いに来た。うわあ、典型的な嫌な人だあ。健人が思いっきり引き攣った笑顔をして「そらぁすみませんねえ。んで、どちら様で? 」と、頬をひくひくさせながら、多少嫌味っぽく様だけ強調して聞いた。
「なんで儂みたいな高貴な神官が、一介の村人に名乗らねばならないのだ? 村長はどこだ? 」さも当たり前のように健人には名前を言わない。先に挨拶しろって言ったよね? なんだこいつ?
イラっとしている健人とのやり取りを見ていたダンビルが割り込んで挨拶した。「私が村長のダンビルです。そちらのお名前を聞いても宜しいか?」
「お前が村長か。ふん、儂は王都エリーツの神官グレゴーだ。わざわざお前達の治療にやってきてやったんだ。感謝しろ」
……感謝はしろって命令されてするもんじゃないはずなんだが。命令しないと感謝されない人なんだな、多分。とこめかみに青筋を立てながら、何かを我慢しつつ心の中で呟く健人。
呆れる健人。そしてダンビルも引き攣る。主に頬が。「ハハハ……。わざわざ遠方からの来訪感謝します。と言っても、怪我人は数人ですから、すぐ終わると思いますが」
「え? どういう事だ?」さっきベルアートの後ろでグレゴーと騒いでたもう一人が、突如こっちにやってきた。腰に剣を下げ背中には盾を背負っている。兜は首の後ろに下げている。兵士かな?
「ゴブリンが大量に押し寄せてきたと聞いている。 ここには確か冒険者など殆どいなかったと領主様より伺っているが?」
「ええ。何とか村民達だけで撃退しました。因みにあなたは?」その問いに答えるダンビル。
「ああ、失礼。私は今回アクー領主の伯爵様より、ゴブリンについてこの村に確認するよう、承ったカインツだ。いやちょっと待った。何? 今ゴブリンを撃退したと申したか? 」
「ええ、その通りです」
その言葉を聞いた、カインツと、そしてベルアート、更に偉そうにしていたグレゴーまで、驚いた顔をしていた。
※※※
このヌビル村から伯爵の元に、緊急の風の魔法で、約三百匹のゴブリンの襲来の件と、それに対処するための兵士と神官または光のクリスタルを所望したいとの依頼があったのは、今から一週間過ぎた頃だった。
行商人のベルアートは、その依頼を受けた伯爵が用意した、兵隊と共に移動していた。行商人は点々とする各町や村に赴き、そこで商売をする。が、ヌビル村にはベルアート自身一回も行った事がない。ヌビル村は比較的平和な村で、魔物の襲来も殆どなく、自給自足で事足りている。魔物を狩らない村では、当然魔物の素材などの売買が成り立たないので商売にはならない。そのため、他の行商人も滅多に行く事のない村である。たまにクリスタルを売買したいなどの要請を受ければ行く程度だが、確か情報によると、ここ数年は誰も行ってないはずだ。
ヌビル村の先にある村も同じく、滅多に行商人は行かない。だが、今回その先の村から、久々に商売の要請があった。ついでに、今回のヌビル村からの緊急の要請を受けて、兵隊が行く事になったので、護衛の依頼を兼ねて、同行させてもらっていたのである。
因みに兵士は二十名。それに隊長のカインツ。そして神官のグレゴーと行商人のベルアートというメンバーだった。
「どうせ皆殺しになっておるだろうに、行く必要あるのかね?」神官のグレゴーが馬車の中からブツブツ言いながら、馬に乗っているカインツにまた文句を言っている。
「そうであっても、要請を受けたとあれば行かねばならないのは分かっているでしょう? そして万が一そうであったなら、その遺体を弔わないといけませんし。そもそも、あなたはご自身のお立場を理解されているのですか?」もう何度となく道中文句を言うグレゴーに対し、若干イラっとして窘めるカインツ。
「全く、儂が行く必要があるのか? という意味なのに。分からず屋はこれだから嫌いじゃ」諫められてもブツブツいうグレゴー。
