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謀反

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 ※※※


「ガトー様!」


 後ろから必死の形相で飛びながら追いかけてくるシャリアが、風切り音に邪魔されないよう、大声でガトーを呼ぶ。


「シャリア!後にしてくれ!」少し苛立ちの表情を浮かべながら、バサ、と黒い翼をはためかせ、下にいるシャリアに向き直って声を掛けるガトー。だが、すぐに翻って目的の場所、アイシャの部屋へ向かおうとする。


「お待ち下さい! アイシャ様の件でお話が!」だが、シャリアから発せられたその言葉によってピタ、と空中で止まるガトー。そして再度、シャリアに向き直った。


「アイシャがどうした?」無表情の様に見えるも、その顔は怒りが充満しているのが明らかなガトー。そして、先程の攻防にて魔力を相当使った事もあってか、寒空の中にも関わらず額には汗が滲み、少し疲れているようにも見える。


 そして何とかガトーを留まらせる事が出来たシャリアは、ホッとしたのもつかの間、すぐにガトーの側まで翼をはためかせ、飛んでいった。そして空中で二人、ホバリングしながら会話する。


「部下からの連絡で判明したのですが、実は、アイシャ様の部屋の前の廊下で、何者かがアイシャ様を襲ったようなのです。それで当然、ティータがアイシャ様を守っていたのですが、そのティータがどうやら魔薬に侵されたようなのです」


「で、アイシャは?」


「……大きくなって理性を失い、暴れているティータが部屋の側にいて、未だ確認出来ておりません」


「じゃあ、ティータを倒せばいいんだな」それを確認したガトーは、改めてアイシャの部屋へ行こうとする。が、シャリアはガトーの腕を掴んで引き止めた。


「ガトー様! ティータは、ティータは……、アイシャ様の、大事なお友達……です」


 必死の形相で引き止めつつ、シャリアが徐々に言葉を小さくしながら絞り出す様に、諭すようにガトーに伝える。シャリアの必死な訴えと、その言葉を聞いたガトーは、シャリアが掴んでいる反対側の手で、いきなり黒い球を創り出し、思い切り地表に放った。ドガーンと大音響を響かせ、大きな陥没が出来る。更に、ガトー達はかなりの高さにいるにもかかわらず、その爆風が二人の元に届いた。「うわあ!」一瞬飛ばされそうになるシャリアだが何とか空中でバランスをとる。一方ガトーは気にした様子もなく、空中に浮いたままだが。


「……知ってるよ。分かってるよ」上空からも分かる程大きなクレーターとなった地面を見つめながら、小さく呟くガトー。まるで血が昇った自分の頭を冷やすかのように、その大きな陥没を黙って見つめている。そしてギリリと歯軋りをした。


 ティータを倒す。それは、アイシャの友達を殺すという事だ。怒りで我を忘れ、ついティータを倒すと言ってしまった自分に腹を立ててしまったガトー。そんな自分が許せなくて、我慢ならず地面に魔法を放ってしまった。そしてそんな大事な事を教えてくれたシャリアには、黙って心の中で感謝していたりもする。だが、ティータが魔薬に侵され理性を失い、アイシャの部屋の前で巨大化して暴れている事実。更に未だアイシャの行方がどうなったのか分からない。嫌な予感がしてならないガトー。


「……さっき、魔薬が原因でティータが巨大な魔物になったって言ったよね? どうして分かった?」


「部下からの報告で……。そう言えば、どうしてその部下は魔薬を知っていたんでしょう?」首を捻りながら返事するシャリア。


「他の幹部達は?」


「そう言われてみれば……。皆何処に行ったのでしょう? 魔王城でも見ませんでした」


 ふむ、とシャリアの言葉に返事するガトー。そして空中にいながら手を顎に当て考え込む。ようやく冷静になったガトーが感じた違和感を反芻しているようである。


 魔薬はそもそも、一部の幹部以上と魔王の家族くらいしか知らない、特殊なもののはず。それなのに、どうしてシャリアに報告したという部下は、その事が分かったのか? 更に、シャリア以外の幹部達は何処に行ったのか? 魔王城でこれだけ大きな騒ぎになっているのであれば、魔王軍を率いて対策を講じる等、何かしらの動きや、ガトーへの報告があってもおかしくない。なのに、今目の前にいるシャリア以外の魔族の幹部は、一切自分の前に現れていない。


