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とりあえず冬の寒い中での野宿は避けられた模様

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークまでして頂いてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)m

またも30分遅刻ごめんなさいm(__)m


 ※※※


「どういう事が説明してよ!」「うるさいなあ!」


 そんな二人の言い合いを、冷めた表情で見つめているロゴルド。何とか兵士達を振り切ったギルバートと綾花達が、逃亡生活を続けて既に一週間。あれから全く説明がない事にいい加減綾花が腹を立て、二人言い争っているのである。


 ここはアグニからやや南側にそれた森の中。とりあえず野営するための設備は揃えていた綾花達だが、今は真冬なのでテントでの野営は相当辛い。寒い中交代しながら見張りしなければならないのも苦痛だ。一応綾花達も火属性や水属性のクリスタルを所持しているので、最低限の生活には困らないが、それでも快適ではないのは当然で、それを理由も分からず強いられている綾花は、とうとう不満が爆発してしまったのである。


 そんな二人の言い合いを傍から見ていたロゴルド。その時、彼の持つイヤリングが反応した。「これは……魔族の都市の方だな」そう言ってようやく遠目に見えて来た、高く尖った大きな山を見つめるロゴルド。


「二人共、気は済んだか? とりあえず急ぎ魔族の都市に向かうぞ。ギルバートの言う通り、人族の都市は何処へも行けないだろうからな」


「ロゴルドも知ってるんでしょ? どうして行けないのかいい加減教えてくれてもいいじゃない!」今度はロゴルドに食って掛かる綾花。だが、ロゴルドはそれに答えず、ギルバートをチラ見する。その視線に気づいたギルバートは仕方なさそうにため息をつき、「綾花。静かにしろ」と命令した。すると綾花はズキっと頭痛を感じながら、それ以上は言い返す事が出来なくなった。


 ……どうして? どうしていつもギルバート様に命令されると逆らえなくなるの? そしてまたもや気持ち悪い。綾花は心の中で疑問を感じながら、吐き気と頭痛に耐え、押し黙るしかなかった。


「こんな状態で、私に災厄を防げるのかなあ……」そしてふと、自身の心中を呟いてしまう綾花。


 ※※※


「何だと?」


 つい声を荒らげてしまうロゴルドに、ビルグは人差し指を口に当て、静かにするよう指示をする。


 イヤリングでコンタクトをしてきたのは、先日魔族の都市から来た者から、言伝を預かったビルグだった。ロゴルドがアグニではなく、やや南に外れたこの森の中に潜んでいる事は知らなかったビルグだったが、メディーに向かう途中、彼らを偶然見かけたので、イヤリングを使い呼び寄せたのである。


 そしてロゴルドは、魔王ガトーが既に隷属の腕輪の件、更に魔薬についても知ってしまっている事をビルグから聞いて、驚いていてつい声を張り上げてしまったのである。


「あの二人に聞かれると面倒だぞ」そう言って諌めるビルグに、ロゴルドはすまん、と頭を下げた。そして未だ嬉しそうにキョロキョロ部屋を見回している綾花をチラリと見る。どうやら自分の声は聞こえていないようなので、安堵の表情になるロゴルド。


「まあでも、大声を出したくなるのは分かる。それら件は、どうやらケーラ様が見つけ出したようなんだ。以前、俺達に会ったあの黒髪の人族と、リリアム王女と共にね」


「なるほど……。そうだったのか」ビルグとロゴルドは、以前アクーの海岸傍の洞窟辺りで、ケーラに出し抜かれ、健人とリリアムに会っている。その時、腕輪を付けていた神官見習い、リシリーがそこにいたのを思い出したロゴルド。あの時ビルグを助け出す際、リシリーを放置していったので、当然リリアムが隷属の腕輪を解除し、事情を聞いているだろう事は、想像に難くない。


「魔王の娘ケーラ様なら、魔薬の事を知っていてもおかしくはないが……まさか既に知られていたとは。しかしそれが何故、ガトー様に伝わったのだ?」


「ケーラ様が使役しているモルドーと、ナリヤ様が使役しているヘンが伝えたらしい。そして奴らはシャリア様に調査結果を伝えたようだよ」


 魔族幹部の一人のシャリア様に? 首を傾げるロゴルド。そして和平反対派といえど、幹部の一人であるシャリアにも敬語を使う二人。


「シャリア様は、最近魔物が増えてきた原因を、人族の王メルギドから依頼されて調べていたようなんだ。そしたら魔薬に辿り着いた、という訳だ」ロゴルドの疑問に気づいたビルグが、重ねて説明した。そしてなるほど、と得心いった顔をするロゴルド。


 ビルグの言う通り、元々ナリヤを含むシャリア達調査隊が調べていたのは、魔物が増えてきた原因を探る事で、その調査のためナリヤがメディーにやってきていた。だが、ナリヤは運悪くギルバートに騙され慰み者となってしまい、連絡が取れなくなった。そこでケーラが同様の調査と、ナリヤの捜索を人族の都市アクーに向かい行っていた。


 結果、ケーラ達パーティーメンバーが、隷属の腕輪と魔薬を発見し、その事をケーラがモルドーにサンプルを渡し、それがシャリアの元に運ばれ、つい最近、ヘンが新たに情報を持ってきた事で、纏めてガトーへ報告した、という事だ。


