メディーギルド本部にて
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……最近コメディタッチが書けなくなってきた(´;ω;`)ウゥゥ
「すげぇ……」「大きいね」
健人とケーラは二人、その大きさに驚いている。二人は今メディーにギルド本部前にいるのだが、彼らの他に、リリアム、そして先程まで一緒にいたナリヤ、キロット、グンターまでもが、皆ついてきたのである。
全員でギルド本部の横に併設されている馬小屋に馬を預け、中に入る。体育館程の広さに、大勢の人々の喧騒があちこちから聞こえる。カウンターにそれぞれ五つ受付窓口があり、その前には冒険者達が列を成している。アクーのギルドのようにバーカウンターみたいな雰囲気もなく、また、全ての規模が大きい事に、感動さえ覚えている健人。
「さすがメディーだな。アクーのギルドとは桁が違うな」「そうだね」なので物珍しそうにキョロキョロしてしまう健人とケーラ。
「そりゃあメディーのギルドだからな。ケーラ。分からない事があったら俺に聞けばいいぞ」何故か偉そうにケーラに声を掛けるキロット。だが、そんなキロットを無視して健人の腕にわざとらしく、見せつけるかのように絡まるケーラ。グギギとキロットから嫉妬音? が聞こえてくるが、健人は聞こえないフリ。
「……とりあえず、リリアム王女。宜しいか?」「ええ」キロットの様子を見て呆れながらため息をつきつつも、リリアムに確認するナリヤ。そしてナリヤは、またもフロアを掃除しているギルド職員、ヤックムに声を掛けた。
「あれ、ナリヤ? また来たのか……え? もしかして、リリアム王女殿下?」「こんにちは。ギルド長はおられるかしら?」まさかナリヤが王女殿下を連れてギルド本部にやって来るとは思わず、驚いたヤックム。慌ててリリアムに一礼してから急いでギルド長を呼びに、受付窓口の横の職員用扉から中に入っていった。それから暫くして、腰の曲がった老人と共にヤックムが戻ってきた。
「これはこれは。リリアム王女殿下。こんな騒々しいところへわざわざ来られるとは。如何なされたのですか?」眼鏡を掛け白く長いアゴヒゲの、まるで仙人のような老人の男性が、杖をつきながらゆっくりとリリアムに歩み寄り、恭しく一礼し、微笑みながら声を掛けた。
「こんにちは。あなたがギルド長で宜しいかしら? 私の父である王メルギドより、ギルド本部への依頼があったと思うのだけれど」
「ええ。私がギルド長のハギルで御座います。陛下からの依頼については承っております。詳しい話は別室にて伺いましょう」そしてリリアムを含めた全員を、ギルド長ハギルは奥の階段へ誘った。
階段を上がると、質素な雰囲気ながらも綺麗に清掃された、長い廊下がすぐに目の前に現れた。突き当たりがハギルの部屋のようで、皆をそこへ案内した。
「小汚い部屋で恐縮ですが、大事な話をするにはここが一番ですので」ハギルは小汚いと言って恐縮していたが、寧ろ質素なだけでさっぱりしていて結構綺麗だ。奥に大きめのどっしりとした一人用の机が置いてあり、それがハギル専用の机だろう。そこには書類の束が積み上げられている。そして手前には、応接用の長方形の大きな机が置いてあり、取り囲むように椅子が十脚あった。ハギルに誘われ、皆その椅子に腰掛けた。
「さて、王より授かった依頼書がこちらです」そう言ってハギルは一枚の書類を机においた。リリアムが代表してその書類を手に取る。やはり内容は、魔薬についての調査だった。
「で、魔薬とは一体何なのか、詳しく教えて頂いても宜しいですかな?」その書類には簡潔に説明は書いていたのだが、リリアムから王からの依頼書の件、と聞いたハギルは、より詳細な内容はリリアム達が知っているのだろうと思い、質問した。代表して健人がそれに答える。キロットやグンター、更にナリヤも知っていた情報ではあったが、皆真剣な表情で黙って聞いている。
そして全てを聞き終わったハギルが、顎に手を置き難しい表情をしていると、部屋の外から騒々しい声が聞こえてきた。
「ですから! 今は来客中なのでお会い出来ませんって!」
「うるさい! こっちは緊急の案件なのだ! ギルド長から通達して貰い、早々に対応して貰わんといけない案件なのだ!」
