またも出会う綾花
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「アヤカって勇者なのね」「一応ねー」
何それ? とクスクス笑いながら、リシリーが他人事のような綾花の返事を面白がる。そんなリシリーを気にする事なく、頬杖をついたまま、何だかポケーとしている綾花。
勇者って言ってもねぇ。ぶっちゃけこの世界に来てから大した事一切していないんだよねぇ。神様に勇者だって言われたから一応そう答えただけだし、とポケっとしながらそんな事を考えていた綾花。そしてそれは事実なので、勇者の実感がないのは仕方ないのかも知れない。
「そういやさっき、この世界、って言い方してたよね?」ジルムが出されたお茶を啜りながら質問する。
「あー、私この世界の人間じゃないからね。実は私、死んじゃってこの世界に来たのよ」そして綾花は、掻い摘んで自分の事を話し始めた。
ここは、綾花が森の中で一緒になった、子ども達の親が経営している宿の食堂である。木の実を取りに森の奥まで行ってしまった子ども達を、魔物から守りながら送ってくれた綾花に相当感謝していた店主こと子ども達の両親は、今日の宿代と食事代をタダにする、と言ってくれた。その言葉に甘える事にした綾花。一応ある程度所持金はあるが、これから魔物討伐をジルム達とやるにしても、出来るだけ倹約はしたかったのだ。
そしてジルム達とは別の部屋を取り、昼時なので宿の一階にある食堂で、皆自己紹介を兼ねて昼食をとっていたのである。ここツトル村にはギルドはない。だがそこそこ大きな村なので、魔法屋や武器屋といった、冒険者が必要とする店はあり、宿も数軒あった。基本ここは自給自足の村で、主に農業と酪農で村民達は生計を立てている。バッツやジルムの故郷ヌビル村の規模が大きくなったような、そんな感じの村である。
「へえ。こことは違う世界があるんだな」綾花の説明を聞いたジルムが感心しながら飲んでいたお茶を一気に流し込む。
「でも、前の勇者も違う世界から来たんじゃなかったっけ?」バッツがふと、既に六年前になろうとしている勇者メンバーが活躍した時の話を思い出す。そして机の真ん中に置いてある、小さな茶菓子代わりのパンを手に取る。
「確かそうだわ。……じゃあタケトさんも、もしかしてアヤカと同じように違う世界から来たのかも? マシロさんとは兄妹じゃないのに、最初から一緒って、よく考えたら不自然だもの」
「……」リシリーの推論に、綾花がまたも黙り込んでしまう。そしてどちらにしろ、健人と真白には一度会ってみたいと思った綾花。
「でも、アヤカちゃんが勇者って事は、災厄が来るって事だよな?」そこで茶菓子代わりのパンに食らいつきながら、バッツがふと思い出したように綾花に質問した。
「そうなんだけど、災厄が何かわかんなくて」肩を竦め答える綾花。
「そういうのって事前に分かるもんじゃないの?」綾花の反応に不思議そうな顔をするジルム。
「神様にも分かんないんだってさ」
「なんだそりゃ? 」「神様ってそんないい加減なのかよ」
綾花の答えにバッツとジルムが呆れていると、突然宿のドアをバーン、と大きな音を立てながら、焦りの表情を浮かべた男が入ってきた。
「今日やってきたっていう冒険者、いるか?」
※※※
「雑魚とは言え、面倒だな」
そう呟きながら、大きな鎌をブンブン振り回しつつ、目の前を遮るように飛びかかってくるゴブリン達をサクサク片付けていく、骸骨の魔物。
「貴様ああああ!! 俺の部下を虫けらのように殺しやがってえええ!」そこへ大声を上げながら、3mに届くほどの大きなゴブリンジェネラルが、大剣を片手に骸骨に襲いかかってきた。
「ほう。お前がどうやら大将のようだな」突如現れた強敵とも言えるゴブリンジェネラルを見ても、気にした素振りもなく振るわれた大剣をさらりと躱す骸骨の魔物。更にゴブリンジェネラルは怒りのままに、片手で大剣を音速の如きスピードで、何度も骸骨に斬りかかるが、全く当たる気配はない。それどころか、
ガシーン、と、骨しかないその腕が持つ大鎌で、いとも簡単に止められてしまった。
「な、なんだと?」少し力を加えれば折れそうな、骨しかない細い腕なのに、筋骨隆々の腕で振るわれた大剣を止められ、明らかに動揺するゴブリンジェネラル。
「お前はゴブリンジェネラルといっても、言葉が流暢で賢いようだし、力も強い方のようだが、私に出会ってしまったのが運の尽きだったな」ギリギリと刃が擦れ合いながらも、大鎌の柄と刃の部分に大剣を引っ掛けられ、振りほどけないゴブリンジェネラルに対し、まるで子どもを相手にしているように容易に抑え続ける骸骨。
