異変に関わる人達と、奴の最後
※長い間更新出来ず申し訳ありません。暫くぶりなので、今までの振り返りをしておきます。
王都メディーにて健人、ケーラ、リリアムの三人はギガントサイクロプス二体を、神獣となり巨猫化した真白と共に倒す。
ギルド前ではプラムという魔族が使用した魔薬によって、アークデーモンに変えられた神官達が、冒険者達を相手に一方的虐殺をしていたが。ケーラの使役していた吸血鬼モルドーと、後で合流した健人達によってアークデーモン達は制圧される。
一方メディーを目指していた綾花とバッツ、ジルムとリシリー達は、メディーから逃げ出してきた一匹のアークデーモンに苦戦するも、偶然通りかかったナリヤが使役するリッチーの骸骨さん、ヘンに助けられる。
そして魔族の都市では魔王ガトーが妻アイシャを人質に取られ、謀反した七人の幹部達に捕らえられてしまう。
ギズロット→魔族の幹部の一人。メディーに潜入し神官の二人を騙して魔薬を使いギガントサイクロプスに変えた
プラム→ギズロットの部下?
ロゴルド→ギズロットの部下? ずっと人族の都市に潜入し色々調査していた
ビルグ→ギズロットの部下? ロゴルド同様、人族の都市に潜入し魔薬の調査をしていた
シャリア→魔族幹部の一人。ガトーに直接指示され魔薬の調査をしていた。ガトーが捕まった後、謀反した幹部達の部下に追われ、偶然ロゴルドやギルバートのいた元山賊の根城前で気を失う
ギルバート→神官だが性欲の権化。孤児の中から美女を見繕い壊す程性欲を発散させる変態。ナリヤに隷属の腕輪を使い好きなようにし、綾花に対しては魔族からの依頼で魔薬を使い洗脳していた
※※※
魔王城から何やら轟音や爆発音が聞こえてくる。人族との戦争が終わってからはずっと静かだった魔族の都市の中でのその異変に、人外なるその者達が気づかない筈はなかった。
つい先程、魔族の都市の様子がおかしいと長に報告していた竜族の二人は長と共にその異変に気づき、一斉に魔族の都市方面を見つめる。
「やはり何かあったみたいだな」
「絶対良からぬ事が起こってる気がするわ」
長い緑色の髪をおさげに束ねた美しい女性は嫌な予感を感じながら、同じく緑髪で筋骨隆々な男性にそう話し、彼も頷き同意する。そんな、報告しに来たこの二人のやり取りを見ていた、頭は禿げ上がり緑色の髭を蓄えた、痩せ細っているものの眼光鋭く生気がみなぎっている老齢の男性、竜族の長も、その髭を触りながら難しい顔をしている。
「お前達、今から魔王城に向かい様子を見て来てくれまいか? どうやらガトーの魔力がかなり消耗しておるようじゃ。その上他の魔族達の中に、良からぬ動きがあるように感じるわい。何やら不穏な魔力を感じるからのう」
「流石長です。我々若い竜にはそこまで気づけません」
「フォフォ。儂は長生きなだけのただの老いぼれじゃ。お前達も儂程永らえれば自ずと得られる能力だ思うがのう」
「長。それはご謙遜が過ぎます。古の竜である長だからこそのお力かと」
「まあ儂を褒めるのはそこまでにしてじゃ、とりあえず行ってきてくれんか? 儂はこの竜族の里を動けぬからのう。特に魔族に不穏な動きを感じる今、あやつらがこちらに何か仕掛ける可能性もあるしのう」
「分かりました、長。調べて参ります」
二人は共に頭を下げて立ち上がり、すぐさま人型から全体が緑色の全長20mはあろうかというドラゴンに変化し、ヴァサ、と翼をはためかせ大空に飛び立っていった。
「……」
二人の竜が飛び立ったのを見上げながら、竜族の長は自身の禿げ上がった頭をペシペシ叩きながら、傍にある祠を見やる。
