後片付けとワイワイ
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昼食をとった後、ダンビルを含めた三人は、荷馬車を準備し、動きやすい服装に着替え、素材集めのため昨日戦った草原に向かった。暫くして昨日の草原に着くと、既に沢山の村の人々が、ゴブリンの処理をしていた。
事前にダンビルと話し合い、ゴブリンの素材は村のものとし、チャンピオン三匹とオーガロードは、健人と真白で、という事になった。
「お前ら素材とるの初めてだろ? 一緒に行ってやる」ダンビルは二人に付き合って、チャンピオンとオーガロードのところに来てくれた。そしてその亡骸達を改めて見て、その大きさに驚く。戦っていた時は、遠目で見ていたので大きさがよく分からなかったのだ。
「……お前ら、こんなデカいのとやりあってたのか」呆気にとられた顔でそう話す。
「チャンピオン三匹は真白一人でやったんですよ」
「でも、一番強いオーガロードは健人様一人で倒したにゃ」
お互い褒め称え合う二人。マシロ一人でこのでか物三匹を? 更にそれより強いオーガロードをタケト一人で? 呆気にとられるダンビル。
「……お前ら飛んでもなく強かったんだな」呆れたように言葉を吐き出すダンビル。
「いや、俺が勝ったのは奇跡ですよ。真白も助けてくれたし」頭を掻きながら、敢えて偶然であると言い張る健人。
「助けたって言っても、私殆ど何もしてないにゃ。健人様一人の実力だにゃ」またも笑顔で健人を讃える真白。
「しかし、もしお前らがいなかったら、ゴブリンがどうにかなったとしても、このでか物達はさすがに俺らには無理だっただろうな。改めて感謝する」と、ダンビルは頭を下げた。
「いやいや、ほんと偶然ですから、頭を上げてください」慌ててダンビルに言う。
「それと、渡したいものがあるんです。真白」そして改めて真面目な顔で真白に指示する。
真白は黙ってうなずいて、戦いの場に置いてあった、布に包まれたとあるものを拾い、ダンビルに渡す。昨日そのまま倒れてしまった二人は、その布にくるまれたそれを、ここに置いてきてしまっていた。だが、この辺りは誰も来ないので、荒らされる事もない。だから放置していても問題なかった。
ダンビルが首を傾げながらそれを受け取り、布を取ってみる。「こ、これは……」
しゃれこうべだった。真白が最後に倒したチャンピオンの首にぶら下がっていたそれは、金髪がまだ残っていた。
「も、もしかして……」二人の顔を見て再度その骨に目を向ける。
「あの村で金髪ってダンビルさんだけですよね?そしてその骨は、ゴブリンが以前村のそばで襲った人間だと、チャンピオンが言っていました。だから多分、息子さんじゃないかと思って」
「おお……アベル、アベル」ダンビルは恥ずかしげもなく、その骨を抱きしめて、その場に膝をついて嗚咽する。
「すまなかった、俺のせいで、苦しかったろう」恥ずかしげも無く、大声でアベルと叫びながら、そして泣きながら、その骨に謝罪していた。
ダンビルが泣いているその様子を、健人と真白は黙ってみていた。二人とも目に涙を浮かべていた。ダンビルの無念や怒りに呼応したのだろう。亡骸の一部が見つかってよかったと安堵する涙なのか、ダンビルの無念に共感する悲しみの涙なのか、それは分からないが、二人の優しさが溢れ出た結果に間違いはなかった。
自然と真白が健人に寄り添う。今度はさすがに健人も邪険にはせず、頭を抱き寄せ撫でた。
暫くして泣き止んだダンビルが、目にたまった涙をふき取り、二人に向き合う。
「二人ともありがとな。心から感謝する。これで嫁と娘の墓に、息子を入れる事が出来る」ダンビルは二人も目を赤くしている事に気づき、微笑んだ。
「さあ、素材をとるか」そう言ってダンビルは、その骨を大事そうに再度布にくるみ、気持ちを入れ替え、作業を開始するのだった。
ダンビルはナイフを取り出し、いきなりチャンピオンの胸にグサッと刺し、ぐりぐり刃を入れていった。
「ダンビルさん、えーとそれは? 」唐突なダンビルの行動に驚く健人。
「ああ、クリスタルの欠片探しだ」と、慣れた様子でダンビルは言った。
既にゴブリンの素材集めの際、何度もやっていたのでダンビルは手慣れた様子だった。だが傍から見てると、正直とてもグロい。死体を割いて奥の方をナイフでぐりぐりしているその様子に、腹の中から何か上がってくるような気持になるのをぐっとこらえて、ダンビルの作業を見ていた。
