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死後の世界なのかどうなのか

「なんやねんこれ……」


 ふと関西弁が出てしまう。健人は過去小学校までは大阪で暮らしていたので、ふと本音を吐いたりする時は度々関西弁になる。それはいいとして、とりあえず何度か「おーーーーい!」とか「誰かーーーー!」と健人は叫んでみるものの、草原なので当然やまびこにもならないし、返事もない。


 健人がどこかの有名ラノベや無料小説サイトで読んでいたら、「ああこれが有名な転生ってやつ?」などと想像出来ただろうが、健人はそういう類には全く興味がなかった。音楽バカの旅行好きなフリーターだから。なので、当然そんな予測も出来ない。それもあって、ただただ混乱していて、どう理解すればいいのか分からないようだ。


 フリーターでのみ社会経験がない健人でも、常識力は多分にある。だからこそ、理屈で説明できない事が起こってしまうと、中々冷静になれなかったりするようだ。


「もしかしてあの世? なのかもな。それが一番合点がいくか」健人の落とし所としては、それが精一杯だった。


 それならそれで、とりあえず行けるとこまで行くしか無い。そう決めて草原に向かって歩きだしてみた健人。自分が死んであの世にいるなら、天国か地獄、どちらか行くために、それを判別する人、というか、神様みたいなものがいるだろうし、そういうのを探すのが正しいかも知れない。とりあえずそう思っておいた。


 暫く草原を歩いていると、今度は舗装されたように見える、土の道が見えてきた。「これが神様に会いに行く道か?」それに沿って歩いていく健人。舗装された道の両側は、木々が生い茂っており、奥へ行けば行くほど、木々が増え森になっているようだ。


「しかし、匂いとか肌に感じる風とか、踏みしめている足元とか、どうも生きてる感じがする……。でも、これが死んだって事なのかもな。死んだ事ないから知らんけど」とりあえず独り言が言えるくらいには、何とか落ち着いてきたようである。


 「ん?」ふと舗装された道を見てみると、()()()()がついているのに気づいた。「これって馬車の車輪の跡? 馬車とかで神様のとこに行く死者もいるのか? じゃあ、馬もそうだけど車で行くやつもいるんだろうな。……これ、人間だけなのか?」辺りを見回しあれこれ思案する健人。「ま、もう死んだみたいだし、なるようにしかならんだろ」ようやく開き直れるようになってきた。そうなったらどんどん道を進むだけである。


 とりあえず自分は死んだ。そう思って、ふと自分の人生二十四年間を振り返ってみる健人。


 やっぱ就職しといた方が良かったかなあ。そういや結婚してないな。でも、こうやって死んだなら、家族はいなかった方が良かっただろうな。バンドメンバーはどう思うか? 猫助けて死んだ健人マジパネェ! かっけぇ! って……ならないよな。


 泣いてくれるとしたら両親と弟くらいだな。猫は助かったんだろうか? 俺が命かけたんだから助かっていてほしいが。確認する術はないけど。しかしアホな事したかもなあ。猫助けて死ぬなんて。そりゃ、命は人間でも猫でも、同等の重さなんだろうけど、世間はそうは思わないだろうし。


 まあでも、あんま悔いはないかな。自由気ままにやりたい事やってきたし、それも別にすねかじりじゃなく、フリーターだったけど自活してたし。趣味の音楽や旅行も自前でやってたから、別に引け目も感じないしな。……結婚はしたかったかも。


 死んだ、という気持ちに対して、ようやく割り切れた様子の健人。


 そうやってあれこれ考えながら、ひたすら道を歩いていく健人。すると、死んだはずなのに徐々に疲れが出てきた。汗が額に滲む。ふと空を見上げると、白い雲が青い空の中をゆっくりと流れていくのが見える。爽やかでもいい天気なのもあって少し暑い。そして忘れていた「空腹」を思い出した。