よくもまあ文句が付きないなあ、と半ば感心半ば呆れながら、ベルアートはそれでも、グレゴーの言った言葉には同意する。
「しかしカインツ隊長。グレゴー神官の言う通り、多分ヌビル村は壊滅状態でしょうね」
「ベルアートさん。仰りたい事はよく分かりますが、誰かが、村がどうなったか確認する必要があります。ヌビル村の次の村まで護衛しますので、お手間でしょうが、ヌビル村ではお付き合い下さい」と、軽く頭を下げるカインツ。
「いえいえこちらこそ、助かります」恐縮して同じく頭を下げるベルアート。
都市アクーからヌビル村までは、急いでも一週間はかかる。緊急だという知らせを受けたのが同じく一週間くらい前。という事は、既にゴブリンの集団が村を襲撃してしまっているのは、容易に想像できる。今から行っても間に合わない。しかも辺境のヌビル村には、人口の多い町や都市と違い、冒険者や兵士がいないだろう。なので、戦える者がいないので抗う術がない。既に村が襲撃され、村民達は全滅していると考えるのが普通なのであった。
更に、ゴブリン自体は弱いので、例えギルドに討伐依頼しても、中々冒険者が募らないのが通例だ。たまに低レベルの冒険者が、経験値稼ぎに受ける事もあるが、今回は数が違う。なら、受けられるのはそこそこレベルの高い冒険者となるだろうが、今回のように、弱いが数が多いというのは、単に面倒なだけなので冒険者は最も嫌がる。素材も手に入らないしレベルも旨味がないからだ。
一般的に、ギルドというのは、冒険者と依頼者との橋渡しをやっている。今回のような魔物の討伐以外にも、草むしりや家畜の世話と言った雑務まで受け付けている。もしヌビル村が冒険者に討伐を依頼するのであれば、まずギルドに依頼登録をし、掲示板に添付され、興味を持った冒険者などが、依頼を受諾し、達成すれば報酬の支払いをする、という流れである。しかし、自給自足で暮らしている辺境のヌビル村には、冒険者を募り依頼をし、報酬を支払うだけの金もない。
だから今回、伯爵に直接兵士の依頼があったのだ。アクーの伯爵は人望が厚く、普段から自分の領地の民の事を第一に考えて行動する良主だ。今回緊急の要請を受けて、間に合わないとしても、出来るだけの事はしてやろうという、伯爵の思いもあって、今回の編成隊が出来たわけである。
結局一週間きっちりかかって、ヌビル村の近くまで来た。今はまだ早朝だが、早めに用事を済まして次の村に向かう方が効率がいい。という事で、一行は、朝早いが村に移動を開始していた。しかし、近づくにつれ、皆一様に何か様子がおかしいと感じる。
「隊長! この先に、どうやら大きな溝? のようなものが見えます」先頭を馬で進んでいた兵士の一人が、カインツに報告に来た。溝? カインツは訝し気に首を捻る。
「よし、一旦進行を止めろ。様子を見に行く。お前ら一緒に来い」カインツはそばにいた兵士数名と、報告を受けた溝とやらを馬で駆けて見に行った。村から1kmといった辺りだろうか。舗装された道路を挟んで、左右に300mは伸びる、幅5mほどの溝があった。一体これは何だ? 溝からは何か焼けた、吐き気を催すような臭いが漂って来ている。
そして道の真ん中には、馬が数頭隠れそうな大きな土の壁が立ちはだかっている。
「隊長! 何かが燃えたような跡があそこに見えます」溝を捜索していた兵士の一人が、指さした溝の中を見てみると、人型の何かが燃えた跡が確認された。かなり大きい。2-3mはありそうだ。
「これは一体どういう事だ? 」さっぱり分からない。今度は先の方に行っていた兵士が戻ってきた。「隊長! この先にも同じような溝があります」そして更に驚きの一言を報告する。「どうやら村は無事のようです」
何? 村は無事?