ラブストーリーは終わったっぽい
もう一話投稿します。
夕方頃また投稿しますm(__)m
「……」お見舞いに来てくれたのはありがたい。だが、見せつけるんならさっさと帰れと言いたい。
ジルムは自分の部屋のベッドで体を起こして座っている。ベッドの横には、イチャイチャしているようにしか見えない、バカップルみたいな二人がいた。
タケトとマシロちゃんだ。特にマシロちゃんが来てくれたのは嬉しかった。が、マシロちゃんの様子がおかしい。なんかタケトに近い。なんかクネクネしてるし。
今まで見た事もない様子で、それなりに色っぽくはあるんだが、ずっとタケトにくっついている。俺は何を見せられてるんだ?今も二人、ベッドの横の椅子に座っているが、ずっとくっ付いてる。
「なあ、もう帰れよ」来て間もないのに、ジルムがその様子を見てイラっとして言った。
「……言いたい事は分かる。でも、俺もよく分かっていないのは分かってくれ」健人の言っている事もよく分からないジルム。
「健人様が折角来たのに、直ぐ帰れとはどういうつもりにゃ? 」ジルムの冷めた言葉に怒る真白。いやあんたのせいだろ、と心の中で突っ込むジルム。
「一体何があった?」健人に耳打ちするジルム。
「分からん。今日朝起きたらこうだった」困り顔で健人が答える。
二人がこそこそ会話している間も、ずっと健人を見つめてニヨニヨしている真白。
ジルムは真白が可愛いので、よく声をかけていたが、それは健人と真白が、明らかに恋人同士じゃないのが、傍目で分かっていたからだ。だが、今日の真白は、誰から見ても完全に恋する乙女になっていた。こんな真白を見て、健人を羨ましいと思うと同時に、なんか冷めたのだった。
はあ、とため息をつき、ジルムは聞きたい事だけ聞いとこうと思った。「とりあえず俺はこの通り。骨折以外は異常ないよ。それよりもタケト、昨日のオーガロードの事だ」
やっぱり気になるよな、そう心の中で呟いた。ジルムは昨日の帰り、バッツから、あの強敵はオーガロードという名前である事、こんな辺鄙なところには現れない事、また、高レベルの冒険者がパーティを組んで倒すのが普通なくらいの強さだという事を聞いていたが、それを聞いて、ますます健人がどうして倒せたか気になっていた。
健人は自分が思う、倒せた理由、リズム感の事を話した。
「等間隔で韻を踏むんだよ。こんな風に」健人は棒きれを持って軽く机をツ、ツ、タンとリズミカルに叩いてみせた。
「オーガロードと戦ってた時は、このリズムがどんどん速くなっていって、相手の攻撃も躱せるようになってた」
りずむ、とか言うそれが理由なのか? 確かにタケトが棒きれで叩いた、同じ韻を踏むというのは、相手との間合いや自分の攻撃のタイミングで重要だと、以前バッツが話していたが。それにタケトは長けているという事なのか? そもそもそのりずむとやらがうまくできただけで、そんなに強くなれるものなのか? でも、どうやらタケト自身もそれ以上は分からない様子だ。
「もしそのりずむとやらで、そこまで強くなれるんなら、教えてほしいな」ジルムは率直な感想を言う。
「ああ、怪我が治ったら、俺でよかったら教えるよ」健人は笑顔で了承した。
「それと、今日は昼から、昨日の戦いで放置したままの魔物の素材取りと、夜は広場で宴会だからな。お前とマシロちゃんは主役なんだから遅れるなよ」
そうだ。魔物の素材とやらを、死体が腐る前に取りにいかないといけないんだった。こんな辺鄙な村だから、放置していても大丈夫だという事で、とりあえず置いてきたんだったな。クリスタルの欠片とかだろう。それと三百匹ものゴブリンの死体も片づけないといけない。放置していたらそれこそ腐って異臭で大変な事になるだろうし。なので今日は昼から村民総出で後処理だ。
了解~、と手をひらひらと振って、ジルムの部屋を出た。バッツ親子のとこにもいかないと。早速ジルムの家を出て歩き出す。あ、真白、どさくさに紛れて腕組んできた。それを振りほどくと、あ、と声をだしてしょぼーんとする真白。
「あ、あの、健人様……」甘えるような顔で上目遣いで涙目で見つめる真白。ほんとこういう時可愛い子は卑怯だと、何だか腹がたった健人。
