続いて魔王襲われる
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「魔物が暴れてるって? 何処で?」
ちょっと退屈そうに、いつもの大広間の奥の椅子に座って、足をぶらーんぶらーんさせながら頬杖をついて報告を聞いている魔王ことガトー。
「魔王城の中、なのですが……」そんな子どもっぽい様子のガトーに対し、立膝をついて緊張の面持ちを隠す事なく、焦りと畏れの表情を浮かべながら、ガトーに報告する魔族の部下。これから伝える内容によっては、命を失うかも知れない。そんな恐怖心のせいか、手にはじっとり汗をかいている。
「ふーん、あっそ。でもどっから入ってきたんだろーね? まあいいや。処分しといて」だが、目の前の部下のそんな様子には無関心なガトー。どっかから迷って入ってきちゃった魔物かなあ、とか考えながら、部下に返答する。……ていうか、なんで俺にわざわざ報告するんだろ? そんな報告、幹部にすりゃいいんじゃないの? と、そこで初めて、目の前の魔族の部下に対する違和感を感じるガトー。
「いや、あの、それが……。他にも、ご報告が……」そんな事をふと思いながら、改めて続きがあるというその部下を見てみる。そう言えば様子がどうもおかしい。顔が青ざめ震えている。これから伝える事が、ガトーを怒らせるかもしれない、そう思っているからだろうが、ガトーはその様子に怪訝な顔をしながら、部下の言葉を待った。
「……」だが、怯えているからだろうか、未だガタガタ震えながら額から汗を滴らせ、中々言葉を発しない魔族の部下。
「どうしたの?」そんな部下の様子に、怪訝な表情で声を掛けるガトー。
「アイシャ様が……見当たらないのです」意を決したように、それでもガタガタと震えながら、部下が発したその言葉に、表情を変えガタッと椅子から立ち上がったガトー。
「……どういう、事だ?」おちゃらけたさっきまでの様子は一変、ドスの利いた低い声で、一気に殺気を纏わせ、その部下に確認するガトー。
だが、その部下がガトーの発する殺気に震えながら、何かを言おうとすると、「ウガア!」「なんだこいつ!」と、騒々しい声と共に、何かが破壊される音が、大広間の外から聞こえてきた。そしてアイシャが行方不明と聞いて、頭に血が上っているガトーが自ら、騒がしい外の様子を見に大広間から外の廊下に出た。
そこには、5m程ほどはあろうかという、紫色の丸い大きな化物がいた。丸いのは体の脂肪分で足が埋まっているからのようで、顔も体に埋まっているからか顎が見えない。坊主頭と赤く光る目だけが、大きな丸い体の上についているような格好だ。そして紫色の瘴気のようなものが、体のあちこちから上に向かって立ち込めている。
「フギュルルル~」廊下一杯に広がった大きな丸い紫色の化け物は、ガトーを見ると低い声を出した。
「なんだお前?」騒ぎの原因はこの魔物だろうと理解したガトー。何故こんな魔物が、魔王城の魔王の大広間の傍までやってきている? しかもこんな魔物見た事ないぞ? 訝しがるもとりあえずアイシャの元へ早く行きたいガトーは「ダークハンド」と唱える。魔族の中で唯一、ガトーだけが使えるダーク系の魔法。それはシャドウ系の魔法に比べ、数倍の威力とスピードがある。ガトーの背中辺りから漆黒の1m程の大きな手が数本現れ、音速を超えるスピードで一斉に化物にヒュン、と飛んでいく。が、バチンという音と共に、それらは魔物の大きな腹に弾かれた。
「なんだと?」通じない? その事に少し驚くガトー。魔族幹部クラスであれば、ダークハンドだけでも十分殺せる筈なのに。それでも続けて攻撃を仕掛けるガトー。一旦ダークハンドをしまい、今度は両手拳を握りしめ「ダークエレメント」と唱え、黒い瘴気のようなものを拳の周りに纏わせる。そして丸くてデカイ紫色の化物にヒュン、と風の如く飛び掛かり、魔物の巨大な腹に直接殴りかかった。
殴った辺りがゴパアとクレーターのように穴が開くも、すぐに塞がる。それを見てガトーは怒涛のラッシュを丸い魔物に繰り出す。正に音速の速さで繰り出すその拳撃のせいで、ガトーの周りの瓦礫が風圧で吹き飛ぶ。だが、それだけの圧倒的なパワーをもってしても、開いては塞がるのを繰り返すばかりの魔物の腹。
「グゲゲェ」今度は丸い魔物がガトーに向かって攻撃を仕掛ける。魔物の肩辺りに白い光を帯びた槍が数本現れ浮遊した。そしてかなりのスピードでガトーに向かってそれを撃ち放った。「何?」驚くガトー。その光の槍は、まるで光属性魔法のようだったからだ。
「チッ、めんどくせぇ」光属性魔法が使える魔物? その事を不思議に思いながらも、舌打ちしながら喰らわないよう躱すガトー。もしこの攻撃が光属性なら、体に当たるだけで結構ダメージだ。そしてその光の槍は、当初数本だったのが徐々に増えてくる。ヒュン、ヒュン、とガトーめがけて飛んでいく光の槍。しかも躱してもまた戻ってきて再び攻撃を仕掛けてくる。それを音速のスピードで躱すガトーだが、ついに五十本程にまで増えたその光の槍を、とうとう躱しきれず、手でバシーンバシーンと繰り返し弾き始めた。
「この野郎! 調子に乗るなあ!」若干の焦りとイラつきの感情が沸き立つガトー。一旦バックステップで距離を置き、それから黒い瘴気をガトー中心に膨れ上がらせる。ゴオオオ、と炎のような音が聞こえ、ボコン、とガトーのいる床がへこみ、そこ中心に徐々に周りの壁が黒くなっていく。