「おーあったぞ! クリスタルの欠片だ」長さ5cmくらいの尖った透明なガラスのようなものが、チャンピオンの胸の辺りから出てきた。「じゃあお前ら、他のでか物でやってみようか」
……ですよねー。やらないといけないですよねー。健人は大きなため息をついた。
「ハハハ! そりゃ初めてだと嫌になるわな。鹿やイノシシと同じだと思えばいい」健人がため息をつく様子を見て笑うダンビル。すみません、俺その処理とかもやった事ありません。
「今回はゴブリンみたいな人型の魔物だから、その身体からは大した素材は取れないが、例えば亀の魔物だと甲羅が防具の素材になったり、ワイバーンていう竜に似ている魔物だと、骨や皮が武器や防具の素材になる。素材が取れるように慣れといた方が、後々助かると思うぞ」
そうか。魔物って色々いるんだよな。正直死体漁りなんてやりたくないが、やらないと倒した意味がないのも分かっている。再度ため息をついて、気合いを入れて、ダンビルに借りたナイフで、もう一匹のチャンピオンの胸を思い切ってセイヤっと貫く。既に死んで1日経っているからか、血しぶきは出なかった。お? なんか光る石が見える。
「え? これ……」チャンピオンの身体ほじくり返して確認してみると、なんとクリスタルそのものが出てきた。しかも8角形だ。
「クリスタルが出たにゃー! 」もう一匹の死体漁りをやっていた真白の方からも、クリスタルが出たみたいだ。こっちと同じく8角形らしい。
「ほんとか! そいつは凄い。クリスタルは欠片をエルフに加工しないと作れないものなのにな。たまに魔物から出るって本当なんだな」ダンビルも初めての事だった。「しかも8角形か! 凄いな」そして8角形のクリスタルは、ダンビルも初めて見たらしい。
チャンピオン自体からは、他に取れる素材がないらしい。事前にバッツとエリーヌから聞いていた。そしてダンビルから、全ての耳をそいで持って帰っておけ、と言われたのでその通りにする健人。そして最後はオーガロードだ。
「オーガロードはゴブリンと違って、何が素材になるか分からないから、こいつをそのまま持って帰るぞ。都市にいるやつに聞く事にするから」
なるほど、また風の魔法でも使うのかな? チャンピオンはゴブリン達と一緒に処分だな。了解しましたと返事する健人。
それと、ゴブリンメイジが使っていたクリスタルも回収できた。5角形の土のクリスタルと魔力のクリスタルだ。
チャンピオンもそのままに出来ないので、オーガロードと一緒に一旦荷馬車に乗せた。転がっていた首も一緒に。ただ、チャンピオンが使っていた大斧と大槌は、売れば金になるかもしれないので、それらは持って帰る。そして村人総出でゴブリンの片づけをしている落とし穴に向かう。落とし穴に全部入れて、一気に焼くそうだ。チャンピオンとゴブリンメイジもそこに放り込む。
大量のゴブリンから、クリスタルの欠片が24個取れたとの事。三百匹いて二十四個か。一割も取れないもんなのか。じゃあやっぱりチャンピオンからクリスタルが出てきたのはかなりレアなんだろうな。クリスタルというのは、やはり希少なのだと、改めて知る健人。
そして油がまかれ、火をくべた。まもなくゴウっという音と共に、一気に炎が空へ伸び、3mくらいの炎の壁が出来た。落とし穴、というより、堀になっているそれは、かなり広く長く作っていたので、炎の城壁のようにも見える。
ようやく終わったな。黒煙と共に燃えさかる炎の壁を見ながら、これで本当の最後だと思うと、心底ほっと出来た健人。暫く燃え続けているので、火が草原の草などに燃え移らないよう、数人の村の人達が監視をするようである。その他の人達は、健人達と共に村に戻った。
オーガロードはダンビルの家の地下倉庫に入れ、痛まないように水の魔法の「アイス」を使って、冷蔵状態にして保存しておく。因みに鹿やイノシシもそこに保存していたダンビル。魔法ってほんと、前の世界の電気やガスみたいな活用してるなあ、と改めて感心する健人。
そして夜は広場で宴会である。この世界の宴会ってどんな感じなんだろう? さっそく手伝おうと健人がダンビルに指示を仰ごうとしたら、「お前とマシロは主役なんだから、何もしなくていい」と、断られてしまった。しかし、宴会の時間までまだ数時間はある。
