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強者と成りうる主役達

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークまでして頂いてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)

 寒い夜のメディー内を、馬で駆けてきたナリヤからは、白い息が漏れ体が熱くなって湯気が立っている。それ程必死になって駆けてきたという事だろう。


「ギルド本部前に?」健人が信じられないといった表情で質問する。スラム街から飛んできたハーピーやキラービー、たった今健人達が倒したギガントサイクロプス以外にもまた? と言った気持ちだろう。


「ああ! しかもアークデーモンだ! 百匹以上も現れた! 到底私達の手に負える状況じゃない! だからこうやってタケト達を呼びに来たのだ!」ブヒヒーンと、嘶く馬を操りながら、ナリヤが叫ぶ。


「キロット達を……、置いてな」そして、悔しそうに歯噛みしながらナリヤは呟く。


「え? ナリヤ姉さん本当にアークデーモン? そんな大量に? 一体どこから?」信じられないと言った表情でケーラが確認する。


「ギルド本部の中から出てきたんだ。正直私達も何事か最初は分からなかった。だが本当だ。だからこうやってタケト達を呼びに急いでやってきたんだ」


「ケーラ。アークデーモンって?」ナリヤの様子から只事ではないと思った健人。その魔物が一体何なのか気になってケーラに声を掛けた。


「言うなればデーモンの劣化バージョンかな。それでも強いよ。で、普通そんな大勢で一緒のところにいる魔物じゃないんだよ。デーモンと同じく単独行動が基本の魔物だから」だから姉さんに確認しちゃったんだよね、と続けながら説明するケーラ。


「何にしろ危険な魔物なんだな」


「さっきのハーピーやキラービーよりはやばいと思う」


「分かった。じゃあ急がないとな」そうだね、と健人の言葉に頷くケーラ。


「よしタケト。ボクも走っていくよ」「私もよ」そしておもむろにケーラとリリアム二人は、突然屈伸やらストレッチをし始める。


「へ? なんで?」二人の突然の行動に驚く健人。彼女達は健人のようにアクセルとブーストが使えるわけではない。当然馬で向かったほうが速いはずなのだが、何故走る、などと言うのだろうか。


「レベルが上がったはずだから、きっと()()が使える」「なるほど。闇属性にもあるのね。私もよ」


 光属性にも有るんだね、とリリアムに返事するケーラ。何だか分からないが二人して合点がいっている様子。そんな二人に健人が「?」となっているが、「ほら、ぼさっとしてないで」「そうよ、急がないといけないわ」と二人に急かされる健人。


「……なんか良くわからないけど、とりあえず先行くぞ」首を傾げながらも急がないといけないので、健人は白猫を振り落とさないようカバンをしっかり抑え、そしてアクセルとブーストを唱え、一足先にギルド本部前に向かって走っていった。


「既に夜ですから暗いですし、アークデーモンがそんなにいるのであれば、私も向かった方が宜しいですな」モルドーの言う通り、辺りは既に夜の闇が深くなりつつある。幸いな事に空は晴れているので、月明かりである程度人の姿や辺りの様子は見えるのだが、それでも当然昼間のように見渡しが言いわけではない。魔物を魔素で探知出来るモルドーがいた方が、より討伐が捗る事は間違いない。それを考慮してのモルドーからの進言だ。


「そうだね。モルドー、先行っといて。ボクもすぐ向かうから」そんなモルドーの真意を理解したケーラ。リリアムと共にストレッチを終わらせモルドーに返事する。


「承知しました」そしてモルドーも、健人の後を追うように黒い大きな翼をバサ、とはためかせ、空へ舞い上がり、ギルド本部前に戻っていった。


「で、ナリヤ姉さん。ギズロットとプラム見といて。事が片付いたら聞きたい事あるし」健人とモルドーが先に行ったのを追いかけようとする前に、ケーラがナリヤに声を掛ける。


「そうだな。私が戻ったところできっと足手まといだろう。……さっき気付いたんだが、()()、ケーラ達が倒したのか?」そう言ってギガントサイクロプスの遺骸の方向を見るナリヤ。


「そうだよーん」ふっふーん、と豊かな双丘を自慢するかのように腰に手を当て胸を張るケーラ。


「……ありえない、信じられない、と言っても、目の前に死体があるんだから信じるほかないんだけどな」


「しかも二体だよ二体」ふっふっふーん、と鼻を鳴らしながら、更にどや顔で胸を張るケーラ。


「え? 二体? ……あ! あれか!」


「まあ、神獣マシロさんとかモルドーとかいたから、ちょっとずるだけどね」


「そうか。……ケーラ。本当に強くなったんだな」


 神獣? 不可思議な言葉が出てきたので、ナリヤがケーラに質問しようとするが、「ケーラ、早く行かないといけないわよ」とリリアムから釘を差された。あ、そうだね、と我に返るケーラ。


