最強のパーティ
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「成る程。じゃあ俺みたいに直接攻撃しないと無理みたいだな」
「マシロさんの神獣効果だっけ? 今は使えないもんね」「そうね。なら付与しましょう」
そうだね、とケーラが返事し、「シャドウラップ」と唱えた。ケーラの腕と脛に黒い瘴気のようなものが纏わりつき、それがブブブとケーラの脛辺りで細かく振動している。リリアムも「ホーリーインベスト」と唱え、おもむろにダガーを両手に持つ。その手の甲の周りに光の粒子がキラキラと纏わりついた。
「おおー、なんかかっこいいな二人共」
「そうでしょー?」「ウフフ。タケトには負けていられないものね」健人が心から感心している様子に、やや頬を赤らめ嬉しそうにするケーラとリリアム。
このアークデーモン達は元神官。であれば、光属性も闇属性、どちらの魔法も効かないだろう。なら、魔法自体でダメージを与える事を諦め、自身の攻撃力や俊敏性を上げるために、光属性または闇属性を使おうと二人は考えたのである。
因みにケーラのシャドウラップ、リリアムのホーリーインベストは、共に魔力で身体能力のベースアップする魔法である。そしてこの魔法も、レベル80を越えないと使えない。
そんな風にどこか暢気に三人会話している様を、不意に攻撃を食らったアークデーモン達が一斉にギロリと睨む。そして各々殺気を放ち、「ギャアア!」「グラアアア!」と怒号を上げながら一斉に襲ってきた。
「よしやるか」「了解だよ」「ええ」襲い掛かってきたのを合図に、一斉に臨戦態勢をとる三人。アークデーモン達の殺気は相当なもの。一般の冒険者であればその場で竦み身動きできないだろうが、三人は全く気にする様子もなくすぐさま散開する。そのスピードはおよそ人のものとは思えない程の速さ。アークデーモン達が飛び掛かった場所には、既に三人共忽然といなくなっていた。アークデーモン達は「ギュエ?」「ギョホヘ?」と不思議そうにキョロキョロしている。
刹那、ドン、ドン、と鈍い音が響き渡り、「グオフェ?」「ゲヒャア?」と苦痛の叫びを上げながら、アークデーモン達が各々散り散りに吹っ飛ぶ。その頬やこめかみを歪に陥没させながら。そしてバン、バンと地面にバウンドし、ゴロゴロ転がるアークデーモン達。
更に上空から黒い影。「うりゃあ!」ケーラの雄叫びと共に黒い闇を纏った腕に持つトンファー二つを、自身の体重をも加味して一気にアークデーモンに叩きつけた。「ゴアアア!」アークデーモンの額から上が破壊され脳漿が迸る。そしてアークデーモンは程無く事切れた。だが、アークデーモン達も黙ってやられているわけではない。殺されたアークデーモンに未だ跨っているケーラの背中へ、数匹のアークデーモンが怒りの表情を浮かべ、一斉に爪を立て襲いかかった。
だが、その場からフッと消えるケーラ。すかさずアークデーモン達の後方へ回り込み、またもこめかみ目掛けて「うらあ!」とトンファーを力一杯打ち付ける。更に「しゃあ! おらあ!」とまるでヤンキーのような掛け声と共に、次々とアークデーモンの顔面やこめかみめがけて、闇魔法で纏った腕や脛を使い、トンファーや脛のオリハルコン製レッグガードで攻撃を続ける。
「ゴヒャ!」「フベッ!「アベシ!」各々地面に叩きつけられるアークデーモン達。まだまだケーラの攻撃は終わらない。「ラッセィ!」と男前な掛け声と共に、両手に持ったトンファーを思い切り、目の前のアークデーモンの額目掛けて打ち込んだ。ゴパァン、とハンコを押したような丸い陥没穴二つを額に付けながら、数メートル吹っ飛び、壁に激突。当然絶命した。
一方リリアムを追って空中から攻撃を仕掛けるアークデーモン達に対し、「シャイン」と唱えダガーを持つ手から眩い光を放つ。「ギュア!」「ギャハア?」暗闇の中突如光った閃光に、つい目を瞑ってしまうアークデーモン達。その隙に手に纏わせた光の粒子がキラキラとより一層光り、その手で持つダガーで頸動脈をスッと流す。ブシャアブシャアと鮮血がアークデーモン達の首筋から迸り、その場でバタンバタン、と次々地面に倒れ、絶命していった。
「すごいな二人共。俺守らなきゃって以前は思ってたけど、もう必要ないんじゃないか?」二人の圧倒的な戦いぶりにひたすら感心している健人。実は健人にも同様に、アークデーモン達が容赦なく襲いかかってきているのだが、既にレベル80以上の健人は歯牙にもかけない。まるでゴブリンを相手にしているかの如く、いなしながら刀で叩き切っている健人。
そうしていくうち徐々にアークデーモンの数が減っていく。先程、ここにやってきてすぐさまアークデーモンを攻撃を仕掛けたモルドーは、三人の圧倒的な戦いぶりを、上空から感心した様子で眺めていた。
「ふむ。三人共この暗闇でも問題なく戦っている。どうやら気配も感じ取る事ができるようになったようだな。……ケーラ様まで、私と変わらぬ強さを手に入れたわけか……え? それってもしかして……」私不要なのでは? 使役解除されたりする? と、ふと良からぬ想像をしてしまい、顔がサーと青くなる吸血鬼さん。吸血鬼なので元々青いのだがそんな雰囲気。
