メディーが徐々に混乱してきます
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「こ、これは……」表に出てきて驚くギルド長ハギル。ギルド職員のヤックムに緊急事態だと聞いて慌てて飛び出してきたら、魔物達と冒険者達が戦っているではないか。こんな事は、五年前の魔族襲来以来の出来事だ。
「ヤックム! 私は王城に行って陛下に状況を伝えに行く! ここを頼むぞ!」緊急事態とは言え、王に連絡するにはある程度面識のある人間が良いだろう、そう考えたハギルは、自身が王城に行った方が良いと判断したようだ。ハギルの意向を理解した様子のヤックムは、息を呑んで分かりました、と答えた。
「おいみんな! 緊急事態だ! ギルド内にある武器や防具で必要な物は無償で提供する! 遠慮なく使ってくれ!」ハギルはそう大声で冒険者達に声を掛けつつ、老体に鞭うちながらも、急いで馬に跨がり、王城に駆けていった。
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ズダーン、と大きな音を立て、地面に叩きつけられるキロット。「ク、クソ!」そして痛みを堪えながら、すぐさま臨戦態勢をとるため片膝を立てて起き上がり、上空をキッと睨む。
「やはり強い……」そしてその傍らには、同じく地面で片膝を付きながら、悔しそうに上空を旋回している魔物達を見つあげるグンター。
二人は捕まっていた人を助けた後、空中でそのままハーピーに攻撃を仕掛けたが、ビュンビュン飛び回るハーピー達を中々捕らえられなかった。たった一匹のハーピーにさえ、二人がかりでも攻撃が当たらない。更に言えば、ハーピー達の攻撃を防ぐのが精一杯だった。二人共空中で、何とかハーピーの嘴や足の爪、キラービーの毒針攻撃を、空中で、ギリギリのところでいなし、躱していた。そして、隙を見て攻撃を仕掛けてはいたのだが、全く当たらない。結局二人は、さすがにずっと空中で戦う事も出来ず、力尽きてしまったのだった。
ハーピーとキラービーは、レベル50~60辺りの魔物である。そしてキロットとグンターは、魔族でも強い方とは言え、ようやくレベル50に到達した程度の実力だ。それでも冒険者としては高レベルだと言えるのだが。そんな彼らは今、自分達よりも強いハーピーとキラービーニ十匹に立ち向かっている。なので攻撃を喰らっていない事自体、奇跡的と言えるだろう。
そしてそれは地表から援護していた冒険者達のおかげでもあるようだ。皆魔法や弓矢を用いてキロット達を援護していた。捕まっていた一般の人々は、何とか全員救い出す事が出来たのだが、状況が好転したとは言えない。
「クソ、不味いな」「ああ」焦りの表情を浮かべながらキロットとグンターは二人愚痴る。
このままでは全滅するのは目に見えている。二人を心配して駆け寄ってきた数十人程の冒険者達と共に、どうしようもない気持ちが溢れた表情で寒空を眺める。冬の真っ只中だと言うのに、皆緊張感と魔物との攻防でせいで、息が上がり汗を掻いている。
すると、上空から一気に、魔物達が地表の冒険者達に向かって飛来してきた。捕まえて餌にするつもりだろう。まるで燕のようなスピードで迫ってくる魔物達。
「クレイウォール」「ウォーターウォール」魔法が使える二人の冒険者が、土魔法と水魔法を急いで詠唱する。そして縦横5m程の土でできた壁と水の壁を皆の前に創り出した。数匹の魔物がその土の壁にぶつかるも、後ろの魔物達はそれを躱し上から周り込む。
「ファイアアロー!」「ウォーターカッター!」上から回り込んできた魔物達を、今度は火の矢と水の刃の攻撃魔法で迎え撃つ冒険者達。
「シャドウスピア」更にグンターも加勢する。だが、待ち伏せして攻撃したのに全て躱されてしまう。
「羽だ! 羽を狙え!」そう怒鳴りながら、ギルド本部内に大量の矢と弓を取りに戻っていたヤックムが駆け寄ってきた。そして持ってきたそれを冒険者達に配った。
