結託。そして再会
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「ギズロット様。来客です」ドアをノックしてから、プラムはそうギズロットに伝えた。
「来客? こんな場所に?」そしてその報告に訝しがるギズロット。
ここはメディーのスラム街でも奥の方である。そもそも、この場所を知っている者は魔族でも一部の者だけだ。
「元々私への用事だったようですが……。ギズロット様と直接相談した方が良いと思ったのです」ギズロットの怪訝な表情に気づいたプラムが、来客について説明する。
……元々和平派のプラムが裏切り、同派を連れてきた? いや、それは今更あり得ないな。ギズロットは、やや警戒しながらも、とりあえずその来客に会ってみる事にした。そしてプラムと二人、下の階にある応接室に向かう。
「やあやあ。あなたがギズロット殿ですかな?」プラムと共に応接室に入ると、思い切り作り笑顔で、恰幅の良い白服の人族の男がギズロットを出迎え、手を差し伸べてきた。
「こんなスラム街の奥まで、神官殿が何の要件ですかな? しかもお二人で」白服の装いで神官だとすぐに分かったギズロット。どうやら歓迎されている様子なので、ギズロットは握手に応じた。そしてギズロットの言う通り、この白服の男、ギルド長に会いに着ていた大神官ヘゲナー以外にももう一人、総神殿の大神官の一人、メズベルも傍らにいた。そしてメズベルもギズロットと握手をして挨拶をする。
「いつもそちらのプラム殿から、隷属の腕輪を融通して貰っていて助かっておりました。貴方様がプラム殿の上役だと聞きましてな。ご挨拶を、と思ったまでなのですよ」自己紹介もそこそこに、相変わらずの作り笑顔でニコニコと話すヘゲナー。
「……回りくどい挨拶は結構。要件は?」そんなヘゲナーに対し警戒心を解かないギズロット。初見で、しかも神官が相手なのだから仕方ない。ギズロットは神官がどういう人種か知っているのだから。
「ハハハ。話の早いお方だ。では遠慮せず率直に言わせて貰おう。実は協力して欲しいと思ってね」協力? ヘゲナーの言葉に首を傾げるギズロット。更に総神殿の大神官メズベルが説明を加える。
「現在、各孤児院と神殿を、神殿妃が中心となって、孤児達に対する隷属の腕輪の件を調査しているのだ。我々としては、腕輪を使っていた事が公になるのは不味い。なので事前にギルドに依頼し冒険者を集い、調査を妨げようとしたのだが、運悪くそれも叶わなかった。そこで、いつも隷属の腕輪を融通して貰っている魔族の皆さんなら、何かいい案が浮かぶのではないか、そう思って伺ったのだよ」
「なるほど。話は分かった」そう答えながらも無関心な様子のギズロット。正直、大神官達の事などどうでもいい。手を貸している暇もない。ドノヴァンが失敗した事で、計画が頓挫した事を早急に何とかしないといけない。そちらの方が重要だからだ。
「ギズロット様。実はお会い頂いたのは、彼らを利用出来るのではないか、と思ったからなのです」そこでプラムが二人に聞こえないよう、耳元で囁いた。その言葉に、ふと何かに気付いた表情になるギズロット。
「隷属の腕輪を付けている孤児は何人いるんだ?」そしてヘゲナーに質問する。
「総勢二百人程度だと思いますが。それがどうかしましたかな?」不思議そうな顔で一応答えるヘゲナー。その返答に「ほう」と一言声を出し、ニヤリと嗤うギズロット。そして部屋の隅に置いてある袋をチラリと見た。
「……ギルバートに協力を仰ぐまでも無くなったな」
ええ、とプラムもニヤリと嗤う。どうやら彼らの魂胆は共通しているようである。
※※※
「うう~、冷えるわねえ。もっと厚着してこれば良かったわ」馬で駆けながらブルブル震え、一人愚痴るメイ。いつものメイド服に軽く上着を羽織っただけの恰好で出てきてしまった事を悔やんでいるようだ。今更引き返すのも面倒なので、このまま我慢しながら、教えられたとある場所に向かうため、アクー入り口前の村側の出口からメディーの外に出る。
そして寒さに耐えながら、アクー入り口前の村の中を走り、村の出口付近までやってきた。それから近くの木に馬を繋ぎ、そーっと、影に隠れてとある建物を覗くメイ。
「おい! 掃除は終わったのか!」「は、はい! もうすぐです!」その視線の先から誰かの怒声と返事する少女の声。ついビクっとして木陰にサッと隠れてしまうメイだが、再び気付かれないように注意しながらそーっと目を凝らす。
