きな臭い動き
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「ムム~……」
猿轡をされつつも、情けない声を出して目の前の様子を項垂れながら見ている大神官。とある大神殿の傍にある孤児院の地下室にて、隷属の腕輪をつけられていた孤児達に、リリアムがホーリーリフトを唱え解除していたのだ。その数十人程。全て麗しき美女ばかりだ。なので、何の目的で隷属の腕輪を付けられていたか、想像に難くない。
腕輪を外された女性達は、安堵の気持ちが溢れ出したのだろう、皆一様にその場で泣き崩れる。それを労るように、優しく声を掛けてまわるケーラとナリヤ。
「では、お願いしますわ」全ての解除が終わったのを確認したリリアムが、縄で縛られ更に魔法を詠唱できないよう、猿轡を口に咥えられた大神官と神官複数に目配せし、キロットに声を掛ける。了解、とキロットが答え、彼らをギルド本部にしょっ引いていった。体が大きく筋肉質の魔族キロットに逆らおうとする神官はいないようで、皆項垂れながら大人しく連行されていく。グンターもキロットに付き添い、一緒に孤児院の地下室を出ていった。
一週間前、リリアムから説明を受けたレムルスは、神官達の実態に大層驚いた。更に総神官の二人ファルールとユリナから受けた報告で、まずは総神殿の孤児達の救出と、隷属の腕輪を所持していた大神官と神官の逮捕だと、その日遅い時間ながらも早速皆で手分けして総神殿内と隣接する孤児院を捜索したのだが、何故か事情を知っているであろう大神官はおろか、神官さえもおらず、孤児院内には隷属の腕輪を付けられた孤児すら一切いなかった。
仕方がないので、総神殿の捜索はユリナとファルールに任せ、健人達は次の日から、メディー各地にある大神殿と神殿を、手分けして捜索する事にしたのである。そして結局、全体の八割程の大神官と神官を、捕まえる事になってしまったのである。
そしてこの大神殿にて、総神殿以外の全ての捜索が終わったところだ。因みに、レムルスが勤める神殿には、隷属の腕輪を持っている神官は一人もおらず、側の孤児院からも、腕輪を付けている人はいなかった。
「はあ……」疲れたのか呆れたのか、ふと大きくため息をつくレムルス。それを労うようにリリアムがポン、と肩を叩いた。振り返って笑顔になるレムルス。
「なんだか、何とも言えないね」ハハ、と力なく笑うレムルスに、リリアムも肩を竦める。
「私もここまで酷いとは思っていなかったわ。これだけ大勢の神官を逮捕してしまって、これからの神殿運営、どうすればいいのかしらね」
「それはお母様に委ねるしかないね。とりあえず今後の事は全て片付いてから考えればいいと思うし。まだ総神殿が残っているしね」
「でも、あれだけいた総神殿の大神官と神官達、そして孤児達は一体どこ行ったのかしらね?」コテンと首を傾げるリリアム。その仕草が可愛らしく、つい顔が赤くなるレムルス。
因みにレムルスは、未だ健人とリリアムとの関係を知らない。一週間共に行動していたものの、流石にリリアムは仕事の最中、健人に甘えたりしなかったので、気付く事はなかっただけなのだが。
「そういや、先日ギルド長宛にやってきた大神官、あれから動きないな」一緒にいた健人がふと思い出した。
「確かヘゲナー、という名前だったわね」
「ヘゲナーか……」リリアムの言葉に少し考え込むように顎に手を当てるレムルス。
「余りいい噂聞かない人なんだよね。ギルドを使って護衛を集めようとしていたのも、きっと自分の身を僕達から守ろうとしていたんじゃないかな? でも、それが出来なくなった今、別の手を考えてると思うんだ」
「その別の手ってなんだろうね?」ケーラが女性達を落ち着かせた後、会話に入ってきた。
