綾花の決意
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「そう言えば、(様)付けもなかったな」
「そうなのか?」これまでずっと綾花に洗脳し続け、共に行動していたギルバートは、初めて綾花が逆らった事に余程驚いたようで、その事に気づいていなかった様子。
「まさか……洗脳が解けた? 光属性魔法の使い手といつの間にか接触していたとか?」
「いや、それはあり得ない。今日の夕食では今まで通りだったからな。ああなったのはほんのついさっきだろう」
「魔薬の効果が薄れたのか?」「……分からない。ただ、魔薬の効能も全て判明している訳ではない」
押し黙るロゴルドとギルバート。もしここで洗脳が解けてしまったら、計画に支障が出てしまう。その事を懸念したロゴルドはギルバートに、明日以降から半分程残っている魔薬を、今まで以上に量を増やして洗脳を進める事、そして先程の件を鑑み、やはり綾花には手を出さないよう、釘を刺した。
「クソッ! あれだけのいい女と、ずっと我慢しながら旅するのだって相当なストレスだったのに。それがようやく手を出していいって聞いて喜んだのに。またお預けか!」ロゴルドの話には返事せず、ガン、と部屋の中の椅子を怒りに任せて蹴りながら、文句を言うギルバート。
「しかも、もう人族のどの都市にも行けないのにさ」それからブツブツと文句を言いだす。ギルバートの異様な性癖だけでなく、娼館にも行けないので、性欲さえも満たされない事が相当気に入らないようだ。
そんなギルバートの様子に呆れながらも一人考え込むロゴルド。一体、何故急に洗脳の効果がなくなったのだろうか? 魔族の都市に戻ったら報告した方がよさそうだな、と心の中で呟きながら。
そして男二人がギルバートの部屋でそんな話をしている間に、自分の部屋に小走りで逃げるように戻ってきた綾花。それから急いで「プロテクション」と唱えた。すると綾花の左の手のひらから、小さな沢山の水泡が現れて浮かび、右の手のひらからは、小さな手のひらサイズの竜巻が一つ浮かび上がった。そしてその二つを綾花の目の前で融合させる。するとそれは、水を含んだ動きの遅い小さな竜巻となった。
そして綾花は、その小さな水の竜巻を、手のひらの上からそっと部屋の中心に降ろす。すると、その竜巻は一気に綾花の部屋全体を包み込むように、薄く大きく広がった。
「これでとりあえず安心かな」ふう、とため息をつきながらドアを閉める綾花。
これは綾花が作ったオリジナル魔法。四属性の綾花だからこそ出来る合成魔法だ。攻撃には適さないが、薄い膜のような、静かにゆっくり回る竜巻は、綾花が何もせずともずっと一晩中、勝手にゆっくり動いていて、何かがそれに触れると、パン、と音がするのだ。要する、これは外敵の侵入を知らせてくれる魔法である。動くものにだけ反応するので、動かない家具などに当たっても反応はしない。今季節は冬で、虫がおらず動物も殆ど冬眠しているであろうこの時期だからこそ使える魔法だ。当然、ここへ来る前までの野営の際にも、この魔法を活用していた綾花。因みにこの魔法の名前、プロテクションは、綾花が勝手につけてたりする。
万が一、ギルバートが就寝中に襲ってきてもすぐ気づく事が出来るよう、綾花は対策をしたのである。
「一体、ギルバートのあの変わりようは何だったんだろう? それにロゴルドの言葉も気になるし」仲間だと思っていたギルバートからの裏切りのような行為に、腹立たしさと気持ち悪さと恐怖が織り交じった感情が、プロテクションを使い落ち着く事が出来たからだろう、一気に湧き上がってきた。
「……!」急に泣き出しそうな表情になる綾花。そしてベッドの上で三角座りで、自らの両肩を抱いて身震いする。もしあの時、ロゴルドがいなかったら? それでも、自分は魔法で抵抗しただろうが、ギルバートに攻撃すれば完全に、仲間として共に行動するのは難しくなる。あのまま襲われていたとしても同じだっただろうけれど。
最も、洗脳されている綾花が、ギルバートに抵抗できたかどうか、それも怪しいのだが。
「……てか私、なんでギルバートと一緒に行動してんだろ?」今更ながらもたげる疑問。仲良しだったナリヤは今はいない。そしてギルバートは、アグニの都市にいた頃くらいから、殆ど宿におらず、ギルドの討伐依頼等もせず散財していただけだ。最近は特に、綾花一人で魔物討伐していたと言っても過言でない。
今まで何故か、その事について全く疑問に思わなかった事についても、不思議に思う綾花。首を捻りながらも、下ろしていた長い黒髪を頭の上で結わえポニーにする。そして未だ耳に付けているブルートゥースの白いイヤホンが、綾花の白い首筋から覗く。このイヤホンは耳の後ろから首筋に掛けるタイプで、ロゴルドとギルバートは、どうやら綾花の長い黒髪に隠れていたそれを、見つける事は出来なかったようだ。
そしてこれから寝床に入るのでイヤホンを外す綾花。「うぐっ?」すると、以前から感じていたあの偏頭痛と吐き気が、またも綾花を襲った。そして再びイヤホンを耳につけてみると、何故かそれは収まった。
「……もう何なのよ」イラっとしつつも偏頭痛は嫌なので、綾花は仕方なさそうにイヤホンをつけたまま、ベッドに寝ころんでガバっと頭からシーツを被った。