その間、正面に造られた土と水の壁が魔物達の体当たりで崩される。それをきっかけに、一気に魔物達が冒険者達に襲いかかった。
「チクショウ!」キロットがハルバードで攻撃を受ける。ガシンとハーピーの爪とハルバードが当たる音が響く。更にガシンがシンと何度もハーピーがハルバードの上から攻撃する。その間、キロットの頭上から、キラービーが顎をカチカチ鳴らしながら襲ってきた。キロットは正面のハーピーの対応で精一杯で気づいていない。
「キロット!」グンターが叫ぶが間に合わない。「ぐああ!」キラービーがキロットを節足六本で器用に持ち上げ上空に舞い上がる。
「クソ! 離しやがれ!」ハルバードを振り回し自らの頭を捕らえている足を何とか振りほどこうとするも、足は細いのに相当力が強く剥がれない。頭だけ捕まれ首が痛むのを防ぐため、急いでキロットは黒い翼を広げ羽ばたく。
「ホーリーアロー!」そこへ、光属性の槍が、キロットを捕らえていたキラービーの胸に刺さった。不意をつかれたキラービーは、それを躱せなかった。
「ギギギ……」そしてそのままキラービーは落下した。地面で羽をバタバタひくつかせるも、そのまま事切れた。キロットも勢いにつられ地面に向かうが、自らの黒い翼を羽ばたかせ、何とか地面に落ちる前に、フワリと衝撃を和らげ地面に降り立つ事ができた。
「はあ、はあ。助かった。ありがとよ、レムルス。それとナリヤも来たのか」手を上げ礼を言うキロット。
「間に合って良かった……でも、状況は余り良くないみたいだね」そしてそれに答えるレムルス。後方にはナリヤの姿も見えた。
「グンター! 王城へは連絡行ってるんだな!」「ああ!」ナリヤの大声での呼びかけに答えるグンター。
「じゃあ、王城から兵士達がやってくるはずだ。それまで何とか持ちこたえるぞ!」
ナリヤの叫びに希望を見出せた冒険者達。呼応するかのように一斉におおー!! と雄叫びを上げる。その様子に安堵の表情を浮かべるナリヤ。だが、すぐに顔を引き締め、戦闘中の冒険者達の中に飛び込んでいった。駆け出したナリヤ追い抜かれ、慌ててレムルスも後を追った。ただ、戦闘経験が殆どないレムルスは、先程のキラービーを倒した事で、実は結構気が滅入っていたりするのだが。
「仕方なかったとは言え、元々孤児だったのに、殺してしまった……」つい本音が漏れるレムルス。
「レムルス! 割り切れ! こいつらは相当強い魔物だ! 情にほだされてるとやられるぞ!」声が聞こえたかどうかは分からないが、ナリヤはレムルスの様子に気づいたようで、立ち止まり振り返って檄を飛ばした。
「あ、ああ、そうだな」ナリヤの檄に、意を決した表情に変わるレムルス。そしてナリヤと同じく、戦闘中の冒険者達の中に飛び込んでいった。
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「今日もリリアムは帰って来ぬのか?」「そのようで御座います」
そうか、と残念そうにため息をつくお父さん、もとい、メルキド王。その表情に気付かないフリをして答える出来る大臣ビーナル。ここはいつもの謁見の間。今は二人だけのようだ。
せっかくメディーに帰ってきた愛娘と、もっと会話したいのだが、先日紹介された、彼氏が泊まっている宿から全く離れないらしい。何をしているのかは想像したくないので、出来るだけ考えないようにしているお父さん。つい、はあ、と玉座に座ったままため息が出てしまう。
そして、その手には手紙を持っている。先日、風魔法を使ってガトーに送った、手紙の返事だ。
「中々妙案だとは思わぬか?」気持ちを切り替えたいのか、話題を変えビーナルに話しかけるメルキド。
「ええ。私も魔王の提案には賛成で御座います。ですが、功績は如何致しましょう?」
「……先日の件はさすがに不味いか?」「ええ。止めておかれる方が良いかと」
ふむ、と軽く返事するも、腕を組み深く考え込むメルキド。
王城内で起こったトラブルを率先して解決したのは健人だが、それを功績にするとなると、王族全てが洗脳されていた事、総神殿の大神官ドノヴァンが王城内でデーモンになった事を、公にする必要がある。