「……もしかすると、あれを引っ張り出さねばならぬ事になるやも知れんな。勇者が人族の中に顕れているかも知れぬ。戦争にならなければよいのだが。全く、何故この世は平和が長続きせんのじゃ」
遠い目をしながら竜族の長は、これから起こるやも知れぬ災厄を想像しつつ一人愚痴をこぼしていた。
※※※
「……ん? 行きの時と違う魔族の気配がある?」
颯爽と森の中を向かっていくとある骸骨は、カタカタと歯を鳴らし首……、もといしゃれこうべを捻りながら不思議に思いその方向を見やる。その骸骨ことリッチーのヘンが、行きとは違う魔族の気配を感じると言ったその場所は、ヘンが以前に見つけた山賊達の根城だ。メディーに向かう際行きがけに、ロゴルドとベルグの魔素をキャッチしていたがスルーしていたのだ。
そして今はナリヤに指示され、急ぎ魔族の都市に向かっていたヘン。それはメディーで起こった事をいち早く、魔薬調査を暗に行っていたシャリアや魔王ガトーに伝える為だ。その道中、メディーから逃げ出していた一匹のアークデーモンに襲われていた綾花達を救出していたりしたのだが。
そしてヘンが新たに魔族の魔素を感じたそれは、これから魔族の都市に向かい会いに行く予定だった者の魔素だった。
「……しかも結構弱っているようだ」
ヘンは不審に思いながら予定を変更し、元山賊の根城に軌道修正しそちらに向かった。根城の目の前に来た途端、その中から突如「やめろおおお!!!」と、大きな女性の叫び声が聞こえてきた。これはきっと良くない事が起こっている、そう判断したヘンは躊躇せずバスン、と木の板で出来た根城の壁を大鎌で真っ二つに割った。
「なっ! だ、誰だ!」
「……お前は、……ヘン?」
そこには、一糸纏わぬ姿にされ両手両足を拘束された魔族の幹部シャリアと、ずっと抑えていた己の欲望を、今正に下衆な欲求を目一杯吐き出そうとしていたギルバートがいた。
魔族の都市から追手を躱しつつ出てきたものの、魔力が枯渇し限界寸前だったところでロゴルドとギルバートに捕まってしまったシャリア。彼女も容姿端麗な美しい女性なので、ギルバートはロゴルドの了承を得てから、彼女をおもちゃにしようと意識を失っている間に拘束していたのである。そしてこれからようやく、溜まりに溜まった欲望を満たせると、これから事を成そうとしていたのだ。だがギルバートがシャリアに触れる前に気がつき叫んだところで、突然壁が切り裂かれ、骸骨の魔物が顕れたのである。
当然何事かと驚くギルバートと、同じく驚きはしたものの、味方の登場に安堵の色を浮かべるシャリア。
「ヘン! 来てくれたのか!」
「やはりシャリア様でしたか。と言うかこの状況は一体?」
「私はガトー様に指示され、急いでメディーに向かおうとしていたのだが、途中追手に阻まれ力尽きたのだ。ところが目を覚ましたら、その、こんな姿で……」
そう言いかけて恥ずかしくなってしまうシャリア。つい足を内股にし恥部を隠そうとする。だがすぐ、身動きできないながらもキッとギルバートを睨む。
「それで何故かこの様に拘束され、この神官がいやらしい目つきで、その、……」
魔族の幹部ながら結構初心なシャリアはそれ以上羞恥心が高くなり言葉にならなかった。一方ヘンは、神官? そう言えばその様な姿恰好だな、ともう一人の方を見ると、そこにはグギギと正に怒り心頭な表情で歯軋りをしながら睨むギルバートがいた。
「こ、この骸骨の魔物がああああ!! 折角の僕のお楽しみを邪魔するなああああ!!! ホーリーアロー!」