「む?」だがそんな暢気な様子もすぐさま真顔に変わる。健人達とやや離れた場所に未だ状況が理解できていない、満身創痍の状態でへたりこんだままのグオール達へ、アークデーモン達が再び襲いかかったのだ。モルドーはすかさず上空から一気に地面に移動し、グオール達の目の前に立ち塞がった。
「モ、モルドー殿?」グオールが声を掛けるもそれに返事せず、モルドーはバッと黒い翼を一気に左右計4m程にまで大きく広げる。「ゲアアア!!」そしてアークデーモン達に向かって咆哮。ドン、という大きな音と共に、広げた翼から黒い水がドドド、とまるで滝のように一気に迸った。「ギュヘエ?」「ヘゲア?」突然大量の、黒い鉄砲水に打ち付けられ、ドバーン、と吹っ飛ぶアークデーモン達。
「生き残りはお前達だけなのか?」
「え? あ、ああ。残念ながら」
そうか、と呟きながら、夜目の効くモルドーは改めて辺りを見渡す。ギルド本部前は血の海。あちこちに人の臓物や腕や足などが散乱しているのが見て取れた。死体と血の匂いが辺り一面充満している。……なんとまあ香ばしい香り。とモルドーはふとうっとりした表情になってしまう。そして、あ、そういえば私、吸血鬼だった、と何やら思い出したように呟く。
そして、「これは……、もう辛抱たまらん」と喉をごくんと鳴らし、モルドーは顔が汚れるのも気にせずベシャンといきなりその血の海に口をつけ、ゴキュゴキュ美味そうに血を飲み出した。とても幸せそうな表情で。
「「「……」」」一方助けて貰い、礼を言おうとしたグオール達だが、モルドーの突然の行動にドン引きしてしまう。あ、そういえばこの人、吸血鬼だった、と、皆どことなく納得しているようではあるが。
プハァ! とまるで仕事帰りの一杯目を飲み干したサラリーマンの如く、恍惚な表情を浮かべ、辺り一面に広がっていた血の海を殆ど飲み干したモルドー。モルドー程の細い体のどこに、あれだけ大量の血が入ったのか分からないが。
「んはぁ、んまい! これよこれ! これが欲しかったのだよ! やはり動物や魔物とは違う!」それはとにかく、とても嬉しそうに声を上げるモルドー。その表情はとても幸せそうです。
ずっとケーラに、人を襲って血を得る事を止められていたモルドー。だが、今目の前に広がる血の海は、とうに殺された大勢の人のもの。誰の血とも分からない上、どうせ後で掃除しないといけない。だから、私がやっておきました! と言ってしまえば寧ろ褒められるだろう。そんな風に、自分に都合のいい言い訳まで考えての、モルドーなりの慎重な? 行動だったのである。
どのみち、吸血鬼のモルドーにとっては、ずっと人の血を得られない事でそろそろ限界だった状態で、目の前にこれだけ新鮮な血が広がっているのを見てしまったら、我慢できなかったのは仕方なかっただろう。
「よし。これで元気百倍」まるで顔を千切って人に差し出す、とあるパン型のヒーローのような事を口走りながら、ニタリと口から血を滴らせ、正に吸血鬼の悪相を見せるモルドー。
そこで、モルドーの黒い水で吹き飛ばされたアークデーモン達が、殺気を孕ませながら次々と起き上がった。どうやら大してダメージを受けてないようだ。
「いくらケーラ様達が強くなったとは言え、数が多すぎる。全て倒し切るには骨が折れるだろう。たっぷり血も頂いた事だし、久々に本気を出そうか」そう呟いて開いていた翼をまるでマントに自身をくるむように巻き付け、顔だけ出た状態で不敵にニヤリと嗤うモルドー。未だ赤い口元から覗く鋭い牙から血を滴らせながら。
「吸血鬼の恐ろしさ、とくと味わうがいい」
そして「ふん!」と気合を入れる。すると、ヒュンヒュンとモルドーの分身がいくつも現れた。その数総勢三十体。
「「「「「さぁて、一方的な蹂躙の始まりだ。アークデーモン達よ、私に出会った不幸を呪うがいい」」」」」三十体全てのモルドーがニタニタと嗤いながら、同時に同じ言葉を放つ。そして三十体全てヒュン、と夜の闇に消え失せた。と思いきや、「ギョギャ?」「ぎょへえ?」「グオパア!」とあちこちでアークデーモンの叫び声が聞こえてくる。
「「「「「フハハハハハ! どうした? ほぉら抗ってみろ」」」」」小馬鹿にするような言葉を全員同時に発しながら、パンチキックだけでどんどんアークデーモンを屠っていくモルドー。
このモルドーの分裂は、闇の効果発動時のみ使えるモルドーの必殺技の一つだ。三十体全てがモルドーの力そのままなのである。いわば三十人のモルドーがいるという事だ。デメリットは時間制限がある事と、この能力を使ってしまえば、モルドーは暫くコウモリから元に戻れなくなる、という事くらいである。
とにかく、レベル80の吸血鬼が一気に三十人に増えた事で、アークデーモン達もさすがに焦りの表情を浮かべる。更に別の場所では、三人の人族と魔族が同じく一方的にアークデーモン達を屠っている。
そして健人達とモルドーの活躍のおかげで、百五十匹いたアークデーモンは、既に三分の一以下にまで減っていた。
次回更新は数日後の予定です。





