どうやらメディーの外でも一騒動ありそうです
いつもお読み頂き有難う御座いますm(_ _)m
ブックマークまでしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(_ _)m
※更新が遅くなり申し訳ありません。
※※※
ツトル村からメディーに向かう道中にいる綾花達。ツトル村ではゴブリンから出たクリスタルの欠片と、更にゴブリンジェネラルを倒した証拠の牙をも売る事が出来て、相当な収入を得たのでバッツ達はホクホク顔だ。
彼らはお世話になったツトル村の宿にお礼を言い、一緒に連れて帰ってきた姉弟にもお別れを言って、既にツトル村を出てメディーに向かっていた。道中、綾花は相変わらずウインドクッションで移動しているが、メディーのアグニ入り口前の村に近づいたら、リシリーが操る馬の後ろに乗せて貰う予定だ。悪目立ちしたくないのである。
「そういやメディーって俺初めてなんだけど、アクーよりデカイんだよな?」「そりゃそうだ。王都だしな」
「アヤカはメディーにいたんだっけ?」「そうだよ。で、前まではアグニにいたんだ」
「一人で?」「いや、パーティ組んでたんだけどね」そう言いながら、ギルバートとロゴルドに黙って出て来て大丈夫かな? と今更気になる綾花。でももし追いかけてきたとしても、ギルバートは追われる立場だから、多分ツトル村には入れないだろうし、これから向かうメディーは尚更入る事は不可能。そう考えたら、今生の別れだなあ、と思う綾花。
よくよく考えたら、ギルバートには特に世話になった覚えもない。単に一緒にいただけ、というより、寧ろギルバートが自分勝手に行動していたのをサポートをしていたようなものだと思い返す綾花。いつもどこで何をしているか知らないが、毎度散財しては、綾花に討伐依頼を受けて報酬を得てこい、と命令するだけの関係。そんな状況だったにも拘らず、何故自分が文句も言わず、ギルバートの言う通りに従っていたか、今更ながら不思議に思っていたりする。
「……やっぱこれかな」未だ耳から外していない、ブルートゥース対応の白いイヤホン。ずっと付けていたのもあって少し痒みも感じる。なので一旦外してみた。すると、
「ウグッ、クッ」いきなり吐き気と頭痛が綾花を襲いその場で頭を抱える。突然の綾花のその様子に、リシリー達は驚いて馬を降り、綾花の元に集まる。
「どうしたのアヤカ?」「大丈夫か?」「もしかして病気か?」心配した皆に返事せず、その場でずっと蹲っている綾花。
「グ、ギ、ギルバート様の元に、戻らないと」今度はそう呟きながらフラフラと立ち上がり、一人何処かに行こうとする綾花。
「ちょっとどうしたの? アヤカ待って!」「バッツ!」「おう!」リシリーが引き留めようとするも間に合わないので、バッツとジルム二人でダッシュして綾花の両腕をそれぞれ捕まえた。
「離して! 私行かないと!」「どこ行くんだよ!」「そうだよ! アヤカちゃんは俺達のパーティーメンバーだぞ!」そう言いながらジルムは、綾花の手に握られている白い紐のようなものを見つけハッとする。そういやアヤカちゃん、これずっと耳に付けてたよな?