 「死んだのに疲れるとか腹減るとか……なんでやねん」関西弁で一人ツッコミ。当然、その辺りに生えている草木を食べる気にもならないが。疲れや空腹はとりあえず我慢するしかないようだ。


「ガサッガサガサ」突如、道の左側の木々の奥から物音が聞こえた。生き物? 死後の世界なのに? 若干緊張しながら恐る恐る音のする方に近づいてみる。


 すると「グギギ」っと聞き慣れない声? が聞こえ、いきなり何かが飛び出てきた。


 というより、健人に襲いかかった。


「うわ!」っと声を出し尻もちをつく健人。それが幸いしたようで、飛びかかってきた()()が振りおろした棍棒を躱す事が出来た。


「うわ! なんやこいつ!」尻もちをついたまま、襲ってきた何かを見上げると、身長140cm程の緑色の生き物? 化け物? だった。耳は健人の手のひらより大きく、鼻も巨大で鷲鼻、口が耳の辺りまで裂けていて、涎をダラダラ垂らしていた。目は細目で鋭く赤い。そして麻の様な、服とは言えない衣のようなものを体に纏っている。そしてそれは「グギャア!」と叫びながら、再度棍棒を振り上げ健人に襲いかかってきた。


「やばい!」とにかく逃げないと。本能的にそう感じ、立ち上がって走り出す健人。「グギャギャギャ!」その化け物は叫びながら追いかけてきた。


「やばいやばいやばい!」心の中で連呼しながら、ひたすら道を走って逃げる。すると今度は左側から、別の同じ見た目の化け物が「ギャギャア!」と叫びながら、これまた同じように棍棒を振り上げて襲いかかってきた。


「うわわ!」何とか反応して右に避ける。そのせいで、化け物が振り下ろした棍棒は地面に叩きつけられた。ハッとして健人が後ろを振り向くと、その化け物が、出てきた二匹を含め合計五匹くらいに増えていた。そして「ギギ」と悔しそうな顔をして健人を睨んでいる。


「なんやねんなんやねんなんやねーーん!」つい叫んでしまう健人。もう恐怖しかない。とにかく必死になって逃げる。ああやって攻撃してくるんだから友好的に語り合おう、なんていう連中ではないはず。捕まれば何されるか分からない。きっと良くない事が起きるのは想像できたので、とにかく逃げる健人。


「はぁ、はぁ……ふぅ」どうやら連中は足が遅いようで、どうにかかなり引き離す事が出来たようだ。何とか一息つく事が出来た健人。とりあえずその場にへたり込むように座った。


 だが、「あれは地獄の鬼とかってやつか? それより死んでるのにどうして息が切れるんだ? そういうものなのか?」死の世界だと思っていたここに対して、再度疑問が思い浮かんでしまう健人。追いかけてきた化け物が、とにかくリアルだったし、そして自分はこんなにも、肉体的にも精神的にも疲れているのだから。


「死んだら呼吸とか空腹とか疲労とか、そういうのとは無縁だと思ってたのに」生きている時と何ら変わらない、今感じているその感覚に戸惑う。そして、「もしかして、俺死んでないの?」と、実は死んでいないのかも? という考えが頭をよぎる健人。


 もしそうだったら、それはそれでまた訳が分からなくなってしまう。


 と、座って休憩しながらあれこれ混乱していると、「グギャギャ」と言う声がまたも聞こえてきた。あの化け物達が追いついてきたようだ。正直精神的にもかなり参っていて、良く分からない化け物達に追いかけられるという事もあって、相当疲れてはいたが、逃げないわけにもいかない。重い腰を上げ、膝に手を置き立ち上がり、再び逃げようと、化け物達がやってくる方向と逆方向に、再び走り出そうとした健人。だが、思っていたより相当疲れていたようで、うまく走れず足がもつれてこけてしまい、地面に四つん這いになってしまった。


 しかし、そこでふと目の前に、人影が現れた。


 「ようやく見つけたニャ」


 ……ニャ? 語尾に「ニャ」って……。


後1話くらい投稿しときます。

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