戦闘開始
読んで頂き感謝ですm(_ _)m
今日は後1話投稿します。
「よし、行くか」バッツに背中をバンと叩かれ、むせる健人。
「ケホ! いてーな! もう大丈夫だよ!」とやや怒り気味に言い返す。
「その様子ならもう割り切れたようだな」ジルムも笑いながら絡んでくる。
健人、ジルム、バッツ、エリーヌの四人は、ゴブリン達と戦うために、真白の声が聞こえた場所に馬で向かう。
他の男連中は、所定の位置で待機している。ここは村よりおよそ1km程度離れている。その数約五十人。女子どもと年寄り達は、万が一の時のために、避難できるよう、村の広場に集まっていた。いつでも反対側の入り口から逃げられるように準備していた。
「来たか」ダンビル達も準備を開始する。「よしみんな! 作戦開始だ!」と男連中に掛け声をかける。男連中も「おおー!」と気勢を上げる。
真白は村に大声で叫んだ後、再び村の方向に向かって走り出した。そして先に真白は健人達四人と合流した。森の方から走ってきた真白は、ピョンと飛んで健人の馬に跨る。そして真白が走ってきた森から、ゴブリン達が大勢地響きを立て、土煙を上げながら、徐々に近づいてくるのが分かった。それを一旦確認してから、健人達四人と真白は、真白がやってきたように、ゴブリンの集団からつかず離れず村の方向に逃げる。
「よし、真白とも合流できた。ここからが本番だ」バッツの言葉に、他の四人が頷く。
遠目で森の方を見ると、奥の方に一際体の大きい、上位種と思われるゴブリンが見えた。上位種はきっとこの集団のボスだ。遠目で見ているので種類ははっきり分からないが、多分ゴブリンロードだろう。ゴブリンロードは拙いが人の言葉を理解できる、ゴブリンより力がある魔物だ。ゴブリンよりも賢いので、こうやってゴブリンの集団のボスをやっている事が多い。それでも基本欲望に忠実なのは、普通のゴブリンと変わらないが。そしてボス自らが一緒にここまで来ているという事は、まず間違いなく全てのゴブリンが、ここに来ているという事でもある。
単に辺りを探索するだけなら、ボス自ら動く事はない。それが来たという事は、村を襲うという意思表示なのだ。元冒険者のバッツとエリーヌは、今までの経験から、その事を分かっていた。
そしてゴブリン達にも事情がある。既に前の村を襲った時の食料は底をついている。女もそろそろほしい。とにかく欲望を満たしたい。そういう気持ちも相まって、気持ちが急いていたのだ。
「みんな捕まるなよ!」バッツが声を出しながら他の四人を鼓舞する。健人もうまく馬を操り、ゴブリンが届かない10mくらいの距離を保って、村の方向へ逃げる。いつの間にか追いかけてくるゴブリンは相当な数になっていて、百匹はいるようだ。地震のような揺れを錯覚するくらい、地響きがする。これだけの大移動なら当然だ。どうやら真白の先制攻撃がうまく効いたようだ。うまく煽ってくれた。丁度いい感じに怒り狂っているようだ。
こちらは馬なので、ゴブリン達は到底追いつけない。そろそろ100m程距離をとって、ダンビル達が用意してくれた土塀の影に皆隠れた。この土塀は舗装された道路のど真ん中に作られている。土塀は高さ3m、横幅10m程度で、五人が馬ごと隠れるにはサイズギリギリだったがこれで充分だ。
ゴブリン達は何も考えてないのか、怒り狂った表情で、横に大きく広がってどんどん走ってくる。
「いや、あれは多分ボスの指示だろう」バッツが分析する。
「このままこの先にある村を攻め落とそうって考えてるんだろうな。元々襲おうと思ってたんだし、ゴブリン達も多分食料とかそろそろ切れる頃だろうからな。広がって出来るだけ沢山いるように見せかけて、恐怖心を煽るのが、やつらの常套手段だからな。何も考えず突っ込んできている訳じゃないみたいだ」