そしてブン、と大剣ごとゴブリンジェネラルを上空に放り投げる。「うおおお?」突然の事に驚くゴブリンジェネラル。まさか自分のような巨体が上空に舞うとは思いもしない。その高さ約20m。しかも空に放り投げられたため身動きが取れない。空中でジタバタしているところに、地表から骸骨が、大鎌の刃の部分に黒い光を纏わせ、ヴォンとそれを空中のゴブリンジェネラルに向け放った。
それはかまいたちのような切れ味の黒き裁断。未だジタバタして身動きが取れない空中にいるゴブリンジェネラルを、その黒いスライサーがスパン、と一刀両断。左右半分に綺麗にパックリ割れ、そのままドチャドチャ、と肉塊となって地面に落ちた。当然その一撃で絶命したゴブリンジェネラル。
「ほんの少しだけ手応えのある敵だったな。おっと、クリスタルがあるかどうか探しておこう。ナリヤ様にお渡しするとお喜びになられるだろう」そういって骸骨ことヘンは、真っ二つに割れ内臓が飛び出し、未だドクドクと血が溢れ出している、肉片と化したゴブリンジェネラルの胸辺りを大鎌の先で穿る。すると幸運な事に、十四角形のクリスタルを見つけた。
「よし。これでナリヤ様に良い報告が出来るな」何だか嬉しそうな骸骨さん。カタカタと歯を鳴らしながら、その十四角形クリスタルを、自らのローブの中に仕舞う。そして再びメディーへと急ごうと駆けだそうとした時、ふと人の気配を感じた。
「これ、どういう事?」驚きの表情と共に現れた黒髪の美少女は、大量のゴブリンの死骸が辺りに広がっているのを見て絶句する。しかも目の前には骸骨の魔物。その傍には真っ二つに割れたゴブリンジェネラル。
後から馬で駆け付けてきた三名の人族達も、辺りの光景を見て驚愕の表情。
「……冒険者か。面倒な」骸骨なので舌打ちは出来ないようだが、チッという舌打ちが聞こえそうな様子で、その骸骨ことヘンは呟いた。
「が、骸骨?」「てか、足元の魔物ってゴブリンジェネラルじゃねーか?」「そのようね」
奥にいた三人の冒険者達は、皆素早く馬から降りる。そして先に到着していた、先頭に立っている黒髪の美少女の傍までやってきて、皆緊張の面持ちで武器を構えた。
「あんた誰?」
「……不躾な奴だな。でもまあ、いきなり襲い掛かってこようとしないだけマシ、としておこう」骸骨ことヘンは、黒髪の美少女の言葉に感心した様子で返事をしながら、攻撃しない意思表示として、大鎌の柄の方をグサと地面に突きさし立てた。ヘンはナリヤから人族を殺さないよう、指示されているので、これまでも魔物以外は一切殺していない。それは山賊や盗賊も同じで、身包み剥いだりある程度反撃はしても、殺した事は一度もないのである。
一方綾花がヘンに対して攻撃せず、声を掛けたのには理由がある。今いる光景を見て綾花はすぐに、この目の前にいる初めて見る骸骨の魔物が、ゴブリンとゴブリンジェネラルを倒したと理解した綾花。なので「鑑定」を使って、骸骨の魔物ことヘンについて調べていたのである。因みに鑑定結果は、
名前:ヘン
性別:不明
年齢:不明
種族:魔物
種類:リッチー(アンテッド)
レベル:65
HP:76920/77000
MP:26000/25500
経験値:不明
状態:使役されています
特殊技能:※呪いの能力:使用すると一定時間レベル80に向上可能
アンテッド使い、呪いの魔法使用可能、黒魔法使用可能、変化、呪いの効果
だった。未だレベル50程度の綾花には、絶対に勝てない相手だ。以前ナリヤを攫った吸血鬼と同等の魔物という事に気づいたのだ。なので手を出しても勝てないと踏んだ綾花は、言葉を発した事を見越して、逃げる隙を捜そうとしたのである。
だが、そこで綾花が首を捻る。……ナリヤを攫った? あの吸血鬼はナリヤを攫った、んだよ、ね?
以前の攻防を思い出すも、攫った、という言葉に、何故か違和感を感じた綾花。そう言えば……、
「ヘン、さん? でいいのかな? 変わった名前だけど。ちょっと聞いていい?」
以前吸血鬼を鑑定した時にも、状態の項目にあった、(使役されています)という言葉が引っかかった綾花。他の魔物の状態の項目には、そんな文字が現れるのを今まで見た事がない。しかもその時の吸血鬼同様、非常にレベルが高く知能が高い。なので、もしかしたらその疑問を解決できるのではないか、と綾花は思って、質問したのだ。
「どうして私の名前を? そう言えば何処かで見た事があるな……。そうだ、お前はもしかして、ナリヤ様と共にパーティを組んでいた、勇者ではないのか?」そこでヘンはハッと思い出す。まだナリヤに近づけていた頃、白衣の神官の男と一緒にいた黒髪の女。そしてその女は確か勇者。更に勇者には「鑑定」スキルがあったはず。それで自分の事が分かったのか、と。
「え? ナリヤを知ってるの? てかナリヤ(様)? ……あ。もしかして、使役されているってそういう事?」