 そしてその様な調査が行われていた事自体、知らない二人。ガトーが内密にしていたから当然なのだが。


「しかし不味いな」「ああ。だから俺はこれからメディーに向かって、ギズロット様に報告しようとしてたんだ。まさかロゴルドを見つけるとは思わなかったよ。しかもあの二人と一緒とは。今度はそちらが説明してくれないか?」そう言ってビルグは、少し機嫌の直った様子の綾花と、早く休みたいのだろう、どこかイライラした様子のギルバートをチラ見する。


 因みにここは、以前ビルグが偶然見つけた、森の中にある、元山賊の根城だったニ階建ての家である。中はもぬけの殻で、そして思ったより汚れておらず綺麗さっぱりしている。寒さをしのぐには十分な木造二階建ての一軒家で数部屋あり、簡素ながら各部屋にベッドがある。その上風呂トイレまで設備してあった。なのでクリスタルさえ使えばお湯も水も使える。泊まるには申し分のない建物である。


 なので、今までずっと野営だった事から解放された綾花は、そこそこ機嫌が直っていたのだ。


 因みに、実は何処かの骸骨の魔物さんが、元々ここにいた山賊達を蹴散らしていたのだが。その事をビルグは知らない。


 その二階建ての一階のリビング兼ダイニングルームであろう、そこそこの広さの部屋に、ロゴルドを含めた全員が、現在いるのである。


 とりあえずロゴルドは、ギズロットから依頼されギルバートと接触した事、理由は分からないがギルバートが兵士達に追われ、メディーに入る事が出来なかった事を簡潔に説明した。


「ビルグさんだっけ? この家? まで案内してくれて有り難いけど、なんかさっきからきな臭い話しているね」ようやく機嫌も直って落ち着いた綾花が、聞こえはしないが二人が小声でコソコソ話していたのが気になったようである。


「魔族同士の話だ。君には関係ないし気にしないでくれ」少し焦りの表情を浮かべながらも、手をひらひらさせるビルグ。


「とにかく、君達はこれから魔族の都市へ向かうんだろ? それなら、野宿するよりここを拠点に色々準備したらいいよ。ここは君達が好きに使っていいから。俺はこれからメディーに向かわなきゃいけないからね」そしてビルグから綾花達に提案する。


「それは助かるよ」ビルグの提案を聞き、嬉しそうに声を上げるギルバート。「人族の都市への買い出しだけなら、綾花一人に行かせればいいしね」


「だーかーら! なんでギルバート様やロゴルドは来ないわけ?」ギルバートの言葉に綾花は納得出来ない。どうして自分だけがお使いに行かなきゃならないの? 意味わかんない! とご立腹。またも機嫌が悪くなる。


「アヤカ。これ以上、僕が人族の都市に行かない理由を聞くな」いい加減ギルバートもイライラしていたのだろう。綾花にそう命令した。するとまたもや、綾花は頭痛を感じ吐き気を催しながら、「わ、わかったわよ」と小さく返事する。またも逆らえない事に不満を感じながら。


「……一応洗脳はきちんと出来ているようだね」その様子を見たビルグは、綾花に聞こえないように呟いた。


「さてと。俺はそろそろ行くよ」そしておもむろに立ち上がり、ビルグは皆に挨拶してから、元山賊の根城だった二階建て一軒家から出ていった。


 ※※※


 風のように影が森の中を進んでいく。既に日は暮れ辺りは闇の中だが、その影は一向に気にせず、どんどん真っ暗な森の中をひたすら掛けていく。


「モルドーは既にケーラ様とも接触しておられるだろうから、急がなくて良いな。……以前立ち寄った山賊のねぐらにて、少し休憩するか」


 この独り言を呟いているのは、ナリヤの使役している魔物、リッチーのヘンである。ヘンは以前、ナリヤに近づけなかった間、この辺りの森に潜んで、山賊達を倒し、いつかナリヤが役立てるよう、服や金品を奪っていたのである。メディーに戻るのであれば、やや南下してアグニを避けて向かったほうが早い。


 そしてその山賊の二階建て一軒家に辿り着くと、中から何やら物音が聞こえた。


「……魔素を感じる。魔族がいるのか?」訝しがるヘン。「それに、どうやら他に誰かいるようだな」


 野営代わりに冒険者が利用しているのかも知れない。そう思いつつ、魔族がいたのが気になったヘンは、とりあえず気づかれないよう、慎重に距離を取り、骨のみの手のひらに直径5cmほどの小さな黒い塊を出現させた。傍目には虫か何かにしか見えない。そしてそれにフッと息をかける。すると、その黒い塊はふよふよと空中を漂い、一軒家の中に入っていった。


 これはヘン特有の魔法である。まるでドローンのカメラのように、ヘンはこの黒い塊を操って中の様子を見る事ができるのだ。


「……あれは、ロゴルドか。奴なら魔素を感知出来ないはず。それと……あやつは!」急に殺気を滾らせるヘン。ナリヤを陵辱し続けていた、主人の憎き敵、ギルバートが目に入ったのだ。更にナリヤと共にパーティーを組んでいた黒髪の女魔法使いも見えた。


「……ナリヤ様に報告せず、勝手に私が手を出すわけにはいかんか」悔しそうに呟くヘン。「とりあえず、ここにギルバートとあの勇者がいる事を報告すべきだな」


 そして手のひらを上にかざし、何かを握りつぶすような仕草をする。すると、一軒家の中に入っていった黒い塊は、突如霧散して消えた。


 それから結局休憩はせず、ヘンは改めてメディーへ駆けていった。


次回更新予定は数日後の予定です。

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