「バッツ! アヤカちゃんの手を抑えろ!」「え? お、おう」ジルムに大声でいきなり指示され、驚いた様子のバッツだったが、とりあえず言う通りに綾花の腕を抑えた。
「何すんのよ! 離さないと魔法使うよ!」そう言ってもう片方の手に持っている、白銀のハートが付いた杖を振り上げようとした時、ジルムは綾花の手からイヤホンを取り上げ、急いで両耳に付けた。
「これでどうだ?」「……」さっきまで騒いでいたのが嘘のように、今度はいきなり沈黙し、その場でペタンとへたり込む綾花。そしてリシリーが綾花の両肩を持って揺さぶりながら声を掛ける。
「アヤカ! 大丈夫? いきなりどうしたの?」「えっと……」さっきまで綾花を襲っていた頭痛と吐き気が急に収まり、綾花自身、何だかわからないと言った風にキョトンとしている。
「ご、ごめん。どうやらもう大丈夫みたい」「そ、そうなのか?」「確かに顔色も元に戻ったみたいだね」そしてバッツとジルムが差し出した手を借り、ややふらつきながらも立ち上がる綾花。
「なあアヤカちゃん。その白い紐みたいなの、外さないほうがいいみたいだよ」「そうみたいだなあ。ジルムがそれ付けたら収まったもんな」だが、二人の言葉に返事せず、綾花は何故このイヤホンが、自身の体調不良の抑止効果があるのか、ただただ不思議に思っていた。
「そうね。理由は分からないけど、一応私がアヤカと一緒にいて、それが外れないよう見ておくわ」どうやら問題なさそうなので、安堵の色を浮かべながら、リシリーがニコっと綾花に微笑む。それを見て綾花もありがとう、と返した。
そこへ、突然ツトル村とは反対側のメディー方面から、慌てた様子で馬に乗った青年が入ってきた。
「大変だ! メディーで魔物が大量に発生したらしい!」
※※※
「もうちょっとゆっくりしていっても良かったんだぜ?」「そうだよ、アヤカちゃん。何だか調子悪いみたいだし」
「ありがとう。でももう何ともないから。メディーで魔物が大量に現れたっていうのも気になるし、急ぎたいしね」バッツとジルムの心配する声かけに、微笑み返す綾花。その傍らには、同じく心配そうに見ているリシリーもいる。
綾花達がメディーに向かう最中に出会った青年によると、以前、魔族が魔物を引き連れ、人族を襲ってきた時のような、混乱ぶりが再びメディー内で起こっている、という話だった。綾花は特に、メディーには友人のナリヤがいる事もあって気がかりで、急ぎたいと思っていた。
「私はもう大丈夫! とにかくメディーが大変な事になってるみたいし急ごうよ」「まあ、アヤカがそう言うなら」
気遣う彼らに綾花は敢えて、笑顔を見せながら声を張り上げる。相変わらず心配そうなリシリーだが、本人がそれだけ言うならもういいか、といった表情で馬を進める。
心配する三人に気を使わせまいと、元気な様子を見せる綾花。ふと前を見ると、舗装された道の真ん中に、何やら紫色の、直径2mはありそうな岩の塊のようなものを発見した。
「なんだろあれ?」「岩? にしては何だか生々しいような?」「とりあえず見てくるわ」
バッツが率先して先に馬でその紫色の塊の辺りまでやってくる。途端、ドン、と音がしてバッツが吹き飛んだ。
「え?」「どうしたバッツ!」
慌てて三人がバッツの元に集まる。その途中、今度は紫色の塊から腕が生え翼が生えた。いや、正確には紫色の魔物が、背を向けて座っていただけだったのだ。
「ギャギャギャ! 四人もいるゾォ~」耳のあたりまで裂けた口でニタリと嗤うその魔物。
「ジルム! リシリー! 魔物だ!」「ああ!」「そのようね!」
どうやら先程の一撃でバッツは気絶したようだ。仕方なく三人は、バッツを守るよう、魔物と対峙する。そして早速綾花は(鑑定)を使った。
名前:アークデーモン
性別:男
年齢:不明
種族:魔物
種類:デーモンの劣化種
レベル:65
HP:35000/35000
