真実を知る者と綾花の変化
久々投稿申し訳御座いません。
※ロゴルド→物語当初から登場していた魔族。筋肉ゴリゴリ。和平反対派で魔薬について人族の都市等に紛れ込み色々してた
ビルグ→物語当初から登場していた魔族。ロゴルドと共に魔薬についての調査等、人族の都市に紛れて行っていた
ヘン→リッチーという骸骨の魔物。レベル80を超える強者。ケーラの姉ナリヤが使役している
シャリア→魔族幹部の一人。魔王ガトーに指示され内密に魔薬等の調査を行っていた。和平肯定派
綾花→前世淵の病で死んだ後、この世界に転移してきた一応勇者。神官ギルバートに洗脳されていたが……。ジルム、バッツ、シシリーらとパーティメンバーになっている。
※※※
「……それは本当なのか?」
「先程俺は協力すると言った。その言葉に嘘偽りは無い。全て真実だ」
ロゴルドから聞かされた、和平反対派がこれからやろうとしている計画の全貌を聞いたシャリアは、信じられないと言った表情となり呆然とする。傍で同じく聞いていたナリヤが使役している魔物、ヘンでさえも、顎をカクーンと外して驚いていた程だ。
だがすぐ、ヘンはカコン、と顎をはめてシャリアに進言する。
「シャリア様。ガトー様は既に捕らえられてしまっているのですよね? では一刻も早く助けに行かないとかなり不味いのでは?」
「ヘン。この際だからはっきり言ってやろう。今からでは到底間に合わない。それにヘンとシャリア様だけが行ったところで太刀打ち出来ないのは明白だ。いくらヘンが強力な魔物だとしてもだ」
未だ拘束されたままのロゴルドがシャリアの代わりにそう言うと、シャリアと共にヘンはそれ以上何も言えなくなってしまった。正にその通りだとヘンも分かっているからだ。
「くそっ! 何と言う事だ……。ああ、ガトー様……アイシャ様……。私の力が及ばず、大変申し訳御座いません……」
床にへたり込み、涙しながら悔いているシャリア。ヘンも同じ気持ちの様で、しゃれこうべの奥に見える紅い瞳が悲しそうにキラリ、と光っている。
「……シャリア様。一旦共にメディーへ向かいましょう。ケーラ様達の協力を仰ぐ方が現実的かと」
「……ケーラ様達の協力を仰ぐ? ヘン、それは一体どういう意味なのだ?」
顔だけをヘンに向けながら疑問を呈するシャリアに対し、ヘンはメディーで起こった事を全て話した。主に、ギガントサイクロプス二体を倒し、アークデーモン約百匹以上を倒したその凄まじい実力を異端無く発揮した健人達の活躍について。ヘンは健人達程の実力者が共に入れば、魔族の都市へ赴きガトーやアイシャ救出が可能となるだろうと思ったのだ。しかもガトーとアイシャはケーラの両親。魔族の都市で起こった出来事を知れば、間違いなく健人達は率先して動くだろうとも考えての提案だった。
だが、シャリアはにわかには信じられない様子。
「ギガントサイクロプス二体にアークデーモン約百匹を、たった三人で倒しただと? ……だが、ヘンが嘘を付く筈も無いしな。しかしそんな途轍もない実力者が、メディーにいるのか」
シャリアは複雑な表情になる。特に、幼い頃から知っているケーラについて。彼女がそこまで強くなっている事が中々信じられなかったのだ。ケーラは小さい頃から活発な女の子だったが、元々そんなに戦闘能力が高い訳では無かった筈。寧ろ姉のナリヤの方が能力が高いと認識していた。
それなのにアークデーモンを数十匹屠ったと言うではないか。しかもメディーの王女リリアムまでもが相応の実力で、そしてその三人の中でも健人という人族一つ抜きん出ているらしい。
ふと、ヘンの話を拘束されたまま傍らで聞いていたロゴルドが、何処か感心したかの様にフッと笑った。
「そうか。あの黒髪の人族はそこまで強くなっていたのか。もしかしたら、奴は勇者なのかも知れないな」