ま、俺らにとっちゃありがたい事だ、とバッツは笑いながら話した。確かにラッキーかもしれない。土塀の陰でそう話しながら、ゴブリン達の様子をじっと見ていた。
すると突然、前方を走っていたゴブリン達がフッと消えた。そして後続も次々と落ちていく。
「グエ!」「グギャア!」と言った悲鳴があちこちで聞こえる。
よし、うまく嵌った。心の中で健人は呟きながら、拳をグッと握った。
ゴブリン達は落とし穴に落ちたのだ。落とし穴、というより、その(溝)は、奥行き5m、深さ3mほど掘ってある。幅は約300mにも広がっている。落とし穴の中には、先を尖らせた木の杭がいくつも天井を向いて刺さっている。ゴブリン達はまるで自分から入っていくように、どんどん穴に落ちていく。更に後ろを走ってきたゴブリン達も、その勢いで止まれず落ちていく。グサグサと木の杭に刺さって、運の悪いゴブリンはどんどん即死する。絶命しなかったゴブリン達も無傷ではいられない。
ダンビルと共に村民達が総出で準備していたのは、この幅が長い落とし穴だった。
今回の作戦は、ゴブリン達を煽り、一斉に村を襲わせ、落とし穴で一網打尽にするという、シンプルな作戦だ。しかしそれが出来たのは、真白が囮になってゴブリン達を煽る事、この村をゴブリン達が襲う事が前提の、やや賭けに近い作戦だったが、どうやら上手くいったようだ。
この間村民達は、数人が入れる穴、要するに塹壕だが、そこにそれぞれ分かれて隠れていた。塹壕はその幅の長い落とし穴に沿って、村側に点在させていた。乗馬している健人達と違い、村民達は、徒歩で移動しているのでそれが可能だ。そしてそこに潜みながらゴブリン達が落とし穴に落ちていく様子を窺っていた。
「よし! 未だ! 皆やってしまえ!」ダンビルが風の魔法で村の男連中に声を掛ける。わああー! と声を出し、皆塹壕を出て落とし穴に向かう。そして落とし穴に落ちた、まだ生きているゴブリン達を、上からツルハシや木の杭で攻撃する。ゴブリン達は落とし穴に落ちてパニックになっており、更に抜け出そうとしたゴブリンも、いきなり村民達が現れ攻撃してきた事で、更に驚き、慌てふためいて抗えない。結局殆どのゴブリンは、穴の中でどんどん殺されていった。
先発のゴブリン達が罠にかかってやられてるのを見ていた、まだそこまで到達していないゴブリン達は、それを見て一旦走るのをやめた。人間があれだけ隠れていたのにも驚いていた。が、そのうちの何匹かが、村人に攻撃を仕掛ける。
が、一瞬早く、剣がゴブリンの棍棒を止めた。健人だ。そしてゴブリンを躊躇なく横なぎ一閃、真っ二つにした。バッツとジルムは健人のその様子を笑みを浮かべて見ていた。もう大丈夫そうだ。他のみんなも村人を襲うゴブリンを倒しに行った。
この時点でゴブリンは一気に百五十匹くらいは倒せたようだ。しかしまだ半数くらい残っている。
ゴブリン達の進撃が止まったのを確認して、「引くぞー!!」と風の魔法で全体に声をかけるダンビル。そして村民達はゴブリンへの攻撃を一旦やめ、一斉に、更に村の方向へ走って逃げた。健人達も馬に乗ってそれに続く。
今度は村から500mくらいの所まで皆んなで走って戻る。そこにも同じく塹壕を複数用意していた。さっきは横一線に、落とし穴に沿って20mくらいの間隔で塹壕を作っていたのだが、今度の塹壕は5mおきくらいに、地面を上から見てアーチ状に点々と作られていた。村民達は急いでそこに逃げ隠れる。