どうやらギルド職員と誰かが言い争っているらしい。部屋の中まで聞こえる程大声でやり取りしているので、何を言っているのか丸聞こえだ。それからすぐ、にギルド長の部屋がノックもなしにバンと、大きな音を立てて開かれた。
「ギルド長! 緊急に対処してほしい案件がある!」入ってきた恰幅の良い白服の男が、来客がいるのを構わずいきなり大声を発した。
「やあやあこれはこれは。大神官殿。慌ててどうなされた?」そんな慌てた様子の白服の男に対し、敢えて冷静に返事するハギル。やってきた恰幅の良い男が大神官というのは知っていたようである。
「急ぎの案件なのだ。そんな奴らの用事など後回しだ。私の案件を優先して貰いたい。金には糸目はつけん」どうやら白服の男は、ハギル以外は目もくれないようで、大勢が机を取り囲むように椅子に座っているにも関わらず、誰がいるのか一切確認する事なく、興奮した様子で捲し立てた。
皆一様に驚いた表情で、突然やってきて大声で勝手な事を言う白服のデブ男を見上げる。ただ、その服装を見て、この男がどういう人物かすぐ理解出来た健人やケーラ、リリアムにナリヤは、すぐに呆れ顔になるのだが。
「急いでメディー内にいる手練れの冒険者を募って貰いたいのだ」そんな大勢の微妙な雰囲気を気にも留めず、要件をハギルに話す腹の出た大神官。
「……冒険者を募る? それは何のためですの?」ハギルが答えるより早く、リリアムが冷めた目でその太った大神官に質問した。
「なんでお前如きに説明せねば……え?」そこでようやく、誰がここにいるのか分かったデブ男。
「お前如きとは、私の事で宜しいのかしら?」やや睨むように冷たい視線を投げかけつつ、トーンの低い声で質問するリリアム。
「え、い、いや、その……。まさかリリアム王女殿下がこちらにおられるとは思わず……」
「私達の要件より、あなたの要件の方が重要なのよね? どんな内容なのかしら?」
「そ、それは、その……」リリアムに気付いた大神官はドッと汗が吹き出る。何とか誤魔化しこの場から逃げようと、チラっと後ろの扉を見た。その瞬間、大神官が手にしていた書類をキロットがふんだくった。
「あ! お、おい!」驚く大神官。そしてふんだくった書類を皆に見せるように机に置くキロット。書類を取り返そうとしたのか、空を掴むように手を差し出しつつ、気まずそうに扉の前に佇んでいる大神官。逃げるか、と思ったようでサッと振り返るが、後ろには先程引き留めようとしたギルド職員が睨みを利かせているので、部屋から出ようにも出られない。
「……神殿の警護? みたいだな」「神殿が何者かに襲われるって事なのか?」書類を見てキロットとグンターが訝しがる。
「それとも、何か守らなければならない物でもあるのかしら?」リリアムも首を傾げる。
「あ、え、えーと。もうよいのです」今の季節は冬。寒いはずなのに、体から蒸気が沸き立ち、汗が止まらない大神官。太っているのも関係しているようでもある。
「もうよい? 先程、この要件を最優先だと仰っておりましたが?」大神官の焦りの言葉にハギルが突っ込む。
「い、いや、リリアム王女殿下の案件に勝る内容では御座いませんから」
「その案件、俺達が引き受ければいいんじゃないか?」健人が良い事思いついた、と提案する。
「そうだね。ボクもそれに賛成! ボク達が引き受けるよ」ケーラも声を上げる。
「ケーラがやるなら私もやろう」「じゃあ俺も」「ナリヤがやるなら俺もだな」
魔族さんも皆それぞれの気持ちとか欲望とかを加味しながら同意する。そのやり取りに一層慌てた様子の大神官。
「い、いや! も、もう、結構!」そう言って机に置いてあった書類を急いで取り返し、後ろで待機していたギルド職員の横を無理やり力ずくで押して、逃げるようにドタドタと走って去っていった。
「何だったんだろうね?」「まあ、俺は碌でもない事だと思ってるけどね」ケーラの疑問に健人が答える。
「タケト殿、と申したな。何か知っている様子でしたな。説明して貰ってよいかな?」健人の対応に、何か知っているのではないかと思ったハギル。そこで健人は、王からの依頼書には書いていなかった隷属の腕輪について説明した。ついで、アクーで起こった出来事や、ガジット村での一件についても。ただ、ドノヴァンの所業については話さなかった健人。王族全員の洗脳の話をしなければならなくなるので、余計な情報を与える理由もないと判断したのである。