 因みにシャリアは、魔族の都市の入口近くの一軒家の地下の研究所にいたのだが、魔王城から大きな音が聞こえたので、慌てて向かって来たのである。


「相当嫌な予感がする」「お恐れながら私もです」


 未だ空中で浮かんだまま考え込む、ガトーとシャリア。


「捜索の魔法が使えればいいんだけど……。さっきの戦いで魔力を相当使ったから、今は使えないんだよなあ」


「とにかく、アイシャ様の部屋に向かいましょう」「そうだな」ギリ、と歯噛みしながら、ガトーはシャリアの言葉に頷き、二人はアイシャの部屋に向かって飛んでいった。


 ※※※


「上手くいったな」「ああ。賭けが成功してよかった」


 全くだ、とホッとする二人の魔族の幹部。その傍らには、猿轡を口に付けられ、手足を拘束され身動きできないアイシャの姿があった。身動きは取れないがその瞳は怒りを孕み、ずっと二人を睨んでいる。


「使役している魔物に効果があるかどうかは、やってみないと分からないからな」そんなアイシャを構わず、話し続ける二人。


「まあ、使役されていてもただの魔物だ。成功する可能性は高いと思っていたが。そうだ、ムルージュはどうだ?」


「どうやら倒されたらしい。部下から連絡があった」


「やっぱりムルージュでは物足りなかったか。あれがもしリリアム王女であれば、ガトー様を倒す事ができたやも知れん」


「いや。あのムルージュは相当強い。我々が束になってもきっと倒せないだろう。あわよくば、ガトー様を倒せるのではないかと、さえ思っていたくらいだからな。だから、さすがはガトー様、いったところだよ」


「まあ倒されたとは言え、足止めには十分だったようだ。きっと魔力も相当消費しただろうし。これでよしとしよう」そしてずっと猿轡をされ、声が出せないので唸りながら、睨んでいるアイシャを改めて見る二人。


「しかし、本当に美しいお方だ。娘を二人も産んだとは思えん」「本当にな」そう言いながら、ポケットから木の腕輪を取り出す。それが何であるか知っているアイシャは、睨んでいたのが一転、一気に絶望の表情に変わる。そして抗おうとより一層暴れもがく。だが、元々魔族と言えど力が弱く、猿轡をされているため魔法の詠唱が出来ず、手足を縛られているアイシャには、どうする事も出来ない。


 それでもどこか妖艶で美しいアイシャを見て、思わずゴクリと唾を飲み込む二人。そして一人がアイシャの側にしゃがみ、顎をクイと持ち上げた。その瞳には、裏切られた事による怒りと、これから成される事柄に抗いたい気持ちと、それはきっと無理であろう絶望とを孕んだ、複雑でも敵対する木の強さを感じる強い瞳だ。


「おいおい。手を出すなよ」「分かっている。そんなゲスな事はしない」


 猿轡をされながらも、睨む事を止めないアイシャを見て、ついフッと嗤ってしまう魔族の幹部。そして例の腕輪をつけるため、アイシャの左腕の袖を捲り上げる。不味い。そう思ったアイシャは出来るだけ抵抗しようと、より一層もがくが当然抗えない。カチリと音を立て付けられる腕輪。そして「隷属」と、魔族の幹部は唱えた。


「フ、フグ、フグウウウウウウ!!」猿轡をされたまま絶叫するアイシャ。腹部に耐え難い激痛が走る。そしてアイシャが落ち着いたところを見計らって、魔族の幹部が猿轡を外した。


「ルナート! ケナス! あなた達、何をしでかしたか分かってるの!」はあ、はあ、と息を切らせながらも叫ぶアイシャ。


「勿論分かってますよ。因みにそれ、私に逆らうような発言をしても発動しますので、気をつけたほうが宜しいかと」


「あ、そうそう。隷属の腕輪をつけると、使役している魔物は主の存在を認識できなくなるようですので、アイシャ様の居場所はティータには分からないと思いますよ。そもそも、あれが未だティータなのかどうか、分かりませんが」


 無表情に説明をするルナートとケナス。二人の話に、そうだ、ティータが化物になってしまったんだ、と思い出したアイシャ。それも当然気になる。が、


「隷属の腕輪にそんな効果があるなんて、どうして知ってるの?」


 更に聞き逃がせない言葉を聞いて質問するアイシャ。隷属の腕輪は禁忌のアイテム。製造方法は魔王城の書物庫に置かれており、幹部であるこの二人であれば、中にはいって閲覧する事は可能だろう。だが、使役されている魔物を寄せ付けない、という事を記した資料はないはずなのだ。なぜなら、使役関連の資料は全て、アイシャの家系の者が持っているからなのである。


「そりゃあ、既に実証済だからですよ」そんなアイシャの疑問に淡々と答えるルナート。


 実証済? 答えを聞いてハッとするアイシャ。


「まさか……。まさかナリヤかケーラにこの腕輪を?」今この世界で魔物を使役している魔族は、この二人だけのはず。同じ家系の魔族は、今は大きな戦いがないため誰も使役を使っていないはずだ。驚愕の表情を浮かべるアイシャに、二人は答えずニヤリと嗤った。


次の更新は数日後の予定です。

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