「前の世界なら頭痛薬のバファ〇ンくらいはあっただろうけど。ギルバートに言って光属性魔法で治して貰った方がいいのかな? でも、あんな事があった後だしなあ」明日はこの居心地のいい山賊の一軒家を出ないといけない。そのためにも、早めに就寝しようと、シーツに潜り込み寝始める綾花だった。
※※※
チチチチ、チュンチュン、と屋根の辺りで羽休めしているのだろう、小鳥達のさえずりが、ここ山賊の一軒家の辺りから聞こえる。まだ起きるには早い時間帯。未だ朝もやがこの一軒家を取り囲むように広がっている。曇天の空からは、そろそろ雪が降ってきそうな雰囲気を感じる。
そんな中、物音を立てないようそーっと外に出る扉を開く綾花。そしてキョロキョロ外を見て誰もいない事を確認する。黒髪は結わえたままなので、耳には昨晩から付けていたイヤホンが覗いている。そして外に出て白い息を吐きながら「サイレント」と小さく呟く。ヒュウゥと綾花の体の周りに風が舞い起こる。これは、風を自身に纏わせ身の回りの音をかき消す魔法だ。風魔法なので、この季節に使うには寒さに耐えないといけない。なので使うには若干辛いのと、音を消すと言っても足音程度が消えるくらいの、実戦では余り役に立たない魔法だ。
それでも今の綾花には充分だ。サイレントの魔法の風が、綾花の周りを、まるでラップで巻かれたようにくるくる回る。その風にブルルと身震いしながらも、見つからないようコソコソと野営用の荷物を抱え、少しずつ一軒家から距離を取る綾花。それから「ウインドクッション」を唱え、自身が最初その上に乗り、それから荷物も自分の横に置いて、サイレントを解除し一気にメディー方面に向けて加速した。
「どこかのスズメさん? 小鳥さんでいいか。ありがとう」何もいない曇り空に向かってお礼を言う綾花。実は朝早くに、たまたまほんの少しだけ開いていた窓から、暖を取ろうとしたのか、小鳥が一羽忍び込んできたのだ。その小鳥がプロテクションの魔法に触れてしまい、早朝に綾花は目が覚めた。
まだ早い時間だったせいもあり、ギルバートとロゴルドは目覚めていない。そこで、綾花はギルバートとロゴルドから離れようと決意したのだ。イヤホンを付けていると、離れたいという気持ちが一気に湧いてきたのも理由だ。だがもし、二人に離れたい旨を相談すると、引き留められるだろうと思い、彼らには内緒で抜け出しそうと決めたのだった。
何故、今まではそうしようさえ思わなかったか、綾花は未だ理解出来ていないが。
「よく分からないけど、今まではギルバートから離れられなかった。けど今は、この世界に来た時のように自由に動ける。なら、一緒に行動する必要ないよね。それによく考えたら、災厄の調査が進まなかったのだって、多分ギルバートと一緒にいたからじゃないかな?……やっぱり王様を頼った方がいいのかなあ」 はあ、と筋〇雲のように低空飛行しながらメディーに進む綾花。そして、自身がいつの間にかギルバートを呼び捨てにしている事には、どうやら気づいていない様子。
「王様なら、過去の色々な書物とか持っていそうだし。王様に会えって言われた時、断らなきゃ良かったかも。あ~、私浅はかだったなあ」コチン、と拳で軽く自分の頭を小突く綾花。そして、だってめんどくさかったんだもん、と誰に言い訳しているのか分からないが、そんな風に呟いたりしている。
「理由は分からないけど、イヤホン付けてると調子いいから、ずっと付けっぱなしの方がいいかな? 前の世界でも、病気になる前は毎日付けっぱだったから慣れてるっちゃ慣れてるんだけど。でもなあ、音楽聴けないのが残念だなあ」
元アイドルとして日々レッスンしていた綾花は、日常的に音楽を聴いていたので、イヤホンが気にならなかったようだ。そして理由は分からないが、今までのような鬱屈した気持ちから開放されたのもあり、気分も上々でメディーに向かった。
それから数時間後、目覚めたギルバートとロゴルドは、綾花がいない事に焦り驚愕する。
「何故だ! どうして僕から離れる事が出来るんだ! どうして勝手な事が出来るんだ! 洗脳していたのに!」
「……」ギルバートの狼狽えように、押し黙るロゴルド。昨晩、アヤカが風呂から上がった頃くらいから、洗脳が解けていたように思うが、どうしてだ?
綾花が使っていた馬は繋がれたままなので、遠くにはいないと判断した二人は、とにかく手分けして山賊の一軒家の周辺をくまなく探す。だが、当然見つからない。二人は、綾花のウインドクッションという魔法が、移動手段として使える事を知らないのだから仕方ないのだが。
「チックショウ! 何なんだよ一体! 最近何かと上手くいかないじゃないか!」イライラしながら地面を蹴るギルバート。
魔物に殺されたのか? それとも事故で死んだのか? その可能性も否定できないので、ロゴルドは背中の黒い翼をバサ、と広げ、空へ飛びあがった。ロゴルドは筋骨隆々の魔族。空を飛べはしても元々飛行は苦手なのだが、捜索するには上空からがいいだろう、と、不得意ながら飛んでみたのだ。
そして再び、空から綾花の行方を探してみるロゴルドと、地上で馬を使い捜索するギルバート。だが、その日一日かけて捜索したにもかかわらず、綾花を見つける事は出来なかった。
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