そんなロゴルドの呟きが聞こえたのかどうか定かではないが、シャリアはとりあえず立ち上がり、ヘンに向き直る。
「ヘンがそう言うならその方が良いかも知れないな。分かった。共にメディーに向かおう。どのみち私はナリヤ様かケーラ様、どちらかにお会いする為、メディーに向かう途中だったからな。それに道中ヘンがいれば心強い。ロゴルドの話だと、もう追っ手は来ない様だが、万が一を考えるとな」
それからチラリとロゴルドに目をやってからヘンに目配せをすると、ヘンはシャリアの意図を汲みとり、御意、と返事をしてからロゴルドを拘束していたカースバインドをシュルリと解いた。まさか拘束を解かれるとは思っていなかったロゴルドが驚いた顔をする。
「……いいのか?」
「気にするな。和平反対派の計画を教えてくれた礼とでも思っておけば良い。それに、敵意のない者をずっと拘束しているのも気が引ける。ビルグもメディーに向かったようだが、……まあもし、ビルグが我々を攻撃してくるのであれば、それなりの対応をさせて貰うが」
「礼は言わんぞ」
ロゴルドはそう言葉を残し、元山賊の根城を後にした。それを見送った二人は顔を見合わせお互い頷き、早速メディーへと向かった。
※※※
「……あれ?」
何だか急に身体が軽くなった? 綾花はウインドクッションの上であぐらをかいたまま、自身の体調の変化を不思議に思い腕を上げたりグルグル肩を回してみる。それはまるで、この世界に来た当初感じた、身動き出来ず病床に伏していた状態から開放された様な、とても心地良い感覚だ。今回もそれに似た、フッと脱力し不自由から開放された様な、そんな感じだった。
ふと、ずっと付けていたイヤホンを外そうと試みる。これを外すと急に頭痛に苛まれていたのだが、何故だかもう大丈夫だと言う気がしたのだ。恐る恐るながらそっと外して見る。やはり大丈夫だった。寧ろ何だかすこぶる調子が良い。綾花はつい、ウインドクッションからぴょん、と地面に降り立っち、それからダッシュしたり連続でバク転したりしてみる。更に前世アイドルを目指していた時に良く踊っていたダンスまでやってみた。
「おおー! 身体超軽い! 凄く調子いい!」
完全に自由を取り戻したような不思議な高揚感が何だか不思議に思いつつも、まあ調子良いからいいか、とあっけらかんに割り切った綾花。
そしてひとしきり身体を動かし、心地よい疲労感を感じてからウインドクッションに飛び乗る。それからご機嫌な様子で鼻歌を奏でながら、再びメディーに向けて移動を開始した。一緒に馬を引くのを忘れずに。
「……しかし、そろそろメディーに着くのに、皆全然起きないなあ」
実は綾花はウインドクッションに乗りながら、器用に馬を数頭同時に引いていた。各馬の背にはバッツ、ジルム、リシリーの三人が、未だ気を失ったまま馬上で寝ている。アークデーモンに襲われてからずっとこの状態なので、綾花としては早く誰か一人でもいいから目覚めて欲しいと思っていた。
「とりあえず。あの村に着いたら三人起こしちゃおっと」
魔物に襲われ気絶しているから無理に起こすのは可哀想だと思っていた綾花だが、流石に気絶している時間長すぎだろ、と呆れていたので、村に着いたらもう無理やり起こしてやろうと決めていた綾花。実は三人共気絶しているのではなく、単に寝ているだけだったりするのだが、それにずっと気づく事無く村に進む綾花。
当人の知らぬ間に、ようやくギルバートの呪縛から解き放たれた綾花は、そんな三人の状態でもやはりご機嫌な様子で、メディー前の村に漸く辿り着いた。それから悪目立ちしないよう、ウインドクッションを消してから中に入る。
だがすぐ、村の異変に気付いた綾花。
