神官調査開始
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「そろそろかな?」
寒風が身にしみる冬の季節。寒空に夕焼けが色づく時間帯に、一人総神殿の前で待機している、白い服を着た水色の短髪のイケメン。元々午前中に話をする予定だったのだが、リリアムと一緒にいた冒険者が大事な話がある、との事だったので、時間を変更をしたのである。だが、細身のイケメンことレムルスは、それを余り気にした様子ではない。神官でありながら、思い遣りのある人物のようである。
「しかし、リリアムまた綺麗になってたなあ」やや頬を赤らめながら、ふと思い出すように微笑みながら空を見つめるレムルス。彼はリリアムと幼馴染で、今日は数年ぶりに会ったのだ。シーナの一人息子であるレムルスは、リリアムとは血が繋がっているのであるが、この世界では妾の子ども同士が交際、結婚するのは問題視されていない。なので、ずっと近くにいた、評判の超絶美女を、昔からそれなりに意識していたレムルス。
なので、年頃になったレムルスが、ますます綺麗になっていたリリアムを見て、思うところがあるのは仕方ないだろう。
「未だお見合いの話は全部断ってるって聞いてるし、ドノヴァンとの噂は僕も聞いていたけど、あれは彼の策略だったって分かったし」呟きながら安堵のため息をつくレムルス。どうやら想い人リリアムは、まだ特定の相手がいないようだと思っている。幼馴染という間柄も相俟って、リリアムとの関係の進展を、どこかで期待している。そんな自分の気持ちに気づき、またもや頬を赤らめてしまう。そんな風に、一人あれこれ、リリアムの事を考えながら、総神殿前で今か今かと到着を待っているレムルス。
「レムルス様。お待たせしました」なので、声を掛けられつい、ぱあ、と笑顔になり顔がほころんでしまうのは仕方ない。だが、声を掛けやってきたのは、彼の待ち人ではなく総神官の一人、ファルールだった。
「ファルールか。そういや総神殿について調べてくれてたんだったね。ありがとう」残念な気持ちを隠すかのように、やや無理やりニコっと笑顔を返すレムルス。そしてそのイケメンスマイルに、ファルールはつい顔を赤らめてしまう。
「い、いえ。仕事で御座いますから。……調べてみて分かったのですが、隷属の腕輪を持っていたのは、やはりと言うか、残念というか、ドノヴァンだけではありませんでした。しかも大神官だけでなく、複数の神官までも、隷属の腕輪を所持していたようなのです」
「なんて事だ……」リリアムの事を考え、フワっとした気持ちだったレムルスの表情が引き締まる。ファルールの報告に驚きと呆れた気持ちが混ざり合い、複雑な表情に変わる。
彼は神殿妃の息子ではあるが、シーナが普段いる総神殿ではなく、普段はメディーにある小さなとある神殿にて、毎日真面目に業務をこなしている。彼は問題のある神官達とは違い、誠心誠意都民達に寄り添い、適正な価格で光属性魔法を使い、治療と治癒を行っている。そしてそんなレムルスがいるからだろうか、そこで働いている他の神官達も、皆同じ様に真面目に仕事に携わるので、メディーでも大層評判が良い神殿である。
そんな状態なので、他の神殿から妬まれてはいたのだが、神殿妃の息子という事もあって迂闊な事は出来ない神官達。それに、メディーは人口が多いので、レムルスがいる神殿が人気だったとしても、他の神殿を頼るメディー都民はまだまだ大勢いるので、妬みはしても然程気にしていなかったりするのだが。
「という事は、他の大神殿や、神殿も同じ状況かもしれないね。まさか、僕が働いている神殿も?」
「レムルス様がお勤めになられている神殿は大丈夫かと思います。ユリナが今孤児院を調査しておりますので、もしお気になさるなら、そちら方面から確認してみてもいいかも知れませんね」
そうだね、とレムルスが返事したところで、遠くの方から複数の馬の蹄の音が聞こえてきた。そしてそれはすぐに、レムルスの側にやってきた。
「レムルス。お待たせしてしまったわね」ブルル、と馬が嘶きどうどう、とリリアムが馬を落ち着かせつつ、馬上からレムルスに声を掛けた。
「やあリリアム。問題は片付いたのかい?」申し訳なさそうにするリリアムを気にせず、ぱあ、と笑顔になりながら答えるレムルス。
「先程はすみませんでした」そしてすぐさま馬から降り、謝罪する健人。
「いえ。あの様子だと大事な要件だっただろうし、気にしてません」謝罪する健人に、ニッコリ微笑むイケメンレムルス。
「しかし、結構な人数でやってきたんだね」後からやってきた魔族達を見て、レムルスは流石に気になったようである。
「説明するわ。寒いので総神殿の中に入っていいかしら?」リリアムのその問いに、ファルールがかしこまりました、とレムルスの代わりに答え、総神殿の近くにある馬小屋に皆を連れていった。
※※※
とあるメディー内の、大神殿の会議室のような部屋の中。質素な作りなのは他の神殿も同じだ。神官は光属性魔法を独占して使える立場であるため、総じて金には余裕があるのだが、神殿までに金をかけたくない者が殆どなのである。
そんな飾り気の無い大部屋にて、大神官達が数名集まって話をしていた。
「総神殿の神官達の元に、総神官のファルールが調査にやってきたらしいな」
「ああ。俺も色々聞かれたよ」そう答えるこの男は、総神殿内に勤める大神官である。
「正直に答えたのか?」やや不安な表情を浮かべながら、別の白服の男が質問する。
「……仕方ないだろう? もう一人の総神官ユリナは孤児達を調査していると言うではないか。どのみち見つかる事になるのだから、嘘をついて心象を悪くするより、正直に話したほうが得策だと思ったのだ」
その答えを聞いた大神官達は一様に青ざめた表情になる。そしてバン、と机を叩いたり、「チッ、クソ」と舌打ちをしたり、悔しそうな表情に変わっていく。
そこへ、白服の恰幅の良い男が、ふぅふぅと息を切らしながら入ってきた。
「おい、どうだった?」部屋にいた大神官達が一斉に太った男を見る。期待を込めた眼差しで。
「それが……。どういう訳かギルド長の部屋に、リリアム王女殿下がいたのだ。しかも不味い事に、私達が冒険者を募って護衛しようとしていたのがバレてしまった」
「何だと?」「どういう事だ!」「何下手を打っているのだ!」期待を裏切られ一斉に罵声を浴びせる大神官達。
「仕方ないだろう! まさか王女殿下がいるとは思っていなかったのだ!」そんな大神官達を一喝するように、大声を上げる恰幅の良い白服の男。そしてその声で冷静になったのか、シンと静まり返る。
「孤児達を使って守らせるか?」「いや、孤児達はユリナが調査に入るらしいから不可能だ」
「隷属の腕輪を付けている孤児達を使えばいいのではないか?」
「それが……。隷属の腕輪の件も知られているようなのだ」ファルールから既に聴取されている総神殿勤めの大神官が、提案を否定するように小さく言葉を発した。天を見上げたり逆に視線を下に落としたり、それぞれ絶望する大神官達。
「……そうだ」万策尽きたと頭を抱えていた大神官達が、恰幅の良い白服の男が呟いたその一言に、妙案が浮かんだのか? と顔を上げる。
「魔族に相談してみよう。奴らなら何かいい方法が思いつくかも知れん」