突如ヘンに向かい光属性魔法で攻撃するギルバート。だがヘンはまるで蚊でも落とすかの様に大鎌をヒュン、と扇風機の如く数回転させると、その光の槍はポキポキと折れて地面に落ちた。
「な、何だと? お前アンテッド系の魔物だろ? 何で僕の光属性が効かないんだ!」
「私を他の低級な魔物と一緒にするな。……そう言えばお前、何処かで見た事があると思ったら、ナリヤ様に隷属の契約をしていた神官だな」
そう呟くと同時に、ヘンのしゃれこうべの奥が赤くギラリと光る。それはまるで骸骨の怒りを表しているかの様。
「な! ナリヤの事をどうしてお前みたいな魔物が知ってるんだ! ……もしかしてお前、ナリヤを攫った吸血鬼と同類か?」
「吸血鬼? そう言えばアヤカとか言う人族も同じ事言っていたな。……そうか。お前が、あのアヤカと言う人族に魔薬を使い、洗脳していたのだな? フン、丁度いい。あの時ナリヤ様をお守り出来なかった私の不甲斐なさを挽回するいい機会だ」
そう言ってヘンは黒い瘴気を自身の身に纏わせる。そして益々骸骨の奥の瞳が紅く光り輝いていく。その禍々しい雰囲気に、ついギルバートは「う、うわわ」と腰が抜け尻餅をついてしまった。が、ふとヘンが発した言葉に驚愕の色を浮かべる。
「おいちょっと待て。今アヤカって言ったか? お前何故アヤカを知っている!」
「何故も何も、道中出会ったからだ。当然向こうは私の事など知らなかったが。私はナリヤ様より話を聞き知っていた、それだけの事だ」
「道中……、出会った? 何でアヤカは僕が洗脳してたのに自由に動けたんだ?」
「知らぬ。因みにまだ洗脳は解けていなかったようだがな……。まあ、あのアヤカという人族のその洗脳も、これから解けるだろう。お前の死によってな。カースパーティカル」
ヘンが魔法を唱えると、体に纏わりついていた黒い瘴気が1mm程の小さな粒状の粒子となり、一斉にギルバートに飛んでいった。それはまるで小さな黒い沢山の虫の様。「う、うわあああ!!」その気味悪さと不気味さに、つい叫んでしまい腰が抜けたまま逃げようとするギルバート。
だが当然、そんな状態で逃げ果せる事など不可能。一気に沢山の虫の様な黒い粒子がギルバートの全身を包み込う。そしてギルバートの口、目、鼻、耳と言った穴から徐々に体の中に入っていく。
「ぐ、ぐるじいいいいいい!!! がああああああ!!!!」
「フン。一思いには殺さん。ナリヤ様を散々苦しめてきた罰だ。せいぜい悶え苦しんでから死ぬかが良い」
喉を掻き毟り苦悶の表情を浮かべながらのたうち回るギルバート。ヘンはその間にシャリアを拘束から解き、傍にあった彼女の服を渡した。
「ヘン。本当に助かった。有難う」
「いえ。丁度シャリア様にお会いする予定でしたので良かったです」
私に会う予定だった? シャリアが服を着ながら疑問に思っていると、騒ぎを聞きつけたロゴルドが慌てた様子でやってきた。
「……ヘン、だと? という事はナリヤ様が近くにいる?」
「ロゴルドか。ナリヤ様はここにはいない。そう言えばビルグの魔素がないな」
「……その言い方だと、俺とビルグが一緒にいた事を知っている様だな」
「ここは私が元々中にいた山賊達を倒しもぬけの殻になったのだ。そして先日魔族の都市からこちらに向かう際、ここを通ったので気付いていた、それだけの事だ」
そうだったのか、とロゴルドが返事したところで、「があああああああああ!!!!」とギルバートが更に大きな叫び声を上げ苦しそうに体の至るところを掻き毟る。よく見るとギルバートの皮膚の中を、無数の黒い粒子が沢山蠢いているのが見て取れる。それが余程の激痛なのか、ギルバートはあちこちを強い力で引掻き、その場所から血が滲んでいる。