「グゲッゲェ」ガトーが何かしようとしているその間も、当然丸い魔物は黙って待っていてくれない。五十本にもなる光の槍をガトーに向け、一斉に射出した。だがその瞬間、ガトー中心に覆っていた黒い瘴気が、一枚の大きな布のように広がり、光の槍もろとも、丸い魔物に向かって大きな波のように覆いかぶさった。
「ゴ? ゴグガ? ガ?」光の槍の勢いも止められ、しかも真っ暗に覆いかぶさった黒い何かから逃れようともがく丸い魔物。
そしてガトーは次に「ダークコントラクト」と唱える。すると、その黒い布のようなものの中で、ボガーン! と、大きな爆発音が鳴った。
「……まさかダークコントラクトまで使うとは」やや額に汗を滲ませながら呟くガトー。このダークコントラクトは、魔王の必殺技の一つで、黒い瘴気で相手を覆い、身動きを止め中で爆発を起こす闇魔法だ。黒い布は村一つ分にまで広げる事が可能で、そして破壊力は包み込んだ村一つを破壊する事が可能な程、威力のある魔法だ。そして対象物を黒い瘴気の布で覆う事で、その破壊力を一点に集中し、相手を確実に粉砕する、かなり強力な魔法なのである。
これで倒せただろう、そう思ってガトーは急いでアイシャがいるであろう部屋に向かおうとする。が、未だ覆い被さっている黒い瘴気の布の合間から、ところどころ光が漏れ湧き出てきた。そして黒い瘴気の布を破るかのように、一気に中から光が溢れる。
「なんだなんだこいつ!」イラつきながらも驚くガトー。ダークコントラクトを喰らってまだ生きている? この魔法を使うのは、五年前の人族との戦いの際、村を破壊する時くらいなのに? そして早くアイシャの安否を確認したいが、この化物が思ったより強力で倒せない。しかもこの魔物、光属性魔法を使うも攻撃は大して強く無い。要するそんなに強い訳ではない。だがしぶとい。死なない。それがより一層、ガトーのイライラを増長させているようだ。
「そういやさっきから気になってたけど、こいつなんで光属性を持ってるんだ? なんでそんな魔物がここ魔王城にいるんだ?」
そう疑問に思いながら、既に破けた黒い瘴気の布の合間からムクムクと起き上がってくる丸い魔物を見つめるガトー。光属性を持っている事が気になりつつも、倒さないと先に行けない事は変わらない。そしてガトーは、丸い魔物が起き上がってくる間辺りを見渡す。先程までいた部下達は既にいない。どうやら戦闘が始まってから逃げたようだ。それを確認できたガトーは、次に別の魔法の準備を始める。
「まさかこの魔法まで使う事になるとはな。ダークコンデンス」そう呟いて両腕を一杯に広げ、黒い瘴気を手のひらに集め始める。そして闇の力を蓄えながら、徐々に自分の目の前に手のひらをゆっくり持ってきて手を合わせた。まるで手のひらでボールを作るかのように、手の中でギュッギュッと凝縮して固めていくガトー。そうしている間、既に黒い瘴気から出てきた丸い魔物は、またも光の槍を数十本発生させガトーに飛ばし始める。それを軽やかなステップで躱しながら、両手の中の黒いボールなった瘴気に、更にギュッギュ、と魔力を込めていくガトー。
そして光の槍を躱し終わり、スタっと丸い魔物の前に仁王立ちするガトー。魔力を徹底的に圧縮させたその黒いボールを、片手に置いて前に差し出し、それから丸い魔物に向けてボン、と射出した。するとボフンとその黒いボールを飲み込むように、丸い魔物の体内に入っていった。
「いくぞ。ダークエクスプロージョン」そして魔法を唱えるガトー。前に差し出していた手をバっと開く。すると、丸い魔物の体内に入っていった黒いボールが、まるで爆弾が爆発したかのように大爆発を起こした。ドガーン! と周りの壁や大広間まで吹き飛ばす火力。爆風で瓦礫が四散し、魔王城の一角が完全に吹き飛んでしまった。
このダークエクスプロージョンは、ダークコントラクトの逆で、圧縮した破壊力を一気に爆発させる魔法だ。しかも今回はダークコントラクトが効かなかった事もあり、いつもの数倍、魔力を込めたので、都市一つは破壊できるほどの、核兵器並みの凶悪なパワーなのだ。だから、ガトーは巻き添えになってはいけない、と周りを確認したのだが。
「……それでもこれだけ爆発を抑えるのかよ」さすがに強力な魔法を使った事で、肩で息をするガトー。戦いながら、この紫色の丸い巨大な魔物であれば、ある程度爆発を抑えるだろうと想像できたので、この強力なダークエクスプロージョンを使ったのだが、それでもここまで爆発を抑えられた事に、さすがの魔王ガトーも驚きを隠せない様子。こんなに手こずったのは勇者やヴァロック以来なのだ。
魔王城の三分の一は吹き飛んだその場所には、あちこちに元巨大な魔物の、紫色の小さな破片が飛び散っている。さすがにもう死んでいるだろう、とそれらを確認したガトーは、目が血走りまたも殺気が溢れ出る。
「誰かが謀反でも起こしたのか? この変な魔物と言い。……アイシャに何かあったから許さないからな」
そしてガトーは、アイシャの部屋に向かうため、自身の黒い翼をバサ、と広げる。それから大きく空いた魔王城の穴から、急いで飛んでいった。
明日更新微妙かもです。明日更新できずとも、二~三日中には更新予定です。