相当強いそうです
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挿絵またもや描いて頂きました! 絵師様はたる様です^^健人、リリアム、ケーラの三人。とても素敵な絵で感謝しきりです^^ご覧下さい!
ズーン、ズーン、と、踏みしめる度大きな足音を立てながら、地面が響く。そして、自らが家々を破壊し切り開いた道を歩いていく、二つの巨大な魔物。
「……なんだあの大きさ?」リリアムとケーラより一足先に、白猫が異変を感じたという南側よりやや中央方面に辿り着いた健人は、その大きなニつの巨大な魔物を見て驚いていた。まだ距離的に数十メートルは離れているはずだが、それでも簡単に目視出来る程の大きさ。
「山みたいだな……。あんなデカイ魔物初めてみた」『しかも多分、結構強いにゃ』
そうなのか?、と白猫の念話に答える健人。すると突然、魔物がブン、と目の前に立ちはだかる家に対して腕を振るった。ドン、、バキゴキ、と大きな破壊音を立てながら、その家は魔物の腕の一振りで破壊されてしまう。既にこの辺りにいたであろう人々は逃げ出していたようで、その破壊された家はもぬけの殻だったのは救いだが。
それでも、健人達がこの場に来る途中に見かけた、あちこちに散らばっていた瓦礫の中には、いくつか原型を留めていない遺体がいくつも散乱しているのが見て取れた。家の中に避難していたり、逃げ遅れた人達だろう。なので、ここら一帯を破壊しながら、この二つの巨大な化け物がまるでラッセル車の如く進んでいたのはすぐ理解できた。
「……もう少し早く来ていれば」それらを見ながら悔しそうに呟く健人。そして、ふとある事に気付く。
「ていうかもしかして、王城に向かっているのか?」健人と白猫がいる位置は魔物達の後ろ側だが、その先には、王城がそびえ立っているのが見えている。
『そうみたいだにゃ。しかもわざわざ家を壊して向かってるみたいだにゃ』ぴょんと白いかばんから健人の頭に移動し、少し離れた場所にある馬車用の大通りを見つめる白猫。近くには、あれだけ巨大でもすんなり通る事が出来る道があるのに、そこを使わないのは、間違いなく家々を壊しながら進む、という意図なのだろう、と白猫は解釈したようだ。
健人がどうするか思いあぐねている時、リリアムとケーラが馬で追いついた。
「なんて大きい魔物なのかしら……。まるで家が動いているみたいだわ」ブルル、と嘶きしながら立ち止まる馬を制しながら、先に見える巨大な魔物を見て驚いていた。
「……え? ウソ?……でしょ?」 一方、呆然と二体の魔物を見つめるケーラ。
「どうしたの?」なので、怪訝な表情でケーラを見るリリアム。
「そんな……。あんな化物どうやってここに? しかも、しかも二体もだなんて……」急に涙目になりながら馬上で頭を抱え、わなわなと震え出すケーラ。
「ケーラ? 大丈夫か?」急変したケーラの様子に、健人が気になってケーラの馬の側に行った。そして馬上のケーラの足にそっと手を添える。
「タケト……。あれは本当に無理だよ。どうしようもないよ。強さがデーモンの比じゃない」未だ涙目のまま、訴えかけるように健人を馬上から見下ろし伝えるケーラ。
「そんな凄い魔物なのか?」余りのケーラの怯えように、さすがに只事ではない、よほどの魔物なのだと理解した健人。
「あれ、多分ギガントサイクロプス。パパでも手を焼くくらいの最強の魔物」
「え?」未だ震えているケーラの言葉に驚く健人。魔王ガトーでも? ケーラから伝えられる驚愕の事実。
「モルドーが闇の効果使っても倒せない。……あんな魔物どうしようも出来ないよ……」
「ケーラがそんな弱気になるなんて、以前のデーモンの時以来ね」会話を聞いていたリリアムも、馬を操りケーラの側にやってきた。
ケーラの怯える様によって、あの魔物の恐ろしさについて十分理解した二人。以前初めてデーモンを見つけた時も、ケーラはその強さを理解し逃げるよう提案したのを思い出した健人とリリアム。だが、あの時とは違い、自分達は強くなっているのを自覚している。それなりに自信もある。それでも、あの巨大な魔物は無理だと震えているケーラ。