MP:500/500
経験値:不明
状態:良好
特殊技能:人や動物を食い能力を向上させる。また、女と生殖行為を行い繁殖する。飛翔可能。
「レベル……65?」「どうしたのアヤカ?」
「私鑑定が使えるんだけど、この魔物、アークデーモンって言うんだって。しかもレベル65」「……え?」
今の綾花のレベルは52。実はモルドーと戦った時か、余り変わっていないのである。というのも、ずっと一人で金稼ぎのために魔物討伐をしていただけなので、レベル上げより金策として効率のいい、弱くて沢山いる魔物ばかりを相手にしていたためだ。
しかも、バッツとジルムは未だレベル50に達しておらず、リシリーに至っては未だレベル40程度なのだ。先日遭遇した、骸骨の魔物ヘンが倒したゴブリンジェネラルよりも強い。
「まずい! 私達じゃ絶対敵わないよ!」「で、でもどうする?」「そうよ、あっちは既に私達を襲おうとしてるわ」
しかも背後には未だ立ち上がる気配のないバッツが寝転がっている。どうやら脳震盪を起こしているだけで、大怪我をしているわけではなさそうなのは不幸中の幸いだが。
「ジルム! リシリー! 私がアークデーモンを引きつける! 二人はバッツと共にメディーに向かって!」
「そんな! アヤカを置いていけるわけないわ!」「アヤカちゃん、俺も残る。リシリーちゃんはバッツを連れて逃げてくれ」
でも、とリシリーが言いかけたところで、紫の塊ことアークデーモンの姿がヒュッとその場から消える。実は高速移動しただけなのだが、三人は目視出来ない。ただ、いなくなったのはわかったので、三人は必死に辺りを見回す。
次の瞬間、「きゃあ!」と、リシリーの叫び声。「リシリー!」「しまった!」リシリーはアークデーモンに捕まってしまっていた。
「ギャギャ! 美味そうな女ぁ~」ボトボトと耳まで裂けた口から涎を垂らし、後ろ手に捕まえているリシリーをニヤニヤと見つめるアークデーモン。そしておもむろにリシリーの皮の装備を引き剥がした。
「この! ファイアストーンショット!」綾花は焦りの表情を浮かべつつ、火属性と土属性をミックスした魔法を繰り出す。約1m四方の大きさの岩の塊を顕現し、それに炎を纏わせ火力を増したのだ。それをアークデーモンめがけて飛ばした。
「ギャヒヒヒ!」しかしアークデーモンはリシリーを抱えたまま余裕で躱す。「クッ! まだまだあ!」しかし綾花はミスリル製の杖の、大きなハート型をグイと引き戻す動作をする。すると炎を纏った岩は空中で急停止し、またもやアークデーモンに飛んでいった。
「ギョヒ?」驚いた顔をするアークデーモンだが、それも難なく躱す。更に綾花が杖で操るように動かすと、またも岩は空中で旋回し岩はアークデーモンを襲う。
「ギョヒヒ! 邪魔臭い」イラっとした口調で言葉を吐き、アークデーモンは抱えていたリシリーを一旦地面に置き、飛んでくる炎を纏った岩をガシイ、と両手で受け止めた。
「受け止めちゃうの?」驚く綾花。だがすぐに、「ジルム! 今のうちにリシリーを!」と大声で叫ぶ。綾花が繰り出す見た事もない魔法攻撃に、呆気にとられていたジルムだったが、その一声を聞いて我に返り、急いでリシリーの元へ駆けつけ、何とかリシリーを奪取した。アークデーモンに振り回されたからか、リシリーは気絶していたので、ジルムはリシリーを背負ってその場を離れる。
一方炎を纏った岩を受け止めたままのアークデーモンだが、その熱で耐えきれずブンと放り投げる。そして、さっきまで抱えていたリシリーがいないのに気がつくと、「ギヤアアア」と腹に響く悍ましい声で怒りを顕にした。
その声に恐怖しながらも身構えるジルムと綾花。後ろには未だ動かないバッツとリシリー。明らかにこの二人では戦力不足だ。
どうしよう。このままだと全滅してしまう……。そう心の中で呟く綾花。彼女はこの世界に来て初めて、死を覚悟した。