それはある意味王族の失態でもある。それを世間に公表するのは得策ではない。堅固な王城内にデーモンという、強力な魔物が現れた事を公表するのも、平和な今のメディー都民の不安を、無駄に煽りかねない。
ビーナルも立ったまま腕を組む。二人して難しい顔になって考え込み、沈黙している最中、慌ただしく兵士の一人が、挨拶もそこそこに謁見の間に入ってきた。
「緊急事態のため、非礼をお許し願います!」はあ、はあ、と息を切らせ焦燥感を漂わせた兵士がそう叫んだ。
「うむ。構わん。要件を申せ」兵士の様子から相当緊急である事は見て取れので、手をひらひらさせ気にするな、と伝えるメルキド。その後から、老体なのに無理をしたのが原因だろう、別の兵士に肩を借りながら、ギルド本部長ハギルが、息も絶え絶えに杖をつきながら苦しそうに入ってきた。
「ご無礼を、お許し、はあ、はあ、頂き、たく……」
「ハギルか? 一体どうしたのだ?」まさかギルド長ハギルがやって来るとは思っていなかったビーナル。驚いて質問する。しかもこんなにも息が上がっているならば、相当重大な案件なのだろう、と予想でき、息を呑んでハギルの言葉を待つ。
「メディー中心部に、魔物が大勢、現れたのです。よって、急ぎ兵を招集頂きたく」
「何だと!」ガタ、と椅子から立ち上がるメルキド。 ビーナルもハギルの言葉に、目を見開いて驚いた。
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「モルドー! モルドー!」
ケーラがリリアムと共に馬で健人の後を追いながら、空に向かって大声を出す。今の時間帯は夕方だが、そろそろ日が落ちようとしているので、モルドーを呼べると判断したようだ。
少ししてから、その声に反応したコウモリが、バッサバッサとやってきて、ケーラの馬の頭に乗った。
「呼ばれてやって参りました。如何致しました?」
「メディー中央の方に魔物が沢山集まってる。ナリヤ姉さんが行ってるから、そっちの魔物を倒すの手伝ってきて。今なら動けるでしょ?」
「ええ。これくらい闇がかかっているなら問題ありません。ですが、ケーラ様は?」
「ボクは大丈夫! リリアムとタケトがいるから! ボク達よりあっちの方が危ないから!」
「ムググ。タケト、とな」「いいから早く! 急いでるから!」馬を駆りながらモルドーの言葉を遮り急かすケーラ。ハーピーとキラービーの強さを知っているケーラは、いくら冒険者が沢山いるギルド本部とは言え苦戦するだろう、きっとキロットやグンター、ナリヤやレムルスでも厳しいだろう、と予想し、助っ人としてモルドーを呼んだのである。
そしてケーラやリリアム、更に健人であれば、ハーピーとキラービー程度なら、難なく相手出来る事も分かっている。なので自身の警護より助っ人として、メディー中央部へ行くよう、指示したのである。
「ウググ。承知しました。早速向かいます」浮かない様子で仕方なさそうに返事するコウモリさん。そして馬の頭の上でボン、と白い煙がモクモクと上がり、コウモリから吸血鬼モルドーに变化した。そしてその姿のまま上空へ羽ばたく。
「急いでね!」「承知しました」ケーラは上空のモルドーを一瞥すると、前を向いて急いで馬を駆けていった。その後ろから、チラリとモルドーを見上げ、リリアムも後を追った。
そしてモルドーは急いでメディー中央の方にバサ、と一羽ばたきして上空に上がる。それからメディー中心部に向かおうとするが、ふと、南の方へ顔を向けた。
「……なんだこの魔素は?」そう呟きながらスラム街方面を見つめる吸血鬼モルドー。
「この距離で感知出来る程の魔素だと? しかも二つ。メディーの都市内だというのに?」
嫌な予感がする。そう思ったモルドーだが、主の命令が優先な上、ケーラが向かった先は西方面という事もあり、それらが気になりつつも、とりあえずメディー中心部に飛んでいった。
不定期更新になります。申し訳ありませんm(__)m