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絶望の集団

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークまでして頂いてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)

 ※※※


「な、なんだ?」「中から魔物?」「ギ、ギルド職員達が……」


 突如中から出てきたのは三匹の魔物達。すぐ前にいたギルド職員達に襲いかかり殺した後、それらを遠慮なく食らっている。それらは大きな耳に巨大な鷲鼻。そして片翼1m程の翼にまるで妊婦のように大きく突き出た腹。手と足は痩せて細い。その魔物達三匹は、周りの様子を気にする事なく、ギルド本部前で職員達をバリバリ、と音を立て、血を口から垂らしながら、一心不乱に食している。


 キラービーとハービーをようやくやり切り、ホッとしてたのもあるかららだろう、目の前で起こっている現象に、皆理解出来ていない様子で、何が起こっているのか分からずぼーっとしている面々。


「! ヤ、ヤックム」だがそんな中、ナリヤがハッとして、目の前で食われているギルド職員の一人、ヤックムの名前をつい叫ぶ。当然叫んだところで返事はないのだが、その一声で周りの冒険者達も、今目の前で起こっている異常事態に、ようやく頭が追いついたようである。


「何でギルドの中からまたも魔物が出てきたんだ?」「知らねぇよ! てかあれ、アークデーモンじゃないのか?」


 ナリヤに引き続きキロットとグンターも声を荒げる。それに続くように辺りがざわついてきた。そんな周りの様子を気にする事なく、未だギルド職員達を遠慮なく咀嚼している、グンターにアークデーモンと言われた三匹。グンターの言う通り、これらの魔物はアークデーモンだ。デーモンよりも弱い劣化種ながら、そのレベルはハーピー達と同等かそれ以上の魔物である。それなりに知能は高く魔物独特の魔法が使え、ギルド職員が食われている通り、人や動物を食す魔物である。因みに女性は繁殖に使われる。


 そして、本来は全身真っ赤な筈なのだが、皆一様に紫色だ。


「な、何? アークデーモンだと? またもそんな強力な魔物が?」周りの後片付けをしていたファンダルとその他兵士達は、既に手を止め驚いた様子で魔物を見ている。


「なあ、もしかして……」「ああ。色も色だしな」そしてグンターとキロットが何かに気づき、顔を見合わせる。本来の色ではなく紫色という事は、と。


 何にせよギルド職員、要する守るべきメディーの都民が殺された事に変わりわない。ギリリとグオール将軍が怒りを噛み殺すかのように歯噛みし、「お前ら! 儂と共にあの魔物達を倒すぞ!」と、他の兵士達に声を掛け自身の剣と盾を装備し直し身構えた。それに応えるかのように、ファンダルを含む兵士達も等しく緊張した面持ちながら臨戦態勢を取る。


 何故ギルド本部内から出てきたかは分からないが、人を食らうこの危険な魔物をこのまま放置しておく訳にはいかない。そして冒険者達は、先程までキラービーとハーピーを相手していて疲労している。なのでグオール将軍は、この魔物達を兵士達と共に自分達が率先して倒そうと思ったのである。


「ギギギ?」「グギョロオ?」真っ赤な血を垂らした口から、骨らしきものをペッと吐き出しながら、ギルド本部前にいる三匹のアークデーモン達は、周りの雰囲気が変わった事を察したようで、手に持っていた元人らしき何かを地面に捨て、グオール達に向かい合う。


「敵はたった三匹だ! 冒険者達の手を煩わせすな! 我々で倒すぞ!」グオールの雄叫びにも似た大声に、オオー! と一斉に呼応する兵士達。彼らは総勢五十人。高レベルの魔物とは言え、さすがにたった三匹のアークデーモンに遅れを取るとは思っていない。


 だが、「ギャギギャギ!」「ギャッギャ!」その様子を何やら面白そうに笑うアークデーモン三匹。


 そして、ギルド本部内から更に、ゾロゾロと正に蟻の如く大量のアークデーモンが出てきた。


「……な、何だと?」「ま……まさか」その数ざっと百五十。ギルド本部前の広場を、所狭しとアークデーモン達が埋め尽くす。何十匹かは背中の羽を使って飛翔し、まるでグオール達をあざ笑うかのように旋回しながら飛び回っている。明らかにグオール達の方が数は少ない。そしてアークデーモンは高レベルの魔物。冒険者または兵士一人で、アークデーモンを一匹倒すのは到底不可能。そんな魔物が、グオール達より沢山現れたのだ。


「な、なんだこの数は……」ギルド本部内からゾロゾロ出て来て、ギャッギャ言いながら何やらテンション高めに騒いでいるアークデーモン達。それを見ながら絶望する冒険者達と兵士達。先程までは、まだ三匹だと思っていたからなんとかなると思っていたのだが、この数ではどうしようもない。


 しかも今は、あの強力な助っ人吸血鬼モルドーはいない。ここにいる人族と三人の魔族だけで何とかしないといけないのだ。



「そもそも、さっきだってあの吸血鬼が殆ど倒したようなもんだ」「その通り。俺達はただ防戦一方だった。ハーピーやキラービーでもそうだったのに、それより強いって言われるアークデーモンの方が、俺らより多いなんて……」「ああ……。もう終わりだあ」


 冒険者達の絶望の呟き。各々顔が血の気を失ったかのように真っ青になり力なく項垂れる。


 そして、もしここで冒険者達や兵士達が食い止めないと、戦いとは無縁の、普通に暮らしているメディーの人々にまで被害が及ぶのは間違いない。そうなるとメディーは滅ぶかも知れない。


