片桐綾花※進捗
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「喰らえ! ウォータートルネード!」
水属性と風属性を組み合わせた、綾花オリジナルの魔法で、ファイヤーフロッグを駆逐する綾花。数十匹はいたであろうファイヤーフロッグと呼ばれる、炎を吹き出すカエルの魔物は、綾花によって全て瞬殺された。
「はあ……」魔法でほぼ一瞬で全滅出来たにも関わらず、何だか浮かない表情の綾花。腰に手を置きふう、と一息ついてから、一人で素材集めと討伐の証拠となる、ファイヤーフロッグの舌を黙々と切り取り始めた。
ここは火の都市アグニから少し離れた火山の麓である。綾花はここで一人、アグニにあるギルドにて受けた討伐依頼をこなしているのであった。
「しかし、ギルバート様は一体どこへ行ったんだろ」サクサクとファイヤーフロッグの素材集めをしながら、一人愚痴のように呟く綾花。
ギルバートが綾花の元からいなくなって、そろそろ一週間になる。何も告げず突然行方不明になったので、アグニのギルドや宿の人等、綾花はあれこれ聞いて回ったのだが、誰一人ギルバートの行方を知る者はいなかった。
更にナリヤがいなくなってからは、どういう訳かギルバートの金使いが荒くなったので、資金が底をついてしまった。なので仕方なく、綾花はギルドで討伐依頼を受け、身銭を稼いでいるのである。
三十匹くらいのファイヤーフロッグの舌と、素材で役立つと言われる目、更にクリスタルの欠片五つを、袋に纏める綾花。そして「ウインドクッション」と風魔法を唱え、縦横1m程の小さな竜巻を発生させた。その上に、まるで筋◯雲のように袋と一緒に綾花はヒョイと飛び乗る。一応この世界に来てから、練習して馬に乗れるようにはなっていた綾花だが、この方が移動が速いので、こうやって一人でいる時は馬を使わず、風魔法で移動しているのである。
「……異世界来て魔法が使えるようになったのはいいけど、何か楽しくない」またも一人、ため息混じりで愚痴る綾花。
「災厄もさっぱり分かんないし、パーティーメンバーはいないし……そりゃまあ、あの時あのまま病室にいた事を考えたら、かなりマシなのは分かってるよ」
誰に話しかけるわけでもなくブツブツ小言を言う綾花。面倒だとは思いつつも、一応は災厄についてあれこれ調べているのだが、彼女の言う通り、手がかりさえ未だ見つかっていない。そもそも、協力的な仲間が一人もいない現状で、ヒントさえない災厄を探せ、という方が酷なのである。そう思うと腹が立ってくる綾花。そしてついでにお腹も減ってきた様子。
「……帰るか。カエルの素材を持って。ダジャレだ」つまんない事言っちゃった、と今日何度目かのため息をつきながら、ふよふよと浮かぶウインドクッションに乗って、アグニの都市に一人戻る綾花であった。
※※※
「お父様が死んだ?」「ああ」
アグニ内にある孤児院の地下室。不揃いなレンガで組み上げられた大きな柱に囲われた薄暗い部屋。そこにギルバートはいた。もう一人の神官と共に。二人は机を挟んで向かい合って座って会話している。
「大神官の一人から連絡があってな。死因は……これは公にはされていないんだが、お前の父親、ドノヴァンは魔物になったらしい。それで討伐されたそうだ」
「魔物? どういう事なんだ?」意味が分からない、と怪訝な表情をするギルバート。
「魔薬を体に含むと、魔物になるのだ」突如、二人のものではない声が入口付近から聞こえた。
声のした方を二人が振り返る。そこには、一人の魔族が部屋の入口の近くの壁に、腕を組んでもたれていた。二人が気づかぬうちに、少し前からそこで黙って話を聞いていたようである。
「ロゴルドか。魔薬にはそんな効果があったんだな。洗脳だけだと思っていたよ」声の主、ロゴルドに気付いたギルバートが手をあげ挨拶をする。
「魔族でも知っているのは少数なのだから仕方ない。しかし、父親が死んだというのに、冷静なのだな」そう語りながら、二人の元にやってきて近くの椅子に腰掛けるロゴルド。
「お互い利用し利用される関係なだけだからな。父親と言っても愛情とかないさ」肩を竦め一応簡単に親子関係を話すギルバート。
「そういや、勇者の女はいないのか?」まあ、こいつならそうだろうな、と心の中で呟きながら、目的である勇者の姿がない事に気付いたロゴルド。部屋の中を見渡してみたが見当たらない。
「ああ。一緒にいると僕が抑えきれる自信がないんでね。離れているんだ。手を出しちゃいけないからね。彼女も相当美人だし。洗脳してるから、やろうと思えば出来ちゃうだろ? もう一週間は会ってないかな」仕方ないよ、とため息混じりで答えるギルバート。
「……そういや病気だったな」病気、とは、当然ギルバートの性癖の事である。
「病気とは失礼な。そうだ。また隷属の腕輪融通して貰えないか? 目ぼしい孤児がここにいるようなんだ」若干ムッとしながらもロゴルドにお願いするギルバート。
「おいおい。うちの孤児はうちのもんだ。お前にやる筋合いはないぞ。勝手に話を進めるな」二人の話が勝手に進展しそうなので、間に割って入って会話をを止める、もう一人のアグニの神官の男。
「金は払うからさ。何とか融通してくれよ」目の奥を黒くギラつかせながらアグニの神官の男に請うギルバート。その様子を見てロゴルドはため息をつく。ギルバートが隷属の腕輪を所望する目的は、美しい女性を陵辱、というには悍ましい、女性を壊すためだと分かっているからだ。
「何言ってんだ。あの牢獄跡を破壊した弁償代だって貰ってないんだぞ? 仕方なくあのまま放置したまんまになってるから俺達も使えやしない。あそこは丁度いい調教場所だったのに。もし、俺がお前に孤児を融通したとしても、その弁償して貰ってからだ」やや語気を強めながら言い返す、神官の男。
「先に直しといてよ。後で金は払うからさあ」
「あのな、いくらドノヴァン大神官の息子だからって、お前とはただの知り合いなんだから信用できるわけないだろ。しかもお前、神官のくせに金ないらしいじゃないか」
「大丈夫だよ。金なら連れに作らせるから」連れとは綾花の事である。そしてそんな二人の神官のやり取りに、傍らで呆れて聞いているロゴルド。
「ギルバート。俺が来たのは、勇者の女の洗脳の状況を確認するためだ」ふう、と一息ついて、ロゴルドは気を取り直す。そして改まってギルバートに確認した。
「洗脳の確認? ……ああ。じゃあこれを見てくれたら分かるんじゃないか?」ロゴルドに聞かれたギルバートは、半分以上無くなっている紫の塊を取り出した。
「なるほど。結構進んでいるな。これなら、ギルバートの言う事をほぼ聞くだろう」
「勇者を洗脳? お前達何か怪しい事でもやってんのか?」見た事もない、歪な怪しい紫の塊を見て息を呑む、アグニの神官の男。更に二人の会話を聞いて怪訝な表情になった。どうやらこの神官は魔薬については知らないようである。そもそも、魔薬の事を知っている人族は本来いないはずで、魔族でさえ一部の者しか知らないのだから当然なのだが。
「連れてこれるか?」魔薬の減り具合を確認したロゴルドが、ギルバートに聞いてみる。
「今すぐは無理だが、彼女もアグニに滞在しているからそんなに時間は取らないよ」
「そうか。ならまた改めて連絡する」ここにはいなくともすぐ連れてこれるのであれば問題ない。それが確認出来たロゴルドは、席を立って彼らに挨拶し、部屋を後にした。
「流石に寒いな。まるで魔族の都市のようだ」外に出た途端身震いするロゴルド。ここアグニは火の都市。活火山が近い事もあり、他の都市に比べ暖かいのだが、流石にこの冬の季節は寒風が身にしみる。地下室から上に上がってきたところでビュウゥとからっ風がロゴルドを震え上がらせた。
「……そうだ、先日ガトー様の捜索魔法を捉えたな」その寒気のせいなのか、ふと思い出すロゴルド。
「まあ、我々一般魔族市民は見つかっても問題ないのだが、何故ガトー様が捜索魔法を使ったかが気になる。計画がバレていなければいいのだが」そう呟いて、畳んでいたコートを羽織る。そこで、小さなイヤリングが反応した。
「これはメディーの方向だな。アグニまで誰かが来ているのか……。ガトー様の捜索魔法はメディーまでは届いていないはずだが、もしこれが、プラムかギズロット様の呼び出しなら、その事報告しておいたほうがいいな」
そう呟いてロゴルドは、外に繋いでいた馬にまたがり、イヤリングが反応した方向へ駆けていった。