奴らがやってきた。そしてメディーに魔物
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「よし、いよいよだぞ」
「おう。ようやくだな」「メディーは広いが、俺達の強い想いさえあればきっと巡り合える!」
「……抜け駆けすんなよ」「何言ってんだ。俺達は一蓮托生だぞ!」
「「「「「おおーーーー!!!!」」」」
「……どうしたお前ら?」そんなテンションアゲアゲの、十人程度の兵士達を、ものっ凄くドン引きしてジト目で見ている、メディー入り口の警備兵達。受付を待つ行列を作る人々も、訝し気に引き気味で、その集団を見つめている。そんな風にやいのやいの言いながらやってきた彼らは、ガジット村での任務を終えた王都直属の兵士達だ。
「俺達は新たな希望を見つけたんだ」「おうよ! あれ程素晴らしい方を見た事はない!」
「ああ。リリアム王女殿下の事か」リリアム王女殿下の美貌と人柄に当てられたのか。そう納得した様子のメディー入り口の警備兵。アクーからメディーに来る際、多分に漏れずガジット村に滞在したであろう、リリアム王女殿下の事を言っているのだろうと思ったようだ。彼らの熱意は忠誠心からきたものなのだろう、と想像したようであるが、それにしても彼らの熱気は異常だ、と思ってはいるのだが。それがリリアム王女殿下の美貌によるものだとしても。
「え? ああ、王女殿下も素敵な方だが……」「……なあ?」おいおい見当違いだぞ? とでも言いたげな顔になる面々。
「は?」こいつら何言ってんの? と、彼らの反応に怪訝な顔になる警備兵。彼らの胸には、誇り高き王都直属の証を示す赤い紋章ではなく、誰かさんの名前の続きに親衛隊、と書かれたワッペンが貼ってあった。
※※※
「うわあー!」「た、助けてぇー!」「ぎゃあああ! 化け物、い、いや、魔物だああ!!」
悲鳴を上げながら逃げ惑う人々。声が聞こえる辺りはメディーのスラム街の奥からだ。彼らは必死の形相でスラム街から出ようと必死に走ってきている。
「おい! どうした!」巡回していたギルド直属の警備隊の一人が、逃げてきた男に声を掛けた。
「魔物が、魔物が大勢襲ってきたんだ!」震えながら警備隊の任務に就いている冒険者の腕を掴み、訴えかけるように説明する、スラム街から逃げてきた男。
「魔物? メディーのスラム街に?」おかしい。そもそも魔物は都市の中にいるはずがない。ここメディーは魔物が一切入りこまないよう、高い壁に囲まれているからだ。だが、目の前の男が嘘をついているようには見えない。警備隊の男がそんな事を考えている間に、スラム街から出てきた男は、彼を残してさっさと逃げて行った。更にスラム街の中から沢山の人々が、恐怖の表情を浮かべ逃げてくる。
「そんなヤバい魔物なのか?」自分の横をどんどん通り抜け逃げていくスラム街の人達に、益々怪訝な表情になる冒険者の男。そして、これだけの人々が逃げてきたのがようやく理解できた。
「ギャアアア」「キュイイイ」「ギャオオオ」様々な唸り声や叫び声をあげながら、こちら側に飛んでくる魔物の大群が見えたのだ。
「な? あの数はなんだ!」スラム街から聞こえてくる沢山の歪な声に、焦りの表情を浮かべる冒険者の男。何故こうなったか分からないが、メディーの中心街に向かって、魔物の大群が押し寄せてきているこの異常事態を、一刻も早くギルドに報告しないといけない、と、男は急いで馬に跨がり、踵を返してギルド本部に駆けていった。
※※※
『健人様! あっちの方に魔物が沢山いるみたいだにゃ!』白猫が慌てて健人のかばんから出てきて念話で伝える。
『魔物? メディーの中でか?』『そうにゃ!』
「ケーラ。真白の念話聞こえたか?」「うん。なんだかマシロさんの様子からして、非常事態みたいだね」
「マシロさんが何か仰ったの?」「ああ。魔物が沢山、メディー内にいるらしい」
その言葉を聞いたリリアムは驚いた顔をする。白猫の能力を知らないナリヤとレムルスも、魔物がメディー内にいる、と何故健人が言ったのかは分からなかったが、リリアムの表情を見て、それが冗談ではない事はすぐ察知した模様。
とりあえず皆、大神殿の近くにある孤児院の地下室から一斉に外へ出てきた。ここはスラム街から近い、メディーでもやや南側の場所。なので外に出てからすぐに、スラム街の方から大勢の人達が逃げてくるのが見えた。
「なんだか大変な事になっているみたいだな」「彼の言う通り、魔物のせいなのか?」ナリヤとレムルスが、大勢走ってこちらにやって来る人々を見てそれぞれ呟く。
その内、走っていた数人の体が突如浮かび上がる。比喩ではなく本当に浮かび上がったのだ。
「う、うわあああ!」「ヒイイイ!!」「た、助けてくれえ!!」
その様子に驚く健人達だが、その理由は直ぐに分かった。魔物達が人々を捕まえて空に舞い上がったのだ。何とか逃れようと必死にもがくも、鋭い爪が捕まった人達に食いこみ、それは叶わない。
