綾花とヘン
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「ア、アヤカ~。ほんっとーに大丈夫なんだよな?」
「ふぎぇ? い、今、骸骨の目の奥が赤く光ったよおぉ!」
「二人共、本当情けないわね」
今だガタガタ震えている男二人に、ため息混じりに呆れるリシリー。綾花は彼らの様子より、ヘンの存在が気になるようだが。
「フン。大方私の見た目に恐怖しているのだろう。なら、これならどうだ?」そう言ってヘンは、クルンと一回転し、瞳が紅いブロンドの超絶美女に変身した。何故かボンキュッボンになりました。しかも衣服はヘンがずっと着ていた麻で出来た大きな布のみ。当然下着などつけていません。チラチラすらりと美しく白い太腿が、布の影から見え隠れする。
すると物凄いビビって腰が引けて座り込んでいた男二人が、その見た目麗しいヘンの姿を見てゆっくりと立ち上がった。
「よぉ! 俺バッツ! ヘンちゃんでいいんだよな? 宜しくな!」シャキーーンとか聞こえそうな程、ニコーと素敵なスマイルで、素晴らしい超絶サムズアップを決めるバッツ。
「お、俺はジルムっていうんだ。ヘンちゃん。君の事は俺が守ってあげるよ」一方何だか内股になり、もじもじしながらチラチラ何かを見ようとしながら、頬を赤らめるジルム。
「……なんだこいつらは?」「あ。ごめんなさい、変態なの。あ、そうじゃないわ。バカなの」
二人の余りの変わり様に、呆れるというよりちょっとびっくりしているヘンちゃん、もとい元骸骨の魔物さん。そしてリシリーが冷めた目で二人をジトーと見ながら説明する。
「いや、ちょっとリシリーちゃん? またそういう事言う?」「リシリーちゃんほんと辛辣だなあ!」
「てゆーかリシリーの言う通り、あんた達変わりすぎ」さっきまで物凄くビビってたくせに、と今度はさすがに綾花も笑わず、蔑んだジト目で二人を見てしまう。
「ア、アヤカちゃんまで……」「酷いよぉ~」ふええ~んとか泣き出しそうな変態、もといおバカな二人。
「……もういいか? とりあえず私はヘン。ナリヤ様に使役されている魔物だ」変わった人族だ、と怪訝な表情をしながら、とりあえず話を進めようと思ったヘン。
綾花達は、女性に変身したヘンと相対するように、森の中で座して話ししていた。ヘンが倒したゴブリンとゴブリンジェネラルは、バッツ達が一旦一纏めにしておいた。後でクリスタルの欠片と討伐の証拠である耳を切り取る必要があるからだ。
綾花達が宿でまったりしていた時、飛び込んできた男から、ゴブリンの群れがツトル村の近くに現れた、と伝えにやってきたので、急いで目撃情報があった場所へ向かった綾花達。元々このゴブリン達を討伐するのが、バッツ達への依頼だった。ツトル村には他にも冒険者や、村を警護しているそれなりに強い者もある程度いるのだが、彼らがもし討伐に赴いている間、他の魔物に村が襲われるのを危惧した、ツトル村の村長が、ガジット村から冒険者、バッツ達を派遣して貰っていたのである。
「ナリヤに……。やっぱりそういう事なんだ。ヘンさん、私実はあなたみたいに、使役されているって魔物、前に遭遇した事あるんだけど、知ってるかな? 吸血鬼だったんだけど」
「吸血鬼? しかも使役されているとなると……。お前、モルドーにも会ったのか?」
「あ、確かそんな名前だったと思う、って知ってるんだね」
「モルドーは私と同じく使役されている魔物だが、主はナリヤ様の妹君のケーラ様だ」
「ナリヤの妹のケーラ、っていう人が、そのモルドーという吸血鬼を使役していて、そしてヘンさんはナリヤが使役してる、って事か」
「そういう事だ……。お前もしかして、モルドーに遭遇したのは、奴がナリヤ様を救出した時ではないか?」
「ナリヤを救出?」ヘンの言い方に首を傾げる綾花。ナリヤを救出した、というヘンの言い方が引っかかったのだ。あの時確か、モルドーという吸血鬼は、ナリヤに酷い事をして、そして自分とギルバートが来たから、逃げるため攫って行ったんじゃないの? なのに救出ってどういう事? と。