「……助けないのか?」
「正直、こうなってしまっては助ける事も不可能なんだろう? どうやらヒールも効かない様だからな」
ロゴルドがため息交じりにギルバートの惨状を冷静に見ている。彼の言う通り、ギルバートはずっと自身にヒールをかけ続けていたのだが、それ以上にヘンの放った黒い粒子がギルバートの体内を壊していくので間に合わない。そのうち、激痛でヒールをかけられなくなり、グルンと目が白く変化し、口から鮮血の泡がブクブクと溢れ出す。
「がああ……、あ……ああ……」
ギルバートの声が途切れていく。と、同時に地面にバタン、と倒れ込み、穴と言う穴から一斉にブシャアと血が吹き出した。そのせいかあばらが見える程痩せこけ、まるでミイラの様になってしまう。それが、ギルバートの最後だった。
そこで突然、シャリアが音速の如く動きでロゴルドの背後に周り体を拘束した。「チッ! しまった!」と呟き抵抗しようとするも時既に遅し。更にヘンが「カースバインド」と唱え、黒い瘴気が綱の様に細長く連なり、ロゴルドの体を縛り上げた。
「そもそもこの人族の神官に、私を好き勝手する様進言したのは、ロゴルド、お前だったそうだな? この神官がそう口走っていた。しかもお前は和平反対派。魔族の都市に居なかったギズロットと、先程ヘンから聞いたビルグの事について色々知っているようだから聞かせて貰おうか。ああ、分かっていると思うが、ここにヘンがいる。それがどういう意味か……、分かるな?」
「……」
ヘンのカースバインドにより拘束され、巨躯で筋肉質なのに全く身動きが出来ない。ロゴルドはジロリとシャリアとヘンを睨みつけるが、逆らう術もなく直ぐに項垂れた。
「……アンテッド最高位にいるヘンの呪いの恐ろしさは、魔族なら誰もが知っている。分かった。協力してやる」
「ほう? 随分素直だな。何か隠しているのか?」
「ケーラ様と一緒にいたとある人族と、リリアム王女に多少の恩がある。それだけの事だ」
大人しくなったロゴルドの言葉を聞いて、ヘンとシャリアは不思議そうに顔を見合わせる。だがすぐ、ヘンは自分達の用事を思い出す。
「シャリア様。そう言えばメディーに向かっていたのでは? そして私も急ぎガトー様にご面会賜る為、魔族の都市に向かわねばならないのですが」
「そうだったのか。……実は、ガトー様は捕らえられてしまったのだ。私とギズロット以外の幹部の謀反によってな。しかも、アイシャ様まで捕まってしまったのだ」
「何ですと?」
使役された魔物は余り感情を表に出さないのだが、そんなナリヤに使役されているヘンでも、つい驚愕の声を出してしまった。そのシャリアの話を聞いたロゴルドが、「始まったか」と呟くのを聞き逃さず、シャリアはどういう意味だ? とロゴルドに質問する。
「魔王ガトー様のやり方が気に入らない、ギズロット様を含む七人の幹部が、人族に宣戦布告をする予定だ。人族とは魔族の奴隷でなければならない、魔族と同等の立場などもってのほか。シャリア様以外の幹部は皆そう思っていた。だからアイシャ様を人質にし、以前拐った大神官に魔薬を与え魔物にし、ガトー様の魔力を枯渇させたところで七人の幹部が捕らえる、という作戦だ。シャリア様のその話の内容だと、どうやら成功したらしいな」
ロゴルドの説明を聞いて、完全に辻褄があっている事もあり、シャリアはそれが真実だと分かって愕然とし、「何て事だ……」と、天を仰ぎ頭を抱えた。
次回更新は……、近いうちに。