「タケト! あれハーピーだ! キラービーまでいるよ!」「確かにハーピーとキラービーだな。不味いな」
ケーラが焦りの表情を浮かべながら魔物の名前を叫び、ナリヤも渋い表情になる。ハーピー? キラービーはその名前で殺人ハチだというのは分かった健人。
ハーピーとは、人間の女性に見える長い髪を持ち、容姿も女性のようだが、体長は2m程もある。その目は顔の半分ほどに大きく、口は大きな黄色い嘴、そして両腕が翼になっている魔物である。基本雌しかいない魔物だが、空を飛び素早い上、足には大きな爪を持ち攻撃力が高い、高レベルの魔物なのだ。
そしてキラービーはその名の如くハチの魔物で、見たまま完全にハチなので、六本の節足と大きな腹に先から毒針が覗き、スズメバチのような大きな顎と大きな目で、大きさは2~3mもある。こちらもハーピーと同様、高レベルの魔物である。
そんな魔物達が総勢五十匹程、スラム街から飛んできたのだ。そして厄介なのは、どちらも人を食す。なので今捕まっている人達が、これからどうなるのか、この魔物達を知っているケーラは、簡単に想像できた。
なのでケーラは急いでトンファーを銃のように短い部分を掴み、長い部分を銃身に見立て構え「シャドウビーム!」と唱えた。黒い光線がハーピー達に放たれる。だが、音速より速いその光線を、人を掴んだまま難なく躱す魔物達。
そしてケーラの想像通り、ハーピー達は空中で、持ち上げた人の頭をガブリと大きな嘴で食いついた。「ぐああああ!!」断末魔の叫びをあげる齧られた人。そしてそのまま、ハーピーと思われる魔物は、バリボリと音を立て、骨ごとその人を喰らいつくした。
「あああ、間に合わなかった」悔しそうに空を見上げるケーラ。更に空中のあちこちでグチャリ、バリボリと音が聞こえる。同時に聞こえる人々の絶叫。健人達も間に合わなかった事を悔いるように、上空を見上げている。あちこちにボトリ、ボトリと落ちる肉片。ビチャビチャと滴る血。ところどころ地面が赤く染まる。
そんな中数体のハーピーが、先に攻撃を仕掛けたケーラの上空に一斉にやってきた。警戒して様子を見るケーラ。そして数匹のハーピーが、一気に鋭い足の爪でケーラに攻撃する。ケーラはそれをトンファーで受け止めようと身構えるが、後ろからも更に爪が襲いかかる。
が、その間に健人が入りこむ。既に腕に装備していたスモールシールドで、ケーラの背後に突撃してきたハーピー達の爪を防いだ。ギャリーンと爪とオリハルコンの盾がせめぎ合う音が響く。そして健人は、左腰にぶら下げていた刀の柄を握り、「はっ!」と気合一閃、空中へ横薙ぎに居合切り。その無駄のない一連の防御からの攻撃に、ハーピー達数匹は反応できず、「ギャアアアア!」と、まるで人のような叫び声を上げ、上下真っ二つに分かれ、事切れた。ボタボタ、と落ちてくるハーピー達の死骸。
「ありがとう、タケト」前方からのハーピーの攻撃はトンファーで防いだケーラが、健人に礼を言う。前方からケーラを攻撃したハーピー達は、健人の攻撃を見たからか、追撃をせず一旦空中に舞い上がった。そして他のハーピーやキラービーと共に、上空20m辺りに集合する。
「まだ沢山いるな」そして改めて刀を構え臨戦態勢になる健人。程なくして、リリアム、ナリヤとレムルスも側にやってきた。
先程の健人の攻撃に、今度は慎重になったようで攻撃を仕掛けてこず、空中で浮いたまま、こちらの様子を伺っているハーピー達とキラービー達。その間、スラム街から逃げてきた人々は、どうやら皆メディーの中央部の方に逃げていったようだ。
「ねえ、ケーラ。あの魔物達、何かおかしくないかしら?」とりあえずこれ以上被害は出ないだろうと想像したリリアムが、逃げていく人達を見ながらホッとするも、気になってケーラに聞いた。
「ハーピー本来の色じゃないね。キラービーもだけど」そんなリリアムの質問に答えるケーラ。
ケーラのいう通り、本来ハーピーの体は真っ白な毛で覆われ、キラービーはハチの如く黄色と黒の縞模様であるはずなのに、ここにいる魔物達は、皆一様に紫色である。
「それもそうだけれど……」だが、リリアムが気になったのはそこではないようだ。統制がとれている気がするわ、と呟く。
「魔薬か」そしてナリヤが、この魔物達が紫色である理由を呟いた。
「でも姉さん。魔薬が原因だとしても、数多いよね? ゴブリン達みたいに一つの魔薬から生まれたのかな?」
何度か実証して知っている魔薬の効果。だが、多くの魔物を生み出す魔薬でも、ハーピーやキラービーといったレベルの高い魔物が、一つの魔薬からこんなにも沢山生まれるものなのだろうか? と、疑問に思うケーラ。そんなケーラの言葉を聞きながら、未だ上空で待機している魔物達の左腕辺りについている木の腕輪に、ナリヤが気付いた。
「あれはもしかして……隷属の腕輪?」
本日の更新から、また数日日にち空けますm(__)m