そこでヘンはある違和感に気付く。確かこの勇者は、白衣の男、神官に洗脳されていたはず。何故こいつは、問題なく単独行動をしているのだ? ブロンドの美しい髪はそのままに、首を捻りながら唸る。ヘンは先日、モルドーがナリヤを救出した時に、隷属の腕輪を付けられ、魔薬を使い勇者である綾花を洗脳する命令を受けていた事を聞いていたのである。
「アヤカとか言ったな。お前、頭痛や吐き気といった症状はないのか?」
「今は落ち着いてるけど……、って、何でその事知ってんの?」
「落ち着いてる?」という事は、洗脳が解けている? 神官が洗脳を解いたのか? 一方綾花も、ヘンが何故最近まで頭痛や吐き気があった事を知っているのが、不思議でならない。ヘンとは初見だから、綾花のそういった症状を知っているはずはないのだ。最も、ヘンはナリヤの警護のため、ナリヤに隷属の腕輪を付けられるまでは、遠巻きに綾花とギルバートの事を見ていたので、綾花の事自体は知っていたのだが。
「理由は分からないが、どうやらマトモになったようだな。その事をナリヤ様に伝えたら、きっとお喜びになるだろう」
「マトモ?」どういう意味? 一人納得した表情を浮かべるヘンに、益々訝しがる綾花。
「ねえ。どういう事か教えてくれない?」
「何故私に聞く? お前自身が解決したのではないのか?」今度はヘンが怪訝な表情を見せる。聞いてくるという事は、自身で神官から光属性魔法をかけられ、洗脳を解いたわけではないのか?
「……まあ、私には関係のない事だが、一つだけ教えてやるとすれば、モルドーはナリヤ様を攫って行ったのではない。救助したのだ。そして今は既にケーラ様、妹君と合流しているはずだ」さっぱり訳が分からないが、ヘンはそもそも使役された魔物。自身の疑問よりナリヤへの忠誠が先に立つ。なのでヘンは話を切り上げ、さっさとナリヤの元へ駆けつけ、魔族の都市で報告した件を伝えたい。そして手に入れた十四角形のクリスタルを手渡したいのだ。なので綾花にあれこれ説明してやる義理がないので、早くこの場を立ち去りたいのである。
「ちょっと聞いていい? 姐さん……ケーラさんとナリヤっていう人が、今一緒にいるのって事?」
「そのはずだ」姐さん? 会話に割り込んできたバッツの言い方が気になったが、とりあえず返答し、おもむろに立ち上がるヘン。
「私はこれから、ナリヤ様と合流するため、メディーに戻る。私が倒したゴブリン達から出てきたクリスタルの欠片はお前達にくれてえやろう。ただ、ゴブリンジェネラルから出たクリスタルは私が貰っていく。討伐の証拠がいると言っていたが、それもお前達の手柄として持って帰って構わない」
「良いの? 多分私達だったら、ゴブリンジェネラルは倒せなかったと思うけど」
「構わん。寧ろ私は余り目立ちたくないのでな」そして再びぐるんとその場で横一回転し、元の骸骨の姿に戻るヘン。それから地面に突き刺していた大鎌を手に取る。そしてもとに戻ったその姿に、ビクっと反応するおバカ二人。ズザザ、と一気に後ずさりして距離を取りました。そして二人してちょっと震えてます。
「……あ。もう行くの? もっと色々聞きたいんだけど」彼らの行動に一瞬驚いた綾花だが、ヘンを引き止めようと声を掛ける。
「それ以上は私に関係のない事だ。……そうだな。お前もメディーへ行けばいい。ナリヤ様やケーラ様に会えば、お前の疑問も解決するのではないか?」
そう言い残して、ヘンは風のようにその場からフッと消えた。
「あ! ああ~、行っちゃったあ」引き止めに失敗し悔しがる綾花。袖を捕まえようと伸ばした手が空を掴む。
「とりあえず、ゴブリン片付けようか」結構後ろの方でビクビクしながら座り込んでいたバッツが、ヘンがいなくなったのを確認すると、元気よく立ち上がって早速ゴブリンの死骸の方へ歩き出す。同じくジルムもバッツの後に続いた。それを見たリシリーと綾花も手伝う。そして総勢五十匹程度のゴブリンの耳とクリスタルの欠片十個を取り出し、更にゴブリンジェネラルの牙と持っていた大剣、更に討伐の証の耳を切り取る。死骸を纏めていたのもあってすぐに作業は終わった。
「バッツ、ジルム、リシリー下がって」さっきまでビビってた二人の変わり様と、ヘンがサッサと行ってしまったのが、何だか気に入らない綾花。何となくイライラしている様子。そんな綾花が、皆が作業を終えたところで声を掛ける。
