いよいよ準備も佳境に入ります
※健人が武器を扱える理由は、かなーり後半に判明しますm(__)m
バッツの母親は、二人に武器と防具を渡したら、農作業の続きをするため、倉庫から離れていった。改めてお礼を言う二人。
「なあバッツ。もうちょっと大きい剣ない?」暫く片手で剣を振っていた健人は、ショートソードがどうもしっくり来なかった。
「それより大きいなら、ロングソードだな。もう少し大きいバスタードソードも一応あるぞ」
見せてくれ、とバッツにお願いして再度倉庫に入る。ロングソードはさっき持っていたショートソードより若干長い程度。バスタードソードは更に長いが、両手でも使えそうだ。あ、これだ。俺両手で使いたいんだ。どうやらしっくりきた様子の健人。
「このバスタードソードっての、使ってみていいか? 」そしてバッツに確認する。
おう、いいぞ、とバッツは気前よく貸してくれた。「てか、それも使わないから持っていっていいぞ」それはありがたい。遠慮なく貰う事にした健人。バスタードソードは片手で使おうとしても使え、両手でも使えるちょうどいい武器だった。健人は両手で、バットを振る要領で剣を地面と水平にしてブンと振ってみる。
「おお、いい感じだな」バッツが褒めた。やっぱ前の世界の経験を活かすのはアリだな。バットのスイングのように振れば、うまく腰が乗って振れると思った健人。確かにさっきの剣よりは使いやすいようである。
「よし。じゃあ今から俺と模擬戦やってみようか。マシロちゃんもね」バッツがそういうが、真白はものっすごく嫌そうな顔をする。
「いやいやマシロちゃん、これ真面目な話だから」慌てて説明するバッツ。
「……真面目にやるにゃ?」ジト目でバッツをみる真白。
コクコクと人形のように頷くバッツ。真白病は、とりあえず大丈夫のようである。
「とりあえずタケトがどれだけ出来るか知りたいから、まず健人からやってみようか」気を取り直したバッツはそう言いながら、自分の得物、斧を担いだ。
でも、怪我させるかも、と躊躇してしまう健人。なにせ武器で人を攻撃するなんて初めてだ。健人か困っていると、バッツが声をかけた。
「おいおい、タケト。そんなんじゃ村のみんな守れないぞ? 怪我とかは気にすんな。きっとタケトの攻撃程度なら当たらないから」
そう言われて勇気を出して、「じゃあ、やってみるぞ」と言って駆け出し、剣を両手でおおきく振りかぶって上から攻撃する健人。それをいとも簡単に斧の柄で片手で受け止めるバッツ。ほう、と感心した声をだす。
「へえ。武器扱うのほんとに初めてかよ。良い太刀筋だ」ニヤリとするバッツ。
バッツの言葉に返事をせず、そのまま健人は攻撃を続ける。話で聞いていて知ってはいたが、さすが元冒険者だけあって手慣れているのが良くわかった。健人の攻撃を難なくいなすバッツ。今度は遠慮せず思い切り振り回してみる。
縦から横、そして下から縦横無尽に振り回す健人。ドンドン健人の剣のスピードが上がっていく。「ちょ、ちょっと待て! ストップ!」焦るバッツ。思ったより太刀筋が速く、焦るバッツが声をあげるも必死な健人には聞こえていない。「チィ」と舌打ちし、隙を見て斧を地面と水平に振り、健人を剣ごと吹っ飛ばした。
「があ!」と唸り声を上げてうつ伏せに倒れる健人。真白が心配そうに駆け寄るが、どうやら怪我はなくかすり傷で済んだようだ。防具のおかげかも知れない。「ふう。タケトお前、ほんとに初めて武器持ったのか?」疑うように健人に声をかけるバッツ。
「ハァ、ハァ」息が切れて中々答える事が出来ない健人。何とか剣を杖のようして、身体を支えて立ち上がる。必死に剣を振っていたが、いつの間にか吹っ飛ばされていた。さすが元冒険者。強い。
「ハァ、ハァ。ああ、武器持ったの今日が生まれて初めてだ」ようやく落ち着いてきて答える事が出来た健人。
「まじかよ」そう呟いてから、「初めてでそれだけ扱えるのは普通じゃないぞ。素質があるのかもな。基礎をきちんと出来るようになったら、もっと使えるようになるだろうな」とバッツは思った以上の健人の素質に感心してそう言った。
「タケトは少し休んでろ。さて、次はマシロちゃんだ。武器を持った相手はゴブリンだけだよな? そしてマシロちゃんの弱点を知ってる相手も対戦した事ないよな?」肩に斧を担いで、真白に相対するバッツ。
それを聞いた真白はカチンとなった。「君が私の弱点を知ってるってにゃ?」
「ああ、知ってるとも。二つもな」ニヤリとしてバッツは答える。「今からそれを証明してみせるよ」