「……何か静かだな。メディー前の村は人が多くて賑わってる筈なのに」
普段なら活気に満ち溢れ軒を連ねる出店から威勢のいい掛け声が聞こえてきている筈なのに、人っ子一人見当たらない。出店も一切開いていない。。まるでゴーストタウンの如くシーンと静まり返っている。家屋が倒壊している訳でも無いのに静か過ぎて不気味だと感じる綾花。
やや警戒しながら三人が未だ寝たままになっている馬三頭を引きながら、慎重に中に歩を進める。そこへ反対側から一人の兵士らしき男性が馬で綾花の元まで駆けてきた。そして「冒険者か! 生きてたのか!」と嬉しそうな顔で綾花に声をかけてきた。
「……生きていた? どういう意味ですか?」
「どういう意味って……。メディーの惨状を知らないのか?」
惨状? そういや骸骨の魔物ヘンさんが、急ぎメディーに行けって言ってたけど、何か関係あるのかな? 綾花は兵士の言葉に怪訝な顔をする。
「実は私達、ついさっきここに着いたところで何も知らないんですが、何かあったんですが?」
「私達って君一人じゃ……。ってあれ? 馬で寝ている三人は一体何だ?」
「ああ。来る時気を失っちゃって。まだ目が覚めないから仕方なくこうやって馬に乗せて引いてきたんです」
「成る程。そういう事か。まあもし、メディーにいた冒険者だとしたら、そんな綺麗な格好してるわけないもんな。実はメディーで大量の魔物が暴れて大変な事になってたんだ。で、殆どの冒険者が……」
そう言いかけてそれ以上言葉が続かなくなる兵士。そして悔しそうに下を向き拳を強く握る。綾花はその兵士の尋常じゃない怒りの様子を見て、大都市メディーでとても大変な事態が起こったのだろう、と悟り、更に兵士が落ち着いてから、何が起こったか聞き、改めて驚いていた。
※※※
二匹の巨大な緑色のドラゴンは、魔族の都市へ近づく少し手前で地表に降り立ち、そこで人の姿に变化した。それから二人揃って魔族の都市へこっそり侵入する。今の姿は人族と全く変わらないので、現在人族と交流のあるであろう魔族の都市へ入るのであれば、この姿であれば怪しまれる事は無いだろうと二人は判断したのだ。そうで無くてもドラゴンの姿で魔族の都市へ訪れようものなら、それこそ大騒ぎになる可能性が高い。
とりあえず二人は入ってすぐ物陰に隠れ中の様子を観察するが、すぐ異変に気が付いた。あちこちで家々が倒壊し、火災後と思われる黒い煙が立ち昇っている。上空には複数の魔族が空を飛んでいるのが見え、武装した魔族達が広場になっている場所で、何やら気勢を上げているのが確認出来た。
その中の、隊長と思しき一人が武装した魔族達に向かって大声で叫んでいる。
「我々はこれから人族と戦争を行う! 既にメディー王メルギドには宣戦布告済と幹部より聞いている! 我々こそこの世界で最も気高く誇り高き存在! 人族の様な奴隷同然の輩と和平などともってのほか! いいかお前等! 無様な戦いをするんじゃないぞ! 我々は人族を根絶やしにし、この世界の頂点となるのだ!」
威勢の良い口上を聞き武装した魔族達は一斉に「「「「おおーー!!!」」」」と雄叫びを上げている。その様子を物陰に隠れ見ていた二人は、驚いていた顔をして顔を見合わせた。
「……これは一体どういう事なの?」
「なあリエン。俺達一応人族に变化し潜入したが、これも余り良くなかったかも知れないな」
「ガイムの言う通りね。でも竜の姿は目立つし。とりあえず見つからない様慎重に隠れながら、魔王城まで向かいましょう」
そうだな、とガイムと呼ばれた緑髪の男の竜人は、おさげにしている緑髪の女、リエンと共に、魔族に見つからない様、陰から陰へ伝いつつ、魔族達の動向を注意深く観察しながら、魔王城へと急いだ。
出来るだけ近々更新……したいです。