一方罠にはまったゴブリン達の様子を見て、一旦追撃をやめていた残りのゴブリン達は、罠はこれで終わったと判断し、再度村民達を走って追いかける。自分達の数が減ったとは言え、村民達はどうやら五十人くらい、こちらはまだ百五十匹はいる。充分に村を襲える。そう判断したのだろう。「グギャギャア!」気勢を上げ、またも土煙をもうもうとあげ、地を響かせながら、村民達が隠れたほうに追撃しに行く。
ダンビルが慎重に塹壕からゴブリン達の様子を窺う。そして風の魔法の用意をする。そろそろ頃合いだ。
「よし! みな一斉に出て武器を構えろ!」魔法を使って全員に声をかけるダンビル。
すると村民達は皆塹壕の前に出て、各々の武器を持って構えている。まるで迎え撃つかのように。
今度はさっきと違い人間達は戦うようだ。やはり罠はないようだ。さっきのように穴は見えない。これなら数的有利なこっちの方が余裕だ。ニヤァと耳のそばまで口角があがるゴブリン達。そしてゴブリン達は一斉に村民達に襲いかかった。
すると、またもや村民達を襲ったゴブリン達が目の前で消えた。後続も多分に漏れず続々と落ちて行った。
「ゲ?」「グギュ?」ゴブリン達はまたもやパニックになっている。
そう、またもや落とし穴だ。先程とは違い、今度は穴の上に藁を引いて、その上から土をかけて隠していたのだ。そしてそれはアーチ状に作った塹壕の前に作ってあった。アーチ状に連なった溝になっていた。
最初の落とし穴はゴブリンの特徴を活かし、大勢で一斉に横に広がって襲ってくるのを見越して作っていた。ゴブリン達は、集団で一斉に村を襲う時は、出来るだけ沢山いるように見せかけるよう、相手を怖がらせるよう、横に広がってやって来る。なので出来るだけ沢山落とすため、最初の落とし穴は横に広く作った。
落とし穴に落ちても、ある程度は生き残る事を想定し、そのために塹壕を等間隔で横に作り、村民達を潜ませ、生き残ったゴブリンを攻撃するというのが一回目の落とし穴の作戦。
二回目は、村民達の姿が既に見られている事を想定して、出来るだけこっちを襲ってくるように仕向ける。アーチ状になった落とし穴の溝を作り、その後ろに5mくらいの等間隔で塹壕を作り、ゴブリンがある程度近づいてきたところで、村民達が姿を現し、ゴブリン達を迎撃すると見せかけて、わざと攻撃させ、落とし穴に誘う。一回目で落とし穴を見られているので、二回目はバレないよう藁をかぶせその上に土をかぶせて隠す。最初とは違い出来るだけ狭い範囲の落とし穴にしている。これが二回目の落とし穴の作戦。
さすがに賢いとは言えないゴブリン達には、二回目のそれに気づけなかった。さっきと同様パニックになるゴブリン達。中の構造もさっきと全く同じ、木の杭の尖った先を上にして刺してある。先に落とし穴に到達したゴブリンが落ちていき、さっきと変わらず後続もどんどん落ちていく。今度は村民達もダンビルの指示もなく、皆一様に穴の中のゴブリン達を攻撃していった。
そしてここからが四人の役目だ。四人は落とし穴に気づき、落ちなかったゴブリン達を次々に退治していく。ジルムは盾でうまくゴブリンの棍棒を防ぎ、ショートソードを首に刺して絶命させる。エリーヌは四匹一斉に攻撃してくるのをひらりと交わし、横から上から、または後ろからナックルでピンポイントで急所を突き、倒していく。バッツは斧を、自分中心に扇風機のように回転し、ゴブリン達をどんどん屠っていく。健人は出来るだけ複数のゴブリンに囲まれないよう、一対一になって、一匹ずつ慎重に、でも1撃で倒せるよう、頭や首を狙って攻撃していった。
「よし! マシロちゃん、行ってくれ!」バッツが叫ぶと真白は頷き、ボスのところに走っていった。