「あのさ、誤解されるからそれはダメだ」はっきりと拒絶する健人。はっきりと拒絶しないと自分の理性が欲望に負けそうなのではっきりと拒絶する。健人も別に聖年君子じゃない。
「俺と真白はパートナーなんだろ? そういう誤解される行動は、お互い気まずくなる。今後一緒に行動できなくなる」
バシっと言い切った。「分かったにゃ……」しょぼーんと言う音が聞こえそうなほど落ち込む真白。
健人も前の世界で普通に恋愛もしてるし、彼女もいたし、それなりに経験もしている。バンドマンだったのできっとモテる方だっただろう。だから真白が自分に対してどんな感情を抱いているのか、既に分かっていた。
ただ、これは一種の病気だと思っていたので、バッツ親子のところに行った後、改めて真白に話すつもりだった。
今度は健人の少し後ろを、落ち込んで下を向いたままついてくる真白。しかし今日はほんとコロコロ変わるな。まさに猫みたいだ、と思うと、その様子を見て少し可笑しくなるのだった。
少しするとバッツの家に着いた。ちょうど家の前にいたバッツに声をかける。「よお、元気か?」
「おータケト、とマシロちゃん!」真白が来た事が嬉しくてハイテンションになるバッツ。バッツも真白と同じく、三角巾で骨折した方の腕を首からつるしている。が、真白の様子がいつもと違う事に、ジルム同様気づく。健人を熱い目で見つめながらもじもじしている。
健人に真白の事を聞こうと声かけようとしたところで、エリーヌの声が家の奥から聞こえてきた。「バッツ、お客さん?」
「あ、健人と真白です」健人が開いているドアから、聞こえるくらいの大きな声で挨拶をする。
「まあ、いらっしゃい。遠慮なく入って。私は動けないけど」奥からそう聞こえてきたので、言われた通り遠慮なくお邪魔する二人。訓練で何度も来ているから勝手知ったるってやつである。バッツも二人に続いた。
「なあタケト、マシロちゃんどうした? 」バッツが耳元で小さな声で聞く。
「ああ、病気だよ病気」健人は呆れた様子で答えた。「まあ、今晩広場の宴会の時に話すよ」
病気? あれは病気というより…、とバッツが心の中で呟くと同時に、空きっぱなしになっていたエリーヌがいる寝室に、健人が「失礼します」と挨拶して3人とも入った。
エリーヌは両腕を包帯の様な布でぐるぐる巻きにしていた。両腕は当て木で固定されている。「こんなだから、バッツに家の事してもらってるのよ」申し訳なさそうに微笑んでエリーヌが話した。「バッツも怪我してるんだけどねえ」
バッツには下に二人兄弟がいるが、彼らは普段農作業に手を取られているので、普段は怪我をしているバッツが、その二人は空いた時間に、それぞれ交代してエリーヌの世話をしていた。
とりあえずバッツもエリーヌも、骨折以外は大丈夫な事が確認出来て安心する健人。ただエリーヌは、腕の骨折以外も心配だからと、今度来る予定の神官に診てもらうそうだ。そしてエリーヌも当然、真白の様子に気づいた。
真白は健人に邪険にあしらわれて落ち込んでいる。腕を組もうとして振り払われたので、さすがにジルムの家の時のようにグイグイくっ付く事はしないが、それでも視線はずっと健人を追っている。エリーヌと会話していても、頬を赤らめて健人をチラチラ見ている。
ああ、この子タケトに恋しちゃったねえ、と直ぐに気づいたエリーヌ。そしてベッドに近づくよう、健人にコイコイと手招きする。そして耳元で「マシロちゃんの事どう思うの?」と質問した。
ああ、またこのやり取りするのか、と健人は若干うんざりしながら、正直に答えた。「前から変わらないです。パートナーですよ。それ以上でもそれ以下でもありません」そう答えて言葉を続ける。
「それに、今真白は病気みたいなもんなので、後で言って聞かせますので」
「それって恋の病って意味?」エリーヌが答えると、苦笑して違いますよ、と返す。
「あれ猫特有のもんですよきっと」
※※※
バッツとエリーヌさんはとりあえず安静にしてれば大丈夫みたいだが、やっぱりエリーヌさんは怪我の具合が大きいな。神官とやらが早く来ればいいんだが。多分ここの世界は病院や医者といった類の職業がないんだろう。代わりに神官とやらがそれを担ってるって事だろうな。
そんな事を考えつつも、健人は帰り道、バッツに言われた提案が、ずっと頭の中をぐるぐる回っていた。「タケト、お前村を出て都市に行って、冒険者になれ」バッツは真剣な目でそう言ったのだ。
