魔族の都市でも始まったらしい
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カツカツとヒールの音を響かせ、颯爽と長い渡り廊下を一人歩く、妙齢だがとてもそうは思えないほどの美貌を持つ魔族の女性。スリットが深く切り込まれ、美しい白い太ももが垣間見えるセクシーな赤いドレスを身に纏っているが、それを嫌味なく、妖艶な雰囲気を醸し出しつつ、華麗に着こなしている。
「はあ。そろそろナリヤとケーラに会いたいわねえ」そしてふと、一人愚痴る魔族の美しいその女性、アイシャは、ずっと退屈になってしまっているのがどうやら辛いようである。
「あの子達みたいに、私も人族の都市に行ってみたいなあ。まあでも、ガトーが許さないだろうけど」
「そうだねー。私が一緒でも無理かもー」ぴょこん、とアイシャの首の後ろ辺りから顔を覗かせ返事する、アイシャが使役している魔物のティータ。アイシャの大事な友達でもあるその妖精女王は、ふよふよとアイシャの頭の周りをくるくる回りながら浮かんでいる。
「まあ勿論、アイシャが人族の都市に行ったら私が守ってあげるけどー……ん?」ふと、何かに気づいて、途中で会話をやめるティータ。
「どうかした?」ティータの様子に気づき声を掛けるアイシャ。そしてふと前を見ると、そこには、一人の魔族の幹部が廊下の真ん中に佇んでいた。不思議に思ったアイシャがその幹部に「何かご用?」と声を掛ける。
だが、その言葉に返事をせず、「シャドウバインド」と呟いた魔族の幹部。一斉に幹部の足元にある影から、沢山の触手のような黒い手がアイシャの元に伸びる。だが、
バシィ、とそれは全て弾かれた。すぐさまアイシャの目の前に、薄い膜のようなものが現れたからだ。
「やっぱりティータに弾かれるか」チッっと舌打ちする魔族の幹部。「え? どういう事?」そして急に攻撃を仕掛けられ驚くアイシャ。何が起こったか分からない、と言った表情を浮かべる。そしてティータは当然臨戦態勢、顔に怒りの表情を浮かべながら。
「もしかして今、私を攻撃したの?」信じられない、といった表情のアイシャ。
世界最強の魔王の妃に危害を加えるという事がどういう事か、わからないはずはないのに。更に自分にはこのティータ、妖精女王がいる。自分を襲うという事は、この強力な魔物を倒さなければならないというのに。アイシャが心の中で呟いた通り、アイシャに危害を加えるという事は、とても荒唐無稽な事だと言っても過言ではない。このようにティータがいつもアイシャを守っているし、魔王ガトーが黙っていないからだ。なので、当然誰も手を出そうなどと考えた事などないはずなのだが。
「まあ。ティータがいる事も勿論想定済だ」次にその幹部はそう呟きながら、今度はポケットから小さな紫の塊を一つ取り出した。
「アイシャ。気をつけて。あれ嫌な感じがする」ティータは更に、アイシャを守った薄い透明な膜を、アイシャの前面に展開する。まるでガラスのように向こう側が透けて見える程の、幅1mm程度の薄い膜だが、先程シャドウバインドを防いだ通り、その見た目とは違い相当堅い。そしてその膜で自分とアイシャの身を守るよう、前面に二人が完全に隠れるよう広げた。
「ちょっとあんた! 何考えてるの!」ようやく状況を飲み込めたアイシャは、その幹部に向かって叫んだ。だが、またも魔族の幹部は返事せず、今度はティータが張ったその膜に向かって紫の塊を投げつけた。ビシャア、と薄い膜一面に広がる紫色の液体。そしてシュウシュウと煙を立て、薄い膜が所々溶けるように剥がれていく。
「剥がれるの?」驚くティータ。「私の防御膜剥がすって、どんだけ魔力詰まってんの?」
「余裕かましているのも今のうちだぞ」ティータの言葉が聞こえたようで、ニヤリと嗤う魔族の幹部。
すると、今度は何と後ろから、紫の塊が五つ程飛んできた。いつの間にかもう一人いたのだ。