健人は、ケーラに馬から降りるよう伝える。そして降りてきたケーラをそのままギュッと強く抱きしめた。更に、リリアムも同様に馬から降ろし、同じく抱きしめる。
「どうしたの?」「タケト?」瓦礫の山に囲まれたこの場所で、二人を唐突に抱きしめた健人。街中なので普段なら人々の往来が多く騒がしいはずなのだが、この二体の巨大な魔物のせいで誰人っ子一人いない。ただ、破壊された瓦礫のせいだろう、風が舞うと共に砂塵も舞う。それが靄のように辺りを霞ませる。ズーン、ズーンと相変わらず魔物が進む足音だけが聞こえるが、人の気配は全く無い。だからこそ二人への遠慮なく抱擁出来たのだが。
「行かないと。あれを止めないとメディーの人々がもっと沢山犠牲になる」その抱擁は健人の決意の表れ。そっと二人から離れ、健人は魔物を見据える。
「!」健人の言葉にケーラが顔を上げる。美しい紅い瞳は未だ潤んだまま。それは恐怖だけが理由ではないようだ。
「真白、かばんに入ってくれ」『了解だにゃ』健人の頭の上にずっといた白猫が、健人のかばんにゴソゴソ入り、いつものように顔だけぴょこんと覗かせる。
「お願いタケト! 今度ばかりは考え直して!」抱擁をやめ立ち上がり、魔物を見据える健人を、ケーラが引き止めようとうでに縋る。ケーラは魔族なので、この魔物の強さを十分に分かっているようで、だからこそ、自分達の実力と照らし合わせても、倒すのが難しいと判断しているようだ。
「……」一方リリアムは、黙って様子を見ている。ケーラの様子からして、相当強い魔物なのだろう事は予想出来ているのだが。
「初めてデーモン倒した時もそうだったけど、あの時もケーラが無理だって言ったよな? でも何とか倒せた。だから今回もきっとなんとかなるさ。いや、今回こそ何とかしないと。あいつら王城に向かってると思うんだ。なら、リリアムのお父さんお母さん、お兄さんがそこにいる。リリアムの大事な人がいるんだから、放っておくわけにはいなないよ」
引き留めるケーラの頭を優しく撫でながら、諭すように話す健人。
「そうね。だから私も行くわ」そう言ってリリアムは、再び馬に跨がった。
「……そう、だよね。いくら引き止めても、タケトってそういう人だもんね……分かった。ボクも行く」未だ目を潤ませたまま、諦めた様子でケーラも馬に向かった。
「でも、絶対死んじゃ嫌だよ?」そして懇願するかのように健人を見つめる紅い瞳。
「当たり前だろ。そして無事倒して三人、いや、真白も含めて四人で生き残るんだ」
「そうよ。私はハナから死ぬつもりなんてないわ。だって、ほら、その、タケトと、子どもを、ね?」フフ、とそう言いながら頬を赤らめ手を顔に当て、急に馬上でイヤンイヤンするリリアム。自分で言っといて恥ずかしくなった模様。
「ボ、ボクだって、タケトと、えと、こ、子ども作るんだから!」そんなテレテレしてるリリアムを見て負けるもんか、とばかりに言い返すケーラ。
「何言ってるの? まだ親にも紹介していないじゃない。だからまだケーラにはその権利はないわよ」今度はフフン、と鼻高々にそう言って腕を組み、立派な双丘を見せびらかすかのように胸を張るリリアム。勝ち誇った顔してます。
「むー! じゃあこれ終わったらタケトと魔族の都市に行く! そしてパパとママに会ってタケトとの事を認めて貰う! 順番関係ない!」そんなリリアムにムキーと対抗心顕にして言い返すケーラ。
「あら? じゃあ尚更生き残らないといけないわね。もし死んだら、私がタケト独り占めじゃない」
「そんな事させない! タケトはボクのものだから!」
「ちょっと! 聞き捨てならないわね! タケトは私のものよ!」
「ボクの!」「私の!」
『モテモテだにゃあ』「あ、はい」
二人がやいのやいの騒いでいるのを、傍で呆れ顔で見ている健人と白猫。そして健人は、白猫が真白じゃなくて本当に良かったと安堵してたりする。もしここに真白がいたらどうなっていただろう? 言い合いはもっと大変な事になってたかも。あれ? 俺何気にハーレムじゃね? みんな超絶可愛いし、とか暢気に思っていたりしています。今更気づく辺り、鈍感なのかどうなのか?