「じゃ、後で戻ってくるから。そいつら宜しくね」そうナリヤに手を振るケーラ。


「よし行くよ」「ええ」そしてケーラは「シャドウフット」と唱え、リリアムは「ホーリーウインド」と唱えた。ケーラの足の周りに黒い瘴気のようなものが纏い、リリアムの足の周りには、膝から下にかけ光の細かい粒子で出来た渦巻きが纏った。


 そして二人して一気にスタートする。ドン、という音と共に二人は、一瞬で闇の中に消えていった。


「……ケーラ、その魔法が使えるということは、レベルが80を越えたのか。魔族でレベル80を越えたのはは、お父様以来じゃないか?」


 既に去っていったケーラを見送るように、夜の闇を見つめるナリヤ。何だか呆れたような、それでもどこか嬉しそうな表情。ナリヤの言う通り、シャドウフットはレベル80を越えていないと使えない。極シンプルな魔法であるが、制御するのがとても難しい魔法なのだ。更にそのシンプルな見た目に比べ結構な魔力を使う。そのため使えるのはレベル80を越えた、超高レベルの魔族のみなのだ。


 それを使い駆けていったという事は、ケーラのレベルは80を越えているという証拠だ。それは、同じスピードで駆けていったリリアムも同様だと考えていいだろう。更に、元々二人よりレベルが高かった健人も、既にレベル80以上である事は想像に難くない。


「ギガントサイクロプスを倒した恩恵、と言ってしまえば失礼なのだろうが、いくらモルドーが手伝ったとは言え、そもそも三人だけで倒せる代物ではないはず。しかも二体も。姉として素直に喜んでやらねばな」


 神獣もいた、とか言っていたな、とケーラの言い残していった言葉が若干気になりつつも、まるで山のような大きさの、二つの屍をどこか呆れた様子で見つめるナリヤ。そして、あの三人ならきっと、ギルド本部前に現れた多くの強敵、アークデーモンを駆逐してくれるだろう、と安堵した。


 そして、先程から拘束され座っている、二人の魔族に目を向けるナリヤ。


「お久しぶりですね。ナリヤ様」そのうちの一人、プラムの方からナリヤに声を掛けてきた。


「……ああ」だが、どこか気まずそうに返事をするナリヤ。プラムには既に何度か会っている。そして、未だその事はケーラ達には伝えていない。ナリヤにとって言い辛い事なので仕方ないのだが。


 ナリヤはプラムから、ギルバートに命令され魔薬を受け取っていた。そして、これもギルバートの命令ではあったが、その魔薬を用いて綾花の洗脳を手伝っていた。元々プラムがナリヤと同じく、和平賛成派だったからこそ、連絡がつき魔薬を受け取る事が出来たのだ。


 実はギルバートとプラムを引き合わせたのはナリヤだった。ギルバートに騙され隷属の腕輪を付けられる前、メディーにやってきている魔族の仲間という事で、プラムを紹介したのである。だがその後、ナリヤの知らないところでギルバートとプラムは二人だけで会っていたのだ。


 ギルバートは父親ドノヴァンが隷属の腕輪を、ある特定の魔族から融通して貰っていたのを知っていた。だが、その流通ルートまでは中々教えて貰えない。その魔族とコンタクトさえ取らせてもらえない。それは、実はドノヴァンは多くの神官達が欲しがる隷属の腕輪を、その魔族経由で独占的に仕入れ、神官達に高値で販売していたためだ。


 それを知っていた息子のギルバートは、ドノヴァン同様、プラムという魔族から、隷属の腕輪を仕入れる事が出来るかどうか確認したかったのである。和平賛成派という点は気になったが、ギルバートとしては、隷属の腕輪は喉から手が出る程欲しいもの。和平締結したからとは言え、魔族と人族との交流は今現在然程盛んではない。父親はどうやって魔族と交流できたかは知らないが、数少ない魔族と接触できたこの機会を逃すまいと、このプラムという魔族経由で、ドノヴァン同様安価で隷属の腕輪を提供して貰えないか探りたかったのである。


 そして二人で会ってみると、何と隷属の腕輪を融通して貰えるというではないか。小躍りしそうなほど喜んだギルバートだが、そのかわりの条件として、とある物を作るための素材を大量に用意できないか、と持ちかけられた。