そのバッツの余裕ある態度に真白はイラっとして「じゃあ、見せて貰うにゃ」と、臨戦態勢を取る。
バッツも斧を一旦降ろし、前屈みになり、ジリジリと真白に近づいていく。いつものマシロちゃ~ん、のバッツではない。真剣な目だ。
フッと真白が消える。いや、速すぎて見えなかっただけだ。気づいたら既にバッツの後ろにいた。しかしそれを分かっていたかのように、バッツが振り返り、真白が打ち下ろしてきた拳を、斧の腹で受け止める。
「ウグッ、相変わらずパワーもすげえな」バッツは感心する。「減らず口叩いている余裕あるのかにゃ?」真白はまたフッと消えたかと思うと、またバッツの後方にいた。しかしまた、バッツはそれに気づき、今度は斧の柄で真白のパンチをいなす。
いなされておっとっと、という感じに体勢が崩れる。今度は受けにまわっていたバッツが、斧の柄を真白の腹めがけて打ち込んで来た。やばいと思った真白はすぐさまバックステップで交わす。が、交わせない。それを読んでいたバッツが、更にもう一歩踏み込んで真白の腹に斧の柄を当てた。
「はぐぅ~」と苦しそうに腹を抑え蹲る真白。「だ、大丈夫? マシロちゃ~ん? 」とはならず、勝負あったと見て真面目に話し始めるバッツ。
「マシロちゃんはスピードに自信があるからか、動きが単調なんだよ。大抵の攻撃は後ろに回るよね? だから読める。それともう一つ、マシロちゃんは身体が弱すぎる。スピード主体の攻撃が得意だから仕方ないかも知れないけど、一発あたったら、こうやってもう動けなくなるんだよね」
「フゥ、フゥ」そう息をつきながらバッツを睨む真白。多分この世界に来て初めて負けたんじゃないか? それがより一層プライドを傷つけ、怒りになってるんだろう。
「攻撃パターンが何種類もあれば、読めなくなるから強みになる。そしてさっきのように、攻撃を受けた時困るなら、(受け方)を覚えればいい」
この日バッツが初めてカッコよく見えた健人。バッツの言う通りだ。真白の弱点とその克服方法を的確に伝えている。マシロちゃ~ん、がなければ、こいつ相当イケメンだと思ってしまった健人。
「まあ、毎日マシロちゃんの事を余す事なくずっと見ているからな。マシロちゃんの動きをチェックしている俺だから分かるんだけどな」と照れた様子でニヨニヨ話すバッツ。あ、その言葉でこいつ全部台無しにした。バッツは真白を毎日ストーカーの如く観察しすぎていたから、気づいたようだ。やっぱこいつ普通にバッツだった。一瞬でもイケメンだと思ってしまった自分を悔やむ健人。
そして、真白と初日に対決した時、真白の癖が分からなかったから、やられたんだろう、とも思った健人。実際その通りである。
「悔しいにゃ~。でもバッツの言う通りだにゃ」なんと、真白が初めてバッツの名前を口にした。しかし真白は相当悔しそうである。「バッツ、私を鍛えてくれるのにゃ?」そして真白がバッツに訓練するよう話してみる。
もちろん、と、バッツがものっそい嬉しそうな笑顔で言おうとしたところで、いつの間にか二人の試合を見ていたバッツの母親が「マシロちゃんは私が教えるわ」と口を挟んだ。
「私はマシロちゃんと同じ拳闘士なの。だから戦い方を教えるにはうってつけだと思うわ」腕を組んでフフと微笑みながら、説明するバッツの母親。
「おお、それはすごく有難いにゃ! じゃあお願いするにゃ!」バッツの母親の申し出に心から喜ぶ様子の真白。
一方まさかの第三者の余計な申し出に、心の底から落ち込むバッツ。ガクーンとどっかから聞こえてきたのは気のせいなのかどうなのか。バッツの母親が拳闘士なら、そっちの方が当然真白のためになる。バッツの入り込む隙がない。しかし、バッツの落ち込み方が半端ない。なんか口から魂みたいなのが昇っていくのが見えそうなほど、意気消沈している。
「せっかくこの機会にマシロちゃんと……にゃんにゃん言いたかったにゃーん」と、別に猫獣人じゃないのににゃんにゃん言ってるバッツ。どうしよう。かわいそうと思ってたけど今度は気持ち悪いです。
「ま、まあバッツは俺を鍛えてくれよ」と引き攣った笑顔で若干気を使いながらバッツに話す。「ほら、さっき真白バッツの名前呼んでたし」
「え?」項垂れていた顔をガバっと上げて真白を見るバッツ。それから健人に向き直り「そうなのか? 聞き逃したあああ!」と頭を抱えて叫ぶバッツ。どうやら復活したっぽい。
とりあえず武器の使い方をしっかり教わらないと。うまくバッツのやる気を引き出さないとな。何にせよ、訓練に気持ちを馳せる健人だった。