思わず手持無沙汰となった健人は、ダンビルの家の庭に出た。そこには、チャンピオンが使っていた、オーガロードを倒した時に使った大剣が立てかけてある。おもむろにそれを持ってみる。
「一応持てるが……」独り言を言う健人。かなりの重さははあろうその大剣を、片手で持ってみるが、オーガロードを倒した時のように、軽々と振り回せそうにはない。ただ、以前の健人だと、持ち上げるだけで精一杯だっただろうが、今は以前より難なく出来る。
「レベルアップの恩恵だったのか? だとしたら、自分のレベルは一体いくつなんだろうか」
この世界には、レベルというものが存在するが、それを計る方法がない。極稀に存在する「鑑定」スキルを持った人なら分かるらしいが、多分存在しないらしい。それほど稀なスキルである。
バッツには、もう俺には勝てないだろう、と言われた。ゴブリン達との戦いの前には、一度も勝てなかったバッツに、今は俺が勝てるって? そんな理不尽な事があるだろか? 真白とパーティ契約していた事が良かったんだろうが。そう考えると、何だかバッツに申し訳なく思う健人。
あれこれ考えながら、大剣を何度も振ってみる。片手ではちょっと辛かった。やっぱり両手の方がしっくりくる。今度は両手で振ってみる。そして、オーガロードを倒した時のイメージを思い出し、リズムを頭に刻みながら、縦に横に斜めに振ってみる。
一応は振り回せるが、あの時のような鋭さやパワーやスピードはない。
「あれはなんだったんだろうな……」いつの間にかやって来ていた、バッツとジルムがその様子を見ていた。「オーガロードを倒したのはタケトで間違いないな。あんな大剣を振り回してやがる」バッツは健人の様子を見ながら独り言を呟く。
「お、二人ともどうした?」汗を拭いながら、二人に気づいた健人が、大剣を振るのをやめて声をかけた。
「ああ、宴会の準備が出来たから、お前とマシロちゃんを呼びに来たんだよ」とジルムが答えた。そしてバッツは、健人のさっきの剣裁きを見て、ある決意をしていた。
日が暮れて夕闇が近づいていく。徐々に暗くなる中、広場には村民達皆出てきていた。広場には屋台のようなものが、広場の円沿いに数軒作られていた。各家から出してきたのだろうか、ランプが沢山屋台の屋根に飾られていたり、広場の下に置いてあったりして、結構明るい。
そして広場の真ん中には、以前ダンビルが村民達に声をかけた時に使った、朝礼台のような台が置いてあった。
「お! 主役がお出ましだぞ!」村民達が一斉にわああー! と歓声を上げる。健人と真白がその声を聞いて、照れながらヘコヘコ挨拶しつつ応えながらやってきた。
ダンビルが真ん中の台に二人を誘う。台の上に乗るのはダンビルと健人と真白だ。そしてダンビルが風の魔法でみんなに聞こえるよう声を張る。
「みんな! この度は本当によくやってくれた! ゴブリン達は無事全滅した。今回その作戦を考えてくれたのは、ここにいるタケトだ!」
それを聞いて村民達は先程よりも大きな歓声を上げている。
「更に! ボスはなんと三匹いた! しかもゴブリンチャンピオンという、とても強いデカい魔物がだ!それが三匹だ! それを一人で倒したのが、ここにいる小さな獣人マシロだ!」
更に村民達のボルテージが上がって、大歓声になる。真白は恥ずかしそうにもじもじしている。健人はその様子を見て、まるでコンサートで盛り上がる観客みたいだと思っていた。
「そして更に更に! ゴブリンチャンピオン以外に、とんでもない強敵、オーガロードがいたのだ! 普通の冒険者でも到底敵わない難敵だ! だが、それさえも、ここにいる健人が倒してくれたのだ!」
一層大きくなる歓声。健人はコンサートみたいだと思ったら、気持ちが落ち着いたのか、冷静に村民達を見る事が出来ていた。皆一様に頬を紅潮させ、嬉しそうにこちらを見ている。まさかこんな大それた事するとは思ってはいなかった。だが、村を救えた事、自分が力になれた事、役に立てた事が、素直に嬉しかった。
「もうゴブリンはいない! このヌビル村は平和になった! この二人の英雄に多大な拍手を!」ダンビルがひと際興奮した状態で叫ぶと、大拍手と共に唸るような大歓声が響き渡った。
「さあ! 今日は久々の村のみんなでの宴会だ! 楽しんでくれ!」
そうダンビルが声をかけると、皆一斉におおー! と答え、宴が始まったのだった。