「……なんという事だ」健人の説明を聞いて、驚きながら頭を抱えるハギル。
「実は、この後神殿妃の息子であるレムルスに会う約束をしています。彼は神殿内部の調査を神殿妃であるシーナ様より承っているようなので、彼に相談して対処しようと思っています」
「と、いう事は、さっきの大神官は、その調査から身を守るための護衛を集う依頼だった、という事ですかな?」
「ええ、おそらく。レムルスが冒険者か王都直属の兵士達と共に調査に来ると思っているでしょうから……。そうだとしても、抗うと大事になるのだから、それも違うのかしら?」
「多分、力づくでも見せたくないものが中にあるんだろ?」アクーの孤児院の件を思い出した健人が、リリアムの疑問に答える。
「そういう事なのかも知れないわね」「全く。何なんだろうねあいつら」なるほど、と頷くリリアムに、呆れた様子のケーラ。
「ねえ、あなた方も良かったら一緒にどうかしら? 勿論、報酬は出るわ。ここメディーにある全ての神殿を調査するには、人手が必要だから」ふとリリアムは思いついたように、ナリヤ達に向き合って提案した。
「そうだな。手伝うとするか。身銭を稼ぎたかったのもあるしな」ギルバートへの復讐をしたい、また、綾花の状況が気になるナリヤは、彼らの元に向かいたい気持ちもある。だが、懐が寂しいのも事実である。ケーラに言えば融通して貰えるだろうが、いつまでも妹に甘えるわけにはいかない。
「二人は確か、ギルドの警備隊に登録しておったな?」ハギルの言葉に頷くキロットとグンター。
「「警備隊?」」ギルドについて疎い健人とケーラが首を傾げる。
「メディー内を警護する者達の事ですよ。これだけ広く、住人が多いメディーでは、荒事もそれに応じて多い。それを取り締まったり、事前に起こらないよう、監視する役目ですな」二人の疑問にハギルが答えてくれた。前の世界で言う警察みたいなものか、と解釈した健人。ケーラもなるほどー、と呟いているので理解した様子。
「要する俺とグンターみたいな、強い魔族じゃないとやれない職ってわけだ」どうだ分かったか、と言わんばかりに胸を張りフフンと鼻を鳴らすキロット。グンターはそんなキロットが恥ずかしいようで呆れ顔。そして当然ケーラも呆れ顔。あ、ナリヤも呆れ顔。ついでにカバンの中から顔だけ覗いている白猫まで呆れ顔。要する皆して呆れています。
「まあ、試験に合格した者が警備隊に入る事が出来るわけなので、彼ら以外にも複数おりますが。彼の言う通り、それなりに強者でないとなれない職業ではありますな。そして警備隊員は冒険者と違い、毎月決まった給料を貰う事が出来るのですよ」キロットのフフンに苦笑いしながら、健人達に説明するハギル。
「とにかく、さっきの大神官みたいに、事前に何か対策されても面倒だし、これからレムルス様? との待ち合わせの場所に移動しようか」未だフフンしているキロットに触れないようにしつつ、リリアムとケーラに声を掛ける健人。二人は頷いて席を立った。
「まあ、乗り掛かった舟だ。俺達も手伝うぜ」「そうだな。警備隊やってても依頼を受けちゃいけないってわけでもないしな」
席を立った三人を見て、そこでようやくキロットはフフン、をやめて立ち上がる。グンターも乗り気のようだ。
「では改めて、この度メルギド王より承った依頼、皆様が受託されたと致します」そしてハギルは一礼した。皆も答えるように頭を下げた。
「あ、そうだ。ハギルさん。これアクーのギルドからの報告書です。今の話の概要が書かれていると思います」健人はふと、アクーでギルド職員のファルから預かった書類を思い出し、それをハギルに手渡した。
「なるほど。……ここに詳細が記載しておったのですな。しかしこの件、他の都市のギルドにも通達しておいた方が良さそうだ。メディーはこれから動くとしても、アグニ、フーム、ウェンスのギルドは何も知らないはず」書類に目を通したハギルは、顎に手を当てうーむ、と唸った。
「そうですね。通達して頂いた方がいいと思います。神官の件も含めて」健人の言葉に、深刻そうな表情はそのままで、ハギルは頷いた。