 その素材とは人族の死体。それを聞いたギルバートは更に大喜びした。その素材なら正に腐る程沢山あるのだ。彼の欲望の限りを尽くした結果、そうなってしまった元孤児達が。寧ろ処分に困っていたのだから、ギルバートにとってはとても有り難い申し出だった。


 ギルバートは隷属の腕輪を融通して欲しい、プラムは人族の死体という素材を大量に提供して欲しい、というように、二人の利害が一致したのである。


 その後、ギルバート経由でも神官達が隷属の腕輪を所望するようになる。そして神官達の中には、ギルバートのように死体処理に困っている者も一定数いる。メディーはこの世界最大の都市。前の災厄の際孤児になった大勢の子ども達を、慰み者として乱暴に扱い、死してしまった者達だ。それをも、ギルバートは引き取り隷属の腕輪と交換していた。神官達も死体を引き取って貰えるの有り難いと、どんどん提供していったのである。


 そうやって取引を続けていくうち、ギルバートはプラムからとある依頼を受ける。それは同じパーティメンバーの勇者、片桐綾花の洗脳だった。


 ギルバートのパーティメンバーは綾花とナリヤ。二人共見た目麗しい美女なので、ギルバートはどちらも隷属の腕輪をつけ、孤児達同様慰み者にしてやろうと目論んでいた。だがナリヤはともかく綾花は勇者。隷属の腕輪を付けた際何が起こるか分からない。そこでプラムから依頼があったのである。聞けば魔薬という怪しい薬を使うらしい。更にプラムからは、綾花には隷属の腕輪を付けるな、と釘を差された。


 それが何故か分からなかったが、もしかしたら魔族にしか分からない事情があるのかも知れない、そして魔薬という聞いた事もない怪しい薬を使って洗脳する際、自分も何か被害を被るかも知れない。そう考えたギルバートは、同じ魔族なら問題ないだろうと、ナリヤを騙し隷属の腕輪を付け、彼女にプラムに接触させ、魔薬を取りに行かせ、綾花の洗脳を命じたのである。


 最も、ナリヤに隷属の腕輪を付けたのは、当人の趣味趣向を楽しみためでもあったのだが。


 その後、ナリヤから洗脳の方法を聞き、特に問題ない事を知って、自身も魔薬を使い洗脳を行っていたのである。


「ギズロット、か。プラムと通じてたのはお前だったんだな」プラムには返答せず、横に座しているギズロットに声を掛けるナリヤ。


「魔族の都市でお会いして以来ですな」後ろ手に拘束され正座させられているにも関わらず、不敵にほくそ笑むギズロット。


「そういやさっき、ケーラ様と一緒にいたリリアム王女とも顔見知りのご様子でしたね。という事は、既に隷属の腕輪は外れているようですね。でないと、こうやって単独で行動できたりはしない」


「それがどうしたというのだ」少しイラッした強い口調のナリヤ。ギルバートに騙され、魔薬を受け取った際プラムに言われた嫌味等、忌々しい記憶が垣間蘇った様子。


「そもそも、プラムは和平賛成派のはずではないのか? ギズロットも幹部なのに、何故メディーにいる?」


「それにお答えする義務はないかと」


「……そうか。今回のメディーで起こった魔物達の騒動、お前達の仕業なのか」


「我々? 正確には違いますが、まあその事は良いか。……フフフ、しかしケーラ様も愚かなお方だ。ナリヤ様だけ置いて行ってしまうとは」


「どういう意味だ?」


「こういう事ですよ。シャドウネット!」ギズロットがそう叫んで不味い、と気づくナリヤ。口が空いていれば魔法を唱える事が可能だ。黒い網が成り屋の頭上から被さった。


「クッ! しまった!」黒い網に拘束されてしまい、ジタバタ暴れるナリヤ。それを見たプラムが「シャドウニードル」と唱え、いくつかの黒い針が手のひらから飛び出し、後ろ手に拘束されていた縄を断ち切った。そして立ち上がり、ギズロットの拘束を解く。


「ま、待て! 逃げてもお前達の犯行だとバレている! 父上に伝わるのは時間の問題だぞ!」


 未だジタバタ暴れているナリヤを見下ろしながら、二人揃ってアハハハと大声で笑う。


「な、何がおかしい?」


()()()に伝わったところで、何の問題もありませんよ」そう言いながらニヤリと嗤うギズロット。それに釣られてプラムもほくそ笑む。


「お、お前! 父上を呼び捨てにするなど、幹部としてあるまじき言動! 何を考えている!」


「そのうち分かる」そう言い残して、二人は夜の闇に消えていった。



第七回小説家になろうコンテスト、一次選考通過しました!

評価感想レビュー等頂戴致しましたら嬉しく思います。

宜しくお願い致しますm(__)m

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