「ヤバい! あれ一個だけであれだけの効果があるのに!」まさかもう一人いたとは。気づくことが出来なかった事を悔しがり舌打ちするティータ。アイシャの背面に向かって飛んでくる、自慢の防御膜を溶かした紫の塊が、五つ程アイシャに向かって投げられている。
「クッ!」と咄嗟に自らの体を一気に膨張させ、背中にある蝶のような薄い羽を大きく広げ、アイシャを守るように包み込んだ。
そしてその上から、更にアイシャを守った膜を急いで張る。ビシャア、ビシャアといくつも紫色の塊が、薄い膜に当たって弾け、液体が張り付く。そして当たった部分から溶けながら膜に穴が開く。その都度ティータは薄い膜を重ねて張り続けるが、とうとうティータの羽にまで、紫色の液体が垂れて付着してしまった。
「うあああ!」痛みを感じ叫ぶティータ。
「ティータ!」ティータに包まれながら身を案じるアイシャ。
「あなた達! 一体ティータに何をしたの?」廊下の前後に挟んだ格好で、立ったまま黙って様子を見ている魔族の幹部二人を、それぞれ睨むアイシャ。だが、魔族の幹部二人は問いかけに答えない。一体どういう事? とアイシャは彼らの意図が分からず混乱している。
「グ、グルル、ア、アイシャ。逃げ、テ……」「え? ティータどうしたの?」妙な唸り声をあげるティータに驚くアイシャ。そしてティータは守るように包んでいたアイシャから離れる。
シュウシュウとティータの背中から紫色の瘴気のような煙が上る。徐々にティータが紫色に変色し、そして徐々に体が大きく膨らみ、目が赤く変色する。口には鋭い牙が徐々に生えてきて、ティータの口の外へ飛び出した。愛らしく可愛らしかった様相は鳴りを潜め、完全な化物の姿に変化してしまった。
「え? ええ? ティ、ティータ?」何が起こったか分からない。混乱と驚きが入り混じったアイシャは、ストンと腰を床に落としてしまう。
「ア、アイシャ。ワ、タシ、モウ、無、リ。ニゲ……テ、……ガアアア!!」そう叫びながらアイシャを突き飛ばす。「きゃあ!」突然突き飛ばされ廊下の壁にドン、とぶつかってしまうアイシャ。そして5m程にまで巨大化したティータは、理性を失った証明のように「グロアアアアアア!」と大きな叫び声を上げた。そしてこの渡り廊下の途中にある装飾品や柱や壁を無秩序に破壊し始める。小さく愛らしかったティータの面影は一切なく、今や筋骨隆々の巨大な、紫色の化け物に変化した元ティータは、理性を失い、止まる事なく、周りの柱や壁を力づくで破壊し続けた。
「上手くいったな」「ああ。使役した魔物に対して使うとどうなるのか実験さえしていなかったから、賭けではあったがな」だが、魔族の幹部二人は冷静にその様子を見てニヤリと嗤う。そしてティータに突き飛ばされおろおろしつつ、どうすればいいのか困惑しながら、とりあえず元ティータの破壊行為に巻き込まれないよう、隅の方で座り込んでいるアイシャ。
そして幹部の一人はアイシャを見つけると、そこに向かって「シャドウバインド」を唱えた。「!」驚くのも束の間、アイシャはその触手のような無数の手によって捕まってしまった。
「な、何するの!」ティータの異変もあり、つい隙が出来てしまったアイシャ。簡単にシャドウバインドによって捕らえられてしまった。逃れようと必死にもがくも、当然不可能だ。
「よし行くぞ」「ああ」とりあえず成功した、と、目的が達成できた二人の魔族の幹部は、アイシャを抱えその場を離れる。そしてティータだったその魔物は、既に理性がないのだろう、アイシャが攫われるのにも全く気にせず、ずっとその場で、辺りの壁や柱を壊しながら暴れていた。
昨日、当作品が初めて、異世界転生/転移日間ランキング208位に入りました!
上下には書籍化コミック化の作品ばかりで場違い感ハンパなかったですが(^^;)いい経験でした。
これからも完結まで書き上げますので、宜しくお願い致しますm(__)m
※明日更新予定ですが、修正増えれば明後日になるかもです。