「これは……。六年前魔族が襲ってきた時以来の危機ではないか」さすがのグオールも焦りの色が隠せない。鬣を夜風に吹かれながら、寒いはずなのに額から頬に汗が滴る。


「ギュヒヒ。餌餌ァ!」「これだけ沢山の餌ァ!」「ギャッギャギャッギャ!」一方アークデーモン達は、目の前の冒険者達と兵士達、彼らを食料として見ているので、これだけ多くの(食料)がある事に対し、喜んで手を叩いたり飛び跳ねたりしている。


「お? 女ァ! 女は犯せ! 孕ませ!」「女女ァ!」そしてナリヤを含む数人の冒険者の女性を発見し、またもテンションを上げるアークデーモン達。


「ナリヤ! 逃げろ!」未だ襲い掛かって来ずあちこちで騒いでいるアークデーモンを見ながら、突然レムルスが声をあげた。


「この状況で私だけ逃げるわけにはいかないだろ!」だが、すぐ反論するナリヤ。ただでさえ脅威である今の状況から、一人でも欠けたら他の冒険者や兵士に負担がかかる、そう思ったのだが。


「リリアム達に応援を頼むんだ! 僕達だけではどうしようも出来ない!」


「し、しかし……」逡巡するナリヤ。確かにリリアム達は強い。特に健人は。彼らがいれば何とかなるかも知れないが。


「お前も無理すんな。魔力相当枯渇してんだろ?」そこでレムルスの肩に手をおき、声を掛けてきたのはグンター。「お前は兵士達に変わって、王城に向かって応援要請を頼む。魔力無くなって治療できない神官なんざ、単なる足手まといだからな。それくらいは役に立てよ」と言いながら、クイと王城の方へ顎をしゃくる。


「い、いやそれは……」今度はグンターの進言に困惑するレムルス。確かに魔力は殆ど無い状態ではあるが、それでも多少は役に立てる、少し休めばある程度治癒は出来るので、残ろうと思っていたのだが。


「いいから行け! 俺らだけじゃ間が持たねぇ! ナリヤも早く! 騎士達から馬を借りて行け!」未だ留まっている二人に檄を飛ばすグンター。そして勢いよくバン、とレムルスの背中を叩くグンター。ケホ、ケホと咳き込みながら、フラフラと騎士達のいる方へ歩いてしまうレムルス。そしてそんなグンターのすぐ横へ、キロットが自身の武器ハルバードを手に持ちやってくる。


「よお、男前。かっこつけてもこの最悪な状況は解決しねぇぞ」からかい言葉をかけながらグンターの肩をポンポンと叩きつつ、キロットが煽る。そんなキロットにうるせぇ、と答えるグンター。そしてキッと真剣な目で、魔物達を見据える。キロットもハルバードを構え、臨戦態勢を取った。


 そしてそのグンターの声をきっかけに、総勢百五十匹のアークデーモン達が一斉に冒険者達と兵士達に襲いかかってきた。そしてグンターとキロットは、未だ戸惑い動けないナリヤとレムルスを庇うように、アークデーモン達の攻撃を受け止める。


「早く! 俺らの命もお前らにかかってんだ! 誰かがやらないといけないんだよ!」


「クッ! 行くぞレムルス!」「あ、ああ……。グンター! キロット! 死ぬなよ!」


「おおよ!」「当たり前だ! まだケーラの事諦めてねーんだからな!」


 そこはもう諦めろよ! と横目にキロットを呆れながらちらりと見るグンター。だが、そんな悠長な事を言っていられる状況ではなくなってきた。「ギギャギャ!」「ギャッホォーウ!」アークデーモン達は次々と襲いかかる。翼を使い空から攻撃したり、爪で引っ掻いたり、口から魔法の弾を飛ばしたり、様々な攻撃を、冒険者達と兵士達に仕掛けてきた。


 それを必死にいなしたり躱しているキロットとグンターを、申し訳なさそうに振り返りつつ見ながら、騎士達に断って馬を借り、レムルスは王城に、ナリヤは健人達がいる南方面に駆けていった。


 ※※※


「暗くなってきたな。よし、これなら街道を進んでも問題なかろう」そう一人呟きながら、森の中から舗装された土の道へ現れた、麻の布を着て大鎌を持っている骸骨。


「ん?あれは……」そして、先の方で何かを発見する。どうやら魔素を感じたようである。


「魔物ではなく魔族のようだな。だが、急ぐので素通りさせて貰おう」そう言って馬で駆けメディーへ向かっている魔族のビルグに気づかれないよう気配を殺し、素早く横をすり抜けていった骸骨の魔物ヘン。そして障害物がない舗装された道路に出た事で、そのスピードは一気に上がった。馬より速いスピードでメディーへ向かって進む。


 そしてメディー入り口前のアグニ側の村に近づいたヘンが、またも何かに感づいた。


「……メディー内より大きな二つの魔素を感じる。ケーラ様とモルドーがその魔素の側にいる? ん? 更に沢山の魔物の気配が中心部辺りとアクー方面から感じられるが」


「! これは! ナリヤ様! 魔物の集団の方向に!」そんな魔物達の集団の中にいる、ナリヤの気配に気づいたヘン。


「急がねば! 今こそ主を守る使命を果たそうぞ!」そしてアグニ側の入り口前村の裏手から一気に加速するヘン。これまで隷属の腕輪のせいで、ナリヤの気配を全く感じ取れず、役に立てなかったヘンは、今こそ活躍の時だとばかりに息巻いているようだ。


「……しかし約束通り、ナリヤ様についていた隷属の腕輪は外して貰えたのだな。こうして気配を探る事が出来たという事は。癪に障るが、あの吸血鬼とリリアム王女には感謝しておこう」


 そう呟きながら、ヘンは主の元へ急ぐのだった。








評価感想レビューを頂ければ有難いです。最新話下部にて可能です。

宜しくお願い致しますm(__)m

※次回更新数日後の予定です。

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