相も変わらず、ズーン、ズーン、と、巨体の魔物の足音が響いている中、美女二人がギャーギャー騒いでいるのを、何とも言えない表情で見ている健人と白猫。
だが、リリアムがケーラをけしかけてくれたおかげで、ケーラの緊張が解けたようだ。
「よし、じゃあ二人共。さっさと終わらせようか」そんなリリアムに感謝しながら、二人に声を掛ける健人。その瞬間、二人の顔が一気に引き締まった。
「そうね。早く終わらせて、タケトと一杯愛し合うんだから……あ、私つい本音が」言いながら急に照れるリリアム。
「ボクもタケトといーっぱいイチャイチャするんだもーん……キャー! 言っちゃったあ!」ついリリアムに釣られ、対抗しようとして、つい本音をぶち撒けてしまったケーラ。同じく恥ずかしくなったようです。顔が一気に火がついたように赤くなりました。
「デーモンの時とおんなじように、俺らみんなで戦えば何とかなるさ」そんな二人に呆れながらも笑顔で話す健人。愛されてるんだなあ、と、二人の様子を見て少し嬉しく感じながら。何にしろ周りに人がいなくて良かった、とも思っていたりもする。
……そんなに強い魔物の元には、本当は二人を連れていきたくないんだよな。でも、俺一人じゃ倒せるか分からないし、二人以外にあの魔物と戦える人間は、ここにはいないと思うし。この二人に危険な事はさせたくはないけど、やっぱり二人は強いし俺の仲間だ。大事な戦力だ。それに二人に戦うな、と言っても聞かないだろうしなあ。
「全く、気軽に言うわね」「でも、ボクタケトの言う事信じて全力で戦うよ」
そんな事を考えながら、ああ、と二人に笑顔で返事する健人。
「無事帰ってきて一杯イチャイチャしような!」珍しく健人がイチャイチャを公言する。さすがに恥ずかしかったようで健人の顔が一気に赤くなった。健人も発破をかけたかったようで。……イチャイチャするって言葉が発破かける事になるんですね。
「……あ、うん。そ、そうね」「キャー! タケトがそんな事……、キャー!」もじもじリリアムにテンションあがるケーラ。発破の効果はあったようです。
「じゃあ、俺先行くな」そう言って健人は、改めて魔物の方向に向いてアクセルとブーストを唱えた。そして魔物が拓いた道を駆け出す。相当速いそのスピードで、白いかばんの中から顔だけぴょこんと覗かせている、白猫の耳がぱたぱたとはためく。そしてすぐに二つの巨体に追いついた。
そして気づかれないよう、少し距離を置いて、瓦礫の影に隠れる健人。
『あにゃ? 頭の辺りに何か飛んでるにゃ? ……ケーラと同じ魔族なんじゃにゃいかにゃ?』そこで白猫が、巨大な魔物の間を飛んでいる魔族に気がついた。
「もしかして、そいつがこの魔物を操ってるのか?」
※※※
「わからなーーい!」
森の中に響く絶叫。その大声に驚いた付近の動物達が、一斉に驚いてギャーギャー、とか声を立てながら逃げていく。
「ここどこーー? どっちなのよーー?」声の主は黒髪のポニーテールさん。そして絶叫した後大きな木に座ってもたれて項垂れた。実は今、綾花は絶賛迷子中なのである。一人メディーに向かおうと、ギルバートとロゴルドを置いて、山賊が使っていた一軒家を飛び出したはいいが、そもそも何処にメディーがあるのか知らない綾花。
そもそも、元々魔族の都市へ向かうため、舗装された道を使っていたのだが、途中ロゴルドの知り合いというビルグと出会い、森の中にぽつんと建っているあの一軒家に行ったのだ。その時綾花は、道なき道をずっと馬でついていっていただけなので、勢いで飛び出して来た今、現在地が分からない。
太陽の方向で分かるかな? と言うか、そもそもこの世界って東から太陽あがるの? そんな事を考えながら空を見上げてみるものの、あいにく今日はずっと曇。寧ろ雨か雪が降ってきそうな程雲が厚い。
そこでクウ、と可愛らしくお腹を鳴らす綾花。「腹時計的にお昼時かなあ」もう一度空を見上げ、太陽の上がり具合で時間の確認を試みるものの、ずっと曇空なので分からない。さっき見たばっかじゃない、私バカ? と自虐的に心の中で突っ込む綾花。
だが、腹時計を信じるならば、あの一軒家を出て半日くらいは経過したという事だろうか。それまではずっとノンストップで、ウインドクッションを使い移動していたので、相当な距離を進んでいるはずだ。なので、もうギルバート達に見つかる事はないだろう。
その事に安堵した綾花だが、これからどっちに向かえばいいのか分からない。
「ずっとウインドクッション使ってて魔力もなくなりそうだし、そろそろお昼休憩するかなあ」
ため息交じりに大きの木にもたれながら、逃げ出す際持ってきた干し肉と硬いパンを取り出す綾花。そして一人、それをモクモクとかじり出す。
そんな綾花を、木に隠れてコッソリ覗く二つの影があった。