「お前は思っている以上に素質がある。さっき話してくれた、りずむとやらが強さの秘密なら、それを活かして生活の糧にすればいいじゃないか」
バッツにも昨日のオーガロードとの戦いについて聞かれていたので、ジルムに説明したように、健人はバッツにもリズム感について説明していた。
冒険者という職業がどんなものかは、バッツとエリーヌから聞いていたので分かってはいる。でも健人は自分みたいな、ちょっと前まで素人だった自分に出来るのか、全く自信がなかった。それを言うと「マシロちゃんとやればいいだろ」と、バッツは笑いながら言った。
「お前とマシロちゃんなら最強なんじゃねーか? きっとお前らなら出来る」
確かに今後生活していくうえで、何か仕事をしないといけないとは思っていた健人。もし可能なら、ヌビル村に残ってどこか家借りて、農家やるのもいいんじゃないかって考えてもいたが、正直都市の話や、この世界にはまだ色んな自分の知らない場所がある事を聞くと、元々の旅行好きがうずいてきたのだ。冒険者なら、色んな所を回りながら、稼ぎながら旅も出来る。
ずっと考えながら歩いていくうち、家に着いた。
「健人様、まだ怒ってるにゃ?」そしてずっと黙って後ろをついてきた真白が、居たたまれなくなって聞いてきた。泣きそうな顔で健人を見つめる猫耳美少女。
「ああ、真白。ちょっと話あるから一旦部屋行こうか」と、健人は真白を自分の部屋に誘う。
そして部屋に入って椅子に座ると、おもむろに真白に「真白、今俺の事好きとか思ってるだろ?」とド直球に聞いた。
「ふげ? ふ、ふにゃ? あ、あの、それは、なんで、にゃ?」物凄く分かりやすく狼狽える真白。
その様子がおかしくて吹きだしそうになるが敢えて耐えて話を続ける。
「真白、それは実は勘違いだ。真白のそれは、きっと発情期だ」
「……へ?」真白が健人の意外な言葉にぽかーんとした顔をする。
「真白元猫だったろ? で、人間になって理性と知性を手に入れて、そして今は猫の時の発情期が、恋愛感情みたいな感じで勘違いしてんだよ」健人はきっとそうであると言わんばかりに言い切る。
「だっておかしいんだよ。俺みたいに弱くて何の取柄もない、この世界で言えば魔法持ってない、武器持って戦った経験も殆どない、ないない尽くしの俺に、真白みたいなめっちゃ可愛い子が惚れるわけないんだよ」
真白は健人の言葉を黙って聞いている。
「それに真白獣人なんだろ? なら、人族の俺に惚れるってそもそもおかしいんじゃないか? 獣人は獣人とくっつくもんだと思うぞ?」
健人の言う事も一理あるかも、と思った真白。いきなり惚れるというのは確かにおかしいかもしれない。そして獣人は獣人と繋がる。これもこの世界の理かも知れない。
因みにこれは、健人の勝手な思い込みなのだが。
「どうだ? そう考えたら理性と知性が冷静にさせてくれるんじゃないか? 理由がわかれば対処は出来るだろうから」そう笑いながら話す健人。
「そうか発情期。そうかもしれないにゃ。私確かにおかしかったにゃ」と、今更ながら恥ずかしいと思いだした真白は、顔を真っ赤にしていた。
(でも、あの時健人様をカッコいいと思った気持ち、さっき私を可愛いと言ってくれて嬉しいと思った気持ちは、発情期とは関係ない、って理性と知性が教えてくれてるにゃ)
この言葉は言わず飲み込んだ真白。
「健人様、迷惑かけたにゃ」頭を下げる真白。健人は笑って気にするな、と返した。
その笑顔を見て、真白は胸の奥がチクっと痛くなった。健人がそういう事にしておきたいのであれば、自分もそれに合わせておく。そもそも、健人は守るべき存在なのだし、健人がそれで今後も一緒にやっていきたいなら、受け入れるべきだ。
自分の気持ちより、優先すべき事がある。
健人の今の気持ちが分かって、真白は冷静になれた。初恋と失恋を一気に経験したような感じだ。実際は失恋していないが、それでも真白は割り切れた。割り切れたら女は強い。
そして、発情期だと思うと、確かにそれに近い感覚もあってか、健人への気持ちに対して、冷静になれる自分がいた。だから今後は、健人に対しておかしな行動に出そうなら、発情期だという事にすればいい、そう思った。