「何するの?」リシリーが不思議そうに質問するも、綾花は黙ったまま大きなハートがついたミスリルの杖を、ゴブリン達の死骸に向けた。そして「ファイアトルネード」と唱え、風魔法と火魔法をミックスさせたオリジナル魔法を創り出した。ゴオオ、と唸りを上げる直径10m程の火の竜巻。まるで綾花の鬱憤を晴らすかの如く凄まじい業火。そして轟音を上げながら、火の竜巻がゴブリンの死骸の塊にぶつかり、ゴオオオオと一気に燃え盛った。
「ちょ、ちょっと、アヤカちゃん?」「うわああ! や、やばい!」一気に立ち昇る火柱に驚く二人。つい尻餅をついて後ずさりしてしまう。
「アヤカ! ここは森の中なのよ? 火属性はもっと慎重に……」「大丈夫よ」
ここは森の中。他の木に燃え移ると一気に大火災になる。それを心配したリシリーだったが、綾花はファイアトルネードを止めようとしない。一気に炭になっていく死骸。そしてリシリーの心配の通り、火の粉が飛び散りチリチリと音を立て、近くの木々に火が燃え移り始めた。それに気づいた綾花は、次に「レイン」と唱える。すると上空に、直径50cm程度の小さな雨雲が発生し、そこから一気に水滴、雨が降り出した。その雨で燃え移っていた火が一気に鎮火した。
「ね? 大丈夫でしょ?」何事も無かったかのように話す綾花。そしてその光景を見て三人はポカーンと口を開けていた。
「クリスタル持ってないのに、どうやって三つも属性の違う魔法が使えたの?」
「あ、そっか。言ってなかったね。私の勇者としての能力は、四属性なのよ」リシリーの問いにちょっと鼻高々な感じで答える綾花。
「四属性? ……すげぇ」「一つの属性だけでも稀なのに。四つも使えるのかよ」ジルムとバッツが驚きながら呟くのを横目に、今度は燃え盛っていた死骸に雨を降らせる綾花。ジュウゥと鎮火し、消し炭がそこに残った。
「よし。後は地面に穴開けて捨てよっか」そう言って今度は「グラウンドポケット」と唱える。綾花の足元の地面がゴゴゴと音を立て、ボコン、と縦横10m程が一気に陥没した。炭になったゴブリン達を片づけるために大穴を作ったのだ。
「「「……」」」またもあんぐり口を開けて固まる三人。
「ほらほら! 早くやっちゃうよ!」驚愕している三人を急かすように、綾花は手をパンパンと叩いた。
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「なあ、アヤカちゃん。これからやっぱメディーに行くの?」
「うん。そのつもり」
ジルムの問いに綾花は答える。もうそろそろ日が暮れそうになる時間帯。三人は繋いでいた馬に乗り、綾花は来た時と同じく小さな竜巻、ウインドクッションで、来た道を戻っているところだ。討伐の証であるゴブリンの耳とジェネラルの素材も、綾花のウインドクッションの上に乗せている。
「ふーん。……なあバッツとリシリーちゃん。俺達もメディー行かないか?」
「奇遇だなジルム。俺も同じ事考えてたところだ」
「そうね。ガジット村に戻っても、冒険者として稼げないものねえ。でもバッツ、エイミーはいいの?」
「そりゃあ気になるけど……。別に付き合ってる訳じゃないしなあ。それに……」そう言いかけて言葉を濁し、ふとウインドクッションの上であぐらをかき、大きなハートがついたミスリルの杖を抱え、くわぁ、と欠伸をしながら座っている綾花をちら見する。
バッツのその視線に、なるほどね、と小さく呟くリシリー。ガジット村で治癒治療のため滞在しているエイミーより、どうやら今はアヤカが気になるのね、と心の中で呟きながら。
「なあアヤカちゃん。俺らも一緒にメディーに行くよ。パーティ登録しようぜ」
「え? 皆も来るの? ……パーティ登録、か。そうね。いいよ」
そして綾花の手首辺りから赤い煙のようなものが立ち昇る。それから今度はバッツの手首と綾花の手首を交差させ、青い煙のようなものが、綾花の体に吸い込まれた。
「じゃあ皆。これからも宜しくね」ニコ、と微笑む綾花に、バッツは赤面する。ジルムもそんな綾花の表情に、可愛いなあとは思いつつも、どことなく意識している風なバッツの様子に気付いたようで、それ以上は何も言わなかった。