視線の先にいる十歳くらいの、銀色の髪をポニーテールにしている少女は、時折手にハーハーと息を吹きかけ温め、揉み手をしてかじかんでいるのを何とか耐えつつ、宿の外の壁をゴシゴシ掃除していた。
「……いた。本当にいた。ああ、良かった……」少女を確認できたメイは、抑えきれず目から涙が溢れ、その場に蹲り、周りに聞こえないよう、口を手で抑えて声を殺して嗚咽した。
「良かった……、良かった……。もうこの世にいないものとばかり……。ウッウウッ」張り詰めていた気持ちが破裂したように、とめどなく涙を流すメイ。ずっと心配していた事もあり、気持ちに抑えが効かない様子。
「あれ?」少し距離はあっても人気のない木の傍。少女はそんな一人泣いている女性に気が付いた。つい気になって作業を一旦止め、近くまで走っていく少女。
「あ! しまった!」感極まって泣いていたので、少女が近づいてきた事に気づく事が出来なかったメイ。今から身を隠そうにも時既に遅し。そして少女は、泣いている女性が誰か分かって、ぱあ、と嬉しそうに笑顔になった。
「メイさん! メイさんだー!」そして喜び一杯で遠慮なくメイに飛びつく少女。それをつい受け入れ抱きしめてしまうメイ。
「ええ、ええ。そうよ。メイよ。……リクルも元気そうで本当に良かったわ」グズ、と鼻を啜りながら、嬉しそうに甘えるリクルと呼ばれた少女に対し、メイも笑顔で返し優しく頭を撫でる。リクルが産まれた時から、自分が母親だとは告げていないメイだが、孤児院に預けていた間、殆どリクルの世話を彼女がしてきたので、孤児として育ったとは言え、メイにとっては事実を知らずとも母親同然なのだ。
そんな親子が久々に再会できた。当然、お互い喜びが溢れている。
「ここで働いていたのね」「うん! 孤児院から逃げ出してから、ずっとお世話になってるの」
偉いわね、と正に母親のような微笑みで、冷たくなったリクルの手を温めるように、優しく自身の手で包み込むメイ。そしてリクルが逃げ出したと言った事で、実はドノヴァンは、そもそもリクルを拘束しておらず、自分に嘘をつき王族の洗脳を手伝わせていた事が分かったメイ。
「おい! リクル! どこ行った……あれ? えーと、どちら様で?」外で掃除していたはずのリクルの様子を見に来た宿の主人が、リクルと抱き合っている、メイド服姿のメイを見て首を傾げる。
「初めまして。お仕事の邪魔をしてしまってごめんなさい。リクルがお世話になっているようで。有難う御座います」主人の声を聞いて、立ち上がって一礼するメイ。
「この人、私が孤児院にいた時、凄くお世話になったメイさん。リリアム王女殿下の侍女なんです」まるで自分が自慢しているかのように、宿の主人に嬉しそうにメイについて説明するリクル。
「おお。リリアム王女殿下の。先日こちらを利用して頂いたんですよ。こんなボロッちい宿で恐縮だったんですがね」頭を掻きながら申し訳なさそうに話す宿の主人。侍女だと聞いて、どこか申し訳ない気持ちになったようである。
「ええ。その話も聞いています。とてもいい宿だったようで。そしてこうして、リクルに会う事が出来たのですから。本当、縁とは不思議なものですね」優しい笑顔で宿の主人に微笑むメイ。その美しさについ顔を赤らめてしまう宿の主人。
それから三人は寒いので宿の中に入った。リクルも作業を止め一緒だ。それからリクルとメイは、今までの事を話した。当然メイは、王城内での出来事は一切伏せてはいたが。
「で、リクルはこれからも、ここの宿のお世話になりたいの?」
「ご主人がいいなら、だけど」そして宿の主人を上目遣いでチラリと見て様子を窺う。
「俺は構わねぇよ。寧ろ真面目によく働いてくれてるし、こっちも助かってるからな」
「そうね。ご主人がいいというなら、お世話になるといいわ。ねえリクル、私も時々ここに寄ってもいいかしら?」
「勿論! メイさんなら大歓迎だよ! いいでしょ?」
「ああ。遠慮はいらねぇよ」時々メイがやって来ると聞いて、どこか嬉しそうな宿の主人。少し顔が赤いのは気のせいなのかどうなのか。
ありがとう、そう二人にお礼を言い、頭を下げるメイ。顔を上げたその表情は心底笑顔だ。それから、魔薬で洗脳しようとしたリリアムに対し、心の中で謝罪とお礼をした。
それからそう遠くないうちに、この三人が家族になるのは、またのお話。