「分からないな。とりあえず総神殿の捜索は、そちらの総神官達の報告を待とうか」そこにナリヤも入ってくる。そうだな、と健人が返事し、女性達を一旦孤児院に連れて行った。
『!』その時、ふと健人のかばんの中に入っていた白猫が、何かに気が付いてぴょこっと顔を覗かせた。
『何かおかしい雰囲気を感じるにゃ』
※※※
「これだけいれば充分だな」「ええ」囁き合うギズロットとプラム。
スラム街のとある大広間。建物自体はバラック小屋のようにみずぼらしく見えるのだが、中の大広間はしっかりした構造のようだ。こうこうと壁に取り付けられた火属性のランプが灯る以外は、何もない殺風景な、部屋というより倉庫のような場所に、ギズロットとプラム、そしてヘゲナーとメズベルがいる。
そして彼らの様子を、怯えながら見つめている五十人程の女性達。全員、左腕に例の腕輪を付けられている。そして彼女達は、大広間の中央に集められ、それを取り囲むようにギズロット達が立っていた。
「当初言っていたよりも数が減ってしまい申し訳ない」頭に手を当て謝罪するメズベル。
「いやいや。とりあえず五十人はいるようだから、問題ないでしょう」手をひらひらさせるギズロット。元々、隷属の腕輪を付けていた孤児達は総勢二百人はいたはずだったのだが、健人達が各神殿に調査に入り救出したため、総神殿にいた孤児達のみ、ここに連れて来られたのである。
「で、言われた通り彼女達を集めましたが、これからどうなさるおつもりで」何をするか未だ聞かされていないヘゲナーとメズベルは、言われた通りにしたものの、今後について気になるので質問する。
「いやなに。元々ドノヴァンにやって貰おうとしていた事を、これからするのですよ」そう返事しながら、これでギルバートへの依頼は必要なくなった、とほくそ笑みつつ、ギズロットは答えた。
ドノヴァンにやって貰おうとしていた事? ギズロットの返事に益々分からなくなったヘゲナーとメズベルは、二人揃って首を傾げる。そんな二人を気にせず、ギズロットはプラムに声を掛けた。
「プラム。既に魔族の都市へは連絡済なのだな?」「ええ、先程。ですので向こうに伝わるのは少し後になるかと」
それを聞いたギズロットは分かった、と返事し、それからプラムに指示して大きめの袋を持ってこさせた。そんなギズロットとプラムとの会話が丸聞こえなので、余計に訝しがるメズベルとヘゲナー。一体何の事だ? と二人して怪訝な表情をしている。
「ヘゲナー殿。この袋の中に入っている紫色の球を、彼女達の口に入れるよう、指示して貰えないか?」そんなヘゲナーに無関心な様子ながらも、指示を出すギズロット。
「ギズロット殿、それはもしや……私が知っているものよりは小さいようだが」そしてその紫色の球を見て背中に冷たいものが走るヘゲナー。
「やはり知っていたか。察しの通りだ」ニヤリと嗤うギズロット。
「……我々の身の安全は保証して貰えるのだな?」「ああ。我々は約束は守る」お前達と違ってな、と呟いたのはヘゲナーには聞こえなかったようだが。
それからヘゲナーとメズベルは、女性達に紫色の球を配らせ、各人一個ずつ持つよう指示をする。そして口に入れ飲み込むよう命令した。その指示に恐れつつも、逆らえない彼女達は皆一斉にその紫色の球を飲み込んだ。
※※※
「また帰ってくるとは」馬に跨がり、ため息混じりで愚痴る綾花。因みに風魔法ではなく馬に乗っているのは、団体行動しているからである。
最近、やたらため息ばかりついている自分に気がついてまたため息をつく綾花。まるで一時期のどこかの誰かさんのようである。更に近頃またもや、以前感じていた気持ちの悪さが復活したのも理由だろう。
そんな愚痴をこぼす綾花に対し、無言で同じく馬で並走するギルバートとロゴルド。程なくして、アグニ側の入り口前の村に辿り着いた。それからギルバートが手続きのため、先にあるメディーの受付に、一人で勝手に走っていった。
「ああ、もう! 勝手に行かないでよ!……一言声くらいかけてよね」ブスっと膨れる綾花。体調が良くないのも手伝って、機嫌も宜しくない様子。そしてそんな綾花を、どこか哀れみを含んだ目でチラリと見るロゴルド。
暫くしてギルバートが戻ってきたが、どうも様子がおかしい。受付をしに行っただけなのに、猛スピードでこちらに向かってきたのだ。よく見ると、その後ろから兵士達が複数、馬で追走していた。
「……ねえ。あれ、明らかに追いかけられているわよね?」「そうだな」二人の言う通り、ギルバートは必死になって馬を駆り、こちらに向かってきているのは、メディー方面から兵士達が追いかけてきているためであった。
「待て! 逃げるな!」
「お前の所業は全てバレている! 指名手配されている! 無駄なあがきはよせ!」
「アグニ方面に逃げても無駄だぞ! 全ての都市にお前の事は通達済だ!」
総勢十人程の兵士達が叫びながら、馬でギルバートを追いかけて来ていたのだ。
「なんでだ! どうしてこうなった! 僕はメディーにいなかったのに!」まさかの事態に、混乱しつつも必死の形相で綾花達のいる場所に戻ってくるギルバート。何故兵士達が捕まえようとしているのか具体的には分からないが、思い当たる事が多すぎるギルバートは、とにかく捕まるのは不味いと思い、咄嗟に逃げたようである。
そのうちアグニから、ギルバートが戻ってくるかもしれないと考えた健人達は、ギルバートがメディーに戻ってきたら捕らえるよう、リリアムを通じて王族直属の兵士達に、ギルドを通じて警備隊に、それぞれ伝えていたのである。更に兵士達の言う通り、メディー以外のアグニを含む全ての都市のギルドにも指名手配済なのだ。彼らがアグニにいてそれを知らなかったのは、三人がアグニを出た後に通達が届いたので、入れ違いになったからである。要するに、アグニどころか全ての人族の都市に、ギルバートは入る事が出来なくなってしまったのである。
「ギルバート様は何をやらかしたの?」これまでのギルバートの所業を一切知らない綾花は、怪訝な表情で、徐々に近づいてくる必死な形相のギルバートを見つめている。
「……とにかく我々も逃げた方が良さそうだな」一方詳細をよく知るロゴルドはそう呟く。
ええ~、と嫌そうな顔をする綾花。私何も悪い事してないのに、なんで逃げなきゃならないの? と不満顔。だが、ロゴルドは迷う事なく馬を翻し、綾花を一人置いてアグニ方面へ走っていく。仕方なく綾花もブツブツ言いながら、ロゴルドの後に付いていった。
「この様子だと、どうもギルバートからの手助けは無理のようだな」ロゴルドがそう呟きながら鐙を蹴り馬を加速させる。
ロゴルドはギズロットの指示で、メディーの大神官の息子であるギルバートに、メディー内で行う予定のとある計画のため、他の神官を頼れないか相談しようとしていたのである。それでメディーにいるギズロットに会うため戻ってきたのだが、指名手配されてしまったギルバートではそれは叶わない。
だが、その件は既にギズロットが、別の者と結託して計画可能になったのだが。ロゴルドはその事については今は知らない。
「アグニにも戻る事は難しくなったようだし、仕方ない。魔族の都市に行くか」ため息混じりで行く先を決めるロゴルド。何も知らない綾花はこれからどこに向かうのか不安気だ。
「ああ! もう! ひつこいなあ!」一方ギルバートは未だ追いかけてくる兵士達を撒こうと、未だ必死で逃げていた。
※今年はこの更新にて終了致します。次回は来年1/8スタート予定です。
新作のプロットを書いている最中です^^来年の早い時期に投稿する予定です。
ネコと転移 を書いた経験を活かして、より面白い内容に仕上げるつもりですので、
またお付き合い頂ければ幸いですm(__)m