出会ってしまいました
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既に昼食の時間をとっくに過ぎている時間になってしまい、さすがに空腹の三人は腹ごしらえのため、宿の食堂で昼食を取る事にした。部屋から出る際、ケーラだけでなくリリアムまでも、周りにお構いなく健人の腕に絡まっている。
「いいのか?」「いいの。私がどうこう言われるより、タケトが大事なの」ただ、いつものように甘える感じではなく、どこか健人を支えるような感じで腕に絡まるリリアム。ケーラも同じく、逆の腕に絡まり、こちらはいつも通りに甘えた様子で首を健人に預けている。とりあえず健人は、二人のおかげだろう、先程までの狼狽えようは落ち着いたようで、普段通りの様子に戻っていた。白猫は健人が肩から下げている、いつものカバンの中から、顔だけ覗かせている。
そして三人のその様子を見た、食堂にいる人々は当然驚き、騒然となった。
「おい、あれ、リリアム王女殿下じゃないか?」「間違いないわ……。あの男は誰なの?」「ちょっと待て。反対側にも、もの凄い美人がくっついてるぞ」
そんな騒ぎにいたたまれない様子の健人だが、リリアムは意に介さない様子。
「……リリアム。さすがに不味いんじゃない?」ケーラが気になって声を掛ける。それでも健人から離れないのだが。
「いいのよ。いつかは見つかるのだから。もうお父様に報告もしたし。そもそも、私も周りに遠慮するの、疲れたのよ」
いいのかなあ、と当然健人も気になっている。昨日リリアムと交際を認めて貰ったものの、同等の格を得るという意味で、勇者を名乗るのはどうだ? と言われ保留したままだ。その時勇者を名乗ります、と言っていれば、体裁だけでも王女殿下の交際相手として問題はないのだろうが。
今は単なる一介の冒険者。こうやってリリアム王女殿下と密着しているのはさすがに不味いと思っている健人。だが、リリアムはそうではないらしい。
「ハハ。リリアムは強いな」苦笑いしながら腕を組むリリアムに話しかける健人。強くないわよ、とリリアムが返事しながら、三人は開いている食卓に座った。
そして、その様子の一部始終を、ワナワナと体を震わせながら見つめる、大きな角を生やしたガタイの大きな魔族さんが、何故かこの宿の食堂にいた。横にはあちゃーと天を仰ぎ頭を抱えるナリヤと、びっくりして目を大きくしている眼鏡のスラっとしたスタイルの魔族さん。
「……おい、なんだそりゃ?」重低音のような腹に響く声で、絞り出すように言葉を発する、ガタイの大きな魔族さんことキロット。
「え? どうしてキロットが?」重低音の声の主の方に目をやったケーラが、驚いた表情。
実は先程ナリヤがギルド本部で調べ物をしたり、討伐依頼を見ている間、たまたまキロットとグンターがギルド本部にやってきたのである。昨日の今日なので特に新たな情報があったわけではなかったが、キロットがナリヤが泊まっている宿に行きたいと聞かないので、仕方なく連れてきたのだった。キロットがこの宿に行きたいと言ったのは、ケーラも泊まっている、とナリヤが口を滑らせてしまったからなのだが。
そしてナリヤに密かな想いを抱いているグンターも、渋々賛成、という表情をしながら、心中ウッキウキで一緒にやってきたのである。
更にナリヤは、時間的に既に昼食も終わり、流石に食堂には健人とケーラはいないだろうと踏んでいたのだが。その予想は外れてしまい、仲良い様子の二人に出くわしてしまったのである。
「ケーラああああああ!!! それはどういう事だあああああ!!!」ケーラの驚きの表情はさておき、食堂内に響き渡る程の絶叫を上げるキロット。それ共に、一気にキロットを中心に殺気が湧き上がった。食堂にいた人全員が危機を感じて、一斉に慌てて外に避難していく。そんな周りの様子に、ケーラが無表情になって健人から一旦離れ、キロットにズカズカと歩いていき、スパコーンと頭をはたいた。
「何考えてんだよ! 人に迷惑かけていいと思ってんの!」怒り心頭でキロットを窘めるケーラ。
「そんな事どうでもいい! さっきあのヒョロい人族に纏わり付いてただろ! どういう事だ!」スパコーンされた頭を擦りながら、負けじとケーラを見据え言い返すキロット。
「はあ? なんであんたに說明しなきゃいけないの?」大声で叫ばれるも、アホらし、てな感じ睨み返すケーラ。
「キロット。気持ちは分かるが今はお前が悪い」そこで後ろで様子を見ていた、眼鏡のひょろい魔族さんことグンターが、キロットに釘を刺した。
「とりあえず、ここじゃ何だから表出ようか」タケト、リリアム王女とも腕を組んでいたよな? と、健人を訝しがりながら、ため息交じりにナリヤが皆に提案した。
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キロットの殺気に当てられたのもあって、さすがにリリアムも今は健人から離れている。宿に迷惑をかけた事を謝罪してから、三人はナリヤ達と共に外に出てきていた。寒風が吹き抜ける中でも、キロットは気持ちが収まらないらしく、熱がこもっているようで、体全体から湯気が出ている。
「で? どういう事か説明しろ」そんな未だ怒り心頭のキロットが、宿屋の前で腕を組んで仁王立ちになり、偉そうな態度でケーラに詰問する。
「……ムカつく。あんた何様? 說明する必要ないよね? あんたに関係ないんだから」当然、そんなキロットの様子が気に入らないケーラはツーンとした態度。そんな風に聞かれて素直に説明するはずもないのに、キロットは怒りが収まらないからか、その辺り分かっていない様子。
「まあまあケーラ。俺から話するよ」「やめろタケト。ますますこじれる」ケーラから、この二人が魔族で幼馴染だと聞いていた健人が、険悪な雰囲気を打開しよう割って入ろうとしたが、ナリヤが気を使ってそれを止めた。
「タケト? ナリヤさん、そいつの名前って……」まさか、という顔で確認するキロット。
「ああ。彼がタケトだ」諦め顔で答えるナリヤ。
「は? いやいや嘘だろ? まさか奴が……」こいつ人族だぜ? と呟きながら信じられないと言った、というか信じたくないという気持ちも相まって、複雑な表情になるキロット。そもそも、さっきまでケーラと腕を組んでいたのを見ているのだから、この線の細い人族の男こそが、ケーラが以前言っていたタケトという、交際している人間だと分かりそうなはずなのだが。魔王の娘ケーラが、人族の男と交際しているなどと、信じたくないのだろう、現実逃避しているようである。
「まあ、キロットの言いたい事は分かるが、それより俺は、そちらの人族の女性とも、仲良さそうにくっついていたのが気になったけどな」
「……グンター、お察しの通りだ。彼女はリリアム王女だ」それはナリヤも気になったようである。……まさか、リリアム王女も?
「……やっぱり」察してはいたが、ナリヤの言葉で確信したものの、それでも驚きと呆れとが混ざり、グンターも複雑な表情になる。この人族の男、ケーラだけではなくリリアム王女まで?
「因みに、タケトはケーラがどういう血筋か知っている。その上でケーラと恋仲なんだ」リリアム王女と健人との事は気になるが、今はとりあえず後回しにして、ケーラとの事について話するナリヤ。
「……っの野郎おおお! ケーラだけでなく更に別の女がいるだとおおお!!」わなわなと体を震わせ、体から立ち昇っていた湯気の量が増え、徐々に怒気が膨らみそれはすぐに殺気となるキロット。背中の黒い翼が大きく広がり、黒い大きな角が正に黒光りした。次の瞬間、
ドン、と大きな音を立て、キロットのいた地面が一瞬で陥没する。それと同時にキロットは健人に一瞬で詰め寄り、右拳を健人の左頬に打ち立てた。が、不意打ちだったそれを簡単に躱す健人。
「躱した、だと?」驚くキロットだが、更に拳撃を続ける。今度は左拳、更に右、更に更に、ラッシュは止まらずドンドン速くなる。その上蹴りも織り交ぜ健人を襲う。だが、
「……はあっ、はあっ、ぜ、全然当たらねぇ」肩で息をするキロットに対し、涼しい顔の健人。全て躱しきり余裕の表情。
魔族だから、魔王の娘であるケーラが、人族の俺と交際してるって知って、怒っているんだろう。だから、自分からは手を出さずにいよう、そう思った健人は、躱す事に徹底していた。当然、キロットとは初対面なので、事情を知らないので彼が嫉妬している事を知らない。単に忠誠心とか人族に対する差別の気持ちなんだろう、と暢気に思っていたりする。
「はぁ、はぁ、てめぇ! ケーラを誑かしやがったなあ! ああそうか! 隷属の腕輪か洗脳か、どっちか使ったんだろう!」
そんなキロットの妬みの気持ち満載の心の叫びを聞いたケーラが、ムスっとして健人の前に出て両腕を捲った。当然腕輪など付いていない美しく白い肌の両腕。更にリリアムに目配せし、理解したリリアムは「ホーリーリフト」とケーラに唱えた。なんて下らない魔力の無駄遣いなのかしら、と心の中で呆れながら。
「……理解した?」当然、ホーリーリフトを唱えられても何も起こらないケーラ。すぐに裾を戻し、腕を組んで仁王立ちでキロットを睨む。
因みに、突然キロットが健人を攻撃してきた事に、ケーラとリリアムは少し焦りはしたが、キロットが対して強くない事が瞬時に分かったので、健人一人で何とかなると判断し、攻防を傍らで見ていた。この二人の判断は正しく、更に言えば、魔族軍幹部候補のキロットより、この二人の方が強かったりする。
魔族軍幹部は、魔王を除く魔族の中で、最も強いエリート集団である。なのでその候補であるキロットも相当強い筈なのだが。
「ああ、そんなぁ~。ケーラ。流石にそれは酷いよぉ~」ただの一介の人族の冒険者に攻撃を全て躱された事より、キロットの気持ちの拠り所? だった、誑かされた訳ではない事が証明された方がショックだったようで、今度は泣きそうになっているキロット。それは紛れもなく、この二人が、お互い想い合って交際している事を証明した事でもあるからだ。
絶望したキロットは、大きな体でその場に蹲った。体がフルフル震えています。
「あのねぇ。寧ろボクの方からタケトに猛アタックしたんだからね! 言っとくけど、ぼくは将来、タケトの、えーと、その、お、奥さんになるんだから!」
ケーラが言葉に詰まったのは、さすがに他人に奥さん宣言するのが恥ずかしくなったようで。既に大ダメージを食らって絶望しているキロットに、更に必要ないのにケーラからの精神的なクリティカルヒット。キロットからヒックヒックと嗚咽している声が聞こえるが、彼の自尊心を守るため、聞こえないフリをしている健人とリリアム。
「ケーラ。それはさすがに聞き捨てならない。そもそもガトー様はご存知なのか?」蹲ってエグエグする、デカイ図体で未だ蹲っているキロットを尻目に、眼鏡をキラリと光らせ、様子を見ていた真面目な表情でグンターが質問する。
「まだだよ。でも絶対認めて貰うんだ」フン、と未だ腕を組みながら言い切るケーラ。
「ナリヤ。いいのか?」当然、同じく魔王の娘であり、姉であるナリヤの意見をも聞くグンター。
「少しの間だが、私は二人の様子を見ている。だからケーラがこのタケトを心底慕っているのは分かっているつもりだ。ケーラも覚悟しているみたいだし、タケトも同様、決意を固めているみたいだからな。二人の恋路を邪魔する気はない」
「……二人、じゃないよな?」グンターのツッコミに健人をチラリと睨むように見るナリヤ。そして小さくなる健人。リリアムはその様子に仕方